01
気が付くと私は冷たい石張りの床の上に横たわっていた。
「ん、う~~~ん……」
ゆっくりと起き上がろうと両手に力をいれる。
と、両手が透明な粘膜に覆われていてツルッと滑ってしまった。
「何なのこれ!?気持ち悪い!!」
私は思わず大声で叫んだ。
その時ようやく自分が丸裸で全身が粘膜に覆われていることに気がついた。
私はペタンと床の上に座り込んで周囲を見回した。
私は薄暗い石造りの部屋の中にいた。
何も置いていない殺風景な部屋だ。
ただ一面だけにガラス窓がありそこから淡い光が差し込んでいる。
私は足が滑らないように気を付けながら慎重に立ち上がった。
足に力が入らなくてガクガクと震えた。
窓辺に近寄るとガラス窓から外を覗いて見た。
私は思わず息を呑んだ。
窓の外は木がうっそうと生い茂った薄暗い森だった。
私の住むマンションからいつも見ていた町の景色とは似ても似つかない。
「私、寝ている間に誘拐されたんだわ!」
そう考えると私の心臓が激しく高鳴った。
「丸裸で森の一軒家に監禁されてるなんて最悪の状況じゃないの!?早く逃げないと!」
私は部屋の入口のドアノブを掴んで回した。
部屋の外は古びた洋館の大広間だった。
不気味で薄暗いまるでホラー映画に出てくるような場所だ。
と、私は闇の中、目の前に一人の少女が立っていることに気が付いた。
透けるように白い肌、腰まで伸びた長い髪は黄金色、瞳は深く鮮やかな洋紅色。
アニメに出てくる森の妖精、エルフのような美しい少女だった。
少女は驚愕の表情で洋紅色の瞳をより大きく見開き、私の方を見つめていた。
「あ、あなた、誰!?」
私がそう尋ねたがその少女は返事をしてくれない。
私は改めて少女の全身をよく見た。
少女は私と同じく一糸まとわぬ裸であった。
「そっか!あなたも私と同じに誘拐されたのね」
少女は返事をしない。
私は怯えた表情をした少女の美しい顔を見つめた。
と、少女の額で何かが光った。
直径二センチ程の宝石である。
少女の額には印象的なブルーグリーンの宝石が張り付いていた。
その青碧の宝石はまるで少女の額に埋め込まれているようだった。
「あ、あなた、日本語わかる?」
どう見ても彼女は異国の少女だ。
私の言葉が分からないようだった。
「困ったわね。私も日本語以外ダメだし……」
困惑して少女の美しい顔を見ていて、ふと違和感に気が付いた。
何かがおかしい。
さっきから目の前の少女の唇が動いて何か喋っているようだ。
それなのに少女の声が聞こえない。
いえ、違う!
私はおずおずと右手を伸ばした。
すると少女も左手を伸ばしてきた。
私の指が少女の指に触れた。
いえ、私の指は冷たいガラスに当たったのだ。
私は震える手で自分の頬を触れてみた。
目の前に立つエルフのような美しい少女も自分の頬に手をやった。
私の前には大きな姿見が置いてあった。
目の間に立つ少女は鏡に映った私の姿だったのだ。
私は自分の額に触れてみた。
固く冷たい感触。
私の額に青碧の宝石が埋まっているのだ。
私の指が触れたその瞬間、額の宝石が微かに光った。
と、大広間の階段の上から女性の声が聞こえてきた。
「やれやれ、ようやっと成功したようじゃな」
私が驚いて階段の上を見上げると、そこには光沢があるサテン生地のローブをまとった妙齢の婦人が立っていた。
肩と胸の上部を露出した夜礼服のその女性は細身で背が高い美女だった。
そして彼女の耳は長く張り出し先端が尖っていた。
「ど、どなた!?あなたのその耳、特殊メイクですね!どうしてエルフのコスプレをしているの?ハッ!もしかしてここで卑猥なビデオ撮影をしているの!?」
「失敬なヤツじゃな。 儂は正真正銘本物のエルフじゃ!」
「エ、エルフなんてファンタジー世界の創造の産物だわ!!」
「お前さんもそのエルフのくせに」
「わ、私は普通の人間です!ついさっきまでおばあちゃんに頼まれてコンビニにお使いに行って………。あれ?それからどうしたっけ?」
「お前さんは前世で死んで、この世界にエルフとして転生したのじゃ!」