時にはベッド役になることもあったりする
さて、おはぎが我が家にやってきて二週間ほどが経過した。
この二週間で、おはぎが1番だれに懐いたのか、というと母だった。
結局、なんだかんだと父は可愛がりはするものの面倒は見なかった。
偉そうに指示を出すだけだったので、母がブチ切れ大喧嘩になり、そして一旦頭を冷やした母が、おはぎのトイレ掃除やらをする羽目になったのだった。
餌やりもそうだし、爪切りやらも気づいたら母が面倒を見ていた。
結果的に、父に猫なで声で寄っていくのはオヤツをもらえそうな時だけで、それ以外は、おはぎは母にベッタリだった。
基本は、元兄の部屋、現猫部屋にいるのだが、母が家にいる間は部屋から出して、家のあちこちで伸び伸びと過ごさせていた。
そのせいか、柱のあちこちで爪とぎをしようとしている。
わざわざ、爪とぎを買ったというのにそちらには見向きもしない。
こまめに爪を切っているので、そこまでの被害は今のところないけれど。
さて、そんなおはぎは今日も今日とて母にベッタリだった。
名前がおはぎなだけに、とても甘えたがりらしい。
そんなおはぎの朝は早い。
だいたい朝の五時半には起きて部屋を駆けずり回っているらしい。
これは、元兄の部屋と隣あっているのが姉の部屋だからだ。
走り回る音がよく聞こえるらしい。
最初のうちは、姉はガチで心霊現象だと思ったとか。
やがて駆けずり回るのに飽きると、今度はいつの間に覚えたのか、ドアノブにジャンプしてドアを開けようとするのだそうだ。
これも、その度に、ガチャ、ガッチャン、ガガチャというホラー映画でよく聞く音が毎朝聞こえてくるらしい。
あたしの部屋は、姉の部屋を挟んでいるのでそんな音は一切聞こえない。
さて、そんなこんなで部屋から出られないとわかると、次に聞こえてくるのは、切なそうなおはぎの鳴き声なのだという。
鳴いている、というより、泣いているという方が近い、そんな鳴き声が聞こえてくるのだそうだ。
おかげで姉はいい迷惑を被っていた。
音もそうだが、鳴き声がとくに精神的に来るらしい。
あと五分寝ていたいのに、しかたなしに布団から這い出し、おはぎの呼びつけに応えるのである。
そう、おはぎは完全に先住していた人間を顎で使うようになっていたのだ。
少し甘えた声でニャーと鳴けば、誰かしら構ってくれる。
少し悲しそうな声でニャーと鳴けば、誰かしら動いてくれる。
完全に我が家の姫として、おはぎは君臨してしまったのだった。
もしも誰も動いてくれない時は、実力行使で人間を動かそうとする。
もしかしたら、人間は猫の従僕として品種改良された種族なのではないかと疑いたくなるほどだ。
それくらい、猫の鳴き声【にゃあ】には抗い難い何かがある気がしてならない。
まぁ、そんなこんなで姉を強制呪文【にゃあ】で召喚し、部屋を意気揚々と出たあと、おはぎが向かうのは台所の片隅にある棚だ。
餌などが閉まってある、その棚の前にちょこんと座り、朝食の用意に取り掛かろうとしていた母へ、
《人間よ、まずは我がご飯を用意するのだ》
とばかりに鳴いて餌の催促をするらしい。
それを母が取り出して、やはり台所の片隅に設置してある餌皿へ入れる。
そうして用意されたキャットフードを、おはぎはガツガツとがっつくのだ。
その後は満足満足、余は満足じゃとばかりに、適当な寝心地のいい場所を決めて、そちらに丸まって幸せそうに眠る。
部屋には戻らない。
戻したら戻したで、またホラー音源が再演されるだけなのだ。
そうこうしているうちに、母が朝食の支度を終わらせて、今度は昨日乾かなった分の洗濯物をチェックし、畳もうとする。
その気配を察知し、どこからともなく、おはぎが現れる。
そして、母が洗濯物を畳んでる現場に来ると、何故か母の腿と腿の間に入り込んで、丸まってしまうのだ。
母が邪魔がって、おはぎを横に移動させるが、何故かまた挟まりにくる。
その度に母が、
「おはぎちゃん!
あんた、洗濯物畳むのに邪魔なの!
わかる??
おじゃまなの、ほらこっち、ここで、ちゃんちゃんしてなさい!!」
そう窘める光景が、この二週間ほど繰り返されていた。
ちなみに、【ちゃんちゃんしてなさい】というのは、座ってなさいという意味だ。
母の言葉を理解しているのかどうなのか、おはぎは仕方ねーなーという顔でしばらく丸くなっていた。
しかし、母が洗濯物を畳み終わるのを待って、すかさずまた腿と腿の間に挟まりにいく始末だった。
仕方ないので、母が適当におはぎの頭や背中を撫でてやる。
すると、おはぎは満足そうに目を細めた。
頃合を見計らって、母は撫でるのをやめてほかの家事を進めるために、その場を離れる。
するとまた居心地のいい場所に、おはぎは移動するのだった。
そうして母が家事を一通り終わらせて、横になりながら居間でテレビを見始める。
気づくと、母は大抵仰向けかうつ伏せのどちらかで寝ているのだが、またその頃合いを見計らって、おはぎが現れる。
今日の母の寝相はうつ伏せである。
おはぎは、そんな母の背中というか腰に乗って重箱座りをキメてしまった。
と、急に増した重さに母が目を覚ました。
ここで、朝ごはんを食べていたあたしへ、は母が聞いてきた。
「ねぇ、なんか重たいんだけど、またおはぎ乗ってる??」
あたしは答えた。
「うん、乗ってる」
そんなやり取りが聞こえているのか、おはぎはドヤ顔で母の腰から背中にかけて居座り続けていた。