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第4話 他のやべーヤツ

 初めての体育は、プールかと思いきや屋内競技だった。体育館はこれまで見た中でダントツに大きいんだが、B組とC組の男女全員が動き回るとなれば、割と適正な広さだと感じた。


 ちなみに男子はバスケ、女子は跳び箱とマット運動に割り振られている。正直な話、球技は苦手。だから嫌いになるし、可能な限りサボりたくなるのは自然の成り行きだった。


「先生。足が痛いんで見学しても良いですか」


「おっ大丈夫か。保健室いっとく?」


「少し休んでれば平気だと思います」


「おっ、そうかそうか。無理すんじゃないぞガハハ!」


 体育教師は若い男だった。夏だからとタンクトップで筋肉を晒すのは暑苦しいが、嫌なタイプでは無さそうだ。良いスポーツマンって感じ。


 それはさておき、サボりの許可が降りたんだ。端っこに座って休ませてもらう事にする。


「そんじゃあ女子は跳び箱だ。順番にやるんだぞッ!」


 ふと女子の方を見ると、やっぱりサメ子は体育の時でも被ったままだ。息苦しく無いのか、暑くてへばるんじゃないか。むしろ眺めるコッチが汗をかきそうになる。


「よし。先駆けは拙者に任せるでゴザルよ!」


 唐突なゴザル。自信満々で先頭に立った女は忍者の格好をしていた。鎖帷子くさりかたびらっぽい黒装束、腰に差してる小太刀はニセモノだろうが、体育には邪魔臭いだろうに。


 まぁそこも、身体能力が高けりゃ問題ないのか。そんな呆れ半分の気持ちでコスプレ忍者を注視した。


「ぬふふ、見るでゴザルよ。凡人と拙者の格の違いを!」


 そう叫ぶなり、5段積みの跳び箱に向かって駆け出した。別に豪語するほどの高さじゃない。もしかして忍者村っぽいアクロバティックな動きを見せてくれるのか。期待に胸を膨らませたのだが。


「忍法、胡蝶の舞……ギニャァァァーー!」


 あろうことか一直線に突撃した。もちろん跳び箱はバラバラだ。


「ニーナちゃん。大丈夫?」


「いてて。丘上殿、かたじけない」


 サメ子が忍者に手を貸した。どうやら友達らしい。変人同士って事で繋がりやすいのか。そんな考察を重ねていると、視界を誰かが塞いだ。


「おい大葉ちゃん。授業サボって女のケツでも見てんのか?」


 唐突に現れた男が馴れ馴れしく絡んできた。しかも真隣に腰を降ろしだす。


「えっと、確か……」


「里緒女だよ。前の席に座ってるサトオメだって」


「悪い。まだ顔と名前が一致してなくて」


「まぁ隣に丘上さんが居るんだから、オレなんか霞んじまうよな」


 そう言ってサトオメはケラケラと笑った。気分を悪くした様じゃない。


「んで大葉ちゃんよ、誰が目当てなんだ?」


「違うってホラ、すげぇ目立つ奴が居るじゃん」


「あぁ、やっぱり丘上さん? 彼女は頭脳明晰で、しかも大会社の社長令嬢。射止めるにしても身分違いの恋になりそうだぞ」


「そんなんじゃねぇ……ってマジで!?」


 あんな破天荒なお嬢様がいるのか。いくらなんでも型破りすぎやしないか。


「あんな格好してんのに、ご令嬢かよ」


「あの子が素顔を見せないのにも色々と噂があってな。とんでもない美人なのを隠す為とか、何かの呪いを受けたからとか。色々と耳にするけど、真相は謎に包まれてるんだ」


「じゃあ誰も顔を知らないのか?」


「さすがに先生は知ってるだろうけどね。オレたち生徒は見た事ないよ」


 まぁその辺は別に良いか。お嬢様ってとこに驚きはしたけど、たいして興味無い。


「それよりも、あのくノ一の方が気になる」


「ああ、あの子はB組の不忍ニーナちゃんだな。変な子だけど、愛嬌があって良い感じだよな」


「名字がシノバズ? 忍びなのに!?」


「そうだけど、何が気に食わないんだよ」


「い、いや。別に」


 サトオメの言う通りだとは思う。名字なんか自由に選べない。そう分かっていても、この釈然としない感じはなんだ。サメのくせに丘上だったり忍者気取りなのに不忍とか、何故よりにもよって、とは思う。


 そんなオレの困惑など無視するかのように時間は流れていく。6限目の授業が終わると、次はもう放課後だ。


 つまりは、面倒くさい闘争の幕開けとなる訳だ。


「コータロくん。今日こそはウチの部に来てよね」


 サメ子が帰路を阻んだ。しゃらくさい、昨日と同じく撃退してやる。


「あっ。あんな所にミジンコ少女……」


「ふふん。そんな手は2度も食わないよ。さぁさぁ、一緒に行こう」


「だったら強硬手段だ!」


 オレはサメ子の脇をすり抜けて教室から脱出。廊下を全力で駆け抜けた。


「待ちなさーーい!」


 追うサメ子が超早い。スカート姿だって事を忘れてるとしか思えない、効率的なフォームで

追走してきた。


「おい、ウバザメってのは動きがトロいんじゃ無かったのか!」


「そうだよ。だから今は素早いアオザメを被ってるんだ。それにしてもコータロくん、もしかしてサメに詳しい?」


「オメェがそんなナリだから、気になって調べたんだよ!」


 並走状態のまま膠着するが、コーナリングで差が着いた。そして昇降口を上履きのまま通過する事で、ようやくサメ子を撒くことに成功する。


「おーい、どこ行ったのーー?」


 植え込みに身を潜ませつつ嵐が過ぎ去るのを待った。荒い息は口を手で覆ってごまかす。やがてサメ子はキョロキョロ見回しながら、どこかへと歩き去った。


「ふぅ、助かった。変人の仲間入りなんかゴメンだからな」


 しかし気を抜けたのも束の間だ。


「お主、そこで何をしてるでゴザルか?」


「うわ!?」


 背後には、あのくノ一が身を寄せる様に座っていた。全く気付かなかった。


「ふむ。もしやお主も忍術の訓練中では?」


「いや違うし。ただちょっと追われてるだけだ」


「なるほどなるほど。敵対勢力と暗闘中とな。同窓のよしみで拙者も助太刀するでゴザルよ」


「だから、そういうんじゃないって」


「聞け、悪の忍者軍団よ! この不忍ニーナ、義によって参戦いたぁす!」


「声がでけぇよ!」


 その騒ぎは致命的だった。まるで打ち合わせたかのようにサメ子が戻ってきたのだ。


「あーっ。コータロくん見っけ!」


 次の瞬間には駆け出していた。靴は諦める。上履きのまま行けるとこまで行くまでだ。


「ニーナちゃん捕まえて。彼は逸材なの」


「なんと!? では拙者に任せられよ。忍法、ロープで投げるやつ!」


 ふざけた名前の忍法は、腹立つくらい効果的だった。ロープの両端に石を括り付けた物が、的確にオレの両足に絡みついたのだから。


 ける、そしてもがく。だが抜け出す前に、2人はオレを左右から囲んでしまった。


「捕まえた」


 怖い。いや、怖いなんてもんじゃない。オレは不運にも逃げ切る事が出来ず、変人達に両脇を固められたままで、部室棟へと連行されるのだった。

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