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三国志の乱世を見てご先祖様が歎いておられるようです  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第3章 三国志
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戦況、混沌

賈詡(かく)、もう一度聞くが撤退が最良か?」


「私の意見は、今の数瞬で変わったりは致しません」


「十五万を連れてきて何も戦いもせずとんぼ返りしたら我が威信はどうなる?

お前の言う通り実際は女しか居なかったら女の軍相手に恐れて逃げたと世間の笑われものだぞ!」


「ふむ……もしかすると劉修もそれを計算済みかもしれませんな」


「感心してる場合か!」


この主従の信頼関係が伺える軽口だったが、鋭いツッコミの直後に曹操はこう言った。


「まあよい。撤退はせぬ。お前、劉修と事を構えるのだけはやめろと抜かすなら最初からそう言え」


「出発時から状況が変わったもので……あの時は半信半疑でしたが今はほぼ確信しています。

劉備軍が分裂・抗争に発展したというのは策略です。

ですがここで予定通り益州を攻略出来れば、全中華の民の念願である統一王朝樹立が叶うのもまた事実。

丞相も統一の王として歴史に名を残せるでしょう……最終的に決めるのは丞相ご自身です」


「決まっている。劉備を殺し天下を制覇する。

劉修はお前によると、この益州にはおらず洛陽など主要都市を攻撃する腹なのだろう。

面白い。今、凄まじい勢いで我が頭脳が戦争計画を構築しているのがわかる……」


曹操は一旦足を止め、隣の賈詡(かく)にこう言った。


「軍議だ。作戦計画をざっと説明する。行くぞ」


もちろん軍議の前には他に大事な用がある。捕われている劉備に会いに行くのだ。

曹操は最大の賓客として成都城で迎えられ、軟禁状態の劉備の顔を見て散々罵倒する楽しみに心をワクワクさせながら城の廊下を歩いて歩いて、やがて城主の間に到着した。


「こちらに劉備を捕らえております」


孔明の言に無言で頷き、曹操は城主の間に足を踏み入れ、神妙にしている劉備を発見すると早速大声で笑った。


「はっはっはーッ! 劉備よ、不様な姿だな。それに関羽、いつぞやはお前と楽しい思いをしたものだな!

張飛、お前には張遼や大勢の兵を殺されたものよ。一人で万の軍勢に匹敵すると程昱(ていいく)が評しておったがその通りだったな。

趙雲、黄忠、そなたらの軍には先の定軍山での戦いで手を焼かされた!」


「ったく、入ってくるなりうるせーなあ……」


テンションの高い曹操に対して劉備は耳をほじり、露骨過ぎるほど露骨に気のない態度だった。

それに対しても全く機嫌を損ねる事なく曹操は続ける。


「機嫌がいいのもわかるだろう。漢中を失い、お前を攻める足がかりを失ったと思った。

それがどうだ、ここへ来て急に大軍を四川盆地へ入れることが出来た。

山で守られた蜀の地も一度中へ入れば落とすのは造作もない事よ」


「よく喋るな曹操。お前ここに何をしにきたって言うんだ?

その裏切り者の諸葛孔明に味方して益州をとれれば満足か?

違うな、お前はそんな小さな事で満足する男じゃない」


「フッ、その通りだとも劉備。お前さんよくも王を名乗ってくれたな。

皇族以外王にはなれん。我々はそれを認めざるをえなかった。

小賢しい事ばかり考えおって。お前を潰してこの曹操は天下を取るのだ。

逆賊劉備よ。何か言い残す事はあるか?」


劉備はこの時、絶体絶命の状況に陥っていたのだが、不思議と恐怖はなかった。

不安も焦りもなく、平静な心持ちで曹操の目を覗き込んでいた。

自分はここで死なないと確信していた。ニヤりと笑みが思わずこぼれる。


「言い残すこと? 随分とお優しいんだな曹操。いいだろうよく聞け。

お前は負ける。勝つのは俺だ。劉修でもお前でもなくな」


「くっくっく、この手も足も出ぬ状況でよくそんな大それた言葉が吐けるものだな。

その言葉……命を縮めたな。もっとも、ほんの少しの時間だけだが」


曹操が腰の剣を抜いた。直後には趙雲が剣を抜き護衛の許褚(きょちょ)が身構える前に首に刃をつきつけた。

賈詡(かく)を捕らえたのはなんと軍師孔明。後ろから短剣を首に添えた。

更に城主の間で劉備達を監視していたはずの兵士達までもが剣を抜き、弓矢を構えた。


「くっくっくっく……命を縮めたのはお前の方らしい」


肩を揺すって劉備は笑い、いつの間にか丸腰の関羽、張飛までもが剣を手にしている。


「どういうつもりだ。言っておくが私を殺す意味はさほどないぞ。

我が息子達には仕事の引き継ぎをさせている。この曹操なしで国が回らぬ時代ではもはやない」


「確かに殺すのも魅力的だな曹操。お前を殺せば息子達の間で盛大に相続のための権力争いが始まる。

その隙をつけば天下は取れる……が、俺達にはそれは出来ん。

何故ならそれが起こった時、劉修の方が先に天下を飲み込み、もはや逆転は不可能になるからな。

奴の方が若く、時間は奴に味方するからな」

 

形勢を逆転し、一気に優位に立った劉備は居丈高になって続ける。


「このままお前を操った方が何かと都合がいいだろう。

それとも、対等な取引をして俺達と協力してくれるか?」


「話は……聞こう」


曹操は剣を納め、事を荒立てる気はない事を示した。

ほらもー、だから言ったのに罠だって。と言いたそうな賈詡(かく)のやれやれ顔が、孔明の同情を誘った。


「主君、話が違います。一体……」


「孔明、お前も結構人がいいなあ。それとも若い分、純粋なのか。

劉修の作戦によると、曹操と俺達の軍が戦ってる最中に許、及び洛陽で騒乱が起きて曹操は無事死亡という手はずだった。

俺達は体よく囮役を押し付けられ、美味しいところは全部あいつが持って行く気だ。

そんなことを許しておけると思うか、なあ子龍?」


趙雲がずっと複雑な表情をしていることに劉備は目ざとく気がついていた。

趙雲は目を伏せ、低い声で宣誓する。


「もちろんです。奴は主君をも潰す気ですから……」


「そうだろ? 曹操としてもあの脅威だけは絶体潰しておかなくちゃならんだろうが。

手を組まないか。荊州派閥やそれと手を組んだ荊州からの兵は無視していい。

ぶっちゃけ言うが、あれを率いているのは女だ。

それと、それを補佐する軍師もこっち側だ。

まるで問題にならない戦力だ」


「それで?」


「曹操、取り引きをしよう。今我々は曹操軍の首脳を捕らえてある。

このまま何日でも拘束しても構わない。そうすればモタモタしてる内に主要な都市を奪われて権力構造は崩壊。

お前はただの小さいおっさんになるわけだな。はっはっはっは!」


劉備は邪悪そのものという下卑た笑いをあげ、残虐非道な曹操にさえ顔をしかめさせた。


「呂布も言っていたな。劉備、お前ほどの悪党もなかなかおらん。

味方の諸葛亮ですら騙すとは……」


「そう言うなよ曹操。こうして取り引きしてやってるだけ良識的だろう。

俺もお前も、このまま指をくわえて劉修が中原に位置する重要都市を沢山奪って天下の覇者になるのを見届ける気はないだろ?

一緒に時間が過ぎ去るのを座して待つのも一つの選択だがそれじゃつまらない。

お前は一刻も早く帰りたいはずだ……さあ、条件を出すなら今しかないぜ」


「この曹操も焼きが回ったか……」


曹操は、劉備も曹操に手を出すほど馬鹿な事はすまいと思っていた。

予想を裏切られ、劉備に捕われた曹操は思わずぼやいた。


やはり軍師の言った通り練り上げられた策略が存在した。

ただ、その策略には劉備のものも含まれ、複雑怪奇な様相を呈していたようだが。


「まさか捕らえられてしまうとはな。よかろう。

西域との交易の要である涼州、長安をやろう」


「太っ腹だな旦那!」


劉備は軽口を叩き、続けてこう言った。


「これより我々は荊州派閥と合流して長江を下り、快速で荊州を征伐する。

そうすりゃ曹操、お前の鈍重な十五万もの兵が戻るまでの時間は稼げる」


劉備軍が突如、益州から長江を下って荊州に進行して来たらさすがに劉秀といえど曹操を攻めている軍をそっちへ向けざるを得なくなる。

一口に言えばそういう作戦だった。まるで最初から用意されていたかのようであると賈詡(かく)は訝しんだ。

だがあの賈詡(かく)といえどこの短時間と極限状態で正解にたどり着く事はさすがに困難だった。


「それでよかろう……やはりここへ来たのは失敗だったな。

賈詡(かく)の言った通り撤退するのが正しかった」


「その軍師が賈詡(かく)かい? 確かに有能な男だな」


劉備は言った後、曹操、賈詡(かく)らを解放して、それからほんの数時間のうちに曹操軍はすっかり引き上げて成都城には劉備軍以外の兵士の姿はなくなった。

曹操をまんまと追い返し、劉備は思わず腹の底からすかっと爽やかな笑いがこみ上げてきた。


「ふっはっはっは! 曹操! バーカ!」


劉備は益州の険しい山々の向こう側へと叫んだ。

さっきから、突飛な行動の目立つ主君・劉備に対してずっと怒りを我慢していた孔明は、曹操が消えたので猛抗議を開始する。


「一体どういう事なのです、主君。曹操と手を組むなど全く聞いていません!

とにかくどういう事なのか全てご説明を!」


「孔明、それは私が説明しよう」


言い出したのは、ずっと劉備の側についていた軍師の法正だった。


先ほど賈詡(かく)が訝った通り、この妙に手の込んだ話は全部法正が考えたものである。

法正は冴えた戦略を描いて劉備に提出した。


今回劉秀の立てた、分裂を装って曹操の主力を益州へおびき出している間に劉秀が許、洛陽を攻撃するという作戦を法正は知らされていない。

しかし、その頭脳によってすぐにそれに気づいた。

劉秀の企みに気がつくやいなや、作戦を練った。


法正は劉備に心酔している。その劉備の利益拡大の事だけを純粋に考えた策を献上した。


この作戦ならば劉秀には曹操十五万という巨大戦力をぶつけ、安全に倒させる事ができる。


劉秀という計り知れぬほどに強い荊州の主力部隊を相手せず、劉備軍は荊州南部へ安全に兵を進められる。

しかも戦後の交渉力次第ではあるが、涼州、長安も頂ける可能性が出てきた。

周り全部敵という絶望的状況の劉備軍に打てる手として他に考えられないほどだ。


比較的安全に荊州を奪い、涼州までも手中にし、邪魔な劉秀をも潰す。

法正の策は上手く行けばこの三つを同時に達成できる。


それを理解した孔明は、抗議を取りやめにした。


「脱帽……するしかない。そこまで考えておいででしたか、我が(きみ)


「わかるよな孔明。俺達は最善を尽くし、皇帝陛下をお救いする。

劉修や曹操を裏切ることはヘでもない」 

曹操、劉備、陰麗華と龐統、劉秀、そして曹操の留守居の司馬懿。


5つの独立軍がそれぞれに思惑を持って蠢動し、複雑怪奇で目茶苦茶な中国大陸という名の盤上は最終局面に向かう!

とか煽って次回へ。












劉備をここまで悪役っぽく書いてる三国志もなかなかないと思う。

というかもうこれ三国志じゃないけど。魔改造されすぎて別物だけど。

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