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久しぶりです。

城内が寝静まる真夜中まで仕事に拘束され、若干その美貌に疲労の影を落としたエディーガは、

部屋を出て外門へつながる回廊へと足を向けた瞬間行く手を阻まれた。

 

追って部屋から出たはずのキィーリスが回り込んで立ち塞がっている。

「キィーリス」

険のある声音に負けじとキィーリスも

棒読みのごとく、幾度となく繰り返された台詞を返す。

「エディーガ様の宮はあちらでございますが。」

反対側の回廊を指で示す。


「お部屋までお送りします」

無言のエディーガとしばし瞳を合わせ無言の攻防が続いたが。

キィーリスが目を伏せた

「……と申し上げたいのですが。殿下にお願いがございます。

今宵、会っていただきたい方がおります。」


 深く頭を下げたキィーリスに、間髪おかずエディーガの手が乗る。


「おまえが手引きをするとは珍しい。いいだろう。」


簡単に頷くエディーガに、頭をあげたキィーリスも僅かに眉を動かし

何か言いかけるように口が開いた。


「殿下」


 揚々と先に歩きだすエディーガの背を見て、吐息を漏らした。


大抵の者は深い眠りに入っている時間。

案内するためにキィーリスが先に立ち、そのあとをエディーガはゆったりと歩き

最小の配備すら姿を消した、静かすぎる回廊へちらりと目をやる。


西の塔へ向けて続く道だけ、最小限の明かりが灯され。

後は月の清らかな明かりが照らすだけ。


 足音が冷たく響く石の回廊を、キィーリスが先導する。


西館の庭園の香りが立ち込め、静かな庭園の中心。

辿りついたところでキィーリスが足を止める。

庭の中心は開けており、茶会を開くための石畳や少し上段には東屋もある。


一つだけ不自然に置かれた椅子を見つけて

女人かとエディーガが見当をつけたころ。


キィーリスが振り返る


「殿下お分かりになりませんか?」

「なんだ?」


 諦めたようにキィーリスはエディーガの後ろへ視線を向ける


「もう、来るようですね」


エディーガの後ろ、塔に続く道の向こうから人影が近づいてくる。


「ディルギ」


静かに呼べば

その腕に一人抱きかかえ、顔が判別できるほどに近づいてきた。


「静かな夜ですね。」


穏やかな声でキィーリスが囁いた。

エディーガの耳の傍で。


静かな夜。


刀身が鞘から抜ける音がはっきりと耳に残るような。


「キィーリス!」

緊張を孕んだディルギの低い怒声にも、

彼の腕の中に抱えられた人間は反応ひとつ返さず。

衝撃でだらりと落ちた手が揺れていた。


「キィーリス…?」

いくら陛下の気に入りといえども、抜刀まで許容するほど王は甘くはない。

ディルギの内心の焦りを気にも留めず、キィーリスはエディーガに刃を突き付けたまま。


 

『殿下』

低く響く声。


エディーガは……、不可解だと言わんばかりに。

首に添えられたむき出しの刀身に目を落とした


「なんだ?」


 平常と変わらない声音に、キィーリスは嗤った。

その笑みに、ディルギはキィーリスの決意を確信した。


……、馬鹿な従弟。可哀そうなキィーリス。

ディルギは憐れむように二人を見、腕の中で身動きすらしないアイリエヌを見下ろした。


「姉上を、その椅子に座らせて頂けないでしょうか。ディルギ」


用意された椅子にディルギは丁重にアイリエヌをおろした。


 エディーガの目が一瞬空を見つめ、アイリエヌを見る。


「アイリエヌ……」

「……。ようやく、お気づきですか」


 キィーリスがぽつりとこぼす。


「何がしたい。キィー……」

「殿下。」


 小さな声に相手を黙らせる、強い意志がこめられていた。


ディルギの背筋をぞくりと寒気が走る。


この瞬間、キィーリスが何をしたいのか、ディルギは正しく理解したと思った。


今宵の人払いの意味も、近衛兵しか通路に配置されていなかったことも。


  そして、異例の王命の発令

 “今宵の出来事に、全ての者手出し無用”


 それらの全てが何を指しているか。


止める権利は自分にはない。


見下ろしたアイリエヌは。

まるで人形のように座っているだけであった。


「瞳に映る現実から目を反らすほど、弱かったですか。貴女は」


 止める権利があるとしたら、アイリエヌ様。貴女だけです。

 忘れていたわけではないですが。

久しぶりです。うっかり一度消してしまったら勢いが。

しばらくまた更新できそうにありませんが。駄文を読んでいただきありがとうございます。

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