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異世界チャンネル ゆっくりしていってね!!!  作者: 八城正幸
第02章 イセカイ笑顔百景
7/26

07

(おばあちゃんは入れ歯だから柔らかいハンバーグ弁当ね。私は何にしようかな…)


 私が弁当売り場の前で考えていると、隣に立った若いOLさんが「コホン!」と咳払いをしました。

 私は驚いて、後ろに下がりました。

 OLさんは私の方をチラッと一瞥すると、手を伸ばして焼肉弁当を取って行きました。

 私は恥ずかしくて顔を真っ赤にしてうつむきました。


(私が邪魔だったんだ。いつまでも弁当売り場の前に立っていたから…)


 羞恥心で私の胸のドキドキが止まらなくなりました。


(落ち着け、落ち着け!)


 再び私は心の中で「寿限無」を唱えたました。


(落ち着け、落ち着け。私もハンバーグ弁当でいいや)


 私は慌ててハンバーグ弁当を二つ掴むと、レジに持って行きました。


 レジの店員さんがハンバーグ弁当のバーコードを読み込ませながらぶっきらぼうに私に尋ねました。


「弁当、温めます?」


(そら、来た!)


 私は答えました。


「お、お願いします!」


 私は少し噛んでしまいました。

 そんな私を見て、店員さんが薄ら笑いを浮かべました。

 羞恥で私の顔はみるみる真っ赤になっていきました。


(落ち着け、落ち着け。寿限無寿限無…)


 店員さんが電子レンジに弁当を入れ、スイッチを入れるとブーンと音を立て始めました。


「袋、いります?」

「えっ!?は、はい!下さい」

「1003円いただきます」

「えっ!?千円でしょ?」

「 弁当用袋代3円いただきます」


 私は恐怖で目を見開きました。

 ドッと冷や汗が流れ出ました。


(おばあちゃん。千円じゃ足りないよ!)


 私は恐る恐る握りしめていた千円札をカウンターの上に差し出しました。


「お客さん。3円、足りませんよ」

「……」

「黙っていちゃわかりませんよ。お金、持ってないんですか?」

「……」


「チッ!」


 いつも間にか私の後ろに並んでいた男の人が舌打ちをしました。


「おい!早くしてくれよ!」


 男の人が叫ぶと、店内にいた人たちが一斉に私の方を振り返りました。

 大勢の好奇の視線が私に突き刺さります。


「お、お金、取ってきます!」

「えーっ!もう弁当、暖めてるのに!」


 レジの店員が店中に響く大声で文句を言いました。


「だったら、そのまま手で持って帰ります!」


 私は弁当を受け取ると、いたたまれなくなりコンビニから飛び出しました。


「ごめんなさい!ごめんなさい!」


 私は小声でつぶやきながら走り出した。

 弁当はやけどしそうなぐらい熱く、落としそうになりましたが、恥ずかしいので平静を装って小走りで急いで歩いていました。


 コンビニの前の横断歩道を渡ろうとした時、私は熱さに我慢できなくて弁当を道に落としてしまいました。

 私は呆然と横断歩道の真ん中で立ちすくみました。


 その時です。

 信号が赤に変わって、私はトラックに跳ねられたのでした。

 即死でした。


「――で、私が生まれたってわけ!

 こうして私はこの異世界に転生したのでした。

 いやー、元の世界に比べたら、まったくこの異世界はいい世界ですねぇ!

 異世界だけに#いい世界__・__#!

 なんてね!」


 自分のダジャレに思わず私はプッと噴き出してしまった。


 と、耳元にイルマ様の不機嫌そうな声がした。


『意味がわからん!まったく面白くないぞ!』


 私の生命をかけた渾身の創作落語は全くウケなかったのだ。


「や、やだなあ!今のは『(まくら)』と言いまして演目を始める前の小噺ですよ。これから本編が始まるのですよ」

「おお!そうじゃったのか!それは悪かったのう。早く本編を始めておくれ」


(どうしよ!?どうしよ!?高座を作るのに夢中で、他の話なんか考えてないわ!)


 私は小さくつぶやいた。


(そうだわ!おばあちゃんから聞いたお噺をお思い出すのよ!

 忘れじの魔法(リメンバーミー)!)


 私は自分で自分に忘れじの魔法(リメンバーミー)をかけたのだった。

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