12.
「陛下、エディーガ殿下が取り次ぎを願っておられます」
「来たか。さもあらん。朝まで控えの間に入れておけ」
「了承致しました。」
一人がすぐさま出ていった部屋で王が深く息をつく。
「陛下、休まなければお体に触ります。」
薄暗い部屋で窓の傍の椅子に腰かけた国王に侍従が声をかける。
「よい。今日は夜の明けるのを見届けよう。奴も寝てはおるまい。
あぁ、エディーガは朝まで放置しておれ。そして控えの間から絶対にだすな」
早朝、謁見の間に通されたエディーガは憔悴し美貌に陰を落としていた。
「陛下、アイリエヌを伯爵領に戻す命など私は出しておりません。
いかに陛下といえど、私の妃にまで無用な命を出されては、ただでさえ…」
苛立ちを隠しきれず言い募るエディーガを見下ろす。
「ほぉ、ただでさえ、なんだ。」
鋭い眼光に思わずエディーガは言葉をのむ、
昨夜陛下に取り次ぎを願ったのはキィーリスの事であったが、控えの間に通されると
まるで監禁されるかのように部屋から出ることは叶わず何を聞いてものらりくらりと
かわされるばかり。しかも拝謁の直前にはアイリエヌが後宮を出たとのこと。
一晩でなぜこうも事態が進むのか…。
「…アイリエヌを返したのは、ラオギネル伯爵の要請だ。」
「たかが伯爵家の要請ではありませぬか。アイリエヌは我が妃」
国王は深く息をついた。
「たかが、とな。お前は女が関われば情勢を見誤るのか。
伯爵は温厚に見えるが、あれで戦略知略に長ける我が国の軍師だ。
そしてラオギネル領。あれは我が国でも指折りの穀倉地帯で豊かで広い土地を持つ。
領民には兵役を課し、騎士が指導にあたるから領兵も精鋭揃いで有名だ。
国兵もラオギネル領出身者から多く召上げている。
我が国の中でもラオギネル領は代々統治に優れ、領民に慕われている。
何より、伯爵家自体は何代も前から恭順の意を示してはいるが…
ラオギネルは第4王朝の正統な血統だ。国家転覆を謀るようなものは代々おらぬが…。
もしも、反旗を翻せば簡単には抑えられない勢力になることはお前でも解ろう。」
エディーガが眉根をよせる
「それこそ詭弁ではありませぬか、たかだが一伯爵の力に怯え窺うような王家などすでに
王家の権威などないに等しい。王家に輿入れした娘を、返せの一言でたかだか数時間で
しかも夫の了承なしに手元に引き戻せるなど。我が王家はラオギネル伯爵家より格下であるようですね」
暫し、父子で睨みあう。
先に王が目を瞑り声を出した
「お前はあまり伯爵の事を知らないだろう。一つ昔話をしてやろう。
伯爵は愛妻家だったが、夫人に先立たれて子煩悩でな。
長女のアイリエヌを妻の忘れ形見とそれは可愛がっていた。
伯爵は世の良き相談相手であったが、息子が生まれたら王子の良き手足になれるようにと
キィーリスにはだいぶ厳しく接しておったな。
伯爵が余をよく助けたように、あれはお前をよく見て考えておった。
キィーリスは命を賭してお前に何を伝えようとした。解るか。
私は娘も息子も差し出した伯爵に、せめてアイリエヌを返すことで報いたい。
キィーリスの事、伯爵の気持ちを思うと
私は愚かなお前を次代にすることに大いに不安を覚える」
強張ったエディーガの顔を見下ろす。
「それは、私を後継者から外すということでございますか」
「馬鹿者っ!誰がそのような話をしておるっ」
エディーガは瞑目し、暫くして口を開いた
「昨夜から全て私の預かり知らぬところで事が運んでいるように思われます。
キィーリスは、自分自身は私の騎士ではなく陛下の騎士であると言っておりました。
昨夜、陛下の近衛がキィーリスを搬送し、アイリエヌをも連れて行った。
現在の在り処も容体も尋ねても知ることが出来ないのは陛下の指図ゆえの事と思えば」
「思えば、長年誠心誠意仕えた者の事などどうでも良いか」
「っ!キィーリスは、抜刀しております」
国王は頭を振る。
「そうよな。昨夜は、キィーリスが賊を相手に抜刀し。生死にかかわる負傷をした。そうであったな」
控える近衛にそう問いかける
「はい、そのように承りました」
「陛下、」
エディーガ声を荒らげる
「ゆえに、アイリエヌを領地に返すのは道理。
キィーリスに後継ぎなく万一の事があればアイリエヌが跡を継がなければならぬ。
アイリエヌが後宮に上がるときにそう取り決めを交わしておる。
昨夜は伯爵は王都に滞在しておってな、まぁ伯爵の要請というよりかは…キィーリスの要請と申すべきか。
あれは何事にもぬかりのない男であったから、爵位を継ぐのに問題が生じれば
すぐさまアイリエヌ帰還の申し出が王城に来るようになっておったのだ。」
俯いたエディーガにさらに言い聞かせる。
「当然、後宮から外に出るには一定の期間と手続きが本来あるのだが。
所領の広大さ、また伯爵の教育などを鑑みた結果、早い方がよかろうと。
一年の婚姻禁止、また王宮の侍従を遣わし一年間の監視等を条件に伯爵の元へ返したのだ。
王命において」
「そんな馬鹿げた筋書き…」
放心したようにエディーガが呟く
「それもこれも、お前がキィーリスを追い詰めた結果だろう。
エディーガ、お前の行いで国を荒らすのか。」
「考えよ」
前話まで読んで辻褄合わせをしていたら、会話だらけになってしまった。
キャラもちょっと違うような。