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【完結】偽聖女に騙された王太子から婚約破棄された聖女は隠居した魔王と暮らす  作者: 三崎ちさ
2章 北国の王子

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49/85

46話 状況は停滞

※9/26 間違えて完結済みにして更新してしまっておりました!

完結済みと思って読み始めた方おりましたら、申し訳ありませんが、本作はまだ完結しておりません。ご了承おきください。


 アルマが屋敷に戻ってきてから2週間が経とうとしている。


 状況は何ら変わりなく、ジェイドは眠り続けていた。

 はじめのうちは昼時を避けていたブリックだが、アルマが何度か誘うとお昼ご飯の時間帯から屋敷を訪れるようになった。

 ジェイドの分もまとめて作るので、3人分も4人分も、作る手間はそう変わらない。ブリックと一緒に食卓を囲むほうが楽しいし、その方がアルマもよかった。


 ブリックとカインはよく喋る。軽快なやりとりは聞いていて面白かった。

 そう言うとブリックは良い顔はしなかったが。


「……僕、アルマ殿の真似をしてみたんですが、火も風も水もなーんにも出る気はしないですね」

「私もカイン王子みたいに、ナイフで切っても無傷とかは無理ですから……」

「は!? アルマ、まさかわざと切ったのか!?」

「違います! うっかり切っちゃっただけです!」


 料理の最中、ついうっかりで少しだけ切ってしまって、布を巻いていた人差し指を立てると、ブリックがガッと前のめりに覗き込んでくる。慌ててアルマが否定すると、そっと胸を撫で下ろしたようだった。


「ブリックさんもナイフで切ったら血が出ますか?」

「なんだその、肉と魚どっちが好きですか? くらいに軽い調子でんなこと聞くなよ……オレだって血くらい出るよ」

「……あれ?」


 カインは目をまんまるにして、きょとんと首を傾げた。ブリックはイラついた様子で頭を掻いた。


「あれ? ってなんだ、あれ? って。多分、お前の魔力の作用とオレたちの体質は似てはいるんだろうが、ちげーんだろ。シグナルはどうだったんだよ」

「そういえば、シグナルも転んだら膝から血が出てましたね」

(あの人、転ぶんだ……)


 鮮烈な赤髪、背が高く神経質そうに整った外見の彼を脳裏に浮かべる。彼が足をつまづかせているところを想像するのは難しかったが、歩いていればどんな人でも転ぶことは、それはあるだろう。


「まあ、魔力吸いまくった状態になってたら、そんじょそこらのことじゃ傷もつかなくはなるけどよ。そんな状態になってたらもう……」


 しかめ面のブリックが手に持ったフォークをクルクルと回した。しばらくはぼーっとそれを眺めながら話しているようだったが、急に何かに気づいたようでブリックはハッと目を大きく見開いた。


「……ジェイドとアルマの魔力を吸ったってことは、アイツ、実はもうすでにパンク寸前になってんのか……?」

「パンク?」

「前に確か、いったろ。魔力が溜まってパンパンになったら、オレたちは爆発四散するって」


 ブリックに言われて、故郷の村に行ったときに彼から聞いた話をようやく思い出して、アルマは「あ」と声を出しながら頷いた。


「次にジェイドかアルマの魔力を吸ったらもうパンクするのかもしれねえ。だから余計にタイミングを窺ってるのかも」

「爆発四散って……」

「そうだよ。巻き込まれて死ぬかもな」


 アルマに自覚はないが、規格外の魔力を持っているらしい自分がすっからかんになりかけるほど魔力を吸い、そして昔はとんでもなく膨大な魔力を持っていたらしいジェイドの魔力も吸っていったシグナル。「それくらいで容量マックスになるのか?」と思う気持ちもあるが、実際のところ「それくらい」と言える魔力の量では、なかったのかもしれない。


(……ブリックさんは爆発直前が肉体的には全盛期と言っていたけど……)


 もしかして、と思う。

 エレナはシグナルを一撃で殺せなかった。とどめを刺そうとしたのをアルマが止めたから、エレナはシグナルを殺さなかったが、そもそも本当はあの一撃で殺すつもりだったのではないだろうか。

 エレナにシグナルを生かしておく理由はなく、エレナ自身が魔力吸いシグナルへの最適解は『真っ先に殺すこと』と言っていたのだから。


(殺すつもりの一撃で、シグナルは死ななかった?)


 だとしたら、本当に、シグナルはすでにパンク寸前かもしれない。

 剣呑な表情を浮かべたカインが顎に手をやりながら口を開く。


「シグナルも動くに動けない、ってことですか?」

「そういやお前、アイツのいる場所わかってるんだろ。喧嘩別れしたっつっても、様子見に行ってもいいんじゃねーか」

「──シグナルはすでにあそこにはいませんでした」


 ブリックの声に被せるように、カインはハッキリとした声音で言った。

 意志の強そうな目で、カインはブリックの顔を見つめている。


「見に行ったのか?」

「はい。おかげで今日は徹夜です」


 とはいうものの、カインの目の下にはクマもないし、いつも通り肌もつややかで、とてもそうには見えない。

 だが、確かに、昨日カインは「今日は用事を済ませてきますね」とそそくさと出て行って、そして、帰ってこなかった。アルマが今朝起きたらにこやかに「おはようございます」と言って屋敷に戻ってきていたが。


「一日歩き通しのわりに元気だな……」

「そういう体質なものですから……。あまり、時間にも余裕がないですしね」


 はあ、とカインはわざとらしくため息をついた。


「シグナルとの顛末を見届けたいところですが、僕、そろそろ国に帰らないといけないんですよね……」

「そうなんですね」

「はい、もうアルマ殿と会えないだなんて、寂しくなります」

「もう会えないだなんて……」


 アルマが言うと、カインは眉を下げ、困ったように苦笑を浮かべた。


「いつも遠くからご活躍を拝見して、あなたの噂話を聞いて、気持ちを昂らせていただけの僕が、こんなにもおそばでお話をさせていただけただけで、まさに身に余る僥倖でした」

「カイン王子……その」

「はい、僕は国に帰ったらその3ヶ月後には16歳の誕生日を迎えます。僕は身軽な王子ではありますが……さすがに頻繁には国境間の行き来は厳しいですからね。今も国内でやることを後回しにきて無理矢理ここに滞在していますし……」

「……殺される、というのは、撤回されることはないんでしょうか……」


 カインははっきりと首を横に振った。


「僕はその日に殺されることが約束されているおかげで、生き長らえていました。僕が死ぬか、国が滅びるかのどちらかです」


 カインの瞳がアルマを捉える。色素の薄い瞳の、その虹彩は美しい。


「僕は己の死を受け入れることだけが、父に対する唯一の誠意であり、彼への愛だと考えていました」


 カインは淡々と語る。ただ、瞳は強い意思を宿しており、見つめられていると、まるでカインの瞳に吸い込まれてしまっているかのようで、目が離せなかった。


「シグナルから、あの雪国の雪をやませる方法を聞いたとき、僕は初めて自分が16歳を過ぎても生きる可能性を考えました」


 カインが一歩、アルマに近づく。そして、アルマの手を取ると、壊れ物でも扱うかのような優しさで、両手で包み込むようにそっと握った。


「アルマ殿、あなたはジェイドさんが目を覚ますまで彼のそばを離れたくはないのでしょう?」

「……」

「ありがとう、優しい人。あなたは何も言わなくてもよろしい。どうか、そんな顔もしないで」

「カイン王子」


 カインは優しい。そして自分はずるいやつだとアルマは思った。自分の言葉でハッキリと言う度胸はなく、決意自体も、煮えきれずにいる。


「でも、もしもジェイドさんが早く目を覚ますことがあったら……僕の国に来てくれると嬉しいです。僕は一足先に行きますが、運命の日が来るまであなたを待ちましょう」


 アルマの手を離して、一歩後ろに下がり、カインはニコリと、見慣れた笑顔で微笑んだ。



 ◆ ◆ ◆



「……アルマにあんなこと言ったら、脅しになるだろ」

「それでも、僕は言わなければ。そのために僕はこの国に来たのですからね?」


 アルマがジェイドの食事を持って食堂から出て行った後、しばらくしてブリックは口を開いた。

 カインはしれっと、軽い調子で返す。まだ、15年程度しか生きていないくせにずいぶんとふてぶてしい男だとブリックは思った。


「僕は北国の王子カインだ。僕の望みは生まれた大地を豊かにすること。それは何があっても変わらない」

「頑固だな」

「うーん、国民性、ですかね!」


 カインはカラリと笑ってみせた。




 ブリックはその笑顔を薄目で見ていた。

 アルマには、この男を関わらせないべきだった。アルマはカインのこと、ひいてはカインの国のことを、気にせずにはもう暮らせないだろう。


 そんなことは最初からわかっていた。いや、ブリックがカインと対面したとき、すでに手遅れだった。アルマはすでにカインに同情的になっていた。ならば、この男も利用して、アルマとジェイドの身の安全を守るべきと、ブリックはそう判断した。


 ブリックは魔力を吸う。ただでさえ衰弱しているジェイドのそばにはいられない。アルマも、普段なら満ち溢れさせているはずの魔力が、信じられないほど弱々しいものになっていた。自分はそばにいないほうがいい。

 しかし、次またシグナルが来た時。アルマがシグナルをどうにかできるとはとても思えなかった。


 アルマに対する侮りかもしれない。彼女の力ならば、シグナルを殺すことはできるが、彼女はそれはできないと、ブリックは思った。

 もしも、彼女がそれをすると決意していたのならば、それは彼女に対する侮辱にもなるが、しかし、侮辱となる。それだけだ。そうであったなら、それを選んだ彼女を称賛し、心の内でだけ己の不信の念を恥じるだけのこと。


 それならば、彼女にはそれができないという前提で、彼女を守る術を置くべきだと考え、それにちょうどいいのが、このカインだった。


 信用はできないし、余計に厄介なことになるかもしれないが万が一ジェイドが死んだり、アルマに危害があるよりかはよほどいい。

 アルマはブリックへの連絡手段も持っている。シグナルが来たら、すぐに知らせてもらい、かっ飛んで行く。それまでの時間稼ぎをこのカインがしてくれればいい。


 信用はできない。が、このカインという男が持つ、アルマへの憧れは本物であろうとブリックは思っていた。

 アルマを害する意思はないことだけは、認めた。


 シグナルは、このカインがここに滞在してるうちに来るだろうか。ジェイドはシグナルが訪れるまでに目を覚ますだろうか。


 カインがいなくなり、ジェイドも目を覚さなければ、ブリックはここに残るべき、だろうか。

 ジェイドの魔力が、いますぐにでも死んでしまいそうなほど減っていなければそうしたが、しかし、今のジェイドの状態はブリックを悩ませた。 


(なんでもいいから、とにかくアイツ、目ぇ醒さねえかな)


 カインがこの屋敷に滞在していたことを知ったら、怒るだろうなと思いながら、ブリックは目を閉じた。

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他連載のご紹介

他連載/完結済み中編作品、本作の没設定からサルベージして書いたものになります
『追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜』

他連載/完結済み中編作品です。

ツンツンしていた彼が私の大好きな婚約者になるまで

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