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6.

「姉上?……姉上?」


私がおわかりになりませんか?

西の塔に移されたアイリエヌの傍でキィーリスは必死に言葉を紡ぐ。



「どうして……」


どうして、こんなことに。

最後に別れた日のことが目に浮かぶ、エディーガに連れ出され、顔色を失った彼女。

宴で一目見た瞬間、アイリエヌの意識がすでに現から離れはじめていることを知っていたはずなのに。

朧げな危うい世界を見るように見つめられ、胸がざわめいた。あの、衝撃。


 嫌な予感ほど、よくあたるから


 『ア…リ…−…様は…心が壊れて……』


耳を抑えても、記憶が甦り、侍女の言葉も責めるように追いかけてくる。

あぁ、姉上。誰も、弟のわたくしもあなたの瞳に入らないのですか?

 

 問いかけにも、刺激にも一切答えずに。

人形のように虚ろなアイリエヌにキィーリスは涙を流した。


 悲しみなのか、怒りなのかそれすらわからないままにはらはらと伝う涙。

将来有望な騎士として、側近として知られるキィーリスの硬い表情はない。


 どうすれば、この気持ちを言葉であらわせるのだろう。


幼い時分、流れ落ちた涙を拭いて抱きしめてくれた姉が今は、呼吸をするだけ。

キィーリスは顔を覆って声をころした



「……ア…ィ…ヌ…姉上……」


 そっと、その手を握りしめる。

 後宮に入って痩せ衰え、からだを壊していったアイリエヌ。

体力がないのはわかっている。


「姉上、家に帰して差し上げましょう」


 細い手を両手で握りしめて額に当て、誓う。

瞳が昏く危うく輝き、微笑する。

 

 約束します。


  あなたが幸せに暮らした領地に。


 


 表情を返さない姉の瞳に囁いた。


「もうしばらくお待ちください」


 日が暮れ、月が昇るまで


  跪いたまま、姉の手を額に押戴いていた。


心が揺らぐことのないように、決心を固めてこの部屋へ戻ってくるために。


 



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