光武帝、去る
10月の5日。宛城付近で対峙していた曹操軍と劉秀軍がついに小競り合いをやめ、激突を開始した。
先に仕掛けたのはもちろん数が半分以下しかない劉秀軍だった。
「広がれ広がれ、もっと広がれよー?」
新野と宛城の間付近にて待伏せていた曹操軍十五万は、今度こそ劉秀に勝つため周到な準備をしていた。
十五万という大軍を存分に活かすには広い場所が欠かせない。
兵法書にもある通り、兵数が劣っていても敵を狭い場所に誘い込んで包囲すれば敵は勝手に死ぬ。
逆に言えば、兵力の多い側は何としてでも広い場所で戦い、決着もつけたい。
だが七万の劉秀は平気な顔をして曹操の思惑に自分から乗り、ノコノコと開けた土地にやってきた。
もちろん、正面切っての戦闘なら曹操には絶対に負けないとの自信があったからだ。
周瑜との戦いでは逆包囲をされかけ、割と本気で死ぬかと思った劉秀だったが、曹操は一度完全に倒している事もあって余裕といった感じだ。
それで、何を劉秀が広がれ広がれと言っているのか説明する必要があるだろう。
劉秀軍は東に、曹操軍は西におり、向かい合っている。
その劉秀軍が戦列を横に広げ出したのである。
「あ、これ前にやってたやつだな、賈詡?」
曹操軍十五万の総大将として中央に鎮座している曹操が、戦況を注意深く眺めながら隣の賈詡に聞いた。
「はい丞相。孫呉軍との戦いで見せた機動ですな。
奴は三手先まで読みます。我々は四手先まで読まなくては……」
賈詡はどちらかというと政治家向きだと自分では思っているのだが、あの荀攸ですら果たせなかった劉修打倒のチャンスにそれなりに燃える軍師の心も持ち合わせていた。
劉軍は戦列を広げ、曹操軍にも同じように広げさせる事が狙いと読んだ。
そうやって広がってしまうと、十五万という大軍は身動きが取りづらくなる。
いわば十万以上の大軍は巨人のようなものだ。
持てる威力は絶大、人間大ではなしえない事もできる。
だがその動きは鈍重。迅速な機動と作戦伝達はほぼ不可能。
細かい動きに期待は出来ず、反応は遅れ、手足の末端を自在に操る事など出来はしない。
やはり最後の戦いにうってつけ、相応しい相手であった。
古今東西の英雄にはジャイアントキリングがつきものなのだから。
「小雨が降ってきたな……」
ふと、曹操は乗っている車の屋根にパラパラと小刻みな音を立てて雨粒がぶつかってくるのを認めた。
「左様ですな。それで丞相、どうされます?」
「お前の意見を聞きたい、賈詡」
「承知しました……」
司馬懿とは違って、劉秀が規格外とわかった上でまだ勝つことを諦めてはいない賈詡は、劉秀の意図について意見を述べる。
「戦列を広げるということは、やはり包囲を警戒させる意図があるでしょう。
以前孫呉と戦った時の情報によりますと、そうして敵の両翼を劉修は引きはがしました」
「ああ、聞いている。その後奴は孤立した孫権軍を放置し、敵の左翼を中央軍で攻撃。
孫権の中央軍を誘いだし、不用意に飛び出した奴の軍を襲う算段を立てた。
また、前回我々が江陵で戦ったときも奴は本陣を守る軍を引きはがして、それから敵本陣を攻撃という戦術をとった」
「はい、二度あることは三度あります。二倍以上の我々を倒すにはそれしか方法はないでしょう。
策をろうして本陣を露出させ、そこを叩く。やはりあえて挑発に乗りましょう!」
「戦列を広げ、側面から我が軍を包囲しようとする劉修の企みを阻止し、我々も列を広げる、でいいのか?」
当たり前の話だが十五万の曹操軍と七万の劉秀軍では伸ばせる列にも差がある。
あまりに伸び切れば、蜘蛛の糸のように簡単に切り落とされバラバラとなりかねない。
あえて戦列を伸ばすだけで劉秀軍からの側面包囲を簡単に阻止でき、実際、以前に同じことを劉秀がやってきた際に陸遜はそうせよと孫権に進言していた。
「はい丞相。本陣をあえて晒しましょう。本陣の背後に騎兵を待機させます。
本陣が露出しているところを喜々として襲ってきた劉軍の主力部隊をこれで攻撃します」
曹操のいる本陣は以前の反省をふまえて数万の信頼できる兵を固めてガッチリ守っている曹操軍である。
その戦列の後ろで劉秀に見えない位置にこっそり騎兵部隊を仕込むのだ。
そして、劉秀の誘いに乗ってあえて戦列を伸ばすと本陣の守りも薄くなっていく。
劉秀の思惑通り本陣が手薄になったところで、劉秀が本陣を攻める。
と、ここで予想外の予備騎兵が踊り出て瞬く間に駿足で駆けつけ、劉秀隊を包囲殲滅する。
総大将を狙って本陣にきたつもりが、逆に総大将劉秀が死ぬことになる、という作戦だった。
曹操は、正直今の自軍に、この曹操を含めても賈詡の作戦以上の策を考えることは出来ないと結論した。
「よし、その策で行く。全軍に伝えよ、戦列を伸ばし包囲に備えろ」
「はっ!」
伝令騎兵が飛び出し、その後素早く曹操は側に控えていた夏侯惇に指示を下す。
「惇、お前は騎兵隊六千を率いて我々本陣の背後へ控えろ。
合図を送る。それが出たら必ず劉修を仕留めよ!」
「はっ!」
「早くゆけ惇。これまでの恥は全てこの雨中の一戦にて濯げ!」
「了解致しました、丞相!」
夏侯惇が劉秀に蹴散らされたのも思えば三年前のことだった。
あの時の汚名を晴らすには最適の役が今ここで巡ってきたのも何かの因果か。
ああ、夏侯惇よ恥を濯げ。曹操よ荀攸の無念を晴らせ。
と誰かが願ったとしても残念ながら現実は非情であった。
「大軍のくせに受け身に回った策だな。大体、賈詡の策は読めた。
なら予定は変更。これより全軍に指示を下す。
第一軍は予定通りこの総大将についてこい!
劉封の第二軍はここで待機。呂蒙の第三軍は……呂蒙を呼べ」
劉秀は常に全ての戦いで全て敵の考えが読めている訳ではない。
しかし、今までガッチリ守っていた曹操軍本陣が戦列を伸ばして戦力を薄くし、騎兵の数も少ないと劉秀は気づき、すぐ賈詡の作戦に気がついた。
「全く曹操め、あれだけ恐怖を植え付けてやっただけあって本陣を固めて来たのは可愛げもあったが……小賢しい真似を」
「将軍、お呼びですか」
この作戦で最も重要な役目を担う事になる呂蒙が呼ばれて素直に本陣へ駆けてきた。
「呂蒙、我々は敵の半分の戦力でこれを倒そうとしている。覚悟はいいな」
「ははっ、全く……今聞くことじゃないでしょうそれは?」
呂蒙はいつも通りにとぼけた劉秀に失笑させられた。
どちらかというと憎い相手のはずだった。
だが劉秀が何の疑問も持たず十年来の友人のように接してくるので、呂蒙の方もなぜか自分でもわからないうちに勝手に打ち解けてしまっていた。
「無論です将軍。ご下命を頂けますか?」
「ああ。我々第一軍は敵右翼へ突っ込み撹乱する。
驚いた敵はやがて右翼へ突っ込んできたこの第一軍に総大将がいることを知る。
すぐに右翼へ兵力を移動させて来るだろう。
そなたら第三軍はこのまま戦列を広げ続け、左翼へ取り付き側面から包囲せよ。
第二軍は事前の打ち合わせと段取りは変わらない」
「あなたの実力私が良く知っております……ご手腕疑いもありません」
「ではゆけ。武運を祈る」
その直後。雨が強くなってきた午前に、総大将曹操は敵がおかしな動きをしているのに視界が悪い中で気がついた。
「報告! 敵軍一万と右翼が交戦を開始いたしました!」
「ああ、伝令。今見た。他の六万を放置し、何故一万で……?」
と言った曹操に賈詡が助言した。
「十中八九、あの一万は劉修でしょう。やられました……」
「やられましたじゃないだろおいー!」
賈詡の助言した戦列引き延ばしは結果的に裏目に出た。
中央軍に劉秀を誘い込もうとしたが策を見抜かれ逆に利用された。
中央に夏侯惇率いる騎兵が集中しているのはご記憶の通りだろう。
騎兵以外の歩兵はご存知の通り引き延ばされて全体的に列が薄くなっていた。
そこへ、進軍しながらでもまとまれるほど小規模な一万という数が突っ込んできた。
騎兵を倒せるのは基本的に騎兵だから、馬が要るのだが中央に馬が集中していて、一番端から中央へ向け敵兵力を削っていく劉秀に届くまでには時間がかかる。
その上悪いことに、まだ他の六万は健在である。
曹操のいる中央軍を守るに必要なこの騎兵戦力六千を迂闊に劉秀へ向ける訳にも行かない。
そこで曹操はもう一度従軍してきた信頼する軍師・賈詡に助言を求めた。
「おい賈詡っ、劉修は無視するか、それとも右翼に戦力を集中させて叩くかどっちだ!?」
「間違いなく、劉修はそれを狙っております。騎兵が出てきた途端にあの動かぬ六万の兵が出て来るでしょう!
そうすれば手薄なこの本陣は攻め立てられ、前回のように遁走するしかなくなります!
劉修は右翼の戦力だけで足止めします! 先に残った六万を全軍で叩きましょう!」
「わかった、お前を信じるぞ賈詡!」
曹操は人の意見をよく聞く人なので、賈詡の言う通りに軍を差し向けた。
「おっと、今度の賈詡って軍師は策を読まれてすぐ対応してきたか」
劉秀は少しだけ面食らった。一度策を読んで、実力の底は見えたと思っていた賈詡はここで適切な判断をしてみせた。
「なるほど、どうやら思っていたよりやるらしい」
相手の力量を早々に認めた劉秀はこれ以上の戦闘は無用と判断し、声を荒げた。
「全軍撤退、体勢を立て直す!」
いくら劉秀でも二倍以上の敵を倒すには全て敵の思惑を潰す必要があった。
賈詡が小賢しくも劉秀の嫌がる手を打ってきた。
これは今までに全くないことだった。劉秀が初めて策を誤った。
「今だ! 劉軍を殲滅するのだ!」
曹操は叫ぶが悲しいかな、大軍のサガとして、動きが致命的に遅いという欠点がある。
すぐ状況を読んで撤退した劉秀、そしてその姿を見て状況を独自に判断し同じく撤退した他の劉軍に追いつく事は出来なかった。
この攻防で曹操軍は数千を失い、劉秀軍も千人ほど犠牲が出た。
数字的にはお互い無傷と言っていい状況である。
受け身に回り、間一髪で賈詡の活躍により壊滅を免れた曹操軍は今度こそ攻めに回ろうと考え、劉軍も後退して軍を再建した。
とはいえ曹操軍には攻めに出る上でのこれといった決め手が欠け、軍議が暗礁に乗り上げていた。
うかつに攻めに出れば隙を作り、動きの俊敏な劉秀軍にいいようにやられる危険性は常につきまとう。
かといって守っていても、『攻め』に関して他の追随を許さない猛将劉秀の攻撃を賈詡の策でいつまで防ぎ続けられるかわからない。
だが、どれだけ賈詡や曹操が頭を働かせていたところで無駄な事である。
既に劉秀の息がかかった徐州、揚州からの援軍がこちらへ向かっているのだから。
その数、十万。それでも現地には十分に守備兵を残してある。
『物量』を振りかざし天下に覇を唱えていた曹操の敗因は敵がそれ以上の物量をぶつけてきた事にあった。
この戦い、曹操は始まる前から既に負けていたのだった。
曹丕はこのまえ「フハハ、この戦力差で何が出来る!」
等と言っていたが、戦力差が完全に逆転してしまったこの状況に絶句するほかなかった。
10月10日。ついに曹操と劉秀の三年間の因縁に決着がつくときがきた。
総勢十七万という夥しい大軍が押し寄せ、曹操軍十五万と激突した。
世界の歴史を見渡しても稀に見るような、巨大兵力の衝突だった。
総勢三十万をも超える激突は、存外静かに、そして短時間で幕を閉じた。
というのも、10月11日に戦場へ曹丕、司馬懿の両名がどういうわけか出て来て停戦を宣言したからである。
「停戦だと……」
劉秀は訝しみ、しかしその一刻後には全軍に指令が飛んで戦闘行為は中止された。
使者の司馬懿は、何やら一通の書簡を手に陣営にいた劉秀の前へやって来る。
そしてそのまま、土下座をして平伏した。
「大司馬・劉文円殿……拝謁の栄誉に浴しますは二度目でございます」
「司馬懿、これは一体どういうことかな? 我々は勝っていた。
それと言っておくが、劉備討伐中に急に宣戦布告されたのはこの劉修だ。
私は正当防衛をしたに過ぎないと考えているが?」
「いえ、大司馬殿……もちろんわかっております。それとお人払いを」
何か大事な用がありそうなので、劉秀は一応言う通りにして陣営内を自分と司馬懿だけにした。
むろん暗殺の恐れはない。劉秀の方が司馬懿よりも強い。
「人払いならしたが?」
「ありがとうございます。大司馬殿、あなたは光武帝の生まれ変わりですか?」
「は? 全くやぶから棒になんてことを聞くんだよ司馬懿。
もちろん俺は光武帝・劉秀・文叔そのものだ。それがどうかしたか?」
劉秀はあっさり認めた。別にそこまで秘密にするような事ではない。
どうせ、司馬懿も外には言うことが出来ないだろう。
劉文円は光武帝の生まれ変わりだなんて、言ったら物狂い扱いされるだけだ。
「やはり、そうでございましたか。お会い出来たことまことに光栄に存じます」
「わかったわかった、後で聞くから先に用件を言ってくれないか?」
「はい……これより皇帝陛下の詔勅を読み上げさせて頂きます」
「聞こう」
司馬懿は立ち上がり、大切そうに持っていた書簡を広げ、音読する。
「荊州南陽の生まれ、劉修。そなたの働きは見事である。
見事益州の劉備をも調略した。だがそれが終わるやいなや丞相・曹操はこれをだまし討たんと企んだのである。
理由は功績大きいそなたへの嫉妬と、自らの地位への執着であることは疑いようもない。
よってそなたを丞相に任じ、曹操を罷免する」
「なるほど、酷く面白いぞ……これは、ひどい裏切りもあったものだ」
曹操はどうやら息子に裏切られたようである。
長安の者達が身の安全考えた結果がまさかの裏切りだった。
戦いの最中でも長安では激しい政争、派閥抗争が繰り返され、それのまとめ役に副丞相の曹丕と司馬懿が駆り出されたものと思われる。
そして、もはや敗色濃厚の曹操を見捨て、劉秀を新たな上司として生き延びる事を曹丕らは決定した。
そしていっそのこと、早めに降伏しようということだった。
警察に取り押さえられるより自首した方が罪が軽くなる的な発想である。
「これを聞き、お前どう思ったのだ司馬懿?」
そう聞かれた司馬懿は、即座に答えた。
「馬鹿げております。若君さまも私も長安にいる逆臣どもに無理矢理この役をやらされているに過ぎません。
むろん、詔をお出しになられた天子様もです」
司馬懿はこの前しつこく説明してあった通り、曹操と曹丕には絶対の忠誠がある。
曹操を裏切る事など絶対に有り得ないと思っていた。
「決まりだな。司馬懿、俺は少し曹操のところへ行く。お前も来るといい」
そう言うが早いか劉秀は甲冑も身につけず、剣すらも持たず、馬に乗り込むと勝手に走り出してしまった。
「まるで嵐のようなお方だ……」
司馬懿は乗ってきた馬に再度飛び乗り、急いで劉秀の背を追う。
「あっ! 何でしょうか丞相。なんか変なのが来ます!」
「あれが司馬懿か……?」
賈詡と曹操が話していると、早速劉秀が曹操軍の兵に捕まった。
「怪しいやつめ、名を名乗れ!」
「怪しくないって、もう酷いな……」
劉秀は自分にオーラがないせいで曹操軍の兵に敵軍十七万の総大将だと気づいてもらえない事がショックだった。
兵に捕まった劉秀は、すんでのところで司馬懿に助けられ、そのまま一緒に馬で曹操のいる本陣まで向かった。
「丞相! 司馬懿でございます、敵将・劉修が会見にやって参りました!」
「おお、あれが……なんか普通っぽいやつだな賈詡?」
曹操は緊張感のないコメントを発した。
「普通ですな。何の用でしょうか」
曹操、賈詡と一緒にいた曹丕も切れ長な鋭い目で劉秀を一瞥したが、すごく普通っぽい劉秀の姿に拍子抜けすらした。
「曹操、こうして会うのは思えば長安以来か。いや、顔を合わせるのは初めてだったかな」
「ふん、無礼なやつめ。馬から下りぬか」
「俺は丞相、お前は下だ。違うか?」
確かにそうだった。曹操は話を聞くため、これ以上は口を開かなかった。
馬に乗ったまま劉秀は続ける。
「お前が息子の曹丕だな。一つ聞くが、何故停戦命令を出した?」
「むろん、こういう時のためだ」
「フッ、曹操。お前の息子もなかなか頭がキレるかもな」
そもそも停戦命令など出す必要は本来なかった。
曹操を裏切るなら、曹操が劉秀に負けてからでもよかった。
だがその前に停戦命令を出した理由は一つしかありえない。
劉秀の行動に一縷の望みを託したからだ。
「いいだろう。この劉修が天にかけて誓おう。
曹操、この劉修に従うのであれば再び丞相にしてやろう。
長安を攻め、これより天子をお救いしにゆく」
「承知した。この曹操、深く感謝する」
かくして、三十万という絶大な規模の劉曹連合軍は瞬く間に長安を降伏させ、天子を救い、10月20日には新たな後漢帝国皇帝・劉秀が即位した。
新しい元号は永楽となり、また皇帝劉秀自身も永楽帝となった。
最後の最後で劉秀についた曹操と曹丕、司馬懿らは取り立てられ、孫権は『呉の公』に、劉備は漢中王と益州牧の位を皇帝に認証された。
その後の劉秀の様子は全く記録されていない。
天下を治めて、役目が終わったから本来死人である彼は消えたのか、それとも、妻の麗華と静かに暮らしたくて皇帝をやめ隠棲したのか。
いずれにせよ、彼の役目はここで終わっていたと劉秀自身が思っていたのは確かだ。
騒乱を止めたあと、何をするかはもう既に次の世代の肩にかかっている。
何から何まで全て昔の人が出張っても、結局は同じ事を繰り返すだけではないか。
人は進歩し、過去の失敗を学び、過去の人間とは違う視点を持っている。
劉秀は、「百姓に益するところがなかった、人々の役に立てなかった」
そう言って死んだ。激しい後悔を抱いて死んだ。
人々の役に立てるよう政務に尽力した劉秀が、その責任感のあまりに笑って逝くことが出来なかったのは悲劇である。
突然150年後の世界に飛ばされた後、徐々に力をつけついに全ての群雄の頂点に立つまでに至った。
まるで小さな子供を心配するように、あれこれと未来の世界の政治に口や手を出したくなったことだろう。
それでも劉秀は、必要最低限しか手を出さなかった。
子供は痛みと失敗と努力を糧に成長していく。
自分がまるで中華の民全員の父親のように、彼らをおんぶに抱っこで世話していてはダメだ、とすら思った。
これはもう、劉秀が生まれてから二千年経過した今でさえ中国では実現されていない民主主義の思想に近かった。
その時代、その時代の人々が常に自分達の為になる為政者を見極めるために努力をし、実際に人々から選ばれた政治家はその責任を負って、国家第一の公僕として政治を行う。
そのためには高い民度を保つ事が不可欠で、独裁者が全て何でもやっていたら民衆もそれに甘えきってしまうようになるということだった。
どっちが良いとか悪いとか、上とか下とか言うつもりはない。
皇帝独裁は、息子が無能なら機能しないし、民主主義も民度が低ければ機能しない。
だが劉秀は自分の後の世代の価値を確かに認め、次に託した。
実はリアルがアレなもので、非常に駆け足になりました。
書くことはもちろんいっぱいあったのですが、最初に決めたオチだけは書いておき、終わりとします。




