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三国志の乱世を見てご先祖様が歎いておられるようです  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第1章 4匹目の龍 【7年後】
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光武帝、曹操から荊州を奪還す

前回までのあらすじ


曹操は、最強無敵の光武帝劉秀率いる三万に十万で挑み、あろう事か敗れた。

威信と兵力を失った曹操は、荊州内の相次ぐ反乱を抑え切れず退却。

そうとは知らず、劉備達のいる江陵城に曹操が派遣した水軍が到着した。

だが、彼らはもともと荊州の人で無理矢理曹操に従わされていた。

曹操が負けて逃げたとの報告を受けても戦うはずがなく……。

「それから、まだ走れる騎兵は五十騎出ろ!

半分は主君へ、もう半分は孫権軍への使者としてこの情報を伝えるのだ。

では行くぞみんな! 主君が窮地におられるかもしれん!」


その通りである。まだ曹操の連絡を受けていない曹の水軍は喜び勇んで城へ押し寄せていた。

その数、十万。劉秀も戦勝後は急いで帰ったが、果たして間に合うのだろうか。


「兄上、敵軍が見えて参りましたぞ」


「水軍を陸に上げて守備隊に入れといてよかったな。

ありゃあ海で太刀打ちできるもんじゃねえよ……」


大河を流れて来る船、船、船。グーグルマップを使えばわかるが江陵の城は川に囲まれた要害。

すぐ目の前に川があり、そこへ船がどんどん集まって来る。

防御施設を作ったとて限界がある。水軍は列の切れ目が見えぬ程殺到した。


のだが、ご存知の通り曹操は敗走している。

更に、この話が伝わり、荊州でも力を持っていた魏延(ぎえん)が反乱を起こした。

城を取り、劉備軍に加勢する構えを見せ、荊州全土が反曹操に染まって、この水軍への補給は途絶えていたのだ。


補給が途絶えた状態で劉備軍を攻撃しようとしても水軍は孔明の指示した巧みな防御施設構築により、阻まれた。


水軍が曹操敗退の知らせを聞き付けたのは城に攻め寄せてからわずか一日後の事であった。

この水軍、なんとそのまま劉備に降伏した。

このままでは補給が滞り、自分たちの土地である荊州での略奪をせざるをえないためだ。


劉備は諸葛亮も劉秀もいないので全部自分で判断を下さねばならない。

だが劉備の決断は速かったのだ。

江陵城にあった財産も全てなげうってこの水軍の兵糧を送り、これを味方につけた。

その際の事務作業もちゃんと劉備はこなしていた。


意外と劉備有能。まあ、結構この時代としては高学歴だったらしいので事務作業くらいはできるだろう。

こうして劉備は大水軍を手に入れ、つぎつぎに各地の城に川を経由して連絡し、降伏させ、領土を拡大した。


そのころ孔明のいる江東にも劉秀勝利と曹操敗退の知らせは届いていた。

これを文官から知らされた周瑜、孫権は口々に言った。


「まさか! ありえん!」


「これは諸葛亮の罠だ。偽報だ!」


孫権も周瑜も大慌てだが、そこへ魯粛が呼んでおいた孔明が言った。


「いいえ、全てまことです。主君から書状が来ておりますゆえ」


「どのようなだ?」


孫権に聞かれた孔明は正直に答えた。


「敵水軍十万が降ってきたので、私に相談せず兵糧を惜しみなく与えた事を主君玄徳が報告してくださいました。

曹操に無理矢理従わされていた荊州の有力者が劉玄徳を求めて大勢集まっているようです」


孫権は一瞬、これも全て孔明がやったことか、と思った。

だがそれにしては場当たり的というか、行動がちぐはぐであると思い、その考えは封印した。

周瑜も同じ思考をし、これもまた同じ反論材料から推論を否定するに至った。

二人とも正しい。全て独断で曹操と戦った劉秀は、三国時代を代表する人物である諸葛孔明の器にすら入り切らない男であったのだ。


全て独断であるが、少なくとも最高の結果はもたらした。

劉備軍は単独の力で曹操を撃退した天下の英雄となり、孫権に煩わされる心配は当分なくなったのだ。


孔明はにわかに元気を取り戻し、こう進言する。


「これで荊州は我が主君が劉キ殿を立て、補佐として実効支配されることになるでしょう。

そうなれば孫劉連盟は一旦白紙とし、新たに条件を設けて組み直すべきでは?」


孫権は思ったように事が運ばず、不満げながらも大人な返答をした。


「その意見もっともであるな。公謹はどう思う?」


「条件次第でしょう」


周瑜はふっかけて来ると思い、身構えていたが孔明は欲のない事を言った。


「今後一切の相互不可侵。それ以上の条件は望みません。

ただし、それ以外の譲歩もありません」


孔明は暗に黄祖を渡さぬと言っている。

周瑜が目配せして孫権にそのことを伝えようとするが、孫権は無視して言った。


「誓って本当だな? よし交渉成立だ。援軍の話はもうないようで、少し残念だが」


「ええ、もはやこちらにお世話になることはないでしょう。

それに我らは荊州と長江を押さえているので、曹操の軍がこの江東へ南下する事もないと言ってよい。

江東は安泰ですな。いやはや羨ましい限りです」


呉は、攻め込まれる危険性が極度に低くなった。

代わりに劉備の勢力範囲以外への領土拡大の目がなくなったとも言える。

孫権は、孔明の失礼な物言いに鷹揚に答えた。


「はっはっは、だがまだ、東の果てには倭国という国があるのだ。

手に入れてみるのも面白かろうな。孔明先生。長い間留まっていただき、感謝する。

主君の元へ帰られるがよい。これはささやかだが贈り物だ」


孫権は合図を送り、従者に箱を持って来させた。


「お受け取りを」


中身は、お心付けとばかりに金銀がざっくり入って重たかった。

孔明は迷惑そうにしながらこれを受け取り、供の者に持たせて腰を折り、礼をした。


「かたじけのうございます。今後も主君玄徳は末永く江東との関係をお望みです」


諸葛孔明を帰した直後、孫権は孔明嫌いの周瑜に詰問された。


「ああも簡単に帰し、金銀まで。主君、それは弱腰と受け取られかねませんぞ!」


「そう怒るな公謹。今は甘い顔をしておけばよかろう。

敵の劉文円という男、並の軍略家ではない。

曹操の十万を三万で撃ち破るなど天才……いや、神業としか言いようがない。

だが、曹操の力が落ち今こそまたとない機会であるのもまた事実……」


「そうです! 主君、荊州制圧を許せば敵はいよいよ活気づき、我ら江東の軍に成長の目はなくなります。

そうなれば大国の成長を許し、自治はいずれ失われますぞ」


周瑜の言い分はもっともであるが、孫権は悩みを抱えていた。


「だがな公謹、私は奴らを育てて利益を増やそうと考えた。

今もそれは変わっていない。荊州の劉備は曹操からの攻撃を防ぐ盾となる。

その後奴らは益州をとると言っておったが、これも好きにさせればよい。

益と荊の二州をとり、守る場所が増えたところを、曹操軍と呼応して我々は荊州をとるのだ」


「それも一つの策でしょう。しかし……」


「だから言っておるだろう。敵の劉文円という男は神業のような軍略を用いると。

戦えばどんなに大軍を持ってしても激しい抵抗にあうだろう。

よしんば勝ったとして、疲弊したところを曹操に狙われる可能性が極めて高い。

私は、ここはこらえ所であると思う。両者の戦いを傍観し、富国強兵に努めるのだ。

この案に賛成かどうか議決をとろう。どうかな?」


周瑜は、慎重論には分が悪い事を理解していた。

彼も賢いのである。周瑜は丁重に辞退した。


「いえ、私が浅慮でございました。主君は伯符殿にも比肩する俊英でございます」


「よせよせ、そなたほどの男に褒められてもかえって自分がちっぽけに思える……」


孫権が陰謀を巡らしている事ぐらい孔明は承知の上だ。

諸葛孔明が賢明なのはやはり、なんと言っても三国鼎立の戦略だろう。

孔明が意図的に何かせずとも、孫権は知らない内にこの戦略の枠に自分から入ってしまっているのだった。


三国のパワーバランスが一定になるよう孫権が劉備をサポートせざるを得ないよう上手く仕向けたのだ。

ただ、史実の孔明は知っての通りこの三分の計を失敗させている。


何故三分の計が失敗したかというと、孫権と劉備で協力はおろか、むしろ逆に足の引っ張り合いをしちゃったからだ。

そして二者の対立の原因は、正直、筆者の見解では関羽がハン城を巡る一連の戦いでやらかしたせいだろうと見ている。

あそこで呉と関係が悪化し、しかも関羽が死んで関係修復が絶望的になったのだった。


まあ、劉秀がいる限りそんなことにはならないだろう。


一方、数日して無事江東から帰してもらった孔明は、主君と重臣達による歓迎を受けていた。


「孔明よぉ、孔明! 本当お前よく生きてたなあ!」


劉備は孔明の船が岸につくのも待ち切れず、手をメガホンがわりにして叫んだ。

この様子にはあまり笑うイメージのない孔明さえ滑稽で笑みを浮かべざるをえない。


「ふ、主君。これはもったいない事ですな」


「おう、早く帰ってきてくれ。仕事は山ほどあるぜ!」


「ええ、もちろんです。しかし私に言わせれば、よく生きていたなと思うのはここにいる全員です」


「あっはっは、違いねえ! どいつもこいつも、軽業師の綱渡りだぜ!」


名指しでは言われなかったが、劉備から明るく朗らかに苦言を呈された劉秀は孔明に頭を下げて陳謝した。


「申し訳ありません先生。私は勝つ自信があって戦いました。

ですが、そのせいで江東におられる先生が立場を危うくされてしまいました」


孔明は岸に上陸すると、意外にも爽やかな笑顔でこう諭す。


「いやいや、しかし文円のおかげで孫にはかなり大きな顔ができるようになりました。

主君、今は民の力を蓄える時ですが、次に攻めるのは益州です。

ここさえとれば天下に覇を唱えられる豊かな土地。

荊州全域と益州さえとれば曹操に対抗し、中原をも狙う事が出来ましょう」


「わかってる。それで、民力が整ったあとの荊州制圧の段取りは?」


「荊州制圧はあせらずとも、非常に簡単に成るでしょう。

考えるべきは残った敵勢力ではなく、孫権と曹操の考える事です。

奴らは我々が荊州制圧を成し遂げるまで傍観することでしょう」


「なんでだ?」


「例えば曹操が孫権と手を組み、荊州を山分けする条件でこちらを挟み撃ちにすることを画策したとしましょう。

ですが上手く行きません。荊州は天下の要にも等しい地。

孫権にとって荊州は、曹操に対してだけは一寸たりとも渡せないのです。

では、曹操か孫権のどちらかが単独で攻めたら?

言うまでもなく、もう一方の勢力に漁夫の利を狙われます。

それどころか、我々がもう一方に助けを求め、これに応じてくる可能性もあります。

ゆえに誰も攻めてはこない。

したがって今は休養の時。主君も将軍方もまことにご苦労様でした」


孔明が頭を下げ、劉備が慌ててこれを抱き寄せた。


「何を言うか! 孔明、お前だって孫権を監視する重要な任務をこなしてくれたじゃねえか!

命を懸けて、敵地にたった一人でだ。おいお前ら、先生と一緒に宴会やるぜ!」


「よっしゃぁー!」


「いや、別に宴会などは……」


孔明は劉備のような陽気で明るいたちではないので、宴会をしたところで、どちらかというとむしろ体力を使う。

でも劉備が心底嬉しそうにねぎらってくれたので、まんざらでもない気分になっていた。

孔明は女みたいに、劉備に手を引かれて城に戻った。


「孔明先生帰還の祝いだ! お前らパーッとやれ、乾杯!」


「軍師のご帰還に! 乾杯!」


今は資金も人も物資もこの江陵に唸るほど集まって来ている。

つい先日は魏延(ぎえん)黄忠(こうちゅう)という武将が劉備軍に入ってきたし、酒も食料もたんまりある。


今回の戦役の中でも特に殊勲者である劉秀、張飛、孔明は、もういいと言っても次から次へと酒が注がれた。

もし曹操が本当に赤壁で呉に大敗してたらこうなっていたと思う。

本当は赤壁で何があったのか、とても謎だ。

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