「私にとって休むとは労働、なので実質毎日が平日です」
「いやー温泉楽しかったですね」
「久しぶりに休日を満喫しました」
「今の女神様には休日しかないのでは?」
「私にとって休むとは労働、なので実質毎日が平日です」
「言ってることはサッパリですが女神様は今日も女神様ですね」
「さて今日はどんな仕事をしましょうか」
「うーん、夏ですし夏らしい事とか」
「カキ氷、焼そば、たこ焼き、じゃがバター」
「祭りに行きたいことは伝わりました」
「この辺りの夏祭りはどんな感じなのでしょう?」
「普通ですよ? 普通に近場の神社ーー」
「あぁ近所の神社とか河川敷とかに屋台が並んでいるイメージですね」
「ーー神社の隣にあるコロシアム内に屋台が並びます」
「思ってたのと違った」
「コロシアムの舞台上に並ぶ屋台と筋骨隆々の店主たち」
「さらに思ってたのと違った」
「みんな良い人たちですよ?」
「まぁ思い込みで決めつけるのは良くありませんね」
「入場前には誓約書を書かされます」
「意外としっかりしているようで安心」
「祭りで起きる一切の事故・負傷において責任は自己にある事を誓います」
「そうでもなかった、そしてやっぱりロクでもない予感」
「祭りといえば、まずは腹ごしらえ」
「いいですね、普段食べる物でも祭りの出店は美味しいですから」
「女神様なら何から行きます?」
「最初は、たこ焼きの食べ比べからですかね」
「あぁ人喰いタコに火炎放射器のみで挑むサバイバルアトラクションですね」
「はい違いますね」
「タコを焼き仕留め食らう、自然の摂理に従って敗者が捕食されるというのが醍醐味ですね」
「食べ比べとは食らい合う事ではありません」
「少しお腹が膨らんだところでレクリエーション」
「一軒目から最終決戦でしたが」
「友人同士で、またはカップルで競えば盛り上がること間違いなしの射的」
「普段物静かな友人が意外と強かったりするやつですね」
「えぇ観客席からのヘッドショットは見事でした」
「それは違う競技です」
「参加者は対物ライフルとショットガンのどちらかを選択」
「殺しにきてますね」
「スリルを出すために会場の至る所に地雷や落とし穴が配置されています」
「殺しにきてますね」
「いつの間にか会場を取り囲むように警官が並んでいて」
「国家絡みで殺しにきてますね」
「“武器を捨てて投降しろ”とか“射撃許可は下りている”などフェア精神に乗っ取って警告してきます」
「違いました、テロリスト扱いでした」
「なぜか事前に許可を取っているのに怒られるんですよね」
「いったいどうやって許可を取っているのか」
「”年に一度の大乱闘始まるーー集え戦士たちよ“という手紙と共に参加特典の手榴弾を警察庁にお届けしました」
「言い逃れできないくらいテロリストでした」
「食えや遊べやのどんちゃん騒ぎ」
「恐怖で顔が引き攣っている警官の顔が目に浮かぶ」
「終わると毎年精神科への通院を強制されるんですよね」
「イかれた連中の対処としては足りないくらいです」
「そしてとうとうクライマックスーー祭りの目玉は特大の打ち上げ花火です」
「これまでのパターンから、そうですねーーロケットランチャーの撃ち合いとかでしょうか?」
「そんな物騒なことしませんよーー警察庁に送った手榴弾型時限式花火を起動するだけです」
「物騒とは一体、そして本当にただのテロリストでしかない」
「花火が見たいのか慌てて帰宅する警官たち」
「対処云々もありますが逃げ出したい人が半数でしょう」
「眺めが良いので、ここで見たらと引き止めます」
「人質を取られた気分だったでしょうね」
「手を上げ膝をつく警官たちーーなぜか涙する者まで現れます」
「降伏までいっちゃいましたか」
「そんなに感動したのかと思い、もう二、三発打ち上げようか、と提案したのですが」
「白旗上げた相手にトドメを刺しましたか」
「家族だけはーー友人だけは、と呟いて会話にならなかったですね」
「悪魔ですか」
「なので次回は家族や友人も誘ってきてください、と伝えました」
「悪魔でした」
「そういう感じで祭りは終わるのですが、毎年警察から退職者が出るのです」
「でしょうね」
「一体なぜなのか・・・燃え尽き症候群というやつですかね?」
「燃え尽きはしたと思います」
「もうかれこれ七年続いたこの祭りですが」
「よくもまぁ警察が無事だったものです」
「どうですか女神様、俺とお祭りデートなんて」
「デートするしない以前にその祭りに参加したくないですね」
「な、なぜ・・・」
「何をそんなに驚けるのか。今のを聞いて参加したいと言う人の気が知れませんよ」
「うちの町内の参加率は結構高いですけど」
「気が知れないーーイかれた連中だらけですからね」
「では神社の方でもお祭りやってるので、そっちに行きますか?」
「そっちは普通のお祭りなんでしょうね?」
「少し賑わいに欠けますが、子連れ家族や恋人同士が落ち着いて楽しむ感じですね」
「はいそっちが普通のお祭りですね、最初からそっちを紹介しなさい」
「やっぱり祭りといえば騒がしさーー賑わいのある方が良いかと思ったのですが」
「あなたのは賑わいではなく血が騒ぐとかそういう系です」
「それじゃあ神社のお祭りですね、本格的に始まるのは夕方からです」
「あと三時間くらいですか、それなら私は仮眠をとります」
「では夕飯は向こうで取る感じですね」
「いえ夕食とお祭り食は別なので用意をお願いします」
「お祭り食とは一体」
「ふぁ〜ねむねむ、それではおやすみなさい」
◇◆◇
「何をしているんです、祭りが始まってしまいますよ」
「さっきまでエアコン付けて眠りこけてた人の発言とは思えない」
「女神ですから」
「女神様ボケたんですか? 冗談ですか? 真面目な顔してツッコミ待ちですかーー」
「あなたのお気に入りゲームコレクションプレミアムセットを爆破しました」
「容赦がない。女神様との夏祭りにテンションが上がってつい」
「全く、それでは行きますよ」
「はいーーあっ、ちょっと待ってください、これを」
「何ですか? 服ーーにしてはヒラヒラしすぎているような」
「それは浴衣、祭りに行くための正装です」
「浴衣、ですか。正装ということはドレスコードがあるのですか?」
「えぇ、浴衣でない客は警察に捕まるので着ないといけません」
「なるほどなるほどーーってそんなわけないでしょう」
「あ、やっぱりバレましたか」
「全く油断も隙もない」
「女神様の浴衣姿が見たいです」
「直球で来ましたね」
「浴衣の下には何も着てはいけないんですよ?」
「また分かりずらい嘘を」
「お願いしますよー」
「最初から素直にそう言えば着たものを」
「絶対嘘だ」
「良いからさっさと行きますよ、たこ焼きが売り切れたらどうするんですか」
「スレンダーな人の方が浴衣は似合うらしいですよ?」
「あなたのベッドの下にあった水着写真集“賢者の道”が焼失しました」
「あれっ、怒りましたか?」
「怒ってませんがやけに胸の大きい女性ばかりというのはどうかと思いました」
「珍しく女神様が笑顔なのに全く笑顔に見えない、というか笑ってない」
「ついでに近所の本屋のそういった本を全て焼却しました」
「やっぱり怒ってらっしゃる」
「最後にあなたの脳からデータを消去したら終了ですね」
「俺の脳はメモリカードじゃないですよ?」
「大丈夫、そういうのは叩けば直りますから」
「昭和のおばあちゃんみたいなこと言い出した」
「世のことわり、これ全て物理で解決するべし、というのが神のルールなのです」
「究極の脳筋じゃないですか」
「まぁ私しか言っていません」
「それは女神様のルールでは」
「なので物理的に言い聞かせてます」
「物理的に神のルールにされていた」
「ではもうそろそろ出発しましょう」
「ここで女神様と遊んでいても楽しいですが、終わらないうちに祭りへ行きますか」
「異論はありますがそうですね、お腹も減りましたし」
「おや、先程夕食にオムライスを三人前平らげたはずでは?」
「夕食とお祭り食と夜食は別ですから」
「さっきより増えてる、帰ってからも食べる気だ」
「食後のデザートです」
「食後のデザートも祭りで売っていますが」
「ならデザートのデザートです」
「さすが女神様です」
「そうでしょうそうでしょう」
「食べ過ぎには気をつけないと最近体重がーー」
「パソコンに保存されている“賢者の道”フォルダを完全に削除しました」
「生きているだけで大切な物がどんどん失われていく・・・これが俺の業か」
「何を格好つけてるのですかーーはぁ、先に行きますよ」
「またまたそんなーーってホントに置いていかないでくださいよ」
◇◆◇
「満足満足堪能しました」
「おかしい、五万下ろしてたはずなのに空っぽになった」
「私とのデートならそれくらいは覚悟しないと」
「あれ、デートにカウントしていいんですか?」
「デートと書いて戦争と読みます」
「そんなアニメもありましたね」
「それにしても祭りの帰り道は風情がありますね」
「両手にアイスクリーム抱えながら言われても」
「帰りにスーパーでシュークリームを買って帰りましょう」
「風情が台無しですね、たこ焼きのおじさんも女神様見てびっくりしてましたよ?」
「私は美しいですから」
「後ろに十人以上並んでいるのに、たこ焼きを買い占めようとしたからだと思いますが」
「祭りとは神を祀る事が由来ですからね、お客様は神様です」
「ツッコミどころが多い」
「食に関しては譲りません」
「それ以外でも譲った所を見た事がない」
「では今一度だけ譲りましょう」
「何ですか、って眩しーーうおぉぉ浴衣じゃないですか」
「はい、サービス終了です」
「もう一回、不意打ちすぎて写真を撮り忘れました」
「だから一瞬で着替えて元に戻したのです、二度はありません」
「くっ、なんてこったーーこんなチャンスを逃すなんて」
「そこまで残念がらなくても、また来年になったら祭りに行けばいいでしょうに」
「その時は浴衣を着てくれると?」
「気分次第ですね、次回があるかはあなたの一年次第といった所でしょうか」
「つまり女神様を攻略しろと? 任せてください、また女神様似のヒロインの好感度上げて勉強中ですから」
「それなら先程データごと消しました」
「おっと、余計なことを言ってしまった」
「本当に余計なことですねーー全く」