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三国志の乱世を見てご先祖様が歎いておられるようです  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第1章 4匹目の龍 【7年後】
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光武帝、赤壁をぶち壊す

史実では長坂の戦いで劉備は江陵というところを目指すも、それはならなかった。

しかし光武帝は最強無敵なので、劉備に味方した彼は曹操軍を撃退し、江陵の地を劉備に与える。


そこで曹操は江東の若き盟主・孫権ではなく、まず江陵の劉備に狙いを定めた。

これにより、史実と全く違う赤壁の戦いが始まる。


この作品の最大の被害者は、多分周瑜。

劉備軍被害五百。曹軍は二千を超える被害を出し、雲散霧消して難民への攻撃を断念したのだった。


劉備軍はすぐさまきびすを返し、劉備達がいるところまで帰る。

その間、話題になるのは主に劉秀の事だった。


「はっはっは、頼りない奴と思っとったが、演説を始めた時は心が震えたわ!」


馬の上で血まみれの矛を振り回し、はしゃいでいるのは張飛だった。


「終わってみれば全て言った通りになりましたな」


と趙雲。つぎは関羽だった。


「天は二物を与えたか……」


短いが、関羽にしてはこれ以上ない賛辞だった。


「よし、敵軍は撃退した! もう安心だ。主君におねだりして酒を飲むぞ!」


「オオーッ!」


褒め過ぎで照れながらの劉秀の呼びかけに、鮮やかな勝利の美酒に酔っている兵達が雄叫びを上げた。

勝利で心を掴み、またご褒美でも劉秀は兵の心を掴んだ。

この戦いは色々な意味で決定的な戦となる。


曹軍を撃退して、逃げた流民達の安全をひとまず保証する戦いであり、また、劉秀の劉備軍での地位を決定する戦いでもあった。

それに、これほどの勝利を上げた劉備という英雄の名をいよいよ天下に知らしめる戦いにもなった。


劉備は寄生した有力者を枯らしては次へ移動する唾棄すべき者だと周瑜が言っていた事があるが、それが基本的な劉備の認識だった。

しかし、ともあれ劉備は一連の曹操軍との戦いの全勝で武力の面での確固たる名声も確立したのだった。


敗戦の将、許チョ、曹仁は、その後曹操の元へ会わせる顔がないと思いつつも帰り着いた。

夏侯惇がやったように、体を縄で縛らせた上での帰還だった。


「丞相、我等を罰して下され!」


「申し訳ありません!」


曹仁らは口々に言ったが、曹操は疲れた顔でため息をつくばかりだった。


「劉備を取り逃がした。お前達二人の命でも償えぬわ馬鹿者め……」


曹操は言うが、実のところこの二人は曹操のお気に入りなので、大したお咎めはなかった。

今後の戦いで恥を濯げと言ったのみ。曹操って基本的に甘い。


「劉備を追うのはもうよい。荊州をとったのだ。

ここから巻き返しなどもう不可能である。私も、ちと臆病になりすぎたわ」


さて劉備の方は今回戦いで勝ってしまったため、趙雲が阿斗ちゃんを救出するエピソードはなかった。

それに、張飛二度目の見せ場、長坂橋の大立ち回りもなかった。

それに加え史実と大きく違う点がある。

江陵の地を劉備軍が頂いたという点である。

赤壁の戦いは一体どうなってしまうのであろうか。


江陵近くまでやってきた劉備軍を迎えたのは、劉キの大軍に加え、更に孔明の手勢だった

劉備軍の、彼らと出会えた喜びは言葉に表せないほどだ。


「孔明! よくぞ援軍を連れてきてくれた!」


馬から下りるなり孔明は言った。


「さあ主君、お急ぎを。江陵の地は天然の要害でございます。

お迎えの準備は万全です。どうか今回ばかりは正しい選択を」


「わかってる。ここから我等がすべきことくらいわきまえてらあ」


劉備は知っていた。ここを拠点に、まずは南の呉と同盟する。

そして力を蓄え、曹操から荊州を救う名目で兵を挙げ、何ら天下に恥じる事なく荊州をとる。

それから孔明の戦略通り、益州をとり、漢中をとって曹操に対抗するのだ。


「安心しました。参りましょう」


数日後、江陵にようやく腰を据えた劉備軍は少し酒盛りをしたあと、武官は訓練。

文官は政務と早速精力的に働き出したのだが、そんな中、孔明はやっぱり劉秀と二人きりでいた。


「やはりそなたに戦の指揮を任せた判断は正しかった。

加えて、こうして政務をさせても優秀。将軍との折り合いもよい」 


「そんな、私などただの匹夫です」


「私としては非常に助かっている。実のところ、戦の指揮は不得手だ。

どちらを任せても信頼できるそなたの存在、嬉しく思う」


孔明が戦は苦手などとジョークにも程があるが、政治に比べると孔明は本当に苦手に思っているようだ。

彼が本当に自信あるのは、天下三分に代表される戦略レベルのアドバイスと、政務であるらしい。


「恐縮です」


「本音を言おう。主君の配下に豪傑あれど名将なく。

文官は数が乏しく、私が全てを担うには、あまりに敵が強大であると思っていた。

して劉修、今後の我らの戦略、すでに考えてあるだろう。申してみよ」


「ここ江陵は天然の要害。豊かで守りやすく、曹軍は二十万からの大軍を出してきております。

ここを落とすには何月も、いや何年もかかることでしょう。

兵糧が持たないので落とせはしないはずです。

更に呉との連盟が成れば、いよいよここは攻めがたい地となります。

その後荊州をとるのは実に容易きことかと」


「私もそう思う。ここをとれたのは非常に大きかろう。

呉と同盟を結ぶ時期と使者はいかがする?」


「ここ江陵は十万の兵を養える豊かな土地。武器兵糧も十分です。

この程度の地盤があれば曹操に奪われないよう、豊かな南部荊州をとり、呉との対等な交渉が可能になるかと。

半年後、私が三万を率いて南郡を攻めます。

残り五万でここを先生がお守りくだされば南荊州をとってみせます」


「ううむ……」


史実と違いすぎる。本来この時点での劉備軍はほとんど手勢もなく、根拠地もなく、孔明が頑張って呉と同盟するものの、平等な関係ではなかった。

だが今回は違う。豊かな土地を手に入れ、新兵が数万、一挙に手に入ったのだ。

更に、南荊州は輪をかけて豊かで人口も多く、人口が多いという事は兵糧と兵士が多く調達できるということだ。

実際、史実の諸葛亮も南郡をなるべく早く取りたがっていた。

史実では赤壁の後、全速で劉備軍がとった。


孔明も、南の四郡は欲しい。しかしそれをとったら呉と同盟が結びづらくなるかも。

そう思ったが、やがてこう言った。


「私が行こう。呉と同盟を結ぶ。そなたは半年後、南荊州へ進撃せよ。

南荊州をとれば覇業は一挙に近づく。主君の許可をとって来るのだ」


「はい先生」


孔明はその後、劉秀をともない、新しく城主になった劉備に会いに行った。


「主君、孔明にご提案がございます」


「おお孔明。劉修も。随分真剣な面持ちだな?」


「主君、呉とはすぐにでも同盟を結ばねばなりますまい。

ここ、江陵は呉と近く、曹操との対決に際しても背後をつかれぬよう、孫呉との同盟は必須。

使者としてこの孔明が参りたいと存じます」


「それには及ばん。ついさっき魯粛という名の者がやってきた。

入れるかどうか聞こうと思っていたところだ」


「それは……! すぐ入れましょう。話を聞かなくては」


「わかった!」


魯粛は許しを得て劉備の前に拱手し、うやうやしく話し出した。


「孫権よりの使い魯粛と申します。前荊州牧、劉表殿弔問に参った次第です」


孔明の入れ知恵により、劉備は美酒と美食で魯粛をもてなす用意をしていた。

魯粛は魯粛で贈り物を持ち、抜け目なく通常の使者を演じる。


「よくぞいらっしゃった魯子敬殿。さあさ、まず一献!」


「かたじけない事でございます……」


魯粛はあえて抵抗はせず、素直にもてなしを受け、慎重に話を続ける。


「曹操はまさしく賊。劉表殿を死においやり、荊州を奪いました……」


と言いかけた時、孔明は扇でこれを制した。


「魯子敬殿。そちらの事情は聞いています。主君孫権殿から、こちらに利害を説いて呉の味方に引き入れるよう命じられておられるのでしょう。

こちらの答は決まっております。無論呉とは末永い同盟関係を結びたく存じます」


ところでまだ呉はない。孫権は会稽太守という身分であったと記憶している。

だが便宜上呉という呼称は今後も用いる。


「おお! さすがは孔明殿。聞きしに勝る賢明なお方です」


「ですが……」


ここで、劉修が口を挟んだ。


「前主、孫文台(孫堅)殿を討った黄祖は引き渡せません」


孔明、劉備はこの発言に驚かされたようである。

魯粛は実際、そのことは主君の孫権に言われて来ていた。


江夏の主であった黄祖は、ともかく劉備につくことを決めた。

後に呉の名将として知られる甘寧も彼の部下で、今は劉備軍にいる。

彼らは呉の敵なので、彼を引き渡すように交渉することを魯粛は頼まれていたのだ。


これは出来ぬと突っぱねられた魯粛は苦笑する。


「はは……奴の処刑は主君の悲願であられます」


父の敵を討てねば孫権の威信も揺らぐ。これは感情的にも政治的にも孫権にとっての重要な問題であった。

だが劉秀は、孔明や劉備が何も言わぬうちに断言した。


「黄祖は、漢復興の大義を掲げる我が主君を助け、江陵の土地を譲ってくれました。

これを差し出すことは仁義にもとり、ひいては劉備(しゅくん)の名にも傷がつきます」


劉備も孔明も何も言えなかった。これは劉備軍の本音だった。

ここだけは、絶対に譲歩できない。それは魯粛もわかっていた。


「だが私もここへ酒を飲みに参ったのではないですぞ」


「孫劉連盟は賛成です。子敬殿、そこで手を打ちませんか。

ここ、江陵は長江流域です。曹軍の大軍と最前線で戦うのですぞ」


孔明が言うが、魯粛とてもここを譲る訳にはいかないのだ。


「黄祖引き渡しは絶対です」


「それはまかりならぬ。子敬殿、この劉備は信義を重んじる男。

劉修が代弁してくれたが、黄祖を渡さばこの劉備に天下は背を向けるであろう」


「恐れながら主君、江東の匹夫、孫権が劉皇叔(りゅうこうしゅく)と対等に同盟を結び、その対価として部下の引き渡しを要求など言語道断。

魯粛、お主も切られたくなくば帰るがよかろう」


劉秀は、普段の彼らしからぬ不遜で刺のある物言いをした。


「なんと劉修、無礼な。謝らぬか!」


劉備は怒ったが、孔明は劉秀に賛成のようだった。

彼は超然とした様子で口添えする。


「劉修の言はもっとも。江東の孫権は、小事に固執し大事を見失う匹夫です。

この火急のときに左様な理由で我らとの連盟を無にしかねない。

それに付き従う魯粛も同様の小人でありましょう」


劉秀と孔明は同じ結論に達しようとしていた。


まず呉は、曹操の大軍を恐れて劉備との連盟を考えた。

呉がこの状況で劉備と事を構え、兵力を消耗することはありえない。

そして同盟を結ぼうとする魯粛という名の徹底抗戦派が呉にいることは間違いない。

その命令を出した孫権も抗戦派。これは隠し切れていない事実だ。


抗戦しないならば曹操と交渉を進めるだろうし、黄祖も曹操が荊州全域を支配すれば自ずと呉の手に入ろう。

曹操が、劉備ほどに黄祖をかばう理由はないからだ。

ちょっとした条件をつければ引き渡しは容易い。


つまり、呉は抗戦する。少なくとも実権を握っている将軍周瑜、魯粛、君主孫権はそう考えている。

だから、ここは孫権と魯粛を罵って帰すのがいいのだ。


頑迷を装って罵っておけば魯粛は、交渉失敗の言い訳がたつ。

劉備は罵ろうが何しようが呉に攻められはしない。

また、魯粛が帰れば黄祖も渡さずに済む。


これほどのことをわずか数分の会話の中で劉秀、孔明は推論していた。

これを察した魯粛は、茶番に付き合ってやることにした。


「もう結構。音に聞く諸葛孔明、これで器が知れたものよ!」


魯粛は大声を出して立ち上がり、劉備はおどおどと狼狽する。


「こ、孔明、それに劉修。呉と戦になったらどうするのだ!」


「呉は戦をしないでしょう。するなら曹操の軍とです」


ところで、作者は曹操を無能に書きたくないため赤壁の内容は大した事ではない、という説をとる。

赤壁では、百万を号する曹軍が大敗した割には名のある武将が全くこの戦いで死んだ様子がない。

百万が本当に死んだら曹操の勢力は全滅である。

だから、ちょっとばかり疫病が流行り、曹操は撤退しており、攻撃による犠牲はなかったのではと思う。


そもそも船で攻める事自体、相手の土俵に乗り、自軍の利点を捨てるもの。


この千年後になるが、南宋の軍は非常に騎兵が少なかった。

北方や、中央アジアの平原で育った、軍馬に適した大きい馬が、領土を失った事によって手に入りづらくなっていたのだ。

代わりに北側を領していた金朝や、モンゴル帝国は圧倒的な騎兵の力で南宋をボコッた。


呉も宋と同じである。騎兵に不安があり、逆に曹操は騎兵を使った、平地での野戦に相当の自信があった。

それとは逆に呉は水軍が発達していて、曹操軍は艦隊戦の経験は浅い。


重ねて言うが聡明な曹操が、呉にわざわざ船で挑む事があるであろうか?

筆者はそうは思わない。


優秀な参謀がいた曹操軍でこの戦略に誰も異論をもたなかったのか?

筆者は思わない。というわけで、赤壁という三国志演義のクライマックスの一つである戦いをこの作品では全く描写しない。


その代わり曹操は全く別の戦略を参謀から献策されていた。


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