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5.

 一睡もできず、祈るように過ごしたキィーリスの神経質な様子とは対照的に、

エディーガの朝は緩やかに流れていた。

事実、エディーガにとって昨夜のことは大した出来事ではなく、覚えていない可能性の方が高い。


 

キィーリスはため息をついて、外を眺める。

ミスを繰り返し仕事が手につかなかった。

アイリエヌに出した文に返事がなく、

昼過ぎ、侍女からアイリエヌの体調がだいぶ悪いことを知らされた。



 

 返事がないまま、数日が経ち。

キィーリス表情が暗く翳りはじめ、様々な憶測が飛び交い始めた。


 報告だけがキィーリスのもとに届く日が続いたある日



「なんだと!?」


 受け取った報告書を握りしめ、血相を変えて、キィーリスは駆けた。

近くにいたディルギがすぐ後を追いかけた。



「アイリエヌ姉上は!?」

 

後宮の入口で待っていた侍女を締め上げんばかりに問い詰める。


「…アイリエヌ様は…、心を壊されて……」


キィーリスの剣幕のせいか、言葉に詰まり泣きだす侍女を振り捨て、

衝動のままに後宮へ走り出そうとするキィーリスに、兵は咄嗟に封鎖を強化する


「キィーリス様!ここから先は!」

「お気持ちはわかりますが。いったん許可をおとりになってから…!」


 ぎらりと睨み、封鎖された槍を奪い逆に殴りかかろうとした、キィーリスを

後ろから追いかけてきたディルギも抑え込んだ。


「キィーリス様、立場をわきまえなさい」


……アイリエヌ姉上……。

放り出された槍に、尻餅をついた兵に目をやることもなく。

塞がれた扉をきつくこぶしで殴りつけると、ディルギを振り払いキィーリスは体を翻した。





 数刻後。


優雅なお茶を楽しんでいたエディーガは、

キィーリスを迎え入れることとなる。



「殿下」

エディーガは華やかな笑顔を向ける

「なんだ、キィーリス。暗いじゃないか」


相変わらずの夜遊びが続き、一向にどこかに落ち着くそぶりもない。


「……。お願いが、ございます。」


一枚の書類を差し出す。

真っ青な顔だ。


「なんだ?」

怪訝そうにちらりとそれに目をやる。


「アイリエヌ様の里帰りの許可をいただきたいのです。だいぶ御気分がすぐれずに」

 

少し、首をかしげエディーガが合点がいったように頷く


「あぁ、アイリエヌか。なんだ、具合が悪かったのか」

「はい。できるだけ早急に。」


 つまらなそうに、その紙を眺めキィーリスの顔に視線を戻す。


「里帰りはならん。」

「殿下!」


 キィーリスの激情に眉根を寄せる。


「おまえね、何年その職をやっている?

そうそう、簡単に返せるものではないとわかっているだろうに。

懐妊したわけでもなく。下賜するわけでもなく」


ぴくりと、キィーリスの眉があがる。


「ですがっ!」


「後宮をでて、西の塔に部屋を設ける。一時そこで養生すればいいだろう」


その譲歩に顔を伏せて、ええと、頷く。


「あぁ、やけに気にすると思えば。あれはお前の姉であったな」

零れるような言葉に、瞠目する


「ええ、姉でございます。」


「殿下。見舞いに西の塔へ入る許可を頂けますでしょうか」


「よい」


 キィーリスは頷くと、部屋を出る

エディーガは不思議そうな顔をする。


「ディルギ……、あれのあんなに感情的な顔を見たのは始めてな気がする。」

「キィーリス様は、家族思いでいらっしゃいますから」

「そうか?昔はさんざん姉の悪口を言っていた気がするが」


ディルギは苦笑して何も語らなかった。



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