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三国志の乱世を見てご先祖様が歎いておられるようです  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第3章 三国志
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司馬懿、出仕

「一体どういう事なのです、主君。曹操と手を組むなど全く聞いていません!

とにかくどういう事なのか全てご説明を!」


「孔明、それは私が説明しよう」


言い出したのは、ずっと劉備の側についていた軍師の法正だった。


先ほど賈詡(かく)が訝った通り、この妙に手の込んだ話は全部法正が考えたものである。

法正は冴えた戦略を描いて劉備に提出した。


今回劉秀の立てた、分裂を装って曹操の主力を益州へおびき出している間に劉秀が許、洛陽を攻撃するという作戦を法正は知らされていない。

しかし、その頭脳によってすぐにそれに気づいた。

劉秀の企みに気がつくやいなや、作戦を練った。


法正は劉備に心酔している。その劉備の利益拡大の事だけを純粋に考えた策を献上した。


この作戦ならば劉秀には曹操十五万という巨大戦力をぶつけ、安全に倒させる事ができる。


劉秀という計り知れぬほどに強い荊州の主力部隊を相手せず、劉備軍は荊州南部へ安全に兵を進められる。

しかも戦後の交渉力次第ではあるが、涼州、長安も頂ける可能性が出てきた。

周り全部敵という絶望的状況の劉備軍に打てる手として他に考えられないほどだ。


比較的安全に荊州を奪い、涼州までも手中にし、邪魔な劉秀をも潰す。

法正の策は上手く行けばこの三つを同時に達成できる。


それを理解した孔明は、抗議を取りやめにした。


「脱帽……するしかない。そこまで考えておいででしたか、我が(きみ)


「わかるよな孔明。俺達は最善を尽くし、皇帝陛下をお救いする。

劉修や曹操を裏切ることはヘでもない」


「あの、そのことなのですが」


「なんだ孔明?」


「劉修は既に漢王朝に認められた大司馬。あの三公ですよ。

それに引きかえ、主君は未だに逆賊の朝敵であり、それは一向に解除されないままですが」


つまり、正当性は今現在、まず丞相である曹操が一番上だがそれと同格クラスに劉秀も上り詰めている。

一方劉備には正当性など微塵もない朝敵のままである。

朝敵の部下として戦いたくない。それは劉備軍の本音ではあった。


「まあいいだろ。長安が手に入ったら、その時はこの劉備が漢の皇帝だ」


劉備は己の野心を全く包み隠さず口にした。


「いけませんわが主。そのようなこと口の端にも上らせては!」


劉備は基本的に孔明の言うことを殆ど聞かない。

今回もまた、きっぱりと拒絶された。


「孔明、それを多くの部下が望んでいる事を俺は知っている。

悪いが口を挟むな。いいな?」


「わかり……ました……」


孔明は渋々引き下がり、かくして9月15日と16日にかけて曹操、劉備の軍が二方向へ分かれて進軍を開始した。

それぞれの思惑が交錯する混沌の極みに達した益州の戦況を陰麗華が知ったのは劉備が動き出してから2日後の9月18日の事だった。


「えっ!? り、劉玄徳の軍が五万でこっちへ?

なんでまた急に……曹操も帰ったみたいだけど」


伝令が伝えた情報をおうむ返しするようにして麗華が聞くと、龐統は恐ろしい剣幕で怒鳴った。


「大変です奥方様! 劉玄徳が裏切りました!」


「う、裏切った? 誰が誰を?」


困惑する麗華は無言で龐統の目を見つめて早く事の詳細を説明するよう催促するが、龐統が言い渋った。

究極の選択だった。光武帝と劉備、最終的にどっちをとると趙雲に質問したが、まさか趙雲より先に自分が試されるとは、と龐統は他人事みたいに驚いた。


「あの、軍師さん? 一体どういう事なの?」


「……理由は聞かないで下さい。とにかくあちらの軍は本気で攻めて来ます。

脇目もふらず、何を犠牲にしてもとにかく東へ向かい、街道を通って荊州へ抜けて下さい。

撤退を! 私は向こうへ投降してきます」


龐統がいつになく真剣で重苦しい声を発する。


「そんな、あなたが居なくなったら誰が軍の指揮を!?」


「問題ありません。とにかく全速で、荊州へ!」


「何故? 説明して?」


「それは……」


龐統は苦悶の表情を浮かべてしばらくの間俯き、ややあって冷や汗の光る顔を上げた。


「益州の軍が……荊州へ攻めてきます。恐らく曹操と密約があったようです!

底知れぬ軍師・法正が恐らく首謀者なのでしょう。

奥方、この蜀の地へ入るには山に囲まれた狭い街道を通ります。

ここなら後ろから迫って来る敵を撃退しながら進むだけでよい!」


麗華も決して戦の経験や知識が皆無ではないし、頭の回転はいい方だ。

ようやく龐統が焦る理由と、そして彼が言わんとしている事が察知できた。

迷いや焦りを払拭したような笑顔で麗華は念のため質問する。


「軍師さん、私の任務は長江沿いの狭い街道で劉備軍を足止めし、夫の邪魔をさせず、荊州を守ることね?」


そう、法正の計画では、この麗華の率いている軍は女の軍であるため、濡れた紙を指で突くように簡単に破り、倒す事が可能で、そのまま劉備軍は荊州にまで攻め込める計算だ。

そこのところを覆せ、と龐統は言っているのである。

龐統には劉備を裏切って劉秀につく事は出来ないからだ。


「私は劉玄徳に仕えると誓った身。これ以上は言えませんし、できる事はありません」


「ええ、あなたの難しい立場はわかってるつもりよ」


「おさらばです。一度落として拾った命。どうか大切になさってください」


龐統は馬から降りると供手し、腰を折って頭を下げた。


文叔(ぶんしゅく)だけじゃなく、私までこっちに来たのはこのためだったのかも知れないわね。

ねえ軍師さん、一度落とした命なら最初から無かったのと同じっていう考え方もあるでしょ?」


「な!?」


「あなたに会えてよかった。裏切りの劉備軍は必ず止めて見せる」


麗華は勝手にそう言い残すと馬車を発進させ、白帝城へと引き返して行った。

成都城を出発した劉備軍も、一旦は劉備軍から離反しかけた荊州派閥を立て直してまとめた龐統と合流すると、一切足を止めずに厳しい強行軍で東へ向かう。


まさか益州がそこまでグチャグチャの魑魅魍魎と化しているとは知らない劉秀は、甘寧、呂蒙と一緒に許都(きょと)のすぐ前にいた。


時は9月17日の午後。呉は最大で十五万の兵力を出すことができる地域だが、この時出してきたのはたった四万ほどに過ぎない。


というのは江東は異民族に風土病など、何かと兵力減衰しやすいイベントが多い。

調べてみると呉のあのヒトやこのヒトも異民族討伐で功績を上げている事が多い。


そのため曹操を攻撃する際に出せる兵力は五万といったところである。


「さてと、また戦だな……」


益州の混乱と劉備軍分裂、曹操介入の噂は既に耳に届いていた。

まさしく奇襲には絶好の機会。劉秀の声は明るくはなかったが、沈んでもいなかった。


騎馬した彼の目の前に広がるは荒野。その中心に佇む巨大な城壁。

許都はだいたい十数平方キロメートルくらいで、その周囲をぐるりと城壁が取り囲んだ大城塞都市である。


劉秀の狙いは知っての通り、城を落とそうとすると見せかけてそれを救援に来る敵を討ち滅ぼすこと。


そうして、曹操の基盤と兵力と何より『威信』を粉々に打ち砕き、反乱を巻き起こす。

そのあとはもう簡単だ。勝手気ままで予測できぬ、散発的な反乱を全て潰して回って劉秀がその力を吸収する。


戦って敵を叩き潰す事で土地を奪い、人口が多い先進地域を繋ぐ交易路を押さえれば中華全体の経済を掌握できる。

そうすれば城を攻めるなど非効率的なことをしなくても、おのずと都市の一つや二つ手に入る。


『城』や『街』という風に攻撃目標を『点』で考えるのではなく、『線』を押さえて『面』を奪う。

そのために連戦の連勝を飾る。そのための相手としては劉秀でも少々骨が折れそうな相手が、曹操軍の中にはいた。


三国時代を代表する最強格の軍師である荀攸、怪物的な用兵と武勇で泣く子も黙ると恐れられた張遼。

そのほか曹操軍以外で言えばあの周瑜も陣没した。

光武帝が、曹操一強で固まっていた情勢を壊して撹拌し、急速な流れを生み出したことにより、英雄達は活気を取り戻して盛んに潰しあった。

そのこともあって乱世を席巻した魔人達が随分と派手に減ったものだ。


しかしそれは同時に若い力が引き上げられる事を意味している。

年を重ねた本物の実力者の引退、死去と、収まりかけた天下の新たな動乱は若い曹丕、司馬懿に大いなるチャンスを与えていた。


「若君、ご用ですか」


210年の時点でまだ曹操は魏公すら名乗っていない。

だが息子の曹丕は史実より少し早くに五官中郎将、そして副丞相の職についていた。

それより八歳ほど上で、もう三十代である司馬懿は曹丕とは昵懇(じっこん)の仲だった。


曹操は司馬懿を高く評価してしつこくスカウトし、208年、つまり一昨年にようやく引き入れるとすぐ参謀、そして曹丕の世話役に命じた。


今、曹操の留守を任せられている若き曹丕は司馬懿を丞相幕府に呼び寄せていた。


「仲達先生。自ら陣頭指揮のため遠征された丞相より、驚くべき一報が届いた」


「まことでございますか」


司馬懿はまだそこまで知らなかった。曹丕以外の者はほとんど誰もいない最新の極秘情報だった。


「劉備は本来部下であった劉修を裏切った。

丞相は十五万の兵を一兵も失う事なく撤退させ、そのままこちらへ向かってきている。

これで劉修が攻めて来るという噂もあったが、ひとまず安心出来るな」


「油断めされますな若君。劉修は全く侮れぬ男です。

十五万が出払っている今は奴にとってまたとない好機。

私が思った通りの男なら、奴は必ず攻めて参ります」


「なるほど。やはり先生は素晴らしい。申し訳ない、少し試した」


「試した……とは?」


曹丕は、いかにも冷たく無慈悲な色白い顔に付属した、薄い唇をにやりと曲げた。

病弱でドSな冷酷王子様、それが曹丕(そうひ)。それだけでもう十分にキャラの立っている男である。


「既に許都が敵の攻囲を受けている。援軍要請が来たので先生を呼んだのだ」


「やはりそうでしたか……」 

曹丕って書くと弱そう

つぁおぴと書くとかわいい

子桓と書くと強そう

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