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冬を見る目

作者: ああ

 ー1.電車ー


「......」


 電車の中、パンパンに膨れ上がったリュックを前にして、片手でスマホを触る。トイレのために一回電車を出たら、既に電車は人で埋め尽くされていた。まだ何個か席が空いているみたいだけど、それに座る勇気はない。

 イヤホンをつけ、再びYoutubeを見る。充電は残り34%だ。...こんなことをして、切れないだろうか。


「......」


 Youtubeを好きなだけ見れるなんて、今までだったら考えられないほどの自由なのに、電車も心も窮屈で、気分は最悪だ。


「おい!!」


「......」


 一人の男性の怒声が響いた。その発生源が隣の車両にあることを確認すると、再び手の中のスマホに目を向ける。既に家を出てから4時間。電車はこれで終電だ。

 しかし、怒声は鳴り止まない。...うるさい。こんな真夜中で、大声を出さないでほしい。

 僕はYoutubeを閉じ、その男の顔を見つめる。薄汚いヒゲをした、小柄で痩せ細っている弱そうな男だ。そんな男が叫び続けている。



 20分後、やっと怒声が治った頃、僕は学校の一駅隣で電車を降りた。「ピッ」と音が鳴ることで、学校に行くためのはずの定期を、移動手段であるはずの電車を、無料の居座り場所として使っていることを自覚させられる。

 僕はスマホでお父さんに「良い宿を見つけた」とメッセージを残す。............既読はつかない。充電の無駄だと悟り、僕はスマホの電源を切った。


 ...ここからが正念場なのかもしれない。


 僕はリュックからセーターを取り出し、更にその上から分厚いジャケットを被せる。迷いつつも揺るぐことのない決意の元に、駅から一歩を踏み出した。



××××××



 ポケットから両手を取り出し、自分の頬にあててみる。

 ...冷たい。

 既に赤色にまで達しているが、それでもスマホで時刻を確認する。そろそろ5時になったかなぁ。そんな願いは届かず、無情にも目に映るのは4:06という数字の羅列。嘘だ... さっき見た時から、20分しか変わっていない...

 そろそろ人の足音が聞こえるようになった。コンビニの裏は、光もあって人目も無く、いつでも逃げることができるという良い場所だったけど、そろそろ駅に戻ろう。


 フードを深く被って改札を通り、その格好のまま椅子に腰をかける。いつもは安物の硬い椅子だと思っていたが、腰が足首より高いというだけで、僕は安心できた。

 ...流石にここなら、寝ても良いかな。



××××××



「すいません、起きれますか?」


「......ん〜 ?」


 誰かの声が聞こえた。聞き馴染みのない声だ。僕は身体を曲げ、何故か落ちそうになるのを堪え、違和感に危険反応を示して眠たい目をこじ開ける。

 ...ああ、なんだ。駅員さんの声か。


「あー... ありがとうございます」


「大丈夫ですか?」


「えぇ、夜更かししすぎただけです... すいません」


 今何時だろうと、ポケットの中からスマホを取り出す。6:28分。あぁ、朝ごはんをそろそろ食べないと...


 違う。


 もうそんな早くに朝ごはんを取る必要はない。ここから学校まで、電車で5分もかからない。

 いや、それも違う。今日ぐらいは、学校を休もう。まだ眠いし、お風呂にも入れていないし... 勉強も、したくない。

 スマホの充電は残り5% お父さんに「学校には行っている」とメッセージを残し、学校に仮病の電話をしたのを最後に、スマホは力尽きた。


 家出の強い仲間が消える。何のために家を出たか、分からなくなるほどの絶望感が押し寄せた。...それでも、あの家にはもう戻りたくない。今戻ったら、きっと怒られる。

 僕はその恐怖を胸に抱き、既に混雑している電車に乗り込んだ。......臭いは出ていない。ジャケットを着ているから、制服でないことも知られていない。それなのに、人目が少し怖い。

 ...当たり前だ。ここには、もしかしたら同じ学校の人が居るかもしれない。朝のうちは、この電車はやめておこう。学校の一駅先に行ったら、そこで時間を潰そう。

 目がパチパチして、気を抜いたら崩れ落ちる予感。不自然を承知で、両手で吊り橋を掴む。人の隙間から見える景色は、トンネルの黒一色。反射で自分の身体が映る。

 景色が止まる。学校と同じ駅だ。人が何人か押し寄せてきたため、迷惑にならないよう自分も外に出る。改札に行くには、右の階段の方が近い... 間違えた。閉じかけたドアは一旦見過ごして、次の電車にまた入る。


「......」


 トンネルを抜けた先も、映るのは醜い地下でした。

 電車の中から、先程より明らかに多い人数が外に出ようとする。黒いスーツに、ネクタイに、鞄。見慣れた人選でありながら、普段は見かけない人達なのだ。

 人混みに紛れながら、今度こそ階段を降りて行く。階段の降りた先で端に寄り、リュックの中から電子マネーを取り出した。...まだ人が出続けるのか。早く改札を出ないと...


「ピーっ、ピーっ、ピーっ」


 後ろからの苛立ちは、確実に足音でかき消されるはずなのに、僕の背筋は冷えた。...何をやっているんだろう。ここは定期の範囲外じゃん。僕は横に逸れた。

 人の波とは反対に、迷惑をかけながら、舌打ちをされながら、哀れまれて怯みながら、それでも押し進んでいく。僕は自由なのだろうか? 僕は嬉しいのだろうか?

 息苦しい。嬉しいはずがない。人に迷惑をかけているのに、自分も不自由だなんて大馬鹿だ。ただの馬鹿だ。何の意味もない。...それでも、僕は押し進んでいく。


「......」


 僕が憧れていた馬鹿は、こんな気持ちだったのだろうか。舌打ちされて、哀れまれて、やっぱり苦しかったの? その苦しみに慣れてしまったの? それとも、苦しさなんて感じないの? …分からない。ワからない。わからない。

 僕が憧れていた馬鹿は... もっと強かったんだ。


 階段を登り、息を切らしながら、僕は電車を待っていた。




 ー2.放浪ー


 結局、学校の隣の駅に再度戻った僕は、朝ごはんと寝る場所を求めていた。カフェに居座るのも憧れの一つだけど... こんな朝早くに空いているカフェなんて無いし、大したお金も持っていない僕が長く居座るのも、間違っている気がする。

 僕はコンビニで塩むすびを1つ買って、人があまり通らない道を選び、こっそりと食べていた。誰もこっちを見ていないのが、不思議に思えて仕方がない。本当は、あえて目を逸らしているのではないか? そんな妄想に囚われそうだ。


「......」


 ...居心地が悪い。ここで寝るのは嫌だ。僕はさらに人が居ない道を探す。誰一人道に居ないような、いっそ路地裏などでもいい。不良とかが通ると思うと怖いけど...


 探して、探して、30分。太陽のおかげか朝ごはんのおかげか、身体も暖まってきた。...眠い。もうここでいいや。

 せっかくの苦労も水に流し、投げやりで選んだ道は、時間が過ぎたことで更に人が通るようになった広い道。電柱の裏で寄りかかり、体育座りでうずくまる。

 ...疲れた。寒い。眠い。疲れた。痛い。疲れた。眠い。疲れた。ネガティヴな言葉が頭をよぎる。...寝たら治ってくれるかなぁ。そんなことを考えながら、目を瞑った。



××××××



 うぅ... 眩しい。

 瞼の裏で光を感知し、ここで目を開けてはいけないことを無意識の中で察する。僕は身体を捻り... 頭が擦れた上に何かにぶつかった。痛い。目を開けてみてみると、それは電柱のパーツの一つであった。やや大きくて、四角く角ばっているやつだ。運悪く角にぶつかったらしい。

 太陽の角度的に、今は13時くらいだろうか。眠気は取れていても、気怠さが取れていない。...お腹も空いた。足が痛い。ふくらはぎが固まっている。膝も折れそう。


 もう、歩くの嫌だなぁ。もう...


「帰りたく...」


 帰りたくない。帰りたくない。帰りたくなんてならない。

 僕は、まだ帰れない。嫌っていうほど心配をかけて、もう二度と僕を縛れないようになるまで... 僕は帰れない。そう決めたんだ。揺らいではいけない、思いなんだ。


「......はぁ」


 大きなため息をつく。自分への、酷く冷め切った軽蔑だった。結局はただ逃げただけ。帰れないのは怖いから。決意も何も、そんな大義名分はない。僕は馬鹿なんだ。

 僕はほとほと自分に呆れながら、足に力を込め立ち上がり、弱々しく一歩を前に出していた。決意を込めた最初の一歩とは違う。決意を失った諦めの一歩だ。

 更に一歩、更に一歩、今にも倒れそうになりながら、崩れそうなつま先のバランスを見つめながら、歩き続ける。いっそ、地面に穴が開かないか。空から花瓶が落ちないか。

 僕を見る視線は、驚きであったり心配であったり怯えであったり。そしてやっぱり... 軽蔑な気がした。


「......」


 それでも、歩みは止めない、止められない。軽蔑の目を、気にしてはいけない。なけなしの抵抗でフードを深く被りなおし、僕は歩みを早める。一歩、二歩、三歩... どこに行くかも考えず、ただ歩みを早めていく。

 道を抜けた。人目が更に増える。視界が遮られるぐらい、フードを強く引っ張った。そんなことをすればもちろん、角を曲がると人にぶつかる。何故そんなことが分からなかったのか。


「ご、ごめんなさい」


 動揺、そして恐縮。僕は顔を上げた。相手は穏和そうな中年の女性だ。そして彼女も、同じ目で僕を見ていた。


「ごめんなさい」


「あ、こちらこそすいません...」


「いえいえ...」


 2人で謝り続ける。早く離れたいと思い、少しずつ足を前に出しながら、女性が前を見るのを見計らって、僕も再度歩き出した。

 ......どこへ歩いているんだっけ。あぁ、まだ決めていないや。でも... 歩くのを止めるのは、難しい。

 僕はフードを引っ張った。それでも人に当たらないよう、いやいや前を向いていた。相手の顔は見えない。見ているのは、膝より下だけだ。


「......」


 何歩も歩いた。何百歩。いや、何千歩も歩いた。...今は何時だろう。お腹が空いた。コンビニでも何でもいいから、入りたい。けど、コンビニが見つからない。コンビニも、ファミレスも、何もない。


「ヴー!!」


 何か鳴っている。これは何だろう。まあいいや、歩かなきゃ... このまま歩かなきゃ...


「危ない!!」


「え?」


 僕のフードが強く後ろに引っ張られる。よろめき、そして崩れ落ちる。強く頭を打つ。フードが外れ、視界が開いていく。ここ...は... 横断歩道?

 な、ん...で?



 人が集まってきた。僕は信号を無視し、危うく車に轢かれかけたらしい。あの音はクラクションだったようだ。


「すいません... ありがとうございます」


 僕は助けてくれた青年に、頭を下げて感謝をした。


「今度は気をつけなよ?」


「はい...」


 しっかりと青年の顔を見た。心配そうに、僕を見てくれている。......僕はこういう人みたいに、なりたかったのかな。でも、でも...


 少年は泣いた。ただただ、泣きじゃくった。弱々しく、押し殺されそうな声で、手の甲で涙を払いながら、泣いていた。


「あ、あ... ごめんね、大丈夫?」


「う... ぅぐ... う...」


 謝るのは彼じゃない。僕だ。それなのに、それなのに...


「うぐっ、ひぐっ... ぅ... あぁ...!!」


 僕は泣き喚いた。安心感か、自己嫌悪か、恐怖か。何も分からず、頭を抱え、泣き喚いた。


「え... どうしよう」


「あぁ! なん、なんでぇ...!!」


「あの、話でも... 聞こうか?」


「うぐっ、あ... うん! はい...!」


 僕は子供のように、青年に助けを求めた。




 ー3.優等生ー


 ファミレスのソファに荷物を下ろす。肩から重みが抜けただけで、再び涙が目から溢れた。甘える心を抑えようと必死に涙を止めようとするが、代わりとして現れた喉を潰すような泣き声が、余計に悲壮感を醸し出す。

 人の目が怖い。僕が内心でこの状況を好奇と捉えているのを、皆が分かっているみたいだ。そしてそれ以上に、僕の良心が僕の怠惰を突き刺す。


「はい、水だよ。落ち着いて」


「うぐっ、えぐっ... あじ、ありがどうございまず...」


 僕はえずく自分を鎮めようと、両手でコップを掴んで水を一気飲みする。ドリンクバーも提案されたが、流石に断っておいた。僕はリュックからティッシュを取り出し、鼻をかむ。2つとも、せめてもの抵抗だった。


「あの... 話を聞いても、良いかな?」


 僕は彼の目を見た。ナチュラルに見下している、モノを見る目だ。たしかに今の自分には、その目を向けるのが適切だろう。悔しさは無い。納得していた。それと同時に、悲しくもあった。

 だってこれは、僕がいつも人に向けていた目だから。この目は僕にとっては憐憫の目であると同時に、憧れの目だから。

 強いて言うなら... こんな僕に、憧れを感じていた過去の自分が、信じられなかった。いや、違う。僕が憧れていたのは、「馬鹿」だ。僕はまだ、その領域に至っていない。


「あの... 泣き止んだ?」


「えっ、あ」


 そうだ、彼の質問に答えないと。命の恩人を、無視してしまった。僕は何やっているんだ。


「話します...ね」


 僕は事の経緯を、まだ見ず知らずの人間に対して、一つずつ話し始めた。目の前の彼は、他人事にも関わらず、真剣に耳を傾けてくれた。


「あの、僕の母親が、勉強を強制してくる傾向があって... 姉が落ちぶれてしまったんですよ。その、高校時代に遊びすぎて、あ、僕は今中学生なんですけど...」


 ろくに会話の順序も作れず、たどたどしく話していく。


「姉とは6歳離れているんですけど、姉は高校までは順調に勉強を重ね、良い高校に行くことができました。

 けれど、運よく高校に行けたb… 不良的な男と出会って、姉は変わってしまいました。別に犯罪を犯したとかではないんですけど... はっちゃけた行動をすることが増えて」


 僕は当時の出来事を、鮮烈に覚えている。お母さんは、お姉ちゃんを「優等生」と褒め称えていた。お母さんだけじゃない、お父さんや先生もだ。

 しかしお姉ちゃんは、馬鹿に出会ってしまった。さっきは咄嗟に不良と言ってしまったが、別に悪い人ではないようだ。勉強が嫌になって、ただ遊んで楽しく生きていただけ。

 お姉ちゃんはあらゆる人に褒め称えられていた。期待されていた。そして、良い高校に行ってしまった。これからも期待され続ける人生に嫌気をさした時に現れた、自分の欲望に忠実に生きる男に、姉は恋をしていたのだろう。


「姉は成績を段々と落としていきました。それだけなら、別に良かったんです。お母さんも、心配そうにしながらも責めはしませんでした。

 ただ、姉はその男の行く大学に、ついていくことにしました。言い方は悪いですが、あまり良い大学ではありません。当然母は反対しました」


 お母さんが優秀なお姉ちゃんに激怒したのは、アレが初めてかもしれない。口を悪くして、相手の男性を「馬鹿」と連呼した。お父さんは、何も言わなかった。

 僕は2階のベッドの上に寝ていたのだが、それでも声が響いて、小さいながらも聞こえてきた。お姉ちゃんの泣き喚く声は、今でも頭に残っている。姉弟なだけあって、泣き方もそっくりだと今日知った。

 

「しかし、お姉ちゃんはお母さんを振り切りました。そして、家を出て行きました。もう苗字も変わっているでしょうか」


 普段は厳しいお父さんも、あの時ばかりは泣いていたと思う。当時小6の僕は、何も分からず上でゲームをしていた。

 お母さんは、どう僕に伝えるか迷っていたのかもしれない。僕がそれを知った時、お母さんは絶望、虚な目をしていた。僕はどう答えればいいか分かんなくて、お母さんが退くまで呆然としていたと思う。

 僕が何も知らないうちに、お姉ちゃんは出て行った。残っていたのは、無力感と虚無感。もしかしたら、僕もお母さんと同じ目をしていたのかもしれない。


「それ以降、父からは生気を感じなくなり、母は僕に期待をし続けてきました。『優等生』を望みました」


 僕はそれに流されて、塾に通い続けた。僕が友達の話をすると、お母さんは「馬鹿」と馴れ合うのを心配していた。だからそれ以来、僕は友達と極力話さないようになった。


「うっ、ぐっ... ゲームも捨てて、友達と遊ぶのもできなくなって、我慢... したんです。ひぐっ... 我慢、していたんです...」


「......」


「なのに、なのに......!」


「......」


「お母さんは、ちっとも笑わなくなった! うぐっ... 点数を下げたら心配するし、軽蔑するし、ひぐっ... 上げても褒められたりしないし、う... ぅ... あぁ....!!」


 ファミレス内に、一人の少年の悲鳴が響いた。みんなの注目が集まっていることに、ふと怖くなる。泣き声を押し殺し、水を一気飲みし、ティッシュで鼻をかんだ。


「それで... 家出してきたんです。どうか、通報しないでください... もう、帰りたくないです...」


 青年は驚愕していた。軽い気持ちで聞いた話が、こんなにも重いとは思っていなかったからだ。

 しかし、後悔はなかった。むしろ、歓迎していた。目の前の少年に激情を叫ばせることが、自分の役目だったのだ。そしてこれから、導いてあげるのだ。


「君は...」


 しかし、内容は思い浮かんでいなかった。どうにかしてあげたいという気持ちはあれど、どうするかは分からなかった。彼はしっちゃかめっちゃかでも話してくれた少年を参考に、自分も正直に内心を伝えようとする。


「俺はさ、一人っ子だったんだ。両親から大切に育てられて、家族関係も良好だった」


 少年は涙で目を腫らしながら、自分の現状に頭を抱えながら、不安と自己嫌悪で潰れそうになりながら、それでも青年の話を聞いていた。自分に付き合ってくれた彼への、せめてもの誠意だ。

 そして混乱していた。なぜ彼は、そんな話をするのかと。同情の言葉ではないのかと。苛立ちはない、ただ困惑していた。青年は、その感情を先読みしていた。


「だから、俺じゃ君の気持ちを分かるとは、冗談でも言えない。けどさ、優等生になるよう望まれたのは一緒なんだ。期待に応えようと躍起になって、頑張って、努力して、それで掴み取った。優等生という称号を。嬉しかったさ」


「......」


「環境の違いはある。姉の有無や、両親の違いもある。今だから俺もそう言えてる。君はまだ未来が分からない。


 けど、俺と君の違いは、俺と君という2人の違いは、些細なことだと思う。ちょっとしたメンタルの違い。それだけで、運命を変えてしまうなんて勿体ないよ。もう少しだけ、頑張ってみない?」


 彼の言葉は、たしかに理にかなっていたと思う。優等生を望まれ、期待に潰されそうになった人には、きっと響いたと思う。だけど...


「ありがとうございます」


「えっ... あ、待って!」


 僕は何も食べず、走ってここから逃げ出した。




 ー4.無感動ー


 路地裏で壁に寄りかかった。流石にもう懲りたから、フードはつけていない。お腹が空いた。とにかくお腹が空いた。今は何時か分からないけど、きっと5時は過ぎているだろう。暗くなり始めている。


「◯◯君! ◯◯君!」


 先程の青年が、視界の端を横切った。声が聞こえなくなるタイミングを見て、僕は路地裏からそそくさと足を運ぶ。カフェを見つけた。さっき歩いていたところ... 視界が極端に狭まっていたんだ。僕はカフェに入った。

 作り置きされている1番安いサンドイッチを見つけ、注文する。手っ取り早く千円札を出して、お釣りはポケットに入れた。

 席に着く。ようやく手に入れた安寧。安心感で泣きそうになるが、枯れ果てた涙は出てこない。僕は涙目でサンドイッチにかぶりついた。


 美味しい... 美味しい...!


 味を確認するまでもなく、僕は幸福感で満たされていた。とにかく食べた。一口、二口と、勢いに任せて食べ進めた。

 やがて手には何も残らなくなり、胃は満腹とは言い難い。それでも、確かな生の実感が湧き出てきて、僕は泣きたくなった。

 2分ほど感無量とでも言うべき時間を過ごして、ようやく頭の中がまとまってきた。僕はリュックの中の充電器をコンセントに差し込み、スマホの充電を始める。これでこの先は磐石だ。

 充電が2%になるのをソワソワしながら待って、なった瞬間にYoutubeを起動する。イヤホンをつけ、沢山の音楽を聴いて、1時間のゲーム実況のライブなんかも見て、ひとときの辛さを忘れていた。

 充電が50%を超える。ここの閉店は9時らしいから、70%は行ける... そう思っていた。しかし、思わぬ人物がやってきた。中学の同級生達だ。


「・・・!?」


 さっきまでの正面的な態度が崩れ、急に羞恥心が湧いてきた。そうだ、客観的に見たら、僕は本当に「馬鹿」になったみたいだ。

 心の準備ができていない。少なくとも、この光景を同級生の誰かには見られたくなかった。考えてみれば、ここは学校の隣の駅。部活帰りの女子が行くところなら、ここは候補の一つだろう。...多分だけど。

 僕はこっそりと席を離れ、8時を回る前に店を出る。想像よりも早く出ることになった。店員さんにお礼も言えず、身を小さくしながら扉を抜けた。


「・・・」


 実感が湧いていない。自分が「馬鹿」になったという実感が。でもたしかに、あの時は、あの時だけは、僕は辛さを忘れていた気がした。自由を楽しんでいた気がした。

 良い傾向かもしれない。僕はあの状態を望んでいた。僕はきっと、あの状態に憧れていた。羞恥心や息苦しさなんてものに惑わされない、強い心を望んでいた。この心を維持できるよう、頑張っていこう。そう思えた。

 それは置いといて... 完全に暗くなった外。昨日以上に肌寒く感じる。こんな中、外を歩くのは危険だ。...そろそろ身体も洗いたいし。銭湯にでも行こうかな。



××××××



 身体を洗い、湯船に浸かる。普段は熱く感じる銭湯のお湯も、冷え切った心と身体を癒すのにはちょうど良い。とはいえ長い間浸かれるかというと話は別で、10分ほどで早々に抜ける。

 持ってきた歯ブラシで歯を磨き、風邪をひかないようドライヤーで髪を乾かした。初めての経験だったが、何となくはできた。鏡には、ボサボサの髪と明るさを取り戻した瞳が写っている。

 そのあとは、特に何かを買うようなことはせず、できる限り長い間ロビーで過ごした。フカフカの椅子に取り憑かれたようだ。

 しかし、長くは続かない。手続きで2時間以内に出ないと、延滞料金がかかってしまう。現在の時間は9:30。...気は乗らないけど、そろそろ行かないといけない。


「ピッ」


 僕は定期を使い、仕事帰りの人混みを押し除けながら、階段を登っていった。電車はちょうど行ってしまったらしい。あの混みようだと、席は空いていない気がする。

 扉の正面で電車を待ち、扉が開いた瞬間に乗り込む。空いている席を探すと... あ、あった。2席分空いている。明らかに避けられているけど... あぁ、なるほど、「馬鹿」が居るのか。

 ろくに剃っていないであろうヒゲに、ボサボサの髪とキツい体臭。身体は痩せ細っていて、不潔を具現化したような存在だ。...あれ、この人昨日電車で見た人?

 僕は彼を凝視した。やっぱりそうだ。昨日は遠目だったからここまで不潔だとは思わなかったけど、印象的だったから身体は頭に残っている。昨日と同じ、色褪せたシャツ1枚だ。


「...おい、何見てんだよ坊主」


 ビクッ! と身体が震える。そりゃそうだ、目の前で見つめられていたら、嫌でも気づいてしまう。僕はそれでも誤魔化そうと、目を逸らした。そして少しずつ、違う車両へ移動する...


「ぅぐっ!」


 僕は後ろに重心を引っ張られ、そのまま倒れ落ちる。それを防いだのは、どこか湿って嫌な臭いを発する布だった。何かに倒れかかった姿勢で、僕の視界が上に固定される。


「おい!!」


 映ったのは、苛立ちを隠そうともせず表情に出した、さっきの男だった。僕は後ろからフードを引っ張られたのだ。

 あの優しすぎる青年の時とは違う。困惑じゃない、混乱じゃない。...あるのは、恐怖だけだ。脂汗が額に浮かび、目を合わしてはいけないという生物の本能が働く。しかし逸らしたせいで、かえって男の逆鱗を刺激してしまった。


「謝罪も何もないのか? アァ!?」


 怖い。怖い。喉が締め付けられて、声が出ない。それでも精一杯絞り出して、出てきた声は電車の音で掻き消されるほど小さく、そして汚く裏返っていた。


「......ひゃい」


「......」


「...す、すいません」


「チッ、声が小さいんだよ」


 男は露骨に舌打ちを見せて席に戻り、僕はようやく解放された。...こ、こわ、怖かったぁ。

 周りを見ると、皆が心配していて、加えて安堵していたことが分かる。中学の人は居ないかと心配したけど、誰も居ないみたいだ。僕は隣の車両へと移り、恐怖から抜け出した直後の脱力感に襲われる。

 ほ、ほんとに怖かったぁ...... そうやって泣きそうになれたのは、まだ幸運な方で。僕はきっと、油断しきっていた。



「......」


「......ア? テメェ、さっきの坊主じゃねぇか」


 そう。終点の駅で、バッタリ出会ってしまった。




 ー5.妄想ー


 電車から降りた時、既に僕は男からの恫喝を忘れ、Youtubeを見て楽しんでいた。スマホを横にして持ち、ろくに前も確認せず電車を降り、ホームの席に着いた。

 イヤホンをつけているため、音は遮断されている。つまり、周りの情報を僕は得ようとしていなかった。その不注意が生んだ結果が、男との望まぬ再開である。......自分は本当に馬鹿になったんだな。


「さっきは怒って悪かったなぁ。暇だから話に付き合えや」


「は、はい。こちらこそすいません...」


 緊張で小刻みに足が震えているが、声は思ったよりクリアに聞こえた。誰もいないホームだからか、よく聞こえる。その緊張を知ってか知らずか、男は高笑いしながら僕の頭を叩いた。


「ははっ、思ってなくてもそう言う奴は嫌いじゃねぇ! そんなに良い子ちゃんなのに、なんだ? 家出か?」


「......はい」


「良いなお前! 暇潰しには最適だ! どういう経緯か聞いて良いか?」


 ......まだ怖い。それは変わらない。表情に隠せないぐらい体臭がキツいし、今すぐにでも離れたい。けれど、少なくとも今は、男に敵意は無さそうだ。

 寂しさからではないだろう。共感を望んでいるわけでもないだろう。ただ男の気が変わらないで欲しいという恐怖心から、僕は話し始めた。


「えっと...



     ...です」


 僕はまた、この話をした。男は時々笑いを堪えるような仕草をするも、邪魔はせず、静かに僕の話を聞いていた。たとえ次の電車が来ようが、話を切り上げなかった。...静かすぎて、真剣さまで感じ取れたぐらいだ。


「......なんつぅか、そういう暗ぇ話をしたかったわけじゃねぇんだけどな」


「ご、ごめんなさい...」


「まあ俺が言ったことだしな。別に良い。お前さんも大変だな。昔の俺とそっくりだぜ」


「...昔の?」


 とてもそんな風には見えなかった。僕がこのように成れ果てるなんて、想像ができない。

 僕の失礼な偏見を感じとったのだろう。男は意味深に溜息をついた。けれどそこには、怒りも悲しみもない。どちらかというと、自分自身の失敗を笑い飛ばすような、僕と自分を重ね合わせて小馬鹿にするような音だった。

 その印象は変わらないまま、男は話を始める。僕は何故だか、やけに緊張していた。背筋を伸ばし、拳を握って膝の上に乗せている。


「あぁ。といっても、俺は努力以前に才能が無かったけどな。クソ兄貴と比べられ続けて、無理矢理兄貴と同じ高校受けさせられ続けて、落ちた瞬間ろくな仕送りも無しで一人で暮らせだとか。今や誰とも連絡もつかねぇよ」


 言葉にすると、十数秒。声を切り取ると、近所の大人が世間話をするような。なのに内容は、普通に生きてては想像がつかないほど重かった。そのギャップに、混乱してしまう。


「はっ、そんな動揺すんなよ。俺は気にしてねぇぜ? むしろ、あんな息苦しいところに居る方が大変だな」


 息苦しい。それは、昨日までの僕の感情を正確に表していた。昔は束縛に苦しんでいたけど、今は親元を離れて一人で自由に暮らしている。

 ......たしかに、僕と彼の状況は似ていた。もしかしたら、僕も彼のようになるのかもしれない。そう思うと身体が強張る。それの大部分は不安であり、残りはかすかな期待だった。

 二つの対する感情が、彼への興味を引き立てた。...話す勇気はない。貸しも借りも無いし、仲良くなりたいとも思わない。それでも、僕は話したかった。


「......そろそろ終電ですね」


 相手からの反応を待つような台詞。彼はそれを待っていたように、快くそれを聞き入れた。


「あぁ、お前さんも入るだろ?」


「はい... はいっ」


 この時僕らは、不思議な関係になった。



××××××



 電車の中で、並んで端の席に座る。誰も近づかないというのは、こっち側になってみると案外良い。僕らは周りを気にせずに、まるで自分達だけの世界に入ったように、大声で話し続けていた。

 僕らは小学生からの出来事を、親に対する不満を、兄弟に対する愚痴を言い続けた。時には共感し、時には同情し、時には高笑いしながら。

 正直に言って... 楽しかった。相手が彼だからではない。自分の愚痴を聞いてもらえたからだ。共感し、同情してくれる人がいるからだ。それでも、ここで会えて良かったと思っている。


「年寄りの老害ババァどもが、学生に何を言ってやがるって感じだよなw 俺が判断したんだから、黙ってそれを認めろってのw」


「それ! いつまでも子供扱いしてるのがムカつく! 大したことないくせに僕らを見くびっているの、本当に頭おかしいよね!」


 口調はとっくに砕けて、緊張してガチガチだった姿勢も、今は気楽に足を伸ばしきっている。今まで自分を閉じ込めていた殻を、僕は破ることができた。そんな感触があった。


「よし、そろそろ俺は降りる。寝場所が見つからないなら、俺の寝床を貸してやろうか? 俺はお前さんを気に入った、遠慮しなくていいぜ?」


 僕は今の駅を見た。今日ずっと居たところまで、あとたった3駅。ギリギリ定期範囲内だろうか。だったら是非ついて行きたい。


「どこで寝てるの?」


「あれだよあれ、△△」


「え、あ、一緒! んじゃ行く! めっちゃ行きたい!」


 まさかの同じ駅で降りる予定だった。そういえば、昨日もちょうどこの時に怒声が止んだ覚えがある。奇跡的な確率の偶然だ。僕はそのまま声のトーンを上げ、男に嬉しさを示した。


「へいへいw 分かった分かった、一旦落ち着けw」


 彼は苦笑する。それにつられて、僕も苦笑する。無邪気な笑みか、自分への嘲笑か。どちらにせよ、気分は良かった。

 ドアが開く。立ち上がると、皆が僕らを見る。ポケットに手を突っ込んで、床を強く踏みしめながら堂々と歩く。皆が僕らのために道を開ける。彼は既に慣れきっていたが、僕は栄光を飾られた気分だ。

 憧れていた風景。自分のために、自由に生きていく。それだけで、僕の視界は開いた。今までのがんじがらめの「優等生」は、既に捨てられた。


 胸を張って言える。僕は今から、「馬鹿」なのだ。




 ー6.馬鹿ー


 

 今の時刻は、既に街頭なしでは何も見えないほどの真夜。そんな中、男が言う寝場所に案内される。...予想はしていたが、本当に予想通りだった。段ボール。そう、あの段ボールである。


「お、ポカンって顔してんな。俺も最初は半信半疑だったんだが、案外あったけぇぜ? 酒もあるし、今日はちょっとした宴会だな」


「酒?」


「あぁ... そっか、本来は20以外は無理だったか。ま、バレなきゃ問題ねぇだろ。飲め飲め」


 男は瓶ごと僕に手渡してきた。新品の、なんとなく高そうなお酒。ゴクリと、生唾を飲み込む。もちろん好奇心ではなく、戦慄によるものだ。......ついに法に触れるのか。


「銀行で怒鳴れば、ビビった若ぇ奴が金出してくれるんだよw 仮に断られたら、他の銀行に行けばいい。それだけで飯も酒も煙草も買い放題だ!」


 なるほど、だから電車に乗ってたのか。腑に落ちない点が解けた。電車に乗っている理由は、ただどこかに居座るだけでなく、銀行に行くためでもあるんだろう。


「ほら、グイッと行ってみろ! あ、一気は危ねぇからやめといた方がいいぜ。そんな量もねぇしな」


 そう言いながら、さらにもう一つ瓶を開封する。彼は一気飲みするつもりらしい。その様子を見ると、僕も飲んで良いような気がしてきた。

 恐る恐る、唇を酒瓶につけて...


「......」


「どうだ? 美味いか?」


「......なんか微妙」


 不味いとは言わないが、決して美味しいとも言えない味。どう反応すればいいのか分からなかったから、正直にそう答えた。


「へっ、まあ最初はそんなもんだろ。酔ってからが本番だ! もっと飲め飲め!」


 僕は流されるまま、酒を飲み続けた。味は分からないが、悪い気はしない。酔いのせいか、自分が吹っ切れていくのが感じ取れた。

 紙皿に出されたチーズを食べながら、酒瓶の半分を切る。僕は思いっきり瓶を持ち上げ、一気に流し込んだ。少し酒が口から零れ落ちるが、男は満足気だ。


「やっぱ若ぇのはそうじゃなくちゃな!」


 男は負けじと2本目の瓶を開ける。最後の酒瓶だ。


 長い時間ではない。冬の深夜の冷えが身体にまわるまでの、ちょっとした時間だ。それでも僕は、目一杯宴会を楽しめた。これが「馬鹿」の見てきた世界...!

 感動を覚えた。段ボールの温かさに身を委ねるのが、存外楽しかった。酔っていた。酒にも自分にも、そして「馬鹿」にも。この男と出会ったことで、僕は壊れるぐらいまで酔った。






「起きなさい、君たち!」


 男の威圧的な声が響く。...一瞬、昔のお父さんの声だと思った。僕は今日も、学校に行く気は無い。それがバレて、怒られた。怒られられたのだと思った。

 しかし、目に映るのは制服と帽子をつけている、やけに姿勢の良い男。良い育ちなんだと一目で分かった。これは... 警察だ!


「...あの、えっと、起きて!」


「.........んあ? あぁ... ぅ... 頭痛ぇ... なんだ?」


「署まで同行してもらう。良いな?」


 彼は目を見開いた。頷きも抵抗もせず、彼は呆然としたまま警官を見つめる。僕は、何もしなかった。


「......悪ぃな。俺のせいで」


「......」


 悲しかった。こうもあっさり、自分の幻想が終わりを迎えるのが。何もできないまま、僕は隣の男の方に振り返った。彼は朗らかに、昨日見せた苦笑のように、笑った。



「ま、心配すんな。適当に楽しくやってるぜ」



 僕は知った。いや、元々気づいていたことを、はっきりと自覚した。彼は僕とは違って、本当の、憧れの、「馬鹿」だったことを。僕の新たな物語は、全て「妄想」であることを。



××××××



 警察官から話を聞いた。昨日助けてくれた青年が、僕を通報したこと。お母さんが、僕を探していたこと。酒を未成年に無理矢理飲ませた男には、有罪判決が喰らうこと。僕には、何も非は無いということ。


 未だに、彼の馬鹿な笑みが忘れられない。彼に有罪判決が下るのは当たり前だし、悲しくもない。別に友情も感じていない。たった数時間話しただけの、汚らしい男だ。

 だけどあの笑みは、僕の心に深い傷をつけた。妄想であることを自覚したのだ。

 僕は「馬鹿」の行動だけを猿真似して、勝手に「馬鹿」になれていた気になっていた。その心に、自由も解放も無かったくせにだ。


 僕はもう、馬鹿にはなれないようだ。心から自由を楽しむ術を、持っていないようだ。好きなだけスマホをいじっても、好きなように放浪しても、周りの人を寄せ付けないようにしても、僕は心から楽しいと思えていなかった。

 せめて、「馬鹿」になるという妄想を楽しんでいたかった。けどそれも、無理なようだ。彼と違って僕は、ふとした不条理を笑いとばすことができない。


常識を逆張りして、

馬鹿を快楽と思い込み、

優等生であることをやめ、

親の期待を裏切って、

楽しさも感じ取れず、

息苦しさを感じ続け、

青年の気遣いも無視して、

馬鹿にもなりきれず、

妄想で現実逃避を始め、

それすらも何もできないまま終わりを告げ...


 その結果がこのざまだ。



 お母さんに会った。お母さんは、開口一番に僕を叱った。僕を叩いた。......反抗も、できなかった。


「今日は学校は良いから、お風呂に入って温まってきなさい。外は寒かったでしょう」


 冷水を浴びる。長い前髪が、僕の目にかかる。

 それを払うと、目の前には鏡があった。


 この先、さらに気温は下がっていくだろう。

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