出会い
1人で生きていくとは言ったものの、どうやって生きていくかが問題。
手に仕事を持てるほどの突飛した能力があるわけでもない…おかぁは料理が得意でおとぉと結婚する前はおばばの営んでた定食屋さんで作ってたみたい…今はおばばも死んだ。おじじは先の戦争で英雄になった。
「うーん、生きようにも仕事もあらへんし…とりあえず、町の奥へ行ってみようか」
もともと小高い丘に住んでいた、おかぁが死んだことで必要なものだけ持ち出し、思い出と家ごとおかぁを焼いた。お骨はおかぁの丈夫だった歯1本だけ持ってきた。それだけで十分だと思った。服が3着、お金、おかぁの歯、一番上の姉が書いた家族みんなの絵(弟が生まれる前だったので、生まれてからすぐに弟を私が書いたため弟だけ化け物みたいになってる)、食料がカバンの中に入っている。
その荷物を背負い、丘を下るため畑の小道を歩く。春には青々と輝くきれいな畑が今では、荒れ果てていた。子どものころから慣れ親しんだ面影が消えていて涙がこぼれた。
「なにもかも、変わっていくんやねぇ」
丘を下りきり町へ出た。戦火がここまで来る前はとても賑わっていたのに、今はさびれていた。建物疎開で、もっと山奥へ行った家族も多いのだろう。あちこちで家や店が崩れているのに疎開したところだけ空き地になっていた。その空き地で人を埋葬したのだろうか、卒塔婆が建てられていた。
「安らかに」
祈りを捧げ再び歩きだした。
町の中心部には駅が立っていた。駅の建物から奥は焼け野原。この家のおばさんもなくなった。あ、この家の息子も英雄になりに行った。そんなことを考えているうちに、焼け野原を抜け空襲はひどくなかった地区に入った。
「この辺は大丈夫やったんね」
「あら、見かけへん子やね」
ここは闇市やったらしい、人がたくさんいた。
「駅より向こうの…丘から来たんです」
「ありゃ、空襲ひどかったやろう…」
「まぁ…母亡くしましてね、これから仕事探しに行くとこです」
そういうとおばちゃんは驚いた顔をした。
「大変やね…うちも、娘居ったんやけど1か月前の空襲でねぇ…」
あちらこちらで人が亡くなったって話が聞こえる。死に大して麻痺してるのか、涙が枯れたのかわからないけど、それでも『戦争だから仕方ない』と心のどこかで納得してしまっている。
「お互い強くいきなねぇ」
「ほんまですねぇ」
「ついでやで、なんか買ってく?」
「ほうですね…え、ここ何屋さんですか?」
「ああ、闇市来たことないん?」
「ええ、うちは畑で栽培やらしとったから」
「なるほど、表には出せんけどうちは駄菓子おいとるよ」
「駄菓子!」
戦争では食品やなんやらは配給される。闇市では裏の取引で商人たちが手にいれたものを置いていた。これらのほとんどは違法であり、憲兵と呼ばれるいわゆる警察に見つかると拷問され挙句には殺されると聞いたことがある。
「しー!声が大きい!」
「す、すみません…」
「ここいらでも、憲兵さんら回っとるけど憲兵さんらでも一部の人らぁは買いに来るんよ」
「へぇ…」
「もちろん、制服ぬいどるけど」
制服着たまま買いにくる人なんていたら、なかなかの強者だ。この国では、英雄になることが偉いと認識があるから余計にそんなことしている人がいたら見てみたい。
「で、なんか買う?」
「何がありますかねぇ?」
「んー…小箱のキャラメル、チョコレイト、あめちゃん、ビスケットかね」
「じゃぁ、小箱のキャラメルを」
お金を渡しキャラメルを受け取り、中から二粒出した。それをおばちゃんに手渡しした。
「これ、おばちゃんと娘さんの分。あげる」
「…ありがとうねぇ」
「ほな元気でね!」
「あ、まちぃ!」
「え、なんなん?」
「この先、闇市抜けたとこにほっそい路地があるんやけどあっこは行かんほうがええよ。」
「なんで??」
「『魔女』がすんどるでぇ」
「ふぅん…」
''ほなねー''と別れた後せっかくなので闇市を見て回り、仕事もないかと探したけどなんにもなかった。しょうがないから、闇市を抜けようとしたとき、一人の男の子が立っていた。
気になったので、話しかけてみた。
「なにしとるん?」
「…」
「あんたのおかぁは??」
「…おらん、みんなわしを置いてじゃ」
この子も戦争孤児ということに気づき、どうしたもんか、と考えていると男の子は私の顔を見上げた。
「ねえちゃん、弟おってじゃろ」
「!なんでわかるん?」
「わし視えるでな、弟泣いとるで」
「そんなはずは…」
「…」
「あんた、魔女?」
「!違う!あんなやつと一緒にせんでくれや!!」
私が問うと目を吊り上げ大声で否定した。何か嫌なことでもあったのだろうか、嫌悪と憎悪が混ざった顔をしていた。
「か、堪忍やで…」
「ふん…」
「その魔女、どこにおるん?」
「あっこの路地見えるやろ、そこ入ってずっとまっすぐじゃ」
指をさした方向には女性か子供しか入れないだろう狭い路地があった。
「ほうか、ありがとうね」
「待って、ねえちゃん行くん?」
「気になるしなぁ、行こう思うねん」
「!やめときいや、死ぬで!!」
不安そうに私の袖のとこを持って訴えてきたが、この子は根はとっても優しいのだろう。そんなことを考えておかしくなり私は笑った。
「魔女いうたかて人やろ?大丈夫やで、ありがとうね。」
そういって先に買ったキャラメルをすべて渡した。
「頑張って生きるんやで」
その子の目線までしゃがみ、頭を撫でる。その子が固まっているうちに、私は路地へ足を伸ばし路地に入っていった。
「あかんって、わしは言うたで…」
悲しげに笑う男の子に気づかないまま。