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三国志の乱世を見てご先祖様が歎いておられるようです  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第1章 4匹目の龍 【7年後】
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光武帝、孔明に従う

そして運命の西暦208年が訪れた。曹操の大軍が南下しはじめた、という知らせが引っ切りなしに届く荊州だが、その長がいよいよ臨終の時を迎えたのだ。

劉表がどうしてもと言うのに劉備は後任を拒否。

知っての通り、荊州では嫡男の劉琦が理不尽なまでに迫害されており、次子劉琮は外戚の権力が強かった。

そのため擁立された彼は、臣下との議論の結果、曹操に降伏することを決めたのだった。


南下する曹操へ降伏の旨を伝える伝令はしかと主の意向を伝えたのだが、運悪く関羽にそれを見咎められ、その知らせが劉備に届けられた話は有名だ。


伝令の宋忠とかいう男は新野の劉備の前に連れてこられ、洗いざらい白状させられた。


一同、初耳のことに驚愕し、多くの者が憤慨するか悔し涙を流した。

特に張飛の憤慨は凄まじいものがある。

立派なヒゲと黒々とした長い髪を逆立てんばかりに怒り、太くたくましい眉は鬼のようにつり上がった。


「兄貴、もうこうなったら伝令を斬り、荊州を武力で奪うのだ!

あんな売国奴に荊州を持たせておくというのか、兄貴!」


「私も張飛に賛成です」


「私も」


孔明、続いて劉秀も述べたが劉備は、わなわなと震えて怒りを隠せないものの、あくまで意地を張る。


「その者を切っても致し方ない。帰してやりなさい」


劉備は涙を流して俯き、伝令はかろうじて命を取り留めたが、彼のいなくなった重臣会議は静かになった。

だが、無駄と思いつつも孔明は、言ってみた。


「わが君、今こそ決断の時。幼主をこの手に押さえ、荊州をとり曹操と対抗するのです。

みすみす荊州の民に、曹操の支配を許すおつもりですか」


「そんなことはわかっている! 劉景升殿が亡くなってほんの少ししか経っておらぬのに、奴らは曹操に降りおった!

景升殿の守ってきたこの土地を全部売り払った!」


「でしたら……」


「とはいえ出来ん。約束したんだ。亡くなったあとは息子達を助けると!」


孔明は、なんと舌打ちして苛立ちの本心を露骨にした。


「わが君、それでは天下に示しがつきません。

劉備は曹操を恐れて戦おうとしない臆病者と詰られても反論出来ません。

劉表にお世話になったからこそ、その荊州を守るべきなのです」


「こ、こうなっては逃げるしかねえだろ……」


言ってる側から、曹軍百万の先鋒が先の博望の地にもやって来ているとの情報が入ってきた。

察するに、劉琮から降伏をとりつけ、曹操は悠々と軍を前進させているわけだ。


これを聞き付けた孔明は、すぐさま部下には指示を下した。

曹軍襲来の立て札を置いて民を誘導し、船を用意してこれに乗せる準備が必要だったのだ。


さらに孔明は、この短時間で人間離れした速さで戦争計画を構築し、矢のような速さでこれを通達していく。


「関羽、一千余騎を率いて白河の上流に向かい土嚢で流れをせき止めよ。

軍の雄叫びあらば、これを合図に激流を浴びせそれとともに攻め立てよ。

張飛も一千余騎を率い、渡し口に潜んでこれに加勢せよ。

それから趙雲!」


「はっ」


「三千の兵を率い、敵が入城してきたら西門北門南門から火をつけよ。

よく燃える柴と油を用意し、敵が火にまかれて東門から出てきたらこれを討て。

その後は欲を出さずに退散して関羽、張飛と合流すべし」


「はっ」


「お待ち下さい軍師」


「なんだ」


発言したのは劉秀だった。


趙子龍(ちょうしりゅう)殿の副将に、ぜひこの劉文円をお加え下さい」


「しかし……そなたには文官としての仕事を任せたい」


「軍師、どうか」


根負けした孔明は、こう答えた。


「趙雲、文円は知勇兼備の勇将。連れていって損はない。

さて糜芳、劉封はそれぞれ一千余騎で新野へ向かえ。

撤退する趙雲、劉修軍三千を追う曹軍に対し、狭隘な間道に潜んで大岩と巨木を用意し、落として被害を与えよ」


数日して、曹操軍がその新野が見えるところへ到着した頃。

先鋒はしばし馬を休めていたのだが、その間に偵察へ出ていた騎兵が戻ってきた。


敵将は勇猛で知られる曹軍の古参、許チョ将軍だった。


「報告します!」


「申せ」


「街はまったくの無人! 曹来来の3文字が書かれた立て札があったことから、敵軍は住民を全員逃がしたものかと」


許将軍は、随行していた曹仁に意見を求めた。


「曹将軍」


「無人であるならちょうどいい。行軍疲れで兵の士気も弛緩している。

ここは新野で休むのもいいだろう」


ということになり、早速曹軍は城に入り、将軍連中は夜景を眺めなら酒など酌み交わしていた。

と、そこへ現れたのは血相を変えた伝令だった。


「将軍、火事です!」


「ほっとけ、どうせ兵士が飯炊きの時にへましたのだろう」


許将軍は聞き入れてくれなかった。曹仁は念のため見に行く事にした。

すると、あちこちで火の手が上がり出している。

それを認識した曹将軍はたまらず叫んだ。


「敵の火攻めだ! こうしてはおられん!」


曹仁はきびすを返し、ほろ酔いな許将軍にかなりの剣幕で言った。


「将軍、敵襲だ。すぐに避難するのだ!」


「わ、わかった。言う通りにしよう」


「東門のみ火の手がまだ上がっていない。行くぞ」


将軍連中の動きは、下級兵士に比べると数手遅かった。

彼らは既に、もうもうとした黒い煙にまかれ、もはや我先にと競って東門に殺到していたのだ。


これを、少し離れたところから観察していた趙雲は、孔明の策が見事はまって、思わず隣の劉秀と握手をかわした。


「やりましたな。さあ、行きましょう」


「趙将軍、一番駆けは私が!」


久しぶりの戦。劉秀は、漢室の復興のためにかなり焦りを抱いていた。

そのため、今回の戦にかける気持ちも並々ならないものがあった。


「手柄だ、手柄を上げねば! 俺が権限さえ持てれば、天下は漢のものとなる!」


劉秀の、漢に対する思いは劉備のそれをも凌駕する。

劉備は己が漢室の末裔であるから、漢中興に熱意を傾ける。

劉秀は違う。劉秀は、自責の念があるからこそ、この乱世を平定するのに躍起になっているのだ。

あれほど慈しんだ民は痩せて衰え、あれほど心を尽くした国政は乱れ、跡形もないのだ。


一度は滅んだ漢という国を復活させたこの男は、二度目の復興に挑む。

劉秀は死する前、こんなことを言っていた。

朕は世の人々のために何も出来なかった愚かな皇帝だと。


劉秀隊は闇夜を照らす火災の炎を明かりにして進み、敵軍先頭を狂ったように叩いた。

所詮、人の数がどれほどあってもこのボトルネックとなった東門から出られる数はたかが知れている。


しかも、曹軍は未曾有の混乱のために統制はなく隊伍は崩れ、水のように無秩序に流出している。

加えて門の内と外は分断されているため、外に出た人間から順番に、猛将劉秀と精鋭に切り伏せられているとも知らず、後から次々と曹軍が流れ出た。


こぼれた部隊は、劉秀に少し出し抜かれて遅れた趙雲隊が倒していく。

だが、さすがにこれ以上の被害を出すわけにいかないので、将軍曹仁の号令で一旦兵の流出が止んだ。


「……妙ですな、劉将軍」


曹仁は、曹操の配下ではトップクラスの名将。趙雲も警戒した。


「潮時です、撤退しましょう」


「はい、私もそう思っていたところです」


孔明には無理するなと言われていたのを忘れる二人ではない。

劉秀達は、闇に紛れて撤退する。するが、敵をまくわけではなない。

ちゃんと後ろをついて来させるだけの距離を保って撤退するのだ。


「何してる追え、敵は小勢ぞ、全滅させろ!」


曹仁、曹洪、許将軍ら先鋒の指揮官はこの屈辱に我をも忘れ、残った全軍を率いて全速力でわずか三千ほどの趙雲、劉秀隊を追撃した。

いかに曹操の揃えた名将といえど、この極限状況で敵を追う以外、他に何ができよう。

暗い無人の寂しい道を、文字通り闇雲に進み追撃するが、それは全て孔明の罠である。


劉封(りゅうほう)らが待ち構えている狭隘な間道を趙雲、劉秀隊は抜け、そこへ曹軍が突っ込んで来たことを確認した劉備軍は、大岩を落とした。

果物を踏み砕くが如く、岩に挟まれ潰される曹軍の兵。


「伏兵だ、撤退しろーッ!」


というのはもう遅かった。大岩は、進行方向を塞ぐ役割を果たすだけでなく、その後ろにも大岩が落とされ、曹軍の先頭にいた数千は孤立無援の状態になったのだ。

その密閉状態の曹軍に、孔明の指示通り火がかけられ、阿鼻叫喚の地獄が生まれた。

道に生えている草木に、火矢の炎が燃え移った。


「将軍をお守りしろッ!」


曹軍はさすがに練度が高い。このような絶望的状況になっても、将軍を命懸けで守ろうとしたのだ。


「おのれ孔明め許さん、許さぬぞ!」


曹仁、許将軍らは止める兵士にあらがって最初は無理に突進しようとしたほどだったが、やがて数少ない生き残りとともに撤退し、ともかく今回の戦いで散りぢりになった味方の軍を集め、再編成するため陣を築いた。

そしてそこに留まって味方を待った。

だが孔明の深遠な策略はまだあることを忘れてはならない。


火にまかれ、士気はがっくりと落ちている曹軍先鋒は数日間で体勢を立て直し、迂回路をとって白河という有名な河川へたどり着いた。

ここの上流には関羽がいる。

言い忘れてましたけど、この作品は、読者の方も三国志をある程度知っている事を前提としてます。

外戚とかあざなとか、わざわざこの作品を読みに来てくれるくらいだから、知ってますよね?

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