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 その日の夜。俺はレストランで高校時代の友人と二人で飲んでいた。


「って言うことがあってな。大変だったんだよ」


「不思議な話もあるものだねー」


 彼女の名前は石原三春。高校時代の俺の数少ない友人の一人で、今は大手食品会社に勤めている。


 性格は明るく、誰とでもすぐに仲良くなる。そのおかげか、同級生からは男女問わず好かれていた。


「定期的に狙われるよね、咲間君って。この前狙われたのはいつだったっけ?」


「確か、半年前だったか? 公安の奴に()()狙われたんだよな。一年前は海外のテロ組織にだったっけか……」


ちなみに公安に狙われるのは半年前が初めてではない。三年前にも一度、会社から自宅までストーカーされた事がある。両方とも、ひっ捕らえてカルト教団の本部に輸送した。今頃立派な信者になっていることだろう。


「それにしても、よく公安だって分かったよね。身元隠してたんでしょ?」


「ああ。でも誠心誠意話をしたら、心を開いてくれたんだ」


「君が言う『誠心誠意』って言葉ほど、信用できないものはないよ」


 三春に呆れられる。


「それにしても……何故だ。何でこんなに訳の分からない連中に狙われるんだ俺は!?」


「いっぱい心当たりあるよね。性格的にもビジネスのやり方的にも、敵を作りやすいじゃない咲間君」


「ああ…高校生の頃は良かったな……楽に金を稼げたあの時代が懐かしい」


 高校生の頃、俺は校内の人間相手に金貸しをやっていた。利息はお察しの通りだが、これがなかなか上手く行き、その商売だけで卒業までに数百万もの金を儲かった。


「リア充からボッチまで、学校中の至る人間に話しかけるコミュニケーション能力の持ち主で」


「借金返済の催促だね」


「そのおかげか、何かあった時に頼られて」


「内容は全部『返済をもう少し待ってくれ』だけどね」


「あまりの人気ぶりに学校側が嫉妬して、停学にして来るレベルなのに!」


「お金を返さない人の家にダンプカーで突っ込んで事件になったからでしょ。……ねえ、さっきから解釈がポジティブ過ぎない?」


 黙って茶を飲んで言葉を濁す。その後は、他愛ない雑談をして食事を終えた。


 会計を終えて店を出て、三春と二人で歩く。


「それにしても、高校卒業してからもう7年か〜。時間が経つのって早いね」


「だな」


「私ももう、25か〜。早くいい人見つけないと」


「まだ25だろ? 焦らなくてもいいと思うけどな」


「甘いね〜、咲間君は。そうやって悠長に構えてると、いい人持っていかれちゃうんだよ」


「そんな物かねえ」


「咲間君は、結婚する気とかある?」


「相手がいれば。まあ彼女どころか女友達すらお前以外いないけどな」


 その時、三春がフラッとよろめいた。慌てて身体を支える。


「ヒャッ!?」


「おい、大丈夫か?」


「う、うん。大丈夫。ありがと」


 手を離し、また歩き出す。しばらく歩くと、三春がぎこちない様子でこちらを向く。


「ね、ねえ。主人公くん」


「ん? どうした?」


「え、えーとね、その、嫌じゃなかったらでいいんだけど、さ」


 歩みを止め、彼女に向き合う。暗がりでよく分からないが、三春は何やら恥ずかしそうだ。


「そ、その、よ、よ、酔っ払っちゃったから、ど、どこかでーーーーー」


「あ、悪い。電話だ」


 携帯に表示された『大川田』という文字を見て、俺はすぐさま電話に出る。


「俺だ」


『大変です。昼間来たサツの一人が事情聴取がしたいとか宣ってます。芳賀とか言う男です』


「何ぃ? 事情聴取だと?」


 一度断っていると言うのに、何という鬱陶しさだろうか。


 それにしても、事情聴取で向こうから来るだと? 普通こういう時は任意出頭を求めてくる物じゃないのか? 嫌な予感がするな。


「分かった。すぐにそっちに向かう。お前は警官を足止めしろ。あと専務に【エマージェンシーD】を実行するように連絡。社員は帰すな。こんな事で業務に支障をきたしたくはない」


『分かりました。すぐに実行します』


 俺は電話を切ると、三春の方へ振り向いた。


「悪い。面倒くさい事が起こった。言いたいことはまた今度でいいか?」


「う、うん。大丈夫。……えっと、頑張って?」


「ああ。大丈夫だ、ヘマはしない」


 俺はそう言うと、タクシーを拾い会社に向かった。






 翌朝。目覚ましの音で起きた俺は、眠い目を擦りながら洗面所へ向かった。


 昨日はあの後、二時間近く掛けて警官を説得。社内に入りたがるのをどうにか引き留めた後、社員を監督していたら、日付を超えてしまっていたのだ。


 社員が残業するならともかく、なぜ自分が残業しなければならないのか。寝不足は頭のキレを悪くするため好きではない。


 ひとまず顔を洗い、朝刊を確認。経済の状況を軽くチェックするのは日課だ。


「今の所、大きな影響はなしか。いい事だ」


 ササッと朝食を済ませ、身支度を整え出社。眠いが問題ない。睡眠は会社で取れば良いのだ。


 会社に着くと、たまたま入り口に居た部長が頭を下げる。


「おはようございます、社長!」


「おう、おはよう」


 エレベーターに乗り込み社長室へ。社長室には既に秘書が待機していた。


「おはようございます、社長。本日のスケジュールですが、12時に有限会社バッキャローと、14時に株式会社ウイルス殲滅委員会とアポがあります」


「あいよ」


 椅子に座ったら、後は部下が了承したプリントにハンコを押すだけだ。内容は部長や課長が血眼になってチェックしているために不備はない。


 よし、今の所は順調だ。


「そう言えば社長、産業医の先生からお電話が」


「なんて?」


「たまには顔を見せに来い、との事です」


 最後にあいつの所に行ったのはいつだったか。


「善は急げだ。今から行ってくる。会議までには戻ってくるつもりだ」


「分かりました。行ってらっしゃいませ」


 そんな秘書の言葉を背中に、俺は社長室を出た。


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