そして、アリになる
「・・・ここは、どこだ?」
カイトは目覚めると真っ暗な洞窟の中にいた。
体は・・・かなり重い。 ぎりぎり動くが、今にも倒れそうだ。
「えーーっと、なんでこうなったんだっけ?」
確かケイウスに導かれて光る石板を探していたところだったんだ・・・。それで珍しい石を見つけて拾った瞬間・・・までの記憶はある。
「背後から誰かにやられたか? いやでもだったら死んでるはずだし・・・。」
実際ダンジョン内で冒険者同士の争いというのはよく起こるものだ。
目的は、金や物資を奪うため、ライバルを誰にも見られないところで殺すためなど様々あるが。
「まあとりあえず明るいところに行くか。」
こんな暗いところでいつまでも考えていても仕方がない。まずは明るいところに行き、そこで状況を整理するほうがよいだろう。
「早くあいつらとも合流しないとな・・・。」
さきほどから、ケイウスやバックス、ユリスの姿が全く見えない。どこかではぐれてしまったようだ。
歩き出そうとするカイトだったが、ここである違和感を覚える。
「ん? なんだ、立てなくなってるぞ?」
体の調子は良くはないが、どこかを怪我しているわけではない。立てないというのはおかしい。
「っていうか、このほうが歩きやすいな…。」
試しに四つん這いになったまま歩いてみたのだが、ものすんごく歩きやすい。そして、スピードもとんでもなく速い。
「そうか、俺ってこんな特技があったんだ!」
・・・いや、そんなわけない。うすうす、カイト自身も気が付いている。気が付いているのだが、頭でそれを認めたくないのだ。現実逃避状態である。
2,3分歩き続けると、ようやく明るい場所に出た。かなり広く、ダンジョンで言うボス部屋くらいの広さがある。
「わあーー広い部屋だ。ここはどこだろうなーー。」
現実逃避は続く。
そしていよいよ、運命の時間がやってくる…。
カイトは恐る恐る顔を下に向け、自分の体を隅々まで観察した。
胴体は黒光りしている、かなりつやつやだ。
おしりはかなりきゅっとなっている。先端からは針のようなものも出ている。
手足は細い。限りなく細い。かぎづめのようなものもあるが、それ以外はほとんど棒である。
「そっかそっか、俺はアントになったのか!」
若干の静寂の後、
「って、認められるかボケェェッッーーーーーーーーー!!!」
ダンジョンの部屋の一角に小さく絶叫がこだました。
「そもそもどうしてこうなった!?!? なんかの呪いか!?」
もう一度、記憶を整理していく。
「確か…ケイウスに連れられて、広い部屋に行って、んでもってそのあと…。」
『石板を拾いました。』
「そうそう石板を拾った! って、ん?」
しばしの沈黙の後、
「い、今のは誰の声だ!?」
周りには誰もいないはず、それなのに頭に変な声が聞こえてくる、気でも狂ったのか。
『私の名前は№320、マスターの迷宮攻略のサポートをするものです。』
次に沈黙は長かった。2、3分は続いただろう。
「……は???」
迷宮攻略の第一歩は、非常に静かに始まったのだった。