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フェルバラック Ⅱ

なかなか更新できていなくてすみません。

感想や誤字報告ありがとうございます!

ゆっくりとお返事させていただけたらと思います。

 

 城郭の巨大な門から繋がる大通りをまっすぐに進んでいくと、やがて雪景色に溶け込むような真っ白な大理石で作られた城が見えてきた。

 門扉をくぐって城の中庭へと入ると、ようやく騒々しかった空気も落ち着いて再び厳しい冷たさの風へと晒される。

 これは早いところ聖女様を休ませないと、また浄化の日にちがずれ込むかもしれないな。

 そう思いながら車止めに馬車をつけると、先ほどのリザベルと名乗った騎士がライルを見てはしゃいだ声を上げているのが目に入った。


「あなたがもう一人のブライドンの魔術師ですね!」


 リザベルは感無量といった様子でライルの手を握っている。


「ずっとお会いしたかったんです! よければお休みの時間に色々と魔術のことを教えてくださいね」


 先ほど私と話したときも浮かれた様子だと思っていたけど、ライルへの熱の入りようもまた随分と入っている。


「あ……ああ。また空いた時間にでも」


 どこの国に行っても女性に群がられてしまうくせに、ライルは未だにきゃいきゃい騒がれるのが苦手なようだ。それでも相手の熱量に押されて、随分と長い握手をしている。

 リザベルの浮かれきった熱の浮かんだ瞳になんとなく億劫になりながらも、やるべきことを済ませるために重い腰を上げた。








 この国の女王は、アルル・リリヤの女王と違って随分とたおやかで、温かみのある人だった。

 いつもどおりのしたきりに則った挨拶を終え、女王の気遣いですぐに暖かな部屋へと案内してもらえる。そのおかげか聖女様は青い顔をしながらも、倒れ込む前に体を休めることができた。

 それから聖女様の部屋の点検をして、荷物の整理をして、身の回りを整え、護衛の任務の時間を確認して……いつもどおりに働いていたら気づいたらとっくに日は暮れていた。

 疲れからかうとうとしている聖女様を見送って、ブリジットさんに挨拶をして部屋を出る。


「ソフィ」


 部屋の前で任務についていたライルに呼び止められた。


「今から休憩か」

「うん」


 それきり、ライルは言葉少なに黙り込む。

 廊下の窓から外に視線を遣る。この国は厳しい自然と隣り合わせだが、それでも景色は美しい。しんしんと降り積もる雪に溶け込むような淡い色の街並みが、ぼんやりと街灯に照らされて浮かび上がっている。


「もうすぐこの旅も終わるな」


 背後からかけられた声に、景色を眺めたまま応える。


「そうだね」


 ふかふかの絨毯。等間隔で並ぶ暖かな光を放つシャンデリア。それでもこの城の寒さは厳しい。


「……」


 振り向いた私を、まるでこの国に侵食されたかのようなアイスブルーの薄い瞳が出迎える。

 あの日以来、アルル・リリヤで話して以来、二人の間にちゃんとした会話はなかった。そしてそれは今もそうだった。

 言葉尻の消えた私に、ライルの淡い瞳が投げかけられている。彼の冷たい青の瞳が、まるで私が遠いどこかにでもいってしまったかのように愁いを帯びて揺れている。

 ライルが少し困ったように眉を下げた。それ以上なんて言ったらいいのかわからないような顔だった。


「……おやすみ。あとよろしくね」


 ズキリ。またあのモヤモヤした頭痛が私を襲う。

 ぎこちない感情と痛みを隠すようにそれだけ返して視線を落とす。

 焦ったってしょうがない。そうはわかっていても、気持ちばかりが前へ前へとつんのめる。

 ライルはどう思っているのだろう。もう旅は終わってしまうけど、ルナとの関係はどうするつもりなのだろう。このままオーウェンとの仲を見過ごしてくれるのだろうか。

 相変わらず解決されない疑問は口から出ることはなく、ずっと宙を舞っている。


「……ソフィ、」

「また明日」


 そのまま宙に浮いた言葉を見て見ぬふりして、背を向けた。ライルからはそれ以上言葉をかけられなかった。








 このごろ聖女様は簡単に体調を崩すようになっていた。

 今日も静かに降りしきる雪をベッドの中から眺めながら、聖女様は申しわけなさそうに言った。


「ごめんね、なかなか浄化に行けなくて」

「気にしないでください。今は体を休めることだけ考えて」


 ポットから温かいハーブティーを注ぎ、聖女様へと手渡す。その顔は相変わらず真っ青で、少しでも揺さぶられれば簡単に倒れてしまいそうだった。

 そんな聖女様を心配してか、オーウェンは起きている間はずっと聖女様のそばにつきっきりで離れようとしなかった。


「そうだよ、ソフィの言うとおりに今はなにも考えずにゆっくりと休んだらいい」


 カップを持つ手と反対の手を握りしめたオーウェンに、聖女様は淡く微笑んだ。


「そうだ、元気になったらソフィに暖かくしてもらってさ、この国の温室の花壇を見に行こうよ。この気候でしか咲かない珍しい花があるんだって。ソフィも見たいよね」

「そうですね」


 聖女様を元気づけるように、なるべく穏やかに見えるように微笑みを浮かべる。


「ルナのためならいつだって周りを快適に整えますよ。だから今は焦らずゆっくりと休んで、早く元気になってくださいね」


 思ってもないことを言うことも慣れた。したくもない微笑みを浮かべるのも慣れた。一刻も早く終わらせたい、早く帰りたい、そう思う気持ちとは裏腹にこの旅は遅々として進まない。

 苛立ちを悟られないように窓の外へと視線を遣る。こんな薄情なことを思っているなんて悟られたらまたあの物語の強制力にいいようにされそうで、誰の目も見れなかった。









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