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イルマ様の屋敷を出た私は四つの森を抜け、二つの谷を渡り、三つの山を越え、城塞都市ウゴルに到着した。
屋敷を出てから既に十日が過ぎていた。
イルマ様の屋敷の周辺は「禁忌の森」と呼ばれ近づく人もいないので、山賊や魔物に襲われるという異世界らしいトラブルは特になかった。
それに覚えたての生活魔法「 アイテム収納の魔法」を使って私は馬車一台分ぐらいの日用品と食料をポケットに入れていたので道中は楽だった。
しかし、そのポケットの食糧も既に尽きてしまったのでこのウゴルで新たに調達しないといけない。
城壁に囲まれたウゴルの街に一歩足を踏み入れれば、まさに中世の街並み。
建物はおとぎの国のようにどれも可愛くてどこか謎めいた雰囲気があった。
私は好奇心で胸をときめかせた。
「ここが城塞都市ウゴルか!立派な街ね!まさにファンタジーの世界だわ!」
すると、私の額の青碧石を通して周囲の情景を見ているイルマ様が話しかけてきた。
『あまりキョロキョロするんじゃないよ!田舎者だとバカにされるよ』
「実際、ド田舎から来ましたからねぇ、私。この国の事なーんにも知りません!」
『この国の名はカレリア王国。為政者はパラケルスス王Ⅲ世』
「ふんふん!」
『かつてこの世を支配していた魔王ボルサンゲルを討伐した勇者一行を派遣したのはこの国なのじゃ』
「へぇー!由緒正しい城下町なんですね」
『古いだけの街じゃよ。いつの時代も大国に囲まれて戦々恐々としとる哀れな国じゃ』
「ふーん……。それはさておき、なんか周囲のみんなが私のことジロジロ見ているのですが?」
羊毛製の厚手のブリオーを着た一般市民たちが先程から私のことを遠巻きに見ていることに気が付いた。
『ふむ?エルフってのは今や絶滅危惧種だからね。きっと珍しいのじゃよ。それにステラは儂の姿を模して作られた美しい姿をしとるから見惚れているのじゃな』
「いやいや!みんな私に視線を合わさないようにしてコソコソ話しています。これはきっと私が一人で誰かと会話しているから気持ち悪がられてるんですよ!」
『そうなのか!だったら人前では儂と会話しないようにステラが気を付けるがよい』
「そんなこと言われてもイルマ様が話しかけてきたらつい答えてしまいますよ」
『それでは音声でなく文字で通信するようにしよう。これでどうじゃ?』
私の眼の隅に『それでは音声でなく文字で通信するようにしよう。これでどうじゃ?』という文章が浮かんだ。
これは便利だ。
私は無言でうなずいた。
「あのう………」
突然、若い娘が私の前に現れた。
くるぶしまで丈が伸びたカートルと呼ばれる袖付きの服を着て、頭には四角い布地を折り畳んだ被り物をしていた。
「は、はい!なんでしょうか?」
「私と一緒に写真を撮ってもらえませんか?」
「えっ!?写真!?この世界には写真があるの!?」
「やだーッ!エルフさん!面白ーい!」
娘は笑い声をあげた。
その娘はキョドってる私の横に立つと手を前に突き出した。
手には青碧色の薄い板のような物を持っている。
「このジャスパーを見つめて下さいね。エルフさん!」
「あの青碧色の板がジャスパーなの?もしかしてジャスパーって……?」
カチャッと音がして碧色の板が光った。
「自撮りしてるし…!?」




