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三国志の乱世を見てご先祖様が歎いておられるようです  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第1章 4匹目の龍 【7年後】
13/53

光武帝、天下を覆す

前回までのあらすじ


光武帝は歴史をぶっ壊し、赤壁を全く別物にしてしまった。

更に張遼を張飛にボコらせ、因縁を作った。

激怒した曹操は十万の大軍でわずか三万の光武帝軍に挑む。


だが曹操は知らない。相手は千年に一人の帝王だということを。


曹操軍十万対劉備軍三万。西暦208年、【陸の赤壁】が幕を開ける。

曹操が十万の兵を劉備軍三万の前に布陣させたその日までに、逃亡者は一人もなかった。


自信満々、士気揚々で布陣する三万の兵を目にし、曹操は訝って隣の夏侯惇にこう聞いた。


「本当に三万であったな、(とん)


「はい丞相。一体どのような策があるというのでしょうか」


「どう見ても何もない。あるとしたら……」


「それは?」


「あるとしたら、間違いなく孫権軍であろう。

後ろからやってきて、挟み撃ちすると言っておるが……逆にこちらを攻撃する腹かもしれん」


「ですが、それにしても敵はもう少し時間を稼ぐ姿勢を見せていいものですが。

例えば山に陣を敷くとか、防御施設を建造するとか」


「まさか……本当に勝つ気なのか……」


曹操は意図を図りかねたが、まさか負けないだろうと高をくくっていた。

まさか目の前の敵将が自分の憧れた光武帝劉秀であることも知らず。


曹操が、目を細めて平原の向こうの劉備軍を注視していると、張遼が何故か曹操のところへやって来た。


「丞相ッ! 後生です、お願いがあります!」


「なんだ張遼。申してみよ」


「敵の右翼に張飛の旗が! 丞相、どうかこの張遼を軍の左翼に配置してくださいませ!

張飛とはいよいよ雌雄を決したく!」


「その意気やよし。だが張遼ともあろう者が二度同じ相手に負けてはならんぞ?」


劉秀の思惑通りである。まんまと罠にかかった。


「丞相、負けた時は二度と丞相にこの顔をお見せ致しません。

命をもって恥をすすぎ、前線で果てます!」


「よくぞ申した。それでこそ張遼だ!

そなたは三万の歩兵と五千騎を率い、左翼で張飛と対峙せよ」


「はっ!」


曹操は張遼に行かせたあと、付近の将軍にも命じた。


「布陣が決まったぞ。曹仁は、曹洪と許チョを副将に歩兵三万五千を率いて右翼に布陣せよ。

夏侯惇は親衛隊とともに本陣の曹操を守れ」


「はっ!」


「この曹操は一万の守兵と二万の後方予備隊をもって中央に布陣する」


かくして両軍の陣形は固まった。


劉備軍は中央に趙雲と劉秀の五千、右翼には張飛隊一万五千ほどをおいてある。

そして左翼にはたった一万の兵と甘寧という陣容だ。


曹操軍は左翼に張遼の三万五千、右翼に曹仁らの三万五千。

中央には曹操の堅く守られた本陣三万。

とてもではないが、破れる布陣には見えない。


「かかれ」


曹操は準備を整え、静かに命じた。

次の瞬間には陣太鼓が打ち鳴らされ、一斉に曹操軍両翼が動き出した。

もちろん一番最初に動いたのは張遼軍。

張飛への雪辱からか、常識を遥かに超えるスピードで突撃する。


一方曹仁軍も、曹操の戦略通り斜めに回り込んで劉軍を包囲するかのような動きを見せる。


だがここで意外な事が起こっていた。

中央の劉秀軍も五千騎のみで突出し、左翼にいる曹仁軍の側面へ素早く回り込んで敵を蹴散らし始めたのだ。

狙いは弓兵。これをやられると痛い。

戦争では弓での死傷者が圧倒的多数であるこの時代、騎馬隊に弓兵を蹂躙されると戦闘力が激減してしまうのだ。


そもそも戦争では、歩兵がいくらいても大して戦闘力は変わらない。

一度に敵と戦える数は限界がある故だ。

だから劉秀は、弓兵さえ片付ければ左翼の甘寧達はほとんど被害を受けずに凌げると踏んでいた。

回り込んで来る騎兵対策も抜かりない。以前張遼を倒した時に見せた防御体制だ。  


そして、これに一撃を加えている趙雲と劉秀は今や義兄弟並の友情で結ばれている。

手合わせをし、お互いの妻について話をした。

その二人が力を合わせて曹仁軍の横腹を突き、甘寧軍の劣勢を挽回していた。


ここで曹操は、かなり素早く決断を下した。


「夏侯惇、騎兵一千と歩兵五千を率いて曹仁らの救援へ迎え」


「はっ!」


ところで、忘れてはいけないのが一番深刻な劣勢にある張飛軍だ。


二倍以上の敵が押し寄せ、敵は決死の覚悟を持った豪傑。

だがここでもまた、戦局は意外な進展を見せていた。


士気だけで言うなら、一見決死の覚悟を決めた張遼が勝っているかのように見える。

だが違う。現実に優勢な曹軍と、踏ん張らなければいますぐ全滅するほどの窮地にいる劉備軍と張飛の方が、遥かに地獄を経験しているのだ。


「張遼、お前の顔もそろそろ見飽きた!」


「こっちこそだヒゲ面!」


罵り合いながらの大将の一騎打ちに、兵士達はあえて手を出さない。

曹操からも張遼の一騎討ちを邪魔するなと言われていた。

だがこの公平公正な精神が、曹軍の破滅を呼んでいた。


一度負けた相手に二度負けるなど、張遼にあってはならない。

ならないが、この天下で呂布なき今最強の地位にあるのはこの張飛である。

張遼は押され、ついにその時がやって来てしまった。

華々しい一騎打ちは終わり、戦争の時間がやって来たのだ。


張遼は張飛の矛を矛で受け止め、そしてその矛は叩き斬られて、肩に深々と刃が突き刺さった。

肩傷を負った張遼は、力無く落馬した。


「張遼破れたり!」


張遼は死んだ訳ではないが、いずれにせよ指揮官を失った曹軍左翼は一言で言うと支離滅裂になった。

張飛という怪物を受け止める防波堤であった張遼を失い、曹軍の士気が乱れ、指揮系統は機能しない。


羊の群れも同然の曹軍と、獅子が激突した。


「曹操よ、ただ後悔せい! ここが貴様の墓場となろう!」


血煙を上げて蹴散らされる曹軍。以前やったのと同じように、張飛は高笑いしながら敵を蹂躙する。

張遼を失った曹操軍は崩れ、その隙間をついた張飛隊に中央突破を許した。

半分に分断された敵軍は、言うなれば股から背骨に沿って半分に割り裂かれた人間のようなもの。

頭の命令は届かず、たかが半分以下の兵にほとんど無抵抗にやられつづけるのみである。

強大すぎる将軍の威光は、それが消えると災いをもたらす。


劉秀は弓兵を最初騎兵で蹂躙したが、張飛の戦う相手にも弓兵はいる。

だが乱戦状態となると味方に当たるので、敵味方ともに弓は使えなくなる。

すると互いの戦闘力は激減する。あとは士気が物を言う。

劉秀はここでも弓封じの算段を行っていた。


曹操は額に青筋を立てて怒りをあらわにし、車の上に立って絶叫した。


「張飛を殺せ! その皮を剥ぎ、肉を喰らってくれる! 予備隊すぐに出ろ!」


「お待ちを丞相! 本陣の守りが薄くなります!」


諌めたのは従軍していた軍師の荀攸だった。曹操は聞き入れない。


「そんなことを言っておる場合か! 食い破られるかもしれないのだぞ!

我が軍の左翼が分断突破され、殲滅されるのも時間の問題ではないか!」


「ですが……」


「左翼を救援せよ! 全く情けない。倍以上の兵力でありながらッ!

右翼は押しておる! まずは左翼に救援を出せ!」


右翼では、劉備軍左翼の甘寧がわざと兵を退却させ、損耗を減らしているところだった。

弓兵が大幅に減少した今、退路さえ確保出来ていれば歩兵同士の戦いでほとんど死者は出ない。

包囲されないよう、甘寧が巧みに指揮さえすればいいのだ。


曹操は歯噛みし、握り拳を作って怒りを抑えながら戦況を見つめる。

予備隊も動員し、乱戦状態で全く混乱している曹操軍左翼へ援軍に行くところだ。

すぐに張飛隊を片付け、若干手こずっている甘寧らも左翼から回り込み、始末するのだ。


だがその時荀攸の目に入った光景はあまりにも信じたくないものだった。

曹操はそれを目にした瞬間息を飲んだ。二人には理解できていた。

それは最悪中の最悪という事態である事を。


甘寧隊はこれ以上の犠牲を嫌って退却し、それを曹仁らが追っている。


そこへ救援に向かったはずの、夏侯惇率いる親衛隊らが趙雲、劉秀の五千の騎馬隊によって一瞬のうちに木っ端微塵にされ、今まさに劉秀らが本陣へ突撃してきているのだ。

しかも、そのうしろには裏切った兵が大量について来ている。


曹仁らは、甘寧の撤退に誘われ、本陣と離れてしまっているし、本陣の様子に気づけていない。

夏侯惇隊は言わずもがな。

左翼の曹操軍は乱戦の途中で、支離滅裂。


今曹操の本陣を守る物は何もなかったのである。


「総員態勢をとれ! 本陣を守るのだーッ!」


曹操は声が枯れるほど声を張り上げ、守備隊を召集する。

が、さっき色々動かして形が乱れ、数も減ったせいで曹操の周りの守備兵はまだ陣形が混乱しており、スムーズに陣を組んで防御することが出来ない。


全部計算のうちである。劉秀と趙雲は満面の笑みを浮かべて叫んだ。


「みなの犠牲はこのために! 曹操を討ち取るぞ!」


「楽進出ろ!」


楽進は守備隊責任者の一人であった。名将とうたわれる人物の一人。

曹操は荀攸とともに退却の太鼓を鳴らさせ、撤退。

この戦いは負けだと悟って逃げ始めた。

劉秀は、この時趙雲ら五千の兵に指示を下した。


「楽進と曹操は無視だ! これより張将軍を救出する!」


兵士は奮い立った。この戦い最高の殊勲者は何といっても張飛に他ならない。

張飛の守る右翼が突破されていたらこの戦い、勝てるものも勝てなかったであろう。

男として、そんな奮戦に心動かされないはずがない。


退却の音楽が聞こえ、武器すら投げ出して逃げる曹操軍の中、劉秀、趙雲の五千は血で道を作りながら朱い暴風のように突っ走る。

そんな中、ほんのわずかの勢力だけが勝敗の決した今でも戦っていた。


血まみれで左腕が上がらなくなっているが、それでも何とか馬の上に戻っている張遼とその腹心の部下達百人程。

そして同じく無数の生傷を負っている張飛とその部下数千。

全員疲労困憊、いつ死んでもおかしくはない。


「見ろ、将軍はまだ戦っておられる! 何という闘志か!」


おそらく、他の劉備軍は全員死んだか逃げたのであろう。

それほどの激戦をくぐり抜けた強者達だった。

だが、劉秀達五千を見たとたんさすがに張遼らはこれ以上の戦闘を諦めて逃げた。


目が合った張飛と劉秀は言葉を交わさず、馬の上で拱手をしたのみだった。

同じように血に濡れた二人の口元には笑顔が浮かんでいた。

張飛は手勢を率いて背後へ後退、劉秀はすぐに甘寧らの救援にも向かった。


甘寧らは、士気の落ち、数も激減した曹軍を執拗に攻撃しており、無数の首級を上げている最中であった。

劉秀らもそれに加わり、時をおかずして戦場から曹操軍の姿はなくなった。


劉備軍の犠牲者、数にして実に三万のうち五千。

そのうちほとんどが右翼の張飛隊であった。

張飛隊は三分の一を失い、壊滅したと言っていい。


逆に曹軍は張遼がこの後、治療の甲斐なく張飛に受けた傷で陣没し、更に曹洪が甘寧に討ち取られ、犠牲者は四万に達していた。


死んだ者だけでそれだから、逃げ出した兵を合わせると七万くらいを失ってしまったことになる。

で、何でここまで酷い事になったかというと、やる気のない兵士が混じっていたからである。


この中には仕方なく曹操に従わされていた劉キの軍や荊州の兵が多数混じっていた。

彼らはそんなにやる気はないし、むしろ曹操遁走後は積極的に寝返っていた。

曹操は彼らの扱いに少し悩んでいたのだが、結局三万の守備・予備兵として使うことにしていた。


その結果、夏侯惇に付き従った五千の予備兵は全く夏侯惇を援護しなかった。

わずか千騎で五千に立ち向かわざるをえなかった夏侯惇は劉秀趙雲に蹴散らされ、張飛を倒せと命じられた二万の予備部隊も全然戦わなかった。

むしろ、彼らを使わず七万の精鋭兵で来られた方が劉秀も困らされていた。


まあ、曹操はどのみち赤壁があろうとなかろうとこの時期大敗してしまい、天下統一が出来なくなる運命なのかもしれない。

いずれにせよ、劉秀は非常に劉秀らしい勝ち方で勝った。

彼は生前こういう言葉を残していた。


柔能(じゅうよ)く剛に勝つ」


敵軍を両翼で柔らかく受け止め、中央にいた劉秀と趙雲の精鋭部隊が小細工無しに鋭く一閃を返す。

まるで柔道か合気道のようなカウンターであった。

光武帝を尊敬し、研究していたはずの曹操もまんまと引っ掛かってしまった。


劉秀はとりあえず全軍を集めてから、全員に酒を配った。

多くの者が死んだ。兵達への労い以外にも弔いの意味を込めてだ。


「ふう……さあ諸君、勝利の杯だ!」


「乾杯!」


この酒は曹操の本陣にあったのをパクって来たものだ。

多分これを余裕こいて開戦前に飲んでいた曹操軍の兵士も結構いたのではないだろうか。


十万の兵に飲ませるにはあまり量は多くないが、二万にまで減った劉備軍には十分な量があった。


劉秀は、片翼を壊滅させるという非情な決断をした。

にも関わらず兵士達の雰囲気は明るい。


劉秀は、奮戦した兵士を労いながらも抜け目なく言った。


「これで、反曹操の気運は一気に高まるばかりか曹操自身の威厳と兵力も大幅に減った!

間違いなく荊州を守り切る力はなくなり、荊州から奴は手を引くだろう!

みんな喜べ! 我等が主君、劉玄徳に荊州という念願の根拠地が現れたぞ!」


兵士達の歓喜は筆舌に尽くしがたいほどに激しく、酒もあいまって、彼らの歓声はどこまでもどこまでも響いた。

その中には劉備に十年以上もの間ついてきた兵もいた。

ついに劉備が天下を目指す土地を手に入れた事への歓喜は言葉では言い表せない。


激戦をくぐり抜けた兵士達が満腹して沈静化したあと、更に劉秀は続ける。


「甘寧! そなたの指揮は見事であった。必ず主君にご報告し、将軍に取り立てていただこう!」


「ありがとうございます」


「それから、まだ走れる騎兵は五十騎出ろ!

半分は主君へ、もう半分は孫権軍への使者としてこの情報を伝えるのだ。

では行くぞみんな! 主君が窮地におられるかもしれん!」


その通りである。まだ曹操の連絡を受けていない曹の水軍は喜び勇んで城へ押し寄せていた。





















別に贔屓するつもりはなかったけど、この作品張飛と趙雲が随分活躍多い

特にここまで張飛の扱いがいい作品もないのではないだろうか。

以下、また下手なイラスト書いてみた。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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