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三国志の乱世を見てご先祖様が歎いておられるようです  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第1章 4匹目の龍 【7年後】
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光武帝、曹操の大軍に追われる


それから数日後、戻ってきた趙雲も入れて新野では、勝利を祝した将軍達によるささやかな宴席が設けられていた。


「勝利を祝して、乾杯!」


劉備の掛け声とともに、将軍らがアルコール度数の低そうなお酒をグイッと一杯飲み干した。


「くはぁ、美味い!」


豪傑連中は、聞いてるこっちが清々しい気分になるほど豪快で美味そうに酒を飲み、孔明などは女のように慎ましく酒を頂いていた。


「いやはや、劉修が来てからというもの、よいことばかりだ!

今回の作戦、劉修の助言で趙雲を出しておいてよかった!」


「はい、殿(との)。李典のやつ、慌てふためいて逃げだしましたぞ!」


趙雲が珍しく嬉しそうに答えると、それ以上に気持ち良さそうな笑いが、一同から発生した。


「忘れちゃいかんのは孔明先生の策だ! いやー、先生、悪いことをしたな!」


「いや張飛、謝罪には及ばない。これからも力を合わせて戦ってゆこう」


「おう!」


張飛と少し会話してから孔明は、向かいで座っている劉秀に声をかけた。


「皆から聞いたぞ。文円は知略もさることながら、その武勇は関羽・張飛にすら比肩するほどだったと。

まだ在野にこれほどの逸材が残っていたとは驚いた」


「在野に? そういえば……」


「なにか?」


「孔明先生、知る人ぞ知る天下の奇才鳳雛について、何かご存知で?」


急に変な名前を出されて訝りながらも孔明は正直に述べた。


「あの男は私とは親戚で、気難しいながらその才能は自他ともに認めるところ」


「それは、小太りで器量の良くない酒のみの男でしたか?」


「これは驚いた。あの者と会話したことがあるとは。

ますますそなたに興味が出てきた……その事は隠しはしない」


「こちらの方こそ驚きです。あの者に気難しいなどという印象は受けませんでしたが。

あの者は、新野の飲み屋をふらついておりました」


「おお、なんとあの鳳雛がここにいるとは」


「今もいるかわかりませんよ。

会ったのは、ちょうど孔明先生のところへ私が行った日だったので」


「今は猫の手も借りたい時。探させよう。文円も、もし見かけたら通報するように」


「そんな犯罪者みたいに……」


「よろしくお願いします」


「はい……」


先の戦いで圧勝した劉備達の名声は、荊州の中で日増しに高まっていった。

荊州の民もここが多くの群雄に狙われる要地だと理解しているため、とにもかくにも重要なのは、侵略する敵軍から荊州を守れる軍の力だと認識していた。

その強い力を持っている劉備達の名声が高まるのは当然だった。


その名声は、いとも簡単に劉表や、その周りの人間を凌駕していた。

この名声の上がり方は史実を上回り、劉備軍は曹操と劉表陣営の両方に睨まれる結果を招く。


ここから劉表の死まで少しある。長いか短いかはやってみないとわからない。

だが一つ言えるのは、劉秀の加入によって史実とは全く違った進み方をする、ということだ。


さて、今やらなきゃいけないことは何か劉秀はわかっていたので、孔明とはこのまま密談を続ける。

木を隠すなら森というように、騒がしい宴会でこそ秘密の会談は行われた。


「して孔明先生。今迅速に対処しなくてはならないのは、やはり例の問題でしょう」


「荊州牧の後任ですか」


「左様。私の言った通りに行かせるには、まだ敵が多い。

知略の使いどころです。孔明先生は、荊州をとる時期はいつがよろしいとお考えで?」


「なるだけ早い方がよい。しかし現実的には、主君の反対もあり上手く行かぬだろう。

今回勝てたとはいえ、次は怒った曹操の大軍が来ないとも限らない」


「こうしてはどうです。市中に触れ書きをばらまくんです。

劉景升様は劉玄徳様に荊州を譲られる事を決定したと。

そして掲示板の周囲には文字の読める兵士が市民に装い、潜む。

彼らはサクラで、触れ書きの内容を懇切丁寧に説明する」


劉秀によると、そうやって既成事実を作る事により、劉表らに有無を言わせない作戦だ。

これを撤回するということは、すなわち劉表側は劉備には絶対荊州を譲らないということになる。

撤回すれば、歓迎する民の反感を招くこと間違いない。


この荊州を命懸けで守ってくれた劉備軍に対する仕打ちがそれかと。


撤回しなければ荊州を奪い取られる。敵に苦渋の決断を迫る、非情な謀略だった。

そのことは瞬時に理解した孔明。少し唸った。


「うん。恐らく効果を上げる策だ。

しかし、どのような策であれ、劉備(しゅくん)は承知下さらぬ。

全く主君にも困ったものだ。ご自分の評判を過剰に気にして荊州の民を苦しめる結果に……いえ、口が過ぎました」


孔明の本音といえばまあ、こんなところだろう。

誰だってそう思う。関羽や張飛らも思っている事だろう


「そうですか……」


「一応私からその件は言ってみますが」


「いや、忘れて下さい。そんな主君だからついてきた。そうだったはずですよね」


若き劉秀の、男すら惑わせるかわいげのある笑顔に、孔明の顔も少し緩んだ。


「フ……然り」


劉の血にはこれがある。高祖劉邦も高貴な顔というだけで有力者に気に入られ、その娘も劉邦と結婚することにまんざらではなかった。


どころかヤンデレ化して、劉邦の浮気相手の女を見るも無残な姿に変えて周囲の者にトラウマを植え付けた。

その浮気相手は、人豚になったとだけ言っておく。(ググるな注意)


劉氏は、何か人に気に入られやすい容貌をしているのだろう。

あまり人と打ち解ける性質ではない孔明すら、劉秀はこの宴会で友人とした。


一方、大敗した夏侯惇は有名な罪人装束のエピソードの真っ最中。

どうかお裁き下さいという格好で現れた夏侯惇。

曹操はそれを見て少々笑った後、何らお咎めなく、次の戦いで恥を濯ぐように言ったのみだった。


曹操の不公平な個人的寵愛の感がしなくもないが、心温まるほんのりギャグテイストなエピソードだった。


翌日はみんな酔い潰れて気持ち良く眠っていた。

そんな中でも劉秀や孔明の朝は早い。


劉秀は情報収集に熱心で、今の情勢を知りたいからだ。

曹操は現在袁一族との戦の最中だが、まあ、早晩曹操に飲み込まれるだろうということは聞き及んでいた。

劉秀は、この機会を逃さず、曹操を討つべきと劉備に進言したのだが、劉表の反対もあり聞き容れてもらえなかった。


劉備って実は高祖劉邦とは全く違うタイプなのだ。


劉邦は韓信や張良の言うことをよく聞き、任せたが劉備は非常に独裁的な気質だ。

史実では孔明は、イメージされてるほど劉備に意見を聞いてもらえてないどころか、却下されることの方が多かった。


劉秀も同じで、劉備は、持っているだけで天下統一への最短コースを行けるような怪物劉秀を五ヶ月近くも飼い殺しにした。


そして運命の西暦208年が訪れた。曹操の大軍が南下しはじめた、という知らせが引っ切りなしに届く荊州だが、その長がいよいよ臨終の時を迎えたのだ。

劉表がどうしてもと言うのに劉備は後任を拒否。

知っての通り、荊州では嫡男の劉琦が理不尽なまでに迫害されており、弟の劉ソウは外戚の権力が強かった。

そのため擁立された彼は、臣下との議論の結果、曹操に降伏することを決めたのだった。


南下する曹操へ降伏の旨を伝える伝令はしかと主の意向を伝えたのだが、運悪く関羽にそれを見咎められ、その知らせが劉備に届けられた話は有名だ。


伝令の宋忠とかいう男は新野の劉備の前に連れてこられ、洗いざらい白状させられた。


一同、初耳のことに驚愕し、多くの者が憤慨するか悔し涙を流した。

特に張飛の憤慨は凄まじいものがある。

立派なヒゲと黒々とした長い髪を逆立てんばかりに怒り、太くたくましい眉は鬼のようにつり上がった。


「兄貴、もうこうなったら伝令を斬り、荊州を武力で奪うのだ!

あんな売国奴に荊州を持たせておくというのか、兄貴!」


「私も張飛に賛成です」


「私も」


孔明、続いて劉秀も述べたが劉備は、わなわなと震えて怒りを隠せないものの、あくまで意地を張る。


「その者を切っても致し方ない。帰してやりなさい」


光武帝は最強無敵なので、三国志ファンの方はこの時代の人間が光武帝のかませになっても、広い心で見てください。

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