尽きる命(1)
皆が寝静まっているであろう、闇の深い午前二時。前世では丑三つ時と言われる時刻。夜間の見回りで静かに部屋のドアを開け私の様子を確認した使用人が、そっとドアを閉め去っていく。
この時間の見回りの後は、朝までチェックは入らないはずだ。急いでベッドから降りて、ベッド下に隠しておいた服を取り出す。案山子作りの際に一枚だけ失敬しておいた平民らしい麻のワンピース。それに手早く着替えた私が取り出したのは、例のサバイバルセットの入ったバッグ。その中からロープを取り出して細工をし、窓を開け外を覗いて誰にも見られていない事を確認してから外へ向かって垂らす。部屋が3階で助かった……このくらいまでなら、なんとかロープで降りられる。粗末なリボンで赤色の長い髪を1つに纏め、慎重にロープを伝い降りた。
夏頃は護衛の見張りも強固であったが、毎日体調が悪そうにしているのを見て不要だと判断されたらしい。今では、夜間の見張りの数は減らされていた。ドア前や廊下には配置されているが、まさか3階の窓から出ていくとは思わなかったのだろう。窓下の庭付近には全く配置されていない。
極力静かに着地して、素早くロープを回収する。そして、子供ならなんとか通れそうなくらいの垣根の根元の隙間を体をネジ通すようにして抜けて、徐々に外壁に近づいていく。屋敷を取り囲む背の高い鉄製の柵だって、デザインの問題で少し広めになっている部分を狙えば……小柄な私ならギリギリ通れる! 頭さえ通ってしまえばこちらの物だ。
屋敷さえ脱出すれば、後は簡単。毎日早朝にクレセントから各地へ向けて出発する荷馬車を物色して、中に紛れられそうな物を探す。幸い今回は家畜の餌用と思われる沢山の藁を積んだ馬車があったので、それの中に紛れさせてもらった。小柄な私だからこそ怪しまれずにできる技だ。
最近の体調不良のせいで体力が低下しているのか、たったこれだけの事で疲れてしまった。お願いだから体力が持って欲しいと願いながら、少しでも体を休めておこうと、藁の香りに包まれて目を閉じる。
……どうせ尽きてしまう命であるならば、せめて大好きなゲイル様に全てお渡しして死んでしまいたい。ゲイル様は嫌がるだろうけど、そうすれば私の命は彼の中で生き続けるのだから、ずっと一緒に居られる。例え、私の次に誰か別の女性を愛そうとも。
いつ頃抜け出したとバレるだろうか? せめてこの荷馬車が出発するまではバレないでほしい……等考えていると、疲れから私はそのまま寝てしまった。
その優しい自然の香りに包まれた私は、いつの間にか爆睡していたらしい。瞼に光を感じる頃には既に馬車は出発しており、ガラガラと荷台が揺れていた。
最近体調の悪い日が多くて碌に眠れていなかったのに、こんな場所で久々に熟睡してしまった。自分の肝の座り具合に自らを嘲笑いつつ、風景を確認して、どちらの方角に向かっているかを確かめる。太陽や山の方角から考えると、西。ちゃんと王都の方面に向かっているようだ。
しばらくそのまま揺られて、少し行った先の大きな町。街の名前を確認してクレセント領内を抜けたことをチェックしてから、こっそり荷台から抜け出して降りた。
「さて……まずは世の中で何が起こっているのか確認しなくちゃ」
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