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三国志の乱世を見てご先祖様が歎いておられるようです  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第1章 4匹目の龍 【7年後】
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光武帝、趙雲となかよしになる

「どうぞごゆるりと。賓客としてもてなします」


周瑜は心にもないことを言い、軍議は孔明、周瑜、 龐統、魯粛などの英才の力を借りて煮詰まっていった。

そのわずか数日後、同盟が成って喜んでいた劉備達のところへ一報がもたらされた。


「敵襲でございます! 曹操軍、水陸合わせて十万は下らぬ数です!」


「すぐに劉修を呼べい! 関羽、張飛、趙雲もだ!」


「はっ!」


急ぎ集まってきた丸腰の将軍達は、劉備の前で一斉に拱手した。


「主君、何事でございましょう!」


「劉修、孔明が帰れぬ今、曹操が攻めてきた!

数は十万である。この場で軍議を行う!」


「やっとですか。曹操め何をもたついておったのやら」


劉秀は驚くほど動じていない。この事態を予想し、既に孔明が孫権の許に向かっているから、というのもある。

だが劉秀が動じていない理由はもう一つある。

それは、自分と劉備軍の猛将がいる限り絶対負けないという自信があったからだ。


恐れとか焦りとか怒りとかは、自分と同等か格上の相手に抱く感情。

この劉秀にそれはない。彼は確かな根拠を持って、曹操への優越を確信していた。


劉秀は即座に作戦計画を話した。


「孔明先生の策は、あえて殆ど戦わず籠城し、孫権の援軍が来てから一転攻勢をかけるというものでございました。

しかし、将軍方の意志はそのような策の遂行にはありますまい」


「劉修の言う通りだぜ兄貴! 孔明はいつも攻めの策を出した。

だから俺達は従ったんだ。そんな弱腰の策は認めん!」


「し、しかし……」


「兄上、二人の言うこと、一理あり申す。

孔明の策は理解できますが、戦わずして籠城すれば曹操も怪しみましょう」


「この趙雲も同意見です。曹操は余裕でしょう。

十万の大軍を向けて来たのですから。しかし、だからこそ出兵をすることで意表をつけるのでは?」


「うむ……」


「ともかく情報を集めて作戦を立てましょう。

伝令、陸と水、どちらが早かった?」


劉秀の問いに伝令は元気良く答えた。


「陸軍はあと二日、水軍は風や天候次第ですが、あと五日か六日程での到着となると偵察兵が!」


「このことから見て、まず陸軍が城を包囲した後、水軍が川からの補給路と逃げ場を断つ気なのでしょう。

我が全軍は五万ですが……うち一万は水軍。三万は陸軍兵。残りは守備隊です。

私は三万で張遼率いる敵軍を迎え撃ちたいと思います」


「そんな無茶な! 泣く子も黙る張遼だぞ!

それに対して寡兵で挑むとは何たる無謀か!」


張遼軍はだいたい五万くらいだと思われる。劉備には正直、無理に見えた。


「我ら四人の忠誠、張遼の武勇、ぶつかればあるいは……」


「兄貴、俺も呂布に肩を並べる武勇と噂の張遼とはやってみたかった!」


「それに聡明な先生が、我々の気性を理解されていないはずがない。

孔明先生も、我々の抵抗に本当は期待しておられるはずです」


「そうなのか?」


「口には出されませんが、間違いなく……」


確かに孔明は、全く戦わないわけには行かないし、また残された血気盛んな劉備の配下が戦わないはずがない事もわかっていた。

劉秀はつづける。


「川からの上陸は足場が悪く、主君の差配による防戦あれば、これは容易に近づけますまい。

水軍は、陸軍の主将張遼からの援護を前提としているはず。

だから陸軍を先行させた。そこに隙が生まれたものとこの劉修は見受けます」


確かにそうだった。張遼の率いる五万への対応に追われる間に水軍が容易く攻めるのが敵の狙い。

そのため張遼には、まず迎え撃つ劉備軍を打ちのめして城に閉じ込め、川岸にて水軍を迎え撃つ防御施設などを焼き払ってもらう事を狙っていた。

それほどに主将張遼は信頼されていたわけだが、荀攸というこの作戦を考えた軍師も大したものである。


しかし戦に関しては孔明をも凌ぐ劉秀がいる場合、この戦略は破綻を見る。

でもまさか、荀攸にそれを予見しろというのはあまりに酷な話だった。


もう少し彼を弁護しておくと、荀攸をもってしても風次第で進む速度が変わる水軍が、陸軍とぴったり同じタイミングで到着するように調整するのは不可能だった。


水軍の進みが遅くなったので、仕方なく荀攸は陸軍が先行して水軍の邪魔を除いておくよう指示した。

リスクを考えれば、全軍同時にやって来るのが一番いい。

全部でやって来られたら、さすがの劉秀も孔明に従わざるをえなかっただろう。


「本当に……勝てるのか?」


「主君。お目をしかと開けてご覧ください。

目の前に何が見えますか。関雲長が、張翼徳が、趙子龍が、そしてこの劉修が、主君の眼中にはないというのですか」


「そうではないが……」


劉秀の恐ろしいところはその無自覚さにある。

彼は、将軍の意見を代表し、将軍達の気持ちを満足させて自然に自分の派閥を形成するという、恐ろしい事を行っているのに、誰も気づいていない。

当の劉秀すら気がついていないが、孔明よりも明らかに劉秀は人望があり、関羽を始めとした将軍は、戦争においては劉秀の言葉のほうが劉備よりも信頼に値するとすら考え始めていた。


劉秀は続ける。


「お三方の武名、今こそ鳴るべし。先鋒は翼徳殿に任せ、張遼と一騎討ちでもなんでもやって頂こうではありませんか」


「さすがだ! 劉修、お主はものをよくわかっておる!」


張飛はわがままが聞き入れられてご満悦だ。

劉備と関羽はあまり張飛を甘やかすなとばかりに呆れ顔だが。


「それに、主君。私は何も功を焦ってこのような進言をしている訳ではございません」


「なら、どういう意図があるんだ?」


「敵軍を倒しておかねば、あとで孫権にデカい顔をされるのは必定。

孔明先生は巧みに同盟を結びましたが、我々が情けなければ見くびられます。

侮られるは、今後の孫権との同盟を運用してく上で必ずや邪魔になってくるかと」


「ふむ、それも一理ある」


「お許し頂けねば私と翼徳殿の二騎だけでも参ります!」


「わかったわかった。雲長、俺と水軍や敵の別働隊が現れた場合に備え、城を守り防御施設を少しでも築く。

子龍、お前は翼徳を主将とした迎撃部隊を文円とともに副将として率いよ」


関羽は敵将張遼とは友なので、劉備は気を効かせたようだ。


「は!」


「文円、お前に作戦一切を任せる。俺は雲長とゆく!」


劉備は関羽を連れ、城の守りを少しでもマシにするため、事前に孔明の指示で進めていた防御施設の構築現場へ向かった。

そのまま、劉秀、張飛、趙雲の三人は話を続ける。


「策としては、まずここに川を渡るための小さな橋があります。

他にも橋がありますが、張遼の性格から言って、翼徳殿が立ち塞がれば立ち向かわずにはいられないたちでしょう。

あとは将軍、張遼を橋の前で撃ち破ってください。

我々は後方で先鋒の将軍に従います」


「ははは! 任せよ。この蛇矛で誰であろうと切り伏せてくれるわ!」


「ではまた……」


劉秀はひとまず作戦を伝えてこの場を去ったが、直後、密かに趙雲に使いの者をやり、趙雲の邸宅にやってきた。


「子龍殿」


礼をした劉秀に、趙雲は半笑いで答えた。


「さては翼徳殿に聞かせられない話でもおありかな」


「子龍殿に隠し事は出来ませんな……その翼徳殿の話です」


劉秀はニヤニヤ笑って奥へ入り、何か袋に入った荷物を持って趙雲の前へ座った。


「して文円殿、話とは?」


「正直に申しますと、張翼徳将軍の先鋒部隊は張遼の前に敗れるでしょう」


「なんと。あれほど将軍を称えておったのに、食えないお方だ」


趙雲も何となくそんな予感はしていた。

そう上手くは行かないだろうと、作戦を聞いて思っていたのだ。


「敵を欺くにはまず味方から。いくら張将軍でも敵軍は五万程でありましょう。

先鋒だけでは対抗出来ぬ。いずれは押され、敗走となりましょう」


「その公算が大きい……その撤退する先鋒を追う張遼を我々は?」


「そう、挟み撃ちにします。そのための演出ですから」


以前張飛は橋の前で曹操軍を恐ろしい暴風のような奮戦で撫で切りにし、許チョ、曹仁ら猛将すらも敗走させ大活躍したことがあった。


劉秀は、張飛にはもう一度それをやってくれと言い、張飛もやる気十分だ。

だが、張飛はあの時と状況が違うのでさすがにもう一度同じ事は出来ないであろう。


張飛は押され撤退。張遼はそれを追うが、橋を通るとき縦長にならざるをえない。

劉秀は今回も『縦敗横勝』の法則を利用した。

縦列は横列に勝てない。必ず負ける。


敵が抜け目ない名将でも、音に聞こえる張飛を討ち取れるチャンスが出来たら追うしかあるまい。

なんと劉秀は張飛を囮にし、この作戦一切知らせない気なのだ。


「将軍、お怒りになられませんか?」


「いや、将軍は武人です。むしろ張遼を押し返せなかったご自分を責めるはず」


「それもそうですね。勝てばいいんです、勝てば」


「お引き受け下さるか」


「もちろん」


「ははは、子龍殿が副将でよかった。雲長殿であれば上手く行かなかったかも」


「これは嬉しい事を。ところでそれは?」


「あ、これですか? これは私の宝物です」


言って、劉秀が持参した袋から取り出したのは美人画の数々だった。

武骨な趙雲はこれを見て苦笑した。


「美人画ですか。そういえば文円殿は我が劉軍でも指折りの地位。

女人からも引く手数多でしょうし、政略結婚の話もございましょう。

それにしてはご息女や細君の話を寡聞にして聞かぬが」


「妻子はおりません。麗華(れいか)という妻がおりましたが色々あって生き別れました」


「左様でしたか……申し訳ない」


「いや、お気になさらず。麗華はちょうどこの絵の女のような美しさだった。

ですが私がさる女と政略結婚して別れ、しばし顔を合わせなかったのです。

麗華とよりを戻すのに、それは苦労しましたよ……彼女をたくさん傷付けてしまった」


「なんと。そのような大恋愛の果て結ばれた奥方を失のうておられたとは」


趙雲は、まさか美人画からそのような重い話に繋がるとは思っていなかった。

劉秀の悲しげな顔をそっと見つめるが、別に平気そうなので彼は安堵の息を吐いた。


「もう一度会えるかもしれないと思うとこの身、何としてでも死なせられません。

その希望は殆どないに等しい。だが死んだわけではないから……」


夢のような話だが、自分と同じく若返った麗華と、この世界でもう一度二人で、などと劉秀が考えない事もなかった。

この麗華は、稀に見る賢后として有名な女性である。

更に彼女との間の息子も優秀で名君であった。

息子の教育にも成功し、一度は泣かせた女をもう一度幸せに出来た、人としての器量も劉秀の美点の一つと言えるだろう。


「見つかるといいですね」


「子龍殿の細君は?」


聞かれた趙雲は汗をかき、頭に手をやった。


「私のですか。困った、別に話すほどの事もありませんゆえ。

少々悪戯好きでございまして、年甲斐もない……娘のような女です」


趙雲は妻の悪戯がきっかけで死に、妻は自責の念のあまり自害したという民間伝承があるが定かではない。


「大切になさってください。それじゃあ、そろそろ行きましょうか」


「ああ、美人画忘れてますよ。こんなもの妻に見つかったら私が怒られます」


趙雲は自分の部屋に美人画を置いていかれそうになった。

それにかなり顔をしかめ、遠慮なく迷惑そうに抗議した。

これに笑って答えた劉秀。


「ははは、愛されてますな」


「全く、文円殿は大体いつもふざけてばかりいて……」


「失敬失敬。気持ちも解れたところで戦に行きますか」


「あの怪物張遼との戦。武者震いがします」


「ですな。ところで私の字は文円です。張遼の字は?」


「確か文遠だったかと。それがなにか?」


「あ、いえ……行きましょう」


発音が似ているというギャグのつもりだったのだが、趙雲が理解してくれなかったので劉秀もこのネタにはこだわらず、二人で軍を集め甲冑を身につけ、出陣した。

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