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ルドフォーノン・Ⅰ

 

 無理を押した浄化はやはり聖女様の負担も大きかったらしく、あれから幾日かの休養を挟んで、ようやく私たちは次の浄化と出発した。

 次に訪れたのは隣国、ルドフォーノン。

 この国は風土的にはそうエスパルディアとは変わりない。エスパルディアと違うのは、あの国のように武術に優れているわけでもなく、だからといってティリハのように魔術が盛んなわけでもない。商業と交易をもってそこそこ栄えている普遍的な国だ。

 まずはルドフォーノン城へと向かい、そこにしばらく滞在してから、国内にある次の神殿へと向かう予定となっている。

 閑散とした村や鬱蒼とした森を抜けていくと、やがて大きな町々が現れてくる。

  その町々を抜け辿り着いた城下町で、まずは城門前に用意されていた立派な屋根無し馬車に乗り換えるように言われる。それから人々の集まっている最中を、私たち浄化の旅一行は盛大な歓声を受けながらゆっくりと走り抜けていった。


「なかなか上手く作り出せるようになったじゃないか、ソフィ」


 私たち魔術師組は民衆から聖女様を守るために、馬車を覆うように風の域を作り出して二人で維持している。


「この間ルイに相談したからね」

「なんだって?」


 その名前にライルの眉がピクリと動く。


「あの卒業研究の魔術具、あれからもルイがちょくちょく手を入れてくれているから。それでこないだは少しだけ拡張までしてくれてたんだ。それでルイに簡単なアドバイスもらって」

「……そうか」


 ライルは不平を伝えるように大げさにため息をついてきた。自分だけ仲間外れにされたみたいで面白くなかったのだろう。


「ごめんごめん、ほら、ここのところだけどさ……」


 慌てて教えると、ライルは涼しい顔ですぐに構築文へと加えてみせる。


「やっぱりライルのほうが飲み込みが早いんだよね。だからあんまり教えたくなかったんだよなぁ」


 私よりもよほど均等に上手く風の域を作ってみせたライルに嫉妬まじりの感嘆のため息をもらすと、ライルの機嫌がちょっと良くなった。


「ちょっとー……二人とも」


 押し寄せた観衆に手を振りながらも、オーウェンがちらりと振り返ってくる。


「みんな見てるんだから、せめて手ぐらい振り返してよ」

「そんなことをするのはあなたたちだけで充分でしょう」


 ライルはオーウェンの顔さえ見ずに、ピシャリと言い返した。


「そんなことって……」

「私たちは聖女様の護衛のためにわざわざ出たくもないブライドンから出てきたんだ。こうして大勢の観衆の見世物になるためじゃない」


 絶句したオーウェンの奥で、セヴランさんが笑いを堪えている。


「その割り切りっぷり、いっそ清々しいよなぁ。まぁそういうつれないところもまた、お嬢さん方に人気が出る秘訣だったりしてな」

「……別に媚びを売るためにこういう振る舞いをしているわけじゃないが」

「セヴラン」


 ギロリと鋭い視線を投げたライルに、ブリジットさんが慌ててセヴランさんをたしなめている。

 ここルドフォーノンではエスパルディアほど魔術師に対しての理解がないわけではないが、それでもティリハ周辺国に比べたらやはり魔術師の産出率は少ない。少数派であることには変わりなかった。

 観衆たちは手を振って、聖女様やオーウェンなどの名前を口々に呼んで一生懸命に気を引こうとしている。


「ソフィア・プリムローズ!」


 ふと、誰かに呼ばれた気がして、振り返る。

 詰めかけた群衆の中に見えた姿に、瞠目した。

 深く被ったフードの奥、チラリと覗く白髪、聖女様によく似た深いアメジストの瞳。ハッと目を引くような儚い美貌を持つ男性が、不自然なほど周りに溶け込んでそこにいた。


「ソフィ?」


 ライルに訝しげに呼ばれて瞬きをする。その姿は一瞬の後、消え去っていた。

 なんだったんだ、今のは。まさか白昼夢でも見たとでもいうのか。それほどまでに現実味のない人影だった。








 王城に着けば、エスパルディアと同じことの繰り返しだ。まずはルドフォーノン国王に御目通りして無事の到着を告げた後、早速明日の夜に歓迎の意を伝える夜会が開かれると知らされる。

 これからはどこの国に行ってもこんなことの繰り返しだ。エスパルディアでの夜会では逃げてしまったけど、これからはそういうわけにもいかない。

 重くなる気持ちを押し隠して、聖女様に用意された部屋の点検をブリジットさんと入念に済ませる。

 それから聖女様が少し休んでいる間に、用意されたドレスや小物類などの点検も済ませ、護衛同士の打ち合わせや割り振りを済ませ……気づけばあっという間に夜になっていた。

 夕食の晩餐は出席する聖女様のためにオーウェンやブリジットさんにセヴランさんも付き添ってくれている。

 がらんとした部屋の中を見渡してため息をつく。今日はとりあえずブリジットさんについて行ってもらったが、いつもかつもというわけにもいかないだろう。せめて笑顔ぐらいは練習しておくかと、窓ガラスに映った自分の姿を見つめた。








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