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尽きる命(5)

 頭元に集まった小鳥の鳴き声で目を覚ました私。


 ――目が覚める度に思う。先程までのは全て夢で、ゲイル様の腕の中で目を覚ませたら……と。あの腕に絞め殺されそうな苦しさで目覚める事ができれば、どれほど幸せか。あの時は、苦しいから辞めて欲しいなんて思っていたけど、今はその時に帰りたい。ちょっとした事で一緒に笑って、頬を寄せ合い戯れあって、当然のように過ごしていた、あの幸せな時間に戻りたい。


 しかし現実は残酷で、目覚める度に私に残酷な真実を見せつけてくる。何度も何度も『愛する人と過ごした過去に、戻りたい』と願う私の心は、もはや限界だった。これならいっそ、また神様が聞いていて願いを叶えてくれるかもしれないと期待して……。


 外から鍵の開く音がしたため、ベッドの上で体を起こす。私が閉じ込められている小鳥の部屋は、窓には鉄格子がはめられ、ドアには外から鍵が掛けられている。そして、出入りするのはタンクレット様お一人だけだった。


「鳥籠姫、マリオン兄上を連れてきたよ」


 そうやって相変わらず粘着質な笑みを浮かべる彼は、閉じ込められている私の為の食事も一緒に運んでくる。生命維持の最低限のみで、殆どそれに手をつけないでいる私は、日々痩せ細っていくばかりだった。


「……窶れているな。タンクレット、お前が世話するペットは全てこうなるのは何故だ?」

「分からない。私は心から愛しているのに、皆こうなってしまうんだ。前の子もそうだったし……何が駄目なのだろう」


 着せられる服は、幼いデザインで沢山のレースやフリルで飾られたドレス。ピンクや白色ばかりで、甘くて吐き気がする。用意される食事、飲み物、香水、アクセサリー……どれも高価な物なのだろうが、悪趣味。甘くて幼い可愛さばかり詰め込んだ、押し付けの愛。

 ……ゲイル様は私の好みを把握した上で贈り物を準備してくれていた。実年齢を意識して、外見上幼く見える私に幼さを強要しなかった。寧ろ大人っぽく見えるように、と……。


「辞めて。気持ち悪い……」


 ボソッと呟いたその言葉は届いていたようだ。


「マリオン兄上。鳥籠姫がクレセントに同情して悲しんでしまうんだ。だから、アイツが幸せに死んだ事を教えてあげてくれる? そうすればきっと元気になるんだ」


 意味がわからない主張。マリオン様もそう思ったのか、不愉快そうな顔で溜息を吐きつつ教えてくれる。


「奴は幸せだった。なんせ、愛する婚約者を守ったつもりで死んだのだから」


 マリオン様の首から下がった、長く大きな数珠のような水晶の首飾り。今は屋敷の中に居る為か、鎧は着けていない。それをじゃらりと音を立てて外しながらベッドの上で座り込んでいる私に近づいてきて、目の前に差し出してくる。まるで念珠ようで約20個程の水晶が繋がれており、その中にはあの見慣れた水晶の花が咲いていた。そしてその花には少しずつ全て違った色がついている。私が触れていた、あの能力を制御する水晶の中の花は、透明だったはずだ。


「これには1つずつ別人の能力を閉じ込めてある」


 マリオン様がその首飾りの中の1つの球を握ると、突然マリオン様の横に現れた、私の……最愛の人の姿。


「げ……い、る様?」


 目を丸く見開く私に、マリオン様は次々と能力を見せてくれる。


 飛び出す火。まるで竜巻のような突風。雨のように降る針。溢した墨汁のように足元に侵食してくる毒沼。そして、それから私たちを守るガラスのような防御壁。


「それぞれ別の人物から奪い取った能力だ。元の能力者が生存している限り、この首飾りを持った者だけが自由にこの力を使える。まるで魔法だろう? ゲイル・クレセントは、お前の幻を見て、危険を顧みず飛び出した」


 ――そして幻の婚約者を庇った結果、背に私の剣を受け、死んだ。


 マリオン様が私に見せる……ゲイル様の幻が、悲しげに笑う。そして、声は出ないが口が動くのだ。


「――すまない」


 と。私の耳には、間違いなくゲイル様の声で、その言葉が聞こえた。低くて甘い、私の耳元で何度も囁いてくれたあの声で……私の脳内には、再生されてしまったのだ。


 たったそれだけの事なのに、私のギリギリ保たれていた理性と平常心を壊すには十分すぎた。頭を抱え文字にならないような悲鳴と泣き声をあげ、哀惜の念に耐えられず背を丸めた私を、平然と見下ろすマリオン様。

 続いてあのアドミルが能力を使った時に起こるキーンという高くて細いテグスのような音が響く。


「ふーん、ゲイル・クレセントに生命力を分け与える能力? 何だこの対象人物指定された能力は。使えないな、いらない」

「いらないのなら、鳥籠姫は私が貰ってもいいよね? マリオン兄上の役に立たない子は、好きにしていいんでしょう?」


 まるで私を『物』としか見ていないかのような言葉だった。


「勝手にしろ。シャーロットの面影に執着するお前とは違って、私はソマーズの未来を創り歩むんだ。私の邪魔をしないなら、好きに遊んでいろ」


 そう吐き捨てるように言ったマリオン様は部屋を出ていく。すると、私の最愛の人の幻も……幻らしく消え去った。





「泣かないで。ずっと私と一緒にいよう?」


 私を宥めるようにタンクレット様が近寄ってきて私の背を撫でた。しかし、ゲイル様以外に触れられたくない私は泣きながら暴れに暴れ、根負けしたタンクレット様が両手を上げて降参したと言わんばかりの態度を取る。


「分かった。君があんな奴に激しく思い入れているという事が良く分かったよ。少し落ち着こうか? ほら、これあげるから」


 そう言いながら私に与えられたのは、1つの指輪。中央の台座には小さな水晶が1つ付いており、無理矢理左手の薬指に押し込まれる。


「これ、鳥の言葉が分かる能力を閉じ込めてある。鳥籠姫、君の為に作ったんだ。綺麗でしょう?」


 水晶の中にはやっぱり水晶の花が咲いていて。キラキラと若葉色の花弁が輝いている。


「だから、私とずっと一緒にいて? 貴女は愛らしい子供のままで。ずっと私の横で、純粋な笑顔を振りまいて笑っていて?」


 そうやって私の気持ちを一々踏み躙る彼は、やっぱり粘度の高い笑顔を携えていた。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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