第二章「転校生」
-ある朝・HR後の教室-
クラスモブ1『なあ、となりのクラス、転校生が来たらしいな』
クラスモブ2『高校では珍しいよな。確かにとなり、さっきちょっと騒がしかったな』
クラスモブ1『女の子かな』
クラスモブ2『可愛い女の子だといいな。少女さん級の』
クラスモブ1『でもとなりのクラスじゃ意味ないよな』
クラスモブ3『男みたいだぞ』
クラスモブ1・2『『えええ』』ガックリ
~
クラスモブ4『となりに来た転校生、イケメンって噂!』LINE スッ
クラスモブ5『マズィ? あとで見にいくっきゃないっしょ』
クラスモブ6『あたし、今朝職員室でちょっと見たよ』
クラスモブ4・5『『ど、どうだった?』』
クラスモブ6『……マジイケメン』
クラスモブ4・5『『おー!』』キャイキャイ
~
少年(となりのクラスの話なのにすごい盛り上がってるな。やっぱり転校生イベントってすごいんだな)
<ガラッ>
転校生「すみません」
ザワザワ ~ ナンダナンダ ~ ダレ? ~ ザワザワ
クラスモブ6『あ、噂の転校生』
クラスモブ4『マジでイケメンじゃん!』
ザワザワ ~ アイツガ... ~ ヘエー ~ ナニシニキタンダ ~ カッコイイジャン ~ ザワザワ
転校生「少女さんいますか?」
クラスモブs (((((えっ?)))))
少年(えっ?)
少女「えっ?」
転校生「おー! 少女だよね」ズカズカ
少女「え、誰?」
転校生「僕だよ、転校生だよ。小学校のとき一緒だった」
少女「あー! おm…転校生くん? どうしたの?」
少年(今『おまえ』って言いそうになったな…)
転校生「どうしたって転校してきたんだよ。またこっちに引っ越してきたから」
少女「へえ、変わったわね! わからなかったわ」
転校生「少女は変わってないな。すぐわかったよ。でも昔のイメージと違って随分おとなしい感じになったな。一緒に泥だらけになって遊びまくったころが懐かしいよ」
少女「ちょっ、やめてよ! 昔の話は!」
転校生「いやいや、さらに美人になったよ。ははは」
少女「…」
転校生「いや、隣のクラスに少女の名前があったから懐かしくてね」
少年(どこで名前見たんだろう)
転校生「この学校で知り合い少女しか居なそうだしさ、色々学校のこととか教えて欲しいんだ」
少女「別にいいけど…」
転校生「もう1時間目始まるし、また昼休みか放課後、どこか別のとこでいいかな」
少女「じゃあ放課後に。ここに来てくれればいるわ」
~
ザワザワ
クラスモブ7『くう、俺の少女さんに気安く声を…』
クラスモブ8『おまえのじゃねーだろ。転校生の方がお似合いだったろ、美男美女で。なんか知り合いみたいだし』
クラスモブ7『言うな! おまえはいいのかよ』
クラスモブ8『どうせ俺には高嶺の花だからな。こうやって同じクラスにいてくれて、遠く眺めるだけでも幸せだよ。花だけにな』
クラスモブ7『安いヤツめ…。イケメンが憎い…俺なんかずっと同じクラスなのに』
クラスモブ8『だから、幼馴染ぽかったろ。もっと前からあいつは一緒だぞ』
クラスモブ7『おまえ、俺の心をえぐってくるな…』
~
ワイワイ
クラスモブ9「ねえ、少女さん、あの転校生と知り合いなの?」
少女「小学校の途中まで一緒のクラスだっただけよ。そのあと彼引っ越しちゃったから、もう何年ぶりかしら」
クラスモブ10「へえ。彼格好いいよね。どう、久しぶりに再会した幼馴染は? 結構少女さんとお似合い、みたいな…」
少女「いえ、別に…」
クラスモブ10(少女さん、告白とか断わりまくってるって聞くし、本当にあまり興味なさそう…もしかしてわたしにもワンチャン?)
少年(あのイケメン転校生、少女と小学校が一緒?)
-次の休み時間・少年のスマホ-
(なあ、あの転校生知り合いなのか? >少年
少女< ああ 幼馴染ってヤツだな
ただ小学校んとき引っ越していって何年も会ってなかったが)
(へえ、偶然だな >少年
少女< ちょうどよかった
頼みたいことがあるんだが、昼休みちょっと話せないか?)
(いいけど、なんの話? >少年
少女< そのとき話すわ じゃあ飯食ったらいつものところで)
(りょ >少年
-昼休み・校舎の外れの準備室-
少女「わりいな」
少年「いいって」
少女「今朝の転校生の話なんだが…」
少年「幼馴染なんだろ」
少女「ああ、懐かしいし、ぜひ旧交を温めたいところだが…」
少年「?」
少女「まず、オレの昔の男丸出しだった頃を知ってるわけだ」
少年「丸出しって、小学生だろ」
少女「ガキの頃、女の子の遊びより男の子の遊びの方が好きでな 。小学生くらいになると男のグループにいるとからかわれたり、男の方も女の子が入ってくるのを嫌がってな」
少年「小学生の頃ってそうだよな」
少女「素直に女の子のグループに入ってた方が絶対楽しかったろうにな。昔のオレに教えてやりたい」
少年「相変わらずだな!」
少女「そんな中、オレと一緒に『男の子の遊び』を付き合ってくれたのがアイツともう一人くらいだったんだよ」
少年「ふうん」
少女「虫捕りしたり、秘密基地作ってそこでヒーローごっこしたりな。ゲームやマンガもそいつが貸してくれた男の子向けのものを一緒にやったり読んだり…懐かしいぜ」
少年「いいやつじゃん」
少女「ああ。しかし今は昔と違う。オレもこの中身のことはまだおまえ以外に知られたくないし、昔みたいな調子で来られたらちょっと困る」
少年「そうだろうけど、さすがにお互い成長してるし、そんなことはないだろ。それに昔は男の子みたいだったけど、今はおとなしい女性になったなんてよく聞くじゃん」
少女「周りはそれで納得しても、アイツにとっては小さい頃のオレで記憶が止まってるし、頭でわかってても、小さい頃の刷り込みってあるだろうし…何よりオレが懐かしくなって色々さらけ出しちまうかもしれん」
少年「それは心配だろうけど、おまえこういうこと本当に心配性だよな」
少女「でだ。放課後あいつと会う約束したんだが、一緒に来てくれないか」
少年「えええええ!?」
少女「そのために会うのも放課後にしたんだよ。少年とその前に話したかったから」
少年「いやいや、無理ムリ! あの転校生となんの面識もない俺が一緒にっておかしいじゃん! 第一校内では俺と少女って接点がほとんどないように見せてるじゃん。校内のやつが見てもおかしく見えるって」
少女「確かにそんな場に男連れて来たら彼氏かもって思われるかもな。それはおまえに悪いか…」
少年「それ以前の問題で俺に悪いと思ってくれよ…」
少年(二人でいると俺に彼女ができないって心配してくれてるけど、そんなのどっちにしろできないだろうし、どっちかっていうと少女と付き合ってるって噂になった方が色々ヤバそう(俺の命的に)なんだけど…)
少女「じゃあさ、ちょっと離れたとこから見ててくれるだけでいいんだが…」
少年「そんなに心配なのか?」
少女「あいつ、昔はぽっちゃりした感じでカワいかったんだが、今はあんなシュッとしてるだろ」
少年「ああ、イケメンだよな」
少女「なんかリア充っぽい感じだし、すぐ口説いてきたりしそうだよな」
少年「さすがにそりゃ偏見すぎだろ」
少女「オレはイケメンを一切信用してない」キリッ
少年「おまえ…仮にも昔良くしてくれた幼馴染だろ…第一おまえ自体整った顔立ちだし、男だったらイケメンだろ、絶対」
少女「オレのことはいーんだよ! でもまあ確かにあいつ自体には恩もあるし、昔の懐かしい話もしたい。でも怖いんだよ」
少年「怖いって…」
少女「男はみんな狼だからな。女の身になってみないとわからねーよ…イケメンでリア充とか言われてる連中は気楽に、しかも自分に自信があるのかしつこく口説いてくんだよ…」
少年「イケメンじゃないけど俺も狼か? 他の女の子だって普通話するくらい…(っ! しまった、この言い方はまずかったか)」
少女「まあオレは普通の『女』じゃねーしな…」
少年「いや、そういうつもりじゃ…」
少年(こいつ、男友達ほしがってるわりに異様に男を恐れてたしな…クラスとかでも男との接点は俺だけだし)
少女「おまえの言うとおり、あいつはいいヤツだと思う。昔話もしたいし。だから今回の話もOKしたんだが、そうじゃなければ断ってた」
少年「そうか…(なんか実際怖い目を見たのか?)。さすがに一緒にってのは無理だけど、離れたとこで見てるんでいいならやるよ」
少女「そうか、すまんな。いや、ありがとう」
少年「どっちにしろ言うとおりにするけどさ、例えばクラスの女の子と一緒とかじゃダメなのか?」
少女「おい、ボッチなめるなよ」
少年「いやいや、昼たまに女子と食べてるし、今朝もなんか女子と話してたじゃん!」
少女「飯は誘われたときだけだ。話もな。普段話しかけるなオーラ出してるからあまり誘われん」
少年「それ自発的だったのかよ!」
少女「いや、自発的でもないけど、おとなしいキャラを演じてるとどうもそうなってしまう。でもこの中身がバレるよりボッチのほうがまだマシだしな」
少年「…」
少女「まあ放課後のことは恩に着るよ。よろしく頼む」ペコ
少年「別に他に用事もないしいいさ。さて、そろそろ戻ろうぜ」
少女「ああ」
少年(何かと思ったらこんな話だったとは。リア充・イケメン○ねは俺もいつも思ってるが、幼馴染に対してもか…まあ確かに少女にとっては色々あるんだろうな。転校生とは何もないとは思うけど…)
-放課後・教室-
少年(なんだ? 廊下から例の転校生の声が聞こえてくる)
転校生「いや、本当だよ!」
隣クラスモブ1「ははは! ウソだろ?!」
隣クラスモブ2「まじ半端ねぇなあ、転校生!」
隣クラスモブ3「ねえ転校生くん、その話、続きあるんでしょ?」
転校生「だからないって! はは」
隣クラスモブ4「またまた~w」
少年(リア充すげえ…転校たった1日で男女問わず…コミュ力の化け物か)
転校生「じゃあ悪いけど、この後約束あるから…」
隣クラスモブ1「ああ、隣のクラスの少女さんだろ。羨ましいぜ、あの子と幼馴染とか」
隣クラスモブ3「少女さんって、小学校の頃ってどんなだったの?」
転校生「いやあ、それは本人の許可を得ないと僕からは言えないよ!」
隣クラスモブ5「えー、意味深!」
転校生「いやいや! 普通の子だったから!」
少女(ぐぐ…)ビキビキ
<ガラッ>
転校生「少女さん!」
少女「…じゃあ行きましょうか」チラ
少年(オッケー)チラ
-校庭の外れ・ベンチ-
転校生「いやあ、本当に少女は変わったなあ!」
少女「今朝は変わってないって言ってたわよ。変わったのはあなたの方よ」
転校生「見た目じゃなくて、雰囲気がね。ちょっとあの頃からは想像できないよ」
少女「あんな小さかった頃だもの。成長もするわ」
転校生「そりゃ僕だって秘密基地作ったり泥だらけでかけっこしたりはもうしないけどさ」
少女「わたしだって女なんだから、ずっと男の子のようではないわよ」
転校生「『わたしだって』って言うまでもなく少女は綺麗な女性じゃない。美人になったし!」
少女「美人かどうかは知らないけど、あまり昔の話を周りでしてほしくないの。恥ずかしいから」
転校生「それは気をつけてたつもりだけど…」
少女「今朝わたしの前で昔の話をしてたし、さっきもわたしの小さい頃のことを意味ありげに話してたでしょう」
転校生「朝のことはゴメン! あとさっきの聞こえてたか…否定したつもりだったんだけど…」
少女「それはもう済んだことだしいいわよ。それより学校のこと聞きたいって言ってたけど、あのお友達たちに聞けばよかったんじゃない」
転校生「いや、実はそれは方便でさ、本当は少女と昔の思い出話をしたくてね。あの裏山の秘密基地だけど、まだあったよ」
少女「まj…本当に!?」
転校生「こっちに引っ越して来て懐かしくてね。すぐに裏山に行ってみたよ。あの頃は小屋みたいな感じがしてたけど、今見ると小さなただの物置だね」
少女「わたしはあれ以来裏山なんて行ってないから…」
転校生「あのあと誰にも見つからなかったのか、ゴミとしても処分されなかったのか、まだ中にあのときのマンガがあったよ」
少女「ええ?」
転校生「多少湿気ったような感じだったけど、まあよく残ってたよね。あ、そうだ。写真は撮ったよ」スマホ スッ
少女「あー本当ね! こんなとこだったわ。懐かしい!」
転校生「これがそのマンガ」スッ
少女「懐かしいわ。何か段々思い出してきた。これの最終巻、結局読めなかったのよね」
転校生「懐いな。そうそう、どの店にもなくて。今考えればちょっと待てば再入荷とかしたんだろうけど」
少女「そのあと買えないままあなたが引っ越しちゃって、結局わたしも自分じゃ買わなくて…」
転校生「どう、実際に見に行かない? 秘密基地」
少女「今から?」
転校生「いやいや、別にいつでもいいけど」
少女「いえ、やめとくわ。裏山探検って歳でもないし、さすがに女性が入り込んでいくところではないわ」
転校生「そうかー。本当に変わったなあ。いやゴメン、そうだよね。なんか僕の中ではあのときの少女のままだからさ」
少女「昔は昔よ」
転校生「そうだな。あ、じゃあそうすると、今はもうカレシとかもいるんじゃない?」
少女(来たな…)
-校庭の外れ・茂みの中-
少年(来たな…こうやって付いて来たんだからいないこと前提のクセに『いないわ』→『じゃあ僕はどう?』ってパターン!)
-ベンチ-
少女「…別にいないけど…そういうの今は興味ないし(男に対しては今後もないけどな)」
転校生「ふうん、可愛いから絶対いると思ったけどなあ。いや、こうやって来てもらってから言うのも何だけど、カレシがいたら悪いなって。っていうか、そうだったら僕殺されちゃうか!」ハハハ
少女「…(さあ、この後どう出る? 最悪は少年もいるし、もうどうとでも来いだ)」
転校生「いやゴメンゴメン。こういうのもセクハラになるのかな」
少女「別に同級生なんだし…」
転校生「いなくて良かったけど、あまりこうやって二人で会うのも変に誤解を周りに与えちゃうかな。でもやっぱり少女と話したかったんだよ。僕にとってはあの頃が一番楽しかったんだ」
少女「わたしも楽しかったわ。夏休みなんか永遠に終わらないかと思ったし、ずっと続けばいいと思ってたわ」
転校生「夏休み! あれ覚えてる? 変なアミ持って虫捕りに行ってさ…」
少女「え、あのクワガタ事件?」
転校生「そうそう!」ハハハ
少女「あれはヒドかったわ…」
転校生「まあまあ!」
-茂みの中-
少年(俺の知らない話題で盛り上がってる…少女楽しそうじゃん。昼休みに言ってたことは杞憂だったな。彼氏の話から口説きにもならなかったし)
-ベンチ-
転校生「ははは…話は尽きないけどさ、あまりずっと一緒にいてもまずいかな…」
少女「そうね。でも今日は昔を思い出せて楽しかったわ」
転校生「もっと話していたいけどなぁ。そうだ、二人きりだと確かになんだから、今度は僕のクラスのやつと一緒に話さない? あ、少女のクラスの人たちを連れて来てもらってもいいけど」
少女「知らない人たちの輪に入っていく勇気はわたしにはないわ。第一自分のクラスの人たちだったとしても、子供の頃の話は周りに知られたくないって言ったじゃない」
転校生「だよねー」
少女「もう、忘れてたでしょう」
転校生「ははは」
少女「また機会をみて話をしましょう」
転校生「そうだね。あ、LINEのQRいい?」
少女「ええ」
~
転校生「じゃあまた明日!」
少女「ええ、またね」(さてと…)
少女(よし、もういなくなったな。少年のところに行ってと…)
少女「おい、少年、もういいぞ」ヒソヒソ
少年「いや、今出てっておまえと一緒になるのもアレだろ。このまま今日は別れよう」ヒソヒソ
少女「すまんな。本当にありがとう」ヒソヒソ
少年「大丈夫だったろ?」ヒソヒソ
少女「…そうだったな。でもまあおまえがそこに居てくれたからこそってのもある」ヒソヒソ
少年「楽しそうだったよな。よかったじゃん」ヒソヒソ
少女「ああ。でも転校生、本当に変わったなあ」ヒソヒソ
少年「ああ、ポッチャリ少年だったんだっけ」ヒソヒソ
少女「それもあるが、あんな『ウェ~~イwww! レッツパーリィーナイッwww!』みたいなヤツではなかったんだが」ヒソヒソ
少年「そういうパリピバリバリな感じでもなかったろ!」ヒソヒソ
少女「まあ、そういうリア充臭に満ちたヤツではなかったんだよ」ヒソヒソ
少年「ふうん。まあ人は変わるしな。あのコミュ力で女子グループに入れないおまえとも遊んでたんだと思ったよ」ヒソヒソ
少女「まあ、当時確かに一緒に遊んでくれたのは嬉しかったよ」スマホ サッ ヒソヒソ
少年「ん? 電話かけんのか」ヒソヒソ
少女「いや、独り言言ってるみたいだからかけてるフリをな」ヒソヒソ
少年「じゃあもう俺らも電話でいいじゃん。ははは」ヒソヒソ
少女「ははは。そうだな。ずっと茂みに入っててもらってんのに悪かった」ヒソヒソ
少年「それはいいけどさ」ヒソヒソ
少女「まあ、今日の礼は改めて。こんなとこで悪いけど、また明日な」ヒソヒソ
少年「ああ、またな」ヒソヒソ
-ある日・教室-
ウィーッスw
キャイキャイ♪
ワイワイ
少年友「あー、世界滅びねーかなぁ」
少年「物騒だな」
少年友「いや、滅びるのは女とイチャイチャしてるやつだけでいい」
少年「それでも早晩世界は滅びるな」
少年友「ああ、俺も女の子とイチャイチャしてえ」
少年「おまえ、言ってることメチャクチャだな」
少年友「できれば少女さんとイチャイチャ、いや付き合いてえ」
少年(相変わらず少女は人気あるな…)
少年友「くそう、なんか少女さん居ないし…まさかあのイケメンクソ野郎が…」
少年(相変わらず転校生は嫌われてるな、俺ら陰キャに…。結構いいやつなのに)
少年友「まあ おまえといると落ち着くよ。女に縁のない同士だし」
少年「勝手に決めつけんな」
少年友「だって女の子から話しかけられることなんてないだろ」
少年「まあな(少女はノーカンだよな)」
クラスメイト(女)「ねえ、少年くん!」
少年友「なにぃっ!?」
少年「え、なに?」
少年友(クラスでも少女さんに次ぐ美少女と言っても過言じゃない、ボクっ娘のクラスメイトさんが、なぜ少年のところに?!)
クラスメイト「少年くんって少女さんと付き合ってるの?」ズバァ
少年「ブフォォ!!」
少年友「えええええ! いやいやなんでそんな話に?」
少年「そ、そ、そうだよ! なんで付き合ってるなんて思ったの?」
クラスメイト「だって、この前転校生くんと少女さんが話してるとき茂みの中から見てたみたいだし…」
少年「わーーー!」
少年友「おまえ普段少女さん興味ないみたいなこと言って、ストーカーばりに興味津々じゃん」
少年「そうそう! ついストーカー的なことを…(あああ…俺の評判が…)」
クラスメイト「そのあと少女さんと話し込んでたし、教室でもいつもアイコンタクトしてるし、よく準備室で…」
少年「わーー!わーー!わーー!!」
少年「そ、その話は、あっちでしない? ハハハ」バッ
クラスメイト「あ、うん。わっ!」グイッ
少年友(あいつ、クラスメイトさんの手を取って外に行きやがった…くそう、あいつも敵だったか)グス
少年友(まあ少女さんと付き合ってるっていうのはクラスメイトさんの勘違いだろうけど…あいつなんの接点もないし。ああ、本当に世界滅びねーかな…)ポロリ
~
クラスメイト「少年くん、急に引っ張られたら痛いよ」
少年「あ、うわわわ!」バッ「ご、ごめん! つい手を…」///
クラスメイト「それはいいけど、付き合ってること秘密にしておきたかったの? だったら教室でいきなり聞いちゃってごめんね」
少年「いや、秘密も何も、付き合ってないから!」
クラスメイト「え、だってこの前二人でゲームセンターに入って行ったり、公園でご飯食べてたでしょ。てっきり公認なのかと」
少年(そこも見られてたぁ! 離れた街に行ったり、公園も人通りのないとこで食べてたのに…)
クラスメイト「ボクの勘違いかもしれないと思ってたんだけど…よく見るといつも二人で目で会話してたり、なんかよく準備室に二人きりで入って行ったり…」
少年「準備室」ヒヤッ「…俺たちの話、聞いてた?」
クラスメイト「はは、まさか! プライバシーは守るよ!」
少年(ホッ…しかしそこまで見られてたとは…家によく遊びに行ってることまではバレてないよな…)
少年「もう十分プライバシーは侵害されてる気も…」
クラスメイト「ごめんごめん。じゃあ秘密にしておけばいいのかな。でもボクは二人を応援してるよ!」
少年「だから付き合っていないです!」
クラスメイト「ふふふ。同じクラスのボクにまで秘密にしなくていいのに…」
少年「付き合ってはいないけど、秘密にしておいてくれると助かるんだけど…」
クラスメイト「うんうん! わかってるよ!(パチッ)」ウインク
少年「…」(仕方ない、誤解は後から解こう。今はこれ以上広がるのを阻止しないと…後で少女とも相談しないとな…)
~
少年「ふう、やれやれ」チャクセキ
少年友「あ、少年さん、おかえりなさい」
少年「え? どうしたんだよ」
少年友「おや、こんな陰キャのどクソ野郎にもお声をかけていただけるとは。さすがクラスメイトさんとイチャイチャできる方は違いますね」
少年「やめろよ…なんかクラスメイトさんが勘違いしてたみたいだから説明を…」
少年友「うるさい。貴様も結局リア充野郎だったか…」グス
少年「泣くなよ…」
~
-校舎のはずれ・準備室-
少年「大丈夫だったろうな」
少女「ああ、いつもよりさらに注意して来たよ。つけられたりはしてないと思うが…しかしクラスメイトさんが…」
少年「ああ。まさかあそこまで見られているとは…」
少女「オレからも否定しておこうか」
少年「いや、それは意味がない…って言うか逆効果な気がする」
少女「そうだな…」
少年「もうこうなったら、公式に俺たち付き合ってるってことにしてもいいけど…そうしたらおまえへの告白も無くなるだろうし、いつでも堂々話せるし、遊べるじゃん」
少女「偽装交際な。でもそれはダメだ」
少年「俺、別に彼女作るつもりもないし(作れない、が正しいが)」
少女「うそつけ。一緒にモテるためのシミュレーションまでしたじゃねーか。もしおまえのことを想ってる子がいたらその子も傷つけるし、そんな芽まで潰したくねえ」
少年「いや、そういうのないから…」
少女「おまえは自己評価が低いな。クラスメイトさんと手まで繋いだんだろ」
少年「だからそれはとっさに…」
少女「でもそんなに嫌がらなかったんだろ。第一ふつうに声かけて来たっていうし…羨ましいぜ、クラス一の美少女に…」
少年(クラス一はおまえだ)
少女「とにかく、おまえはいいやつだ。オレが女なら惚れてるぜ?」
少年「女だろ…まあ今度女モードのときそれ言ってくれ。それより、どうやってクラスメイトさんの誤解を解くかだ。クラスメイトさんだけに偽装交際を打ち明けて、口外しないように釘をさす、つまり今の状態でもいい気がしてきた」
少女「それもダメだ。クラスメイトさんが約束を破るとは思えないけど、どこから漏れるかわからんし。もし彼女の周りでおまえを好きなやつがいて、彼女に相談したりしたら…」
少年「恐ろしく低い可能性だな」
少女「クラスメイトさん自身がおまえを好きになる可能性も…」
少年「それはゼロだな」
少女「とにかく、万一全校にバレても問題のないストーリーにしておいたほうがいい。別に交際じゃない、というか男女の付き合いじゃないってことにすればどうだ」
少年「どういうことだ?」
少女「いわゆるタダの友達、男女間の友情で付き合ってるみたいな」
少年「うーん、でもそれってまず信用してもらえないだろ。とくに突然じゃ…」
少女「じゃあ転校生みたいに、実は幼馴染だった、っていうのは? 今も転校生とはチラチラ話してるし。今まで恥ずかしくて言えなかった、でも二人は兄妹みたいなもので恋愛感情はないとか」
少年「本物の幼馴染の転校生がいるわけだし難しそうだな…幼馴染で付き合うってのもよく聞くし…」
少年「待てよ、兄妹…?(なぜおまえが妹かは置いといて)いっそのこと実は生き別れの双子の兄妹とかにするのは? 別々の家に貰われて行ったから名前も違うみたいな」
少女「それはハードルが高すぎるな…ドラマかよ」
少年「あ! だったら少女には実は婚約者がいることにすれば…彼氏だと日頃から『興味ない』とか言ってるからさ。友達だろうが幼馴染だろうが、俺と一緒にいてもくっつくことはないとわかるし」
少女「生き別れの双子とか高校生で婚約者とか、この現代日本でおよそありえないこと言われてもな…。ドラマやマンガの見過ぎだぞ」
少年「ぐう」
少女「まあ生き別れの双子まで言わないけど、遠い親戚ってことでどうだ。親戚状況なんて学校のやつや幼馴染だって知らないし」
少年「なるほど」
少女「イトコ、いやハトコってことにして、それこそ兄妹みたいに育ったって…」
少年(ハトコはおろか、イトコも結婚できんねんぞ…でも少女が乗り気ならそれで行こう)
少女「さっきもあったけど、今までは恥ずかしくて隠してたけど、付き合ってるとか言われたから言うことにしたとかにして。それでもクラスメイトさんに冷やかされたら、オレから『じゃあ少年に彼女を紹介してあげて』とか言おう。これで付き合ってるようには思わんだろ。そしてこのことも絶対周りに言わないように釘をさして…」
少年「ふうむ、それで行ってみるか」
-翌日・準備室-
少年「というわけで、今まで黙ってたけど少女とは親戚同士でね。色々からかわれそうだから黙ってたんだ。昨日言おうと思ってたんだけど、一応少女の了解を得てからと思って」
クラスメイト「本当に付き合っていないの?」
少女「ええ。勘違いをさせてしまったようでごめんなさい。もし少年にいい人がいたら紹介してあげてほしいわ」
少年「おい、よせよ!」ハハハ
クラスメイト「ほわー、すべてボクの早とちりだったかぁ。少年くん、少女さん、ごめんなさい!」
少年「いやいや、ちゃんと親戚だってことを言っとけばこんな勘違いもなかったし」
クラスメイト「そうかー。なんかアイコンタクトしてるのも、ここによく来てるのも最近からだから、最近付き合い始めたんだとばっかり…」
少年「(ギク)いや、外で二人でいるとこ見たから、それから俺らのことがよく目に付くようになったんじゃない?」
クラスメイト「そうかなあ…あ、ごめんね、また勘違いを重ねるところだったよ! とにかくハトコだっけ?親戚同士のことは秘密なんだね。よくわかったよ!」
少女「申し訳ないけど、お願いするわ」
クラスメイト「うん、ボクたち三人の秘密だね!」
-廊下-
少年(ふう、やれやれだったな…)
転校生「やあ、少年くん!」 ニコニコ
少年「え、転校生くんだよね? えっと、俺の名前知ってるの?」
転校生「君だって僕の名前知ってるじゃないか」ニコリ
少年「だって有名人じゃない。少女さんとこに来てたし」
転校生「ははは。転校早々悪目立ちしすぎたかな。それよりちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」ニコニコ
少年「うん、いいけど…」
転校生「じゃあ、ちょっと向こうの隅に…」
~
少年(いったい何の用だろう…)
転校生「君は少女と付き合ってるのかい?」ズバァ
少年「ブフォォ!!」
少年「え、な、なんでそんな話に?」
転校生「昨日クラスメイトさんが君に確認したらしいじゃない」ニコニコ
少年(え、もうクラスメイトさん話しちゃってた?)
転校生「そんな話を君のクラスの人から聞いたよ。君とクラスメイトさんの名前も一緒にね」
少年(ホッ、クラスメイトさんからじゃなかったか。だったら…)
少年「いや、あれはクラスメイトさんの勘違いなんだよ」
転校生「なんでそんな勘違いを?」
少年(う、ゲーセンのことや準備室のことは言えないし…)
少年「さ、さあ…」
転校生「ふうん。でも君、この前僕と少女が話してたのを隠れて聞いてたって言うじゃない。やっぱりカレシだからかい?」
少年「あのときは盗み聞きなんかしてごめん! ついクラスのマドンナ少女さんと転校生くんとの関係が気になっちゃって…」
転校生「マドンナって…ははは。いいよ、実は盗み聞きもお互い様でね。準備室での話、聞いちゃったんだ」
少年「えっ!!」(あの言い訳の相談聞かれた? いや、それより男モードの少女まで!!)
転校生「いや、ごめんごめん。少女とクラスメイトさんと君の3人で入っていくからなにかなと思って」
少年(ホッ さっきのやつか。でも少女が言ってたとおりどこから漏れるかわからないな。親戚シチュを用意しといてよかった)
少年「あれ聞かれちゃったか…だったらクラスメイトさんに言ったとおりだよ。なんだ、知ってたのか。人が悪いなあ」
転校生「ははは。この前僕らの昔の話を聞かれたからね、ちょっとしたお返しさ。ハトコどうしなんだって?」
少年「ああ、うん。できればこのことは秘密にして…」
転校生「うん。でもそれ嘘でしょ、親戚っていうの」ニヤ
少年「(っ!!!)え、ウソじゃないけど…(ドキドキ や、やっぱり昨日のも聞かれてたのか…)」アセ
転校生「子供のとき少女のお母さんから、少女のお爺さん・お婆さんは全員一人っ子でお母さんにもお父さんにもイトコは居ないって聞いたもの」
少年「(っ! マジか…)え、それ…(くっ、これがウソかも、っていうかあからさまにウソくさいし…)あの、いや、そんなことはないっていうか…」
転校生「ははは。本当に親戚ならすぐ答が返ってくるはずだよ。そんなに動揺しないで」
少年(やっぱりカマかけだったのか? クソ…)アセ
転校生「おっと…さすがにあのときのお返しにしてはやりすぎだった…」
少年「?」
転校生「ごめん! 実はさっきの準備室の話を聞いて、本当のところを確認したかったんだ。でも盗み聞きだし、素直に聞けなくて…」
少年「ええええ!」
転校生「なんか少年くんがすごい焦ってるのが面白くて、ついいつもの友達にやるみたいな悪ノリを…本当にごめん!」
少年(これがリア充のノリか…※)
※違います
少年「でも確かに先に盗み聞きしてたのはこっちだし…あと本当のところって言われても…」
転校生「僕らの話をこっそり聞くくらいならただの野次馬かと思ったけどさ、親戚だなんて嘘をついてまで関係を誤魔化すってことは、やっぱり特別な関係じゃないのかと思ってね」
少年「なんでウソだと思ったの? 実際俺たちは…」
転校生「まあまあ。少なくとも子供のころ親戚はみんな年が離れてて遊んだことないってこと言ってた気がするし」
少年(何が幼馴染でも親戚状況までは知らないだよ…)
転校生「さっきのやりとりで確信はしたけど、他にも少女が子供の頃の髪型とか分かる?」
少年「それは…(ここまできたらもう認めるしかないか…)わからないよ…転校生くんの言うとおりハトコとかじゃないから…」
転校生「あっ、別に君たちのことを何か暴こうとか、クラスメイトさんや学校中に言い触らそうとか、そういうつもりじゃないんだ! ちょっと悪ふざけが過ぎちゃって信用してもらえないかもだけど…」
少年「…」(何が言いたいんだ? というか目的はなんなんだ?)
転校生「ベンチでの話を聞いてたなら、僕が少女にカレシがいるかどうか確認してたのも聞いてたと思うけど、もし君がカレシなら本当に申し訳ない。申し訳ないんだけど、やっぱり少女と昔の話とかもしたいんだ。そのことを言いたかったんだよ」
少年「たしかにハトコじゃないけど、俺は彼氏でもないよ。だから俺には気を遣わなくていいけど…。少女だけどさ、恋愛に興味ないって言ってたろ」
転校生「ああ」
少年「あれは本当なんだ。だから俺とも付き合ってるとか、そういうのは一切ないんだ。でも男女間の友情とかそんなの信じられないだろ? それにあの少女だ。絶対おもしろおかしく噂にされるに決まっている。だから無理矢理親戚ってことにしようとしてたんだけど…幼馴染の転校生くんには通じなかったよ」
転校生「ふうむ。普通の友達ってことか。最初から言ってくれれば良かったのに。僕は信じるし、他の人にも言ったりしないけど…もし冷やかされたりしても時間が経てばおさまるし、みんなもわかってくれるんじゃ…」
少年「少女って何もしてなくてもあんな感じだろ。少しでも目立つのが嫌いなんだよ」
転校生「ふうん、本当に変わったみたいだね、少女。じゃあ遠慮なく少女とは昔話に花を咲かせてもらうよ!」
少年「遠慮も何も俺のことはいいからさ。それより確認したかったなら、少女に訊けば良かったのに。話したこともない俺に訊くより訊きやすいでしょ」
転校生「うーん、1回少女には訊いてるってのもあるし、カレシの許可を取るつもりだったし…その前に盗み聞きの話だからさ。申し訳ないけど君の方がカミングアウトしやすかった」
少年「なるほど、悪いことはできないな」
転校生「ははは、全くだね」
少年「ところで、転校生くんはもしかして少女のこと好きなの?」
転校生「ああ、好きだよ」シレッ
少年「…!?」
転校生「ははは、もちろん幼馴染としてね。そりゃあんなに美人になった少女だもの、みんな放っておかないだろうけど、僕にとっては昔の少女なんだよ。カノジョ、って言うより、泥だらけになって一緒に遊んだ幼馴染って言う方がしっくりくる」
少年(少し羨ましくもあるな…)
転校生「君がカレシだったら、そんな話もして少女とは何もないことをアピールするつもりだったんだけど」
少年「なるほど」
転校生「でも校内の話とか君の話を聞くと、今の少女はあまり友達も作らないようにしているふうにも思えるんだけど、君たちはどうやって友達になったんだい? とくに男の友達は少女にとってハードルが高くないかな…」
少年「それは…いや、転校生くんだって男友だちじゃないか」
転校生「はは、そうだね。詮索するようなこと聞いてごめん。さっき言ったとおり友達どうしっていうのは信じてるんだけど、ちょっと不思議だったからさ。君の方こそ友達からのランクアップを考えてるなら、僕は応援するよ!」
少年「いや、それはないから…」
少年(クラスメイトさんも転校生くんも冷やかしたりやっかんだりしないで応援してくれるんだな。まあ意味ないし無駄なんだけど…)
転校生「あんなに美人だし、いい子だし、おすすめなのになあ。ははは」
少年「ははは…」
転校生「今日はなんかふざけて驚かせたり、根掘り葉掘り聞いたりしてごめん。よかったらLINE交換してくれないかな。転校したてでまだ友達あまりいないんだ」
少年「(あれで『まだ』だと…)うん、いいよ」QR コードスッ「でもこのことはやっぱり秘密にしていてくれるかな」
転校生「それはもちろんだよ! じゃあ隣のクラスだけど、これからよろしく!」
少年(これでもうこいつの『友達』の一人になったのか。リア充すげえ)
-スマホ-
(これから長文を送るけど、絶対に誰も見てない
ところで開けてほしいんだ いいかな >少年
少女< おう なんかわからんが了解)
(実はあのあと転校生くんに会って…
~
…ということでせっかくの親戚作戦も彼にはバレて
しまったんだ ごめん 一応口止めはしといたけど… >少年
少女< ふうむ まあしゃーなしだな
そういえばあいつに親戚の話したことあるかも…)
(いや、俺がもっとちゃんと立ち回ってれば親戚で
押し通せたと思う >少年
少女< まあお互い過ぎたこと言ってもしょうがない
こうなったらある程度本当のことを言っておいた方が
いいかもな)
(えっ、まさかおまえの中身のことは言わないよな >少年
少女< まさか
でも中身のことっちゃあことだな
あいつ、オレの子供ころの嗜好を知ってるから
実は今もアニメやゲームが好きで、隠してたけど少年に
バレて今はその話題で色々少年に世話になってることに
しよう これは親戚みたいに嘘じゃなく本当のことだし)
(わざわざ言う必要あるかな >少年
少女< なんで友達になったか訊いてきたんだろ
またカマかけられて色々聞き出されるかもしれんぞ)
(あのときはもう訊かない…とは言ってなかったか…
たしかに気にはなってるのかも >少年
少女< まあオレからその話は転校生にしておくよ
結果は報告する)
(わかった お願いする >少年
~
少年(大丈夫かな…)
-翌日、校庭の外れ・ベンチ-
少女「呼び出してごめんなさい」
転校生「だいたい何のことかはわかるよ。昨日少年くんと話したことだよね」
少女「そのとおりよ。少年くんから聞いたわ」
転校生「だから少年くんも一緒だと思ったんだけど…」
少女「三人で集まったりしてまた目立つと嫌だわ」
転校生「ははは。昨日はみんなの話を盗み聞きしてしまったからね。ごめん」
少女「だからあまり大きな声では話さないでね。一応周りの茂みはさっき見たけど…」
転校生「あはは!…っと失礼…。昨日は少年くんをからかうようなことになっちゃって悪かったと思っているよ」
少女「それは少年くんに言ってあげて」
転校生「そうだね。改めてお詫びはするよ」
少女「その少年くんとは付き合ってるとかはないんだけど、それで冷やかされたり騒がれるのは嫌なのよ」
転校生「それは聞いたよ。友達なんだよね。僕は信じてるし、絶対誰にも言わないよ!」
少女「それはぜひお願いしたいの。騒がれたりも嫌だけど、そんな噂で少年くんに彼女ができなくなっては悪いわ」
転校生「それは少女も一緒じゃない?」
少女「わたしはそう言うのに興味ないし、彼氏とか作るつもりはないから。でも少年くんは違うわ。なんなら転校生くんから誰か紹介してあげて欲しいわ」
転校生「それクラスメイトさんにも言ってたね…でも本当は少年くんが少女のことを好きだったら? あ、これは冷やかしとかじゃなくて」
少女「それはまずないけど…もしそうだとしてもわたしが断るから、どっちにしろそうはならないわ」
転校生「じゃあ、僕が少女を好きだと言ったら?」
少女「それも少年くんから聞いたわ。幼馴染としてでしょ」
転校生「ありゃ、少しくらい焦ると思ったのに…」
少女「なんで少年くんとわたしが友達になったか不思議なのよね」
転校生「まあぶっちゃけて言うとそうだけど、それは他人が首突っ込む話じゃないよね。それについてもすまなかったよ」
少女「でもその疑問をそのままにしておいて、またあなたが暴走するといけないわ」
転校生「おぅ、厳しいな…」
少女「これは少年くんと友達、ってこと以上に絶対知られたくないことなの。でもあなたは昔のわたしも知っているし、本当のところをわかってもらってたほうがいいと思って」
転校生「…真剣な話なんだな。心して聞くよ」
少女「もう昔のような、男の子みたいじゃない、って言ったけど…実のところは変わってない部分もあるのよ」
転校生「それは…?」
少女「本当に恥ずかしいんだけど、いわゆる男子が読むようなマンガやアニメ、あとゲームなんかがいまだに好きなの」
転校生「意外だな…いや、僕にとっては昔のとおりで意外じゃないけど、こんなに女性らしくなった少女だし、この前聞いたみたいにもう昔の少女じゃないと思ってたよ」
少女「流石に裏山で走り回ったり虫捕りしたりはしないけどね」
転校生「ははは」
少女「ただでさえクラスで浮いてるのに、そんなことがバレたら…」
転校生「まだ数日しか知らないけど、少女はわざと周りと距離を置いてるのかと思ってたけど」
少女「…そうね。そういうところもあるわ。でもそんな趣味がバレたらなにを言われるか…。とにかく絶対に秘密にしておきたいの」
転校生「それはわかったけど、少年くんとの話は…」
少女「このわたしの趣味がきっかけなの。そういう本なんかは学校に絶対持ってこないんだけど(実際持ってきたことはないがな)、あるときどうしても読みたい新刊の単行本を朝コンビニで買っちゃって、帰るまで我慢できなくて学校で読んでたのよ。そうしたら少年くんに見つかっちゃって…」
転校生「え、どこで読んでたの?」
少女「あの準備室よ。少年くんが日直の仕事忘れてて、絶対誰もこないと思ってた放課後にバッタリ、ね。最初は誤魔化そうと思ってたけど…なんかその本少年くんも気になってたみたいで。わたしも嬉しくなってついつい話し込んで…それから友達、というか同好の士みたいな感じで続いてるの。少年くんも秘密を守ってくれてるし」
転校生「その手の同好の士って、多分もっといるよね。たぶん女子でも結構いるんじゃ…」
少女「これ以上増やすつもりはないから。あなたにも黙っておくつもりだったし。これ以上秘密がバレるようなら本気で転校を考えるわ(多少大袈裟に言っておかねーとな…)」
転校生「(かなり頑なだな)おっと、それは責任重大だな。わかった。小さい頃の話もその趣味の話もみんなの前では絶対にしないようにするよ」
転校生(それほど重大な話ではない気もするけど、なにかトラウマみたいなことがあったのか?)
少女「ありがとう。お願いするわ」
転校生「ところでさ、実は僕もアニメとかは相変わらず好きなんだよ」
少女「そうなの?」
転校生「僕はとくに隠してはないけどね。というわけで僕も同好の士なんだけど…今少女が一番気になってるアニメってなに?」
少女「…」キョロキョロ「…ここではやめとくわ。それはまた今度ね」
転校生「じゃあそれはまたってことで!」
少女(転校生もあまり中身は変わってないのか?)
-スマホ-
少女< これから長文を送るけど、絶対に(ry )
(略すなよ なにを言いたいかは分かるけど >少年
少女< そんなわけであいつと話したぜ
~
ということで、昨日話したとおりオタク趣味でおまえと
繋がってることにした 感触としては問題なさそうだ)
(オッケー まあ ひと安心かな >少年
少女< あと、話を合わせるために準備室でおまえに
見つかったっていう本はさっき言ったとおりに
するから気をつけてくれ)
(あれの最新刊な
たしかにおまえも俺もハマってるもんな >少年
少女< オレん家におまえが遊びに来てることは 訊かれない
限り黙っていようと思う ただ、訊かれたときは素直に
答えよう またボロ出るかもしれんしな)
(まあ了解だな そんなところか?>少年
少女< ああ 引き続きよろしく頼む)
~
少年(せっかくなら本当のことを言って転校生くんもあいつの本当の(男同士の?)男友達になれればいいんだがな…。こうやって男モードで話ができるのが俺だけっていうのもな…)
-数日後・スマホ-
(今日おまえん家遊び行っていいか? >少年
少女< わりい 今日はアニメショップに転校生と行く
約束しちまってな なんの用だ?)
(いや、別に用とかじゃなくてただ遊びに行こうと
思っただけだ この前続きがないか訊いたコミックス
あったろ 昨日それが出たから買ったんでね
それは今度貸すよ >少年
少女< おお、サンキュー! アニメショップだけど
少年も一緒に来るか?)
(いや、俺アニメ関係よくわからんし…
それよりそんな店行って大丈夫なのか?
また誰かに見られたり… >少年
少女< ああ 離れた所の店に行くし、一応幼馴染の転校生に無理
矢理付き合わされた、っていう体にするようにしている
欲しいものがあってもあいつに代行で買ってもらうし)
(なるほど じゃあまた別のときにな >少年
少女< おけ)
~
少年(二人きりでももう大丈夫っぽいな)
少年(しかし二人で遊ぶのか…。まあ見られても学校の連中は幼馴染だってこと知ってるし、よく転校生が話しかけてるのも知ってるからな。それほど噂にもならないだろう。却って少女にとっては偽装になるし告白とかも減りそうだし、良いこと尽くめじゃないのか、これ)
少年(…でもなんだろう…ちょっともやもやする…)
-数日後・少女の家-
少年「ほら、例の最新刊」
少女「おお! 悪いな。サンキュ」
少年「この前のアニメショップは問題なかったのか?」
少女「ああ、おかげさまでな。おまえも来りゃよかったのに」
少年「いや、目立つだろう」
少女「ふうむ。そうだ、そんときこれ買ったんだよ」
少年「なんだ? そのちっちゃいフィギュア」
少女「今やってる深夜アニメでな、すでに第二期が決まっていて……」ペラペラ
少年(俺は全然わからないけど、楽しそうだな、少女)
少女「……で、原作のラノベも転校生に借りたんだよ」
少年「へえ」モヤア
少女「少年にも貸していいって言ってたし、オレも読み終わったからどうだ?」
少年「いや、俺は遠慮しておくよ」モヤモヤ
少女「そうか。まあこのアニメも録画してるからさ、一緒に観ようぜ」
少年「お、おう、また今度な」
少年(俺、そのアニメあんまり興味ない…観たくないな…)
-別の日・教室-
少年友「暇だな」
少年「ああ」
少年友「なんかびっくりするようなことねーかな」
クラスメイト「やあ、少年くん!」
少年「えっ?」ビク
少年友「こういうびっくりはいらねーんだよ!」
クラスメイト「あ、少年友くん、お話中邪魔しちゃったかな」
少年友「クラスメイトさん! いやいや、全然! それより私の名前を覚えてくれているなんて恐縮です!」
クラスメイト「あはは、同じクラスなんだから当たり前じゃない。でもなんで敬語…?」
少年友「あ、ごめん、緊張して…」
クラスメイト「緊張? はは、少年友くんは面白いね」
少年友「いやあ、ははは」(うおぉ、クラスメイトさんと会話してるぅ!)
クラスメイト「そうだ、少年くん、今日一緒にご飯食べない?」
少年「ええ?」
少年友(なん、だと…)ギロ
少年(俺を睨むなよ)
クラスメイト「少年友くんもよかったらどう?」
少年友「はっ! 喜んで!」ビシッ
クラスメイト「ははは、面白いなあ、少年友くんは。で、少年くんはどうかな。もし予定とかなければ…」
少年(なんで急に…? でもクラスメイトさんっていつもいろんな人とご飯食べてるよな、主にリア充な面々と。こうやって気兼ねなく、男子でもお昼を誘えるのがリア充たる所以か…)
少年「いや、俺も喜んで一緒させてもらうよ」
クラスメイト「ありがとう。少年くんたちと一緒に食べるのは初めてだよね。ボクはお弁当なんだけど、みんなは…」
少年「俺たちも弁当だよ」
クラスメイト「じゃあお昼に中庭で。またね!」
少年(もう別のグループに交じって話をしてる。明るくて活発で、俺らとは全然違うよな)
少年「なあ、なんで急にクラスメイトさんお昼に誘って来たんだろうな」
少年友「うふふ、クラスメイトさんとお昼…うふふ」
少年(だめだ、会話できる状態じゃねえ…)
少女(少年がクラスメイトさんとお昼…だと……。メチャクソ羨ましいんだが?)
-昼休み・中庭-
少年「クラスメイトさん一人なんだね」
クラスメイト「ダメ…だったかな?」
少年「いやいや、そういう意味じゃなくて、いつもみんなといるからさ。今日も他の人たちも一緒だとばかり」
クラスメイト「ああ、今日は純粋に少年くんたちと一緒したくて」
少年友「ほ、本当ですか!」ナミダ
少年「なんで泣くんだよ…」
クラスメイト「あはは。たまにはいいよね?」
少年友「たまと言わず、クラスメイトさんとならいつでも喜んで一緒させてもらいますよ!」
~
クラスメイト「ごちそうさまでした!」
少年友「あ、じゃあ俺みんなの飲み物なにか買ってくる!」ダッシュ
クラスメイト「あ、ボクは水筒持ってる…行っちゃった」
少年「ごめん、あんな慌ただしいやつで…」
クラスメイト「面白いよね、少年友くん」アハハ「でもちょうどよかったかな…」ボソ
少年「え?」
クラスメイト「実は少年くんに話があってね。いや、少年友くんとも一緒に食べたかったのは本当だよ。今まで一緒に食べたことなかったし、少年友くん面白かったし」
少年「話っていうのは…?」
クラスメイト「今周りに誰もいないからいいかな。例の少女さんとのことなんだけど、ハトコなんだよね」
少年「う、うん。それが?」ドキドキ
クラスメイト「ハトコって結婚できるんだよね」
少年「ブーッ! い、いやそうだけど、そういうのじゃないって話はしたと思うんだけど…。なんていうのか、双子の兄妹みたいな感じでさ」
クラスメイト「ふうん。あのときはそう思ってたしそうなんだと思うんだけど、少年くんは本当にそれでいいの?」
少年「いいの、って言われても…」
クラスメイト「最近、少女さんの幼馴染の転校生くんがよく一緒にいるじゃない。少年くん、その二人をなんとも言えない目でいつも見つめてるよ」
少年「よく見てるな!…あ、いや、そんなことはないと思うけど…」アセ
クラスメイト「このままだと転校生くんに取られちゃうよ」
少年「取られるも何も…それはあいつの自由だし。でもその前にあいつは彼氏とかそういうの興味ないから、転校生くんとも ましてや俺なんかとそういう風にはならないと思うよ」
クラスメイト「少女さんは少年くんに彼女紹介してあげてって言ってたけど…それで少年くんはいいのかな」
少年「そりゃ紹介してくれたら嬉しいけど、こんな彼女いない歴=年齢のやつの彼女になろうって人いないでしょ」
クラスメイト「そんなことないよ。例えb」
少年友「買ってきたよ!」
少年「え、クラスメイトさん、なんだって?」
クラスメイト「ははは、なんでもないよ! それより少年友くんありがとう! いくらだったかな」
少年友「いや、勝手に買ってきたんだし、いらないよ!」
クラスメイト「そうはいかないよ。じゃあ、今度ボクが何か買うよ。それでどうかな」
少年友「そんな、いいよ…」(いや、クラスメイトさんとまた会うことになるし、手渡しでジュースが貰えるんだよな…)
少年友「でも気になるなら今度奢ってもらおうかな!」
クラスメイト「うん、そうさせてもらうね!」
少年友「じゃあ、カンパーイ!」
少年「何にだよ…」
少年(俺、少女と転校生くんのことそんな目で見てたのか…自分じゃ全然わからないけど、本当かな…)
少年(今日の話は少女にするほどのことじゃないな…なにかがバレたわけでもないし)
-翌日・教室-
少女(くそう、少年のやつ昨日はクラスメイトさんとうまくやりやがって…。しかもオレに何の報告もねーし…いや、特にあの話は出なかったのか? でもそうならそうと言やーいいのに…)
クラスメイト「おはよう!」
少年「あ、クラスメイトさん、おはよう」
クラスメイト「まだ少年友くんは来てないのかな」
少年「いつも遅刻スレスレだから」
クラスメイト「いやあ昨日はありがとう! 楽しかったよー」
少年「こっちこそ誘ってもらって嬉しかったよ」
クラスメイト「本当? ボクこそそう言ってもらえると嬉しいな!」アハハ
少女(すっかり仲良さそうじゃねーか。もしかするとクラスメートさんと付き合うってのもないことも…。クラスメイトさんじゃないにしろ、あいつに彼女くらいすぐできそうだけどなあ…女どもは見る目がないぜ)
少女(しかし、彼女ができたらさすがに隠れてでもオレと遊ぶことは…)モヤ(いや、まだ先の話だ! そのとき考えよう)
-ある日・中庭-
クラスメイト「あはは。そんなことはないよ!」
少年「そうかなあ」
クラスメイト「まあたまには、ね」
少年「やっぱり!」ハハハ
少年友(クラスメイトさんかわいい…)
-中庭の端-
少女「…」チラリ
少女(またクラスメイトさんとお昼か…本当に仲良いじゃねえか。なんか一緒の少年友は空気だな。
少年友『そんなことねえ!』)
少女(うお、オレの頭の中の少年友がツッこんで来やがった…。しかしなにやってんだオレは。こんな覗き見みたいなことして…馬鹿らしい、戻ろう)モヤモヤ
-ベンチ-
転校生「いや、全くだね!」アハハ
少女「…ねえ」
転校生「ん?」
少女「なにかみんなにチラチラ見られてるし、わたしたちのことってだいたい知られてるんだから、もう話をするのはこんな校庭の外れとかじゃなくてもいいんじゃないかしら」
転校生「少女の方からその話をされるとは思わなかったな。たしかにここまで来るの面倒だよね」
少女「こうなったらもうどこでも同じと思っただけよ」
転校生「じゃあ今度からは別の適当なところに集まろうか」
少女「さすがに教室はやめてほしいけど」
転校生「あはは、そうだね。ところで今日もあの店にいこうと思ってるんだけど、一緒にどうかな」
少女「…」キョロキョロ「いいわね」
転校生「じゃあ僕は先に出てるから、いつものところで待ち合わせよう」
少女「わかったわ」
-茂みの中-
少年(放課後、あの二人でよく話すようになったよな)
少年(またあのアニメショップに行くのか…俺を誘ってもいいか訊かないところをみると、多分また二人で行くんだな…)
少年(しかし、あんなに隠れるようにして転校生と会ってたのに、もう気にしないんだな…。たしかに転校生と少女の間柄ってほとんど校内では暗黙の了解だが…)
スマホ『ヴィー』
少年(少女からだ。『これから転校生とアニメショップに行くんだが、おまえもどうだ』…か。さてどうするか……)
少年(……『わりぃ、今日は用事があるんだわ また誘ってくれ』送信っと。ふう……これでよかったのか…)モヤモヤ
-別の茂み-
クラスメイト(少年が渋い顔を…いや、そんなことよりボクは今出て行ったらまずいよね…)
-別の日・教室-
少年(あれから、あんまり少女の家に遊びに行ったり、二人きりで少女と話したりしてないな…。幼馴染で男友達の転校生がいるし、趣味のことはバラしてるし、楽しくやってるよな。でもあいつ男モードでしばらく話してないだろうなあ…)
少女(最近少年と遊んでねえなあ…アニメショップ誘っても来ねえし…アニメには興味ないみたいだけど遠慮してんのか? まあクラスメイトさんとはよろしくやってるみたいだし…)
転校生「やあ、少女!」
クラスメイト「少年くん!」
少女「転校生くん、どうしたの」
少年「あ、クラスメイトさん」
少女「…」チラ(またクラスメイトさんと…)
少年「…」チラ(また転校生と…)
~
転校生「そこまで一緒に来てくれない?」
少女「何かしら」
転校生「ちょっと話がね…」
少女「いいわよ」ガタッ
~
クラスメイト「ちょっと話があるんだけど」
少年「なに?」
クラスメイト「うーん、それは場所を変えてでもいいかな」
少年「わかった。じゃあ行こうか」ガタッ
少年友(えっ! 俺は?)
-ベンチ-
少女「結局ここなのね」
転校生「まあ『例の』話だからね」
少女「何かしら」
転校生「例のアニメの円盤だけど」
少女「あの限定版のね。特典映像がすごいらしいじゃない。でもまず手に入らないんでしょ。プレミアもついてるっていうし…」
転校生「実は手に入れた」
少女「マジかy…本当に?」
転校生
転校生「一緒に見よう、と言いたいところだけど、流石に二人きりではまずいだろうし、他の奴が混じってもまずいしなあ」
少女「少年くんが一緒ならどう?」
転校生「彼、あんまりアニメに興味なさそうだし。だから、よかったら貸すけど?」
少女「えっ、本当にいいの?」
転校生「うん、持ってきてるからあとでコッソリ渡すよ」
少女「ッシャア…りがとう…」
転校生「…」
-中庭-
クラスメイト「こんなとこまでごめんね。ちょっと教室だとね」
少年「ううん、それより何かな」
クラスメイト「少女さんのことだけど…最近結構転校生くんとよく一緒にいるよね」
少年「う、うん」ズキ...「そうみたいだね。でもクラスメイトさんが前言ってたようなことはないと思うよ」
クラスメイト「ねえ、この前少女さんと転校生くんをまた茂みから見てたでしょう」
少年「ブーッ! え、また見られてた!?(前は少女に頼まれてだったけど)」
クラスメイト「やっぱり気になってるんだよね?」
少年「い、い、いや、ソンナコトナイヨ!(くっ…。苦しくても誤魔化すしかない!)」
クラスメイト「そうだよね。そういうことにしておくよ。じゃあここからはボクの独り言だけど…」
少年「?」
クラスメイト「ボクはやっぱり少女さんには少年くんが似合ってると思うんだ」ズキ...「少女さんが転校生くんと話してるときって、確かに楽しそうなんだけど、どこか取り繕っているような感じがするんだ」
少年(取り繕ってるというより、女の演技をしてるからな…)
クラスメイト「でも、同じような幼馴染である少年くんとはもっと親密な感じがするんだ。普段はほら、内緒にしてるけど、こっそりアイコンタクトしてるときとかアウンな感じがするし、準備室で秘密を教えてくれたときも…」
少年「それは…」
クラスメイト「だからボクは今でも君たち…いや少年くんを応援してるんだ…おっと、これは独り言だからね。他では言わないし、少年くんにもどうこうしてほしいとか、そういうことではないよ! あはは…」
少年「…」
クラスメイト「でもボクだって本当は少年くんには少女さんと一緒になって欲しくなんかは…」ボソッ
少年「えっ、なに?」
クラスメイト「あはは! なんでもないよ。急に変なことで呼び出してごめんね。じゃあ!」
クラスメイト(少女さんと少年が…なんて本当は嫌に決まってるじゃないか…でも…)
-少年の家-
スマホ『ヴィー、ヴィー、ヴィー』
少年(珍しい。少女から直電か)
少年「おっす」
少女『おお、少年。周り誰もいないよな』
少年「ああ俺の部屋だ」
少女『オレのこの中身のことだが…転校生にバレた』
少年「ブフォー!!」
少女『まあ、バレたというよりオレがバラしたんだが…』
少年「ええええ…中身のことがバレたって、本当は心は男ってことをだよな。大丈夫なのか?」
少女『ああ。大丈夫かどうかは正直言ってわからんが、多分…。最初に思ってたよりは平気な気はしてる』
少年「うーん、俺もあの転校生ならそんな問題ない気はするよ」
少年(少しでも本当の『男友達』は増えた方が少女のためでもあるよな)
少女『オレも今はそう思ってはいるが…』
少年「ところで、バレたってどこまで? 俺とのこととかは?」
少女『まあ一切合切だな。悪いとは思ったがおまえとの関係も全部話した。そうでないと辻褄が合わんところもあるし』
少年「いや、それは構わないが…またおまえの部屋で話したのか?」
少女『まだ部屋はちょっとな。公園の端の方で小声でな…あいつと二人のところは今さら見られても問題ないし』
少年「ふーん。でも話もあまりしたこともなかった俺を、よくいきなり部屋に上げたよな…」
少女『最初からおまえ(のヘタレ)は信用していたからな』
少年「どんだけだよ、俺…。しかしどうやってバレたんだ?」
少女『オレからバラしたと言ったけど…薄々転校生は気づいていたようだな。そんなときについ興奮して男言葉が何度かでちまってな…隠しきれないと思って話しちまった』
少年「まあ、そうして本当のおまえを知る友達が増えるのはいいことじゃないのか?」
少女『そうなんだが…じゃあどこまで増やすのがいいのか…。極端な話、クラス全員が知ってしまえば、それはオープンにしているのと変わらないからな』
少年『ふうむ。でも、転校生は男言葉ってだけで気づいたのか?』
少女『オレの男言葉を何度か聞いて、おまえも言ってたように最初は単に言葉遣いが悪いのを隠してるだけと思ってたらしい。しかしあいつの言葉を要約すればこうだ。
男言葉だけじゃなく、その趣味、男を近づけない、彼氏は作らない宣言、そして言葉の端々から感じる男っぽさ。しかしそれ以上に、とくに昔の少女と比べて、過剰なくらい女性らしさを“演じている”感じ。
だとさ。よく見てやがる』
少年「…」
少女『他にもおまえとの付き合い方とかな。女オタとかも珍しくないのに、男を避けてるっぽいオレがなぜワザワザおまえだけをオタ友にしたのかとかな』
少年「そうか…。すごい観察眼だな」(いや、それだけ少女を見てたのか? 昔の少女との違和感を感じて…)
少女『まあそんな感じだ。これからどうしていくかも考えていかないといけないが、ちょっとこれ以上知ってるやつを今は増やしたくないな』
少年「そりゃそうだろ。今まで誰も知らなかったのに、ここにきていきなり二人も知ったわけだし。あと、転校生はこの秘密を漏らしたりはしないやつだろ?」
少女『たぶんな。オタ趣味のことも誰にも漏れてないし、一応信用してはいる』
少年「そうか」
少女『とりまこんなとこだ。まずは状況だけ伝えたくてな』
少年「わかった。さっきも言ったとおり、おまえの中身をわかってる男友達が増えるのは基本いいことだと思ってるよ。ただ今はそのペースが早いだけで」
少女『……そうだな。じゃあまたな』
少年「おう、じゃあな」
~
少年(転校生にバレたか…でもいいことなんじゃないかな。あの転校生ならそんな問題ない気はする。口説いたりとかもしてこなかったわけだし。男女の幼馴染が男同士の幼馴染になるだけだろ…)
少年(しかしモヤモヤするのは何故だ…今まであいつの秘密を知ってるのは俺だけだったけど、幼馴染の転校生が俺の知らない少女を知っていて、同じ趣味で盛り上がって…ただの嫉妬じゃねーか…情けねえ)
-翌日-
スマホ『ヴィー、ヴィー、ヴィー』
少年(LINEの音声通話…転校生から?)
少年「もしもし?」
転校生『やあ! 少年くんかな。転校生だけど』
少年「うん、なに? 例のことかな…」
転校生『そう。よかったら少女についてちょっと話したいんだけどいいかな?』
少年「わかった」
転校生『じゃあ場所は…』
-準備室-
転校生「やあ、ここは本当に誰もこないしいいね!」ニコニコ
少年(…? 転校生くん怒ってる? 目が笑ってねえ)
転校生「少女から聞いたけど、少年くんも少女のあのこと、知ってたんだって?」ニコニコ
少年「ああ。少女から聞いてると思うけど、ちょうどこの準備室で男モードの少女を見かけてね」
転校生「男モード…。なるほどね。で、今の少女はどういう状態かも?」ニコニコ
少年「状態? あ、心が男ってことか? LGBTってやつだろ」
転校生「心が男ねえ…LGBTのことって本当にわかってる?」
少年「一応授業で話は出たけど、心と身体の性が一致しないってことだよな。あとは同性愛とか?」
転校生「一言で言えば性の多様性を表したものだね。しかし最近はLGBTって言葉が独り歩きしすぎてるよ。TVとかでもライトに扱われすぎてる」
少年「…」
転校生「おネエタレントとかいうのもそうだし、ネットでもホモをネタ的に扱ったり、SSのオチがことごとくホモネタだったり…」
少年「なんの話だ?」
転校生「おっと、話が飛びすぎた。少女の場合、LGBTで言えばトランスジェンダーってことだろうけど『性の多様性』で一括りにするのはちょっと違和感がある。トランスジェンダーって言うか、ジェンダーアイデンティティーに関わることだな。別の言い方、というかより正しい言い方をすれば、少女は性同一性障害だ。聞いたことあるかい?」
少年「ああ。聞いたことはある。LGBTと同じだろ」
転校生「全然違う!」
少年(ビクッ!)
転校生「さっきも言ったが、LGBTは性の多様性を肯定的に表す言葉だ。しかし少女は本当は男なのにと感じているし、男でありたいとも思っているように思える。少女は心が男なんじゃない。身体が意に反して女なんだよ。心と身体が同一でなくそれに悩んでいる。極端に言えば精神的な疾病だ」
少年「疾病…」
転校生「性同一性障害者がどれくらい苦しんでいるか知ってるか? もちろん僕にはその苦しみの百分の一も理解できていないと思うよ。しかしゼロの君よりマシだ」
少年「苦しみ…ゼロ? いや、俺も少女の苦しみくらい!」
転校生「ではなんであいつに女の演技をさせてデートとやらを?」
少年「(そんなことまでまで話してるのか…)い、いや、それは…少女の方から…」
転校生「じゃあとめろよ! そのとき! 少女をっ!」カベバン!
少年「うっ」
転校生「他にも色々聞いたぞ。度々少女が女であることを前提にして接していたようだな」
少年「いやそんなことは…っていうか俺、色々知らなくて……いや、これは言い訳にならないよな…」
転校生「そのとおりだな。ちょっと調べりゃわかることだろうが! おまえ、どれだけ少女を傷つけて来たと思ってる? あいつはもちろんそうは言わないだろうが、心の奥には貯めてるぞ」
少年「う、そんなこと…いや…本当に知らなくて…でもそれが免罪符にはならなくて…」グルグルグルグル
転校生「本当はおまえのこと殴ってやりたかったよ。結構前から少女のことをわかってたのに、なにも知らない連中よりあいつを傷つけて来たんだからな」
少年「……」ダラダラ
転校生「もういい。ただこれだけは言っておく。もう少女に近づくな。少女がおまえの顔を見るたび、表面的には気づかないだろうが、心の奥の傷が疼くはずだ。それが溜まればあいつもただじゃすまなくなる」
少年「…ああ」ガク
転校生「無知も罪だが、なにも知らない馬鹿を殴っても仕方ない。しかし、今後少女を傷つけることがあったら、ただじゃすませないつもりだ。わかるよな」
少年「わかってる…」
転校生「じゃあな」スタスタ
ガラッ
ピシャ
少年(そんなに…傷ついていたのか…)
少年(『ちょっと調べりゃわかることだろうが!』『無知は罪だが』…)
少年(『性同一性障害』…検索と…)スマホスッ
少年(『性同一性障害 - Wikipedia』…タップと…)タップ
-Wikipedia-
性同一性障害(せいどういつせいしょうがい、英:Gender Identity Disorder, GID)・性別違和(せいべついわ、英:Gender Dysphoria, GD)は、『出生時に割り当てられた性別とは異なる性の自己意識(Gender identity、性同一性)を持つために、自らの身体的性別に持続的な違和感を持ち、自己意識に一致する性別を求め、時には身体的性別を己れの性別の自己意識に近づけるために医療を望むことさえある状態』をいう医学的な疾患名。やや簡潔に『性同一性(心の性)と身体的性別(身体の性、解剖学的性別)が一致しない状態』とも説明されている。
~
このため、性同一性障害を抱える者は、自身とは反対にある身体の性別に違和感や嫌悪感を持ち、生活上のあらゆる状況においてその性別で扱われることに精神的な苦痛を受けることが多いとされる。
少年(少女もずっとこの苦痛を…?)
~
以上の事例や経緯によって、「性同一性(性の自己意識)」の存在、そして「身体の性」と「性同一性(性の自己意識)」はそれぞれ別個であり、ひとえに「身体」が人の性別を決定づける根拠とはならないことが明らかとなった。
少年(『おまえの身体のことだけど聞いていいかな』『普通の女性とは違うんじゃないかって』…っ!!)
~
性同一性障害を有する者は、例えば FtM(生物学的性別が女性で、性の自己意識が男性)に対して「本当は女性」「実は女性」等といった、身体の性別、出生時に判定された性別を基準とする言われ方に対して嫌忌することが多い。
少年(!! これ何度も少女に言ってるじゃねーか!…クソ)
~
性同一性障害を抱える者は、もし生来から自身の性同一性と同じ性別の身体で生まれてさえいれば、何ら違和感を持つこともなく普通にその性としての人生を過ごしてきたはずであり、人格や自己の性が“途中で変わった”わけではない。当事者は(心身ともに)「異性になりたい」のではなく、「本当は女性(男性)なのになぜ身体が男性(女性)か」という極めて率直な感覚を胸中に持っていることも多く、当事者自身にとっての「本当の性別」とは、まさしく自分を自分たらしめる自己意識にしたがった性別である。FtM にとっての「本当の性別」は男性であり、MtF にとっての「本当の性別」は女性であり、だからこそ現にその性別としての人生を過ごしているといえる。
少年
~
性同一性障害を抱える者は、性の自己意識と身体の性とが一致しない以外は一般の人々となんら変わりはない。そして多くの当事者は、性の自己意識に基づく性別での普通の生活をすることを第一義としている。身体的性別も公にしたがらないため、いたずらに自身が性同一性障害の当事者であることをわざわざ周囲の人に告げることもない。
少年(少女の場合は心の性を公にしたがってなかったが…平穏に過ごしたいってところはそうだよな)
~
ジェンダー・アイデンティティと反する生物学的性別を持っていることに違和感、嫌悪感を持つ。間違った性別の身体で生まれたと確信する。陰茎や精巣、月経や乳房に嫌悪を抱いたり、取り除くことを希望する。
少年(!!! 何が『自分の裸見て興奮しないの?』だ!クソ、俺はなんてことを少女にっ!…)
~
・生来から常に身体的性別としての扱いや役割を求められる環境にあったため、その身体的性別に応じた男性性または女性性の一部を身につけている場合がある。
・より社会へ適応するため、あるいは違和感や嫌悪感から逃れるために性の自己意識を抑え込み、身体的性別に応じた過剰な男性性または女性性の行動様式を取ろうとする場合もある。
・自身が反対の性の容貌や外性器を持っているという確然たる事実や、当然のように身体的性別で扱われる環境にあって、姿形の見えない性の自己意識はそれだけでは不安定であるため、その自認する性に基づく男性性または女性性の行動様式を過剰に取ろうとする場合もある。
少年(これ全部少女に当てはまる…学校どころか家でも女の子を演じて、俺と話すときだけはやたら男っぽくて…)
~
性同一性障害は、自身の身体への強い嫌悪感、日常において常に反対の性役割を強いられる等の精神的苦痛から、うつ病、摂食障害、アルコール依存症、不眠症などの合併症を患うことがある。また、過去に自殺企図や自傷行為の既往があることが多く、性別の不一致の苦悩が甚だ深刻なものであるといえる。
~
性別適合手術を経た人のうち、世間の認識との誤解に苦しんで自殺した人の割合は全体の4割に及ぶ。また、全体の7割は自殺を考えたことがあるとされている。
少年(!!! 『性別の不一致の苦悩が甚だ深刻なものであるといえる』…そんなに苦しんでいたのか、少女…。『全体の7割は自殺を考えたことがあるとされている』………)
少年(他のサイトの説明や実際の性同一性障害の人のブログなんかも同じような感じだ…そんなあいつに女のフリさせてデートまでさせて…)
少年「全部っ…! 全部転校生の言ったとおりじゃねえか!! くそっ!!」
少年(男友達が欲しいのに、転校生ですらあんなに恐れてたのは、いやらしい目で見られるとか口説かれるとか、そんな以前に自分のことを『女』として見られるのが嫌だったんだ…)
少年(すまん、何も知らなかった俺が馬鹿すぎた…ちょっと調べりゃすぐ分かることを…ごめん…ごめん…)
-数日後-
少女(なんか最近少年に避けられてるような気がする…向こうから誘ってこないし、こっちから誘ってもそれとなく断ってくるし…。そういや転校生にバレるちょっと前くらいからだよな…いや、バレたときは普通にあいつと話したな…)
少女「あ、少年くん。ちょっといいかしら」
少年「少女さん…ごめん、ちょっと先生のところに行くから…」
少女「そう。ごめんなさいね」
少女(やっぱり避けられてる…? LINEの返事も最近そっけねえし…)
少年友(あの野郎、クラスメイトさんだけじゃなくて最近はちょくちょく少女さんにも声かけられてやがる…。ハーレムか? ハーレムのファラオ気取りか?)
少女(なぜか全力で少年友にツッこみたくなった)
-職員室前-
少年(またつい避けちまった…これじゃ少女は自分が嫌われてると思うよな…いや、それでもいいのか?)
少年(職員室まで来たけど別に用もないしな…時間潰して教室戻るか…)
クラスメイト「少年くん」
少年「うわっ…って、クラスメイトさん」
クラスメイト「ごめんごめん、おどかすつもりはなかったんだけど…先生に用事があったんじゃないのかな」
少年「さっきの…聞いてたんだね」
クラスメイト「うん…何か少女さんとあったのかなって思ってね」
少年「別に…いや、ちょっとだけね。しばらく距離を置いた方がいいと思ってるだけだよ」
少年(本当はこれからずっとけど…)
クラスメイト「よかったらボクが間に入ってもいいけど…多分余計なお節介だよね?」
少年「ありがとう。とても嬉しいけど、ちょっと自分で考えたいんだ。せっかく言ってくれてるのにごめん」
クラスメイト「こっちこそごめんね…」
少年(クラスメイトさんに悪いことしたな…せっかく心配してくれてるのに…)
クラスメイト(転校生くんと少女さん最近いい感じだし、あの二人くっついちゃうよ…このままじゃ…)
-放課後-
転校生「少女、今度はあのアニメの限定版手に入れたよ」
少女「マジか! しかしおまえ金持ってるな…」
転校生「ああ、小遣い貯めてるからね。…あ、ちょっとごめん、LINEが…いいかな」スマホスッ
少女「おお、別にいいよ」
転校生「…」スッスッスッ「悪いね。で、これ僕もまだ観てないんだよ。一緒に観ない?」
少女「一緒にか(二人で観たら楽しいだろうな)。いいけどどこで観る?」
転校生「うちでもいいけど、少女の家とかダメかい?」
少女(まあ転校生なら大丈夫と思うが…今日お袋もいないしなあ…)
少女「うーん、そうだな…」
転校生「じゃあ少年くんも誘おうか?」
少女(転校生から少年誘おうとか珍しいな)
少女「実はさ、なーんか最近少年に避けられてる気がしてな…」
転校生「えええ、そうかい? まあ一回訊いてみたら?」
少女「まあそうだな。一応…」
-スマホ-
少女< 今日オレんちで転校生と遊ぶんだが、おまえも来ないか?)
(おう、いいな あとから行くわ >少年
少女< おけ じゃあ家で待ってるわ)
~
少女(なんだ、大丈夫じゃん)
転校生「少年くん何て?」
少女「ああ、あとから来るってよ。じゃあオレんちで観るか」
転校生「おお、小学校のとき以来だね。懐かしいよ」
-少女の家・居間-
少女「少年遅えな…」
転校生「まあすぐ来るんじゃない? しかし来ないとこれ観られないな」
少女「あいつアニメ興味ないし、オレらで先に観ちまってもいいかも知れんが…」
スマホ『ヴィー』
少女「噂をすればだ…えっ、なんか少年急に来れなくなったってさ」
転校生「本当かい?」
少女「じゃあこいつ観ちまおうか」
転校生「そうしようか」
~
円盤『END』
少女「うおおお、いいな、これ!」
転校生「ああ、これはすごい。買ってよかったよ!」
少女「作画もすげーし…一部で原作キラーだの何だの言われてるけど、これはこれでアリアリのアリだな!」
転校生「原作読んだことあるのかい?」
少女「ああ、全部揃ってるぜ。読むか?」
転校生「おお、サンキュー! ぜひ読みたい!」
少女「じゃあ取って来るわ」
転校生「あ、僕も行くよ」
少女「…え、あ、おう」(まあいいか)
転校生「2階だったよね」
少女「ああ…」トントントン「あ、そうだ」クルッ
転校生「…」サッ「うん、なに?」
少女(いま上視てた? 少し離れて上がって来るし…いや気にしすぎか)
少女「片すからちょっと待っててもらえるか?」
転校生「うん、わかったよ」
-少女の部屋-
少女「お待たせ」ガチャ
転校生「お邪魔するよ。おお、綺麗じゃない」
少女「いま片したからな。本も出しといた。これだよ」
転校生「これか! 読んでも?」
少女「もちろん。オレも2巻から読み直すわ」
~
転校生「…」ペラリ
少女「…」ペラリ
転校生「…」チラ
少女(おっと、いけねえ)ヒザ スッ
転校生「…」サッ
少女(また脚を開いちまった)チラ(まあ一応転校生は見てなかったようだな)
転校生「あ、ここここ!」
少女「どうした?」
転校生「ほら、アニメ版では違ってたやつさ」
少女「どれどれ」ズイ
転校生(前かがみですごい顔を近づけてきた…前かがみだから胸の谷間も…いや、先っぽもかすかに…)
少女「あー、ここか! これ全然意味違っちゃうよな!」カオアゲ ニコッ
転校生「…少女」
少女「なんだよ」
転校生「少女!」ガバッ
少女「うおお! 何だ急に!」ゾワ!「抱きつくなよ! 気持ち悪りい!」ジタバタ
転校生「少女…僕はもう我慢ができない。自分の気持ちに…」
少女「はあ?! いいから離せ!」ゾワゾワ!
転校生「僕は! ずっとこうしたかったんだ! 小学校の頃から!」オサエツケ
少女「知るか! 痛てて、痛えよ! 離せ!」
転校生「僕はあの頃から君のことが好きだった。でも気持ちを言えなかった」
少女「だから知るか! やめろ!」
転校生「そんな中僕は引っ越しちゃうし…少女のいる高校に編入できてどれだけ嬉しかったと思うかい? 彼氏もいないと言うし、ゆっくり君との時間を紡いでいこうと思ってたんだ」
少女(くそ、やっぱり家に入れたのは間違いだったか。今さら言ってもしょうがねえ。転校生の野郎、クドクド話し出しやがって…準備しておいて良かったぜ。あのことを言おう…)
転校生「実はトランスジェンダー? くそ、もうチャンスも何もないじゃないか!」
少女「おい、言っておくが…」
転校生「黙っててくれ!」
少女(ビクッ)
転校生「僕の今までの気持ち、どこへ持っていけばいいんだ! この胸の! この気持ちだよ! こうなったら行くとこまで行かせてもらう。それで目覚めて僕のことを好きになるかも知れないし」
少女(ダメだ、こいつ考えがおかしい。目覚めるってなんだよ。そんなんで好きになったり女になったりするかっ)
転校生「トランスジェンダーってのも君が言ってるだけで信じ切れるものじゃない。ダメだとしても、僕はこの思い出を抱いてこれから生きて行くことにする」
少女(つまり何を言っても無駄ってことか…クソッ。まさか本当にこんなことになるとは…)
転校生「僕だってこんなことするつもりはなかった。でも君がさっきから色々見せつけてくるから…その気になってもしょうがないだろ?」
少女「…そんなわけねーだろ」
少女(なんて眼をしてやがるんだ。興奮って言うよりむしろ絶望した眼だ…完全にいつもの転校生じゃねえ)
転校生「もういい。少女にはこれから僕のものになってもらうよ」
少女「クソったれがっ! わかった! おまえを誰もいない家に上げたのも、隙を見せたのもオレのせいだ! 離せ!」バッ
転校生(ビク)
少女「ああそうだ! おまえのこともわかってなかったオレが悪かったよ! もう好きにしろ!」ダイノジ ゴロリ
転校生「そうさせてもらうよ…」プチ プチ
少女(冷静にシャツのボタン外しはじめやがった。この先は…)ゾゾゾゾ...
少女「っ! やっぱりやめろ!」ゾワ~
転校生「…男らしくないぞ。暴れないでくれ」ギュッ
少女「ああ? オレは女なんだろ?! くっそ、離せ!」
ガチャ!
少年「てめえっ!! 何してやがる!!」ドカッ!
転校生「っつぅ…痛いだろ…」
少年「知るか! 少女を離せ!」
少女「少年! どうして…?」
転校生「おい」ムナグラギュッ「邪魔してくれたな!」バキッ!
少年「ぐおぉっ!」バン!
少年(くそ、殴られるとマジ吹っ飛ぶのな…って感心してる場合じゃねえ!)
少年「てめえ! 何やってるかわかってんのかよ! さんざん俺に言っといてよ!」
少女(さんざん言っておいた?)
転校生「黙れ」ムナグラツカミ
少年「ぐっ…」(くそ、思い切り掴みやがって…これだけで苦しい)ジタバタ
転校生「君みたいな喧嘩もしたことないようなお坊ちゃんが僕に勝てると思ったのかい」ギュギュッ
少年「ぐぐぐ…」ジタバタ
バキ!
転校生「うっ」パッ
少年「っ…ハアハア」(苦しかった…少女?)
少女「オレを忘れんな。喧嘩すんならオレら二人が相手だ」
少年「馬鹿! 逃げろ!」
転校生「そんなカバンで殴ろうが大したことないよ。二人がかりでも僕に勝てるかい?」
少女「ああ、勝てないかもな。でもオレはオレの喧嘩をするぜ。これを見ろ」スマホスッ
転校生「?」
少女「もう110まで押してある。この通話ボタン押せばもう通じるぜ」
転校生「…」
少女「あと念のためと思って、この部屋に入ってからのことはこいつで録音させてもらってるぜ。ちなみにデータは端からクラウドに保管されてるからコイツを奪っても無駄だ…」
転校生「…」
少女「…」
少年(? なんで少女黙ってる?)
少女「オレは…できればこの通話ボタンを押したくねえ…」ポロリ グス
転校生「…警察呼ぶくらいじゃ僕の想いは変わらないよ。少女が僕のものになればあとはどうでもいい…」
少女(ダメか…しかし眼つきは変わったぞ…)
少年「てめえ…」ギリギリ(なんとかあいつを取り押さえて少女を逃がさないと…)
転校生「と言いたいところだけど…たしかにここまでのようだね。少年くんにも出て行くかここで倒れててもらおうと思ってたけど…」
少年「ふざけんな!」ガシッ!
転校生「なんだ、胸ぐら掴むだけで殴らないのかい」
少年(さっきは思い切り蹴ったが…くそ、改めると殴る勇気が…)
少年「少女! こいつ押さえてるから、ここから出て警察に電話しろ!」
転校生「ははは。勇ましいね」
少年「笑うんじゃねえ! 何がおかしいんだよ!」
少女(?…どうして急におとなしくなった?)ゴシゴシ
転校生「少女、悪かった。警察でもなんでも呼んでくれ」
少年「ああ!? あれだけしといて『悪かった』かよっ! ふざけんな!」
転校生「僕のことは好きにしてくれていいよ…」
少年「そういうことじゃねえだろっ! それより少女! 早く…!」
少女「…。少年、ちょっと転校生と話させてもらっていいか?」
少年「なっ! また襲ってきたらどうする! おまえはここから離れろ!」
少女「ここはオレんちだぜ。さっき言ったようにこの状況は録音してるし、すぐに警察も呼べる。もし転校生がまた襲ってきたら、おまえは外に出て周りの大人を呼んできてくれ」
少年「でもその間に!」
少女「そんな早くコトが済むかよ。頼むよ。第一もう転校生はそういうことしねえよ」
転校生「ああ」
少年(信用できるかよ…)
少女「オレを信用しろ」
少年「おまえは信用しているが…」
少年(これ以上は説得できそうにない…万一のときは警察に電話繋げてから、死ぬ気で転校生を押さえよう。大声も出して周りに助けも呼ぼう)
少女「だったら…」
少年「わかった。ただ、せめて下に行こう」パッ
転校生「ありがとう、離してくれて。誓ってもう少女には手を出さないよ」
少女「信用してやってくれ」
少年「…」
-1階・居間-
少年(転校生を奥に座らせて俺らは玄関近くに陣取った。万一のときはなんとか外に出れるだろう…)ジンジン
少年「痛てて…」(あのときは興奮してたせいか殴られてもそんな痛くなかったが…落ち着いたら結構痛い…)
転校生「大丈夫かい? 冷やしたほうがいいよ。あとで腫れが残るといけない」
少年「てめえが言うな…」
少女「転校生の言うとおりだ。ちょっと待ってろ」
…
少女「ほら、アイス枕をタオルで巻いてきた。これでそこ冷やしとけ」
少年「ありがとう…」
少女「少年、おまえにも色々聞きたいが…なあ、転校生」
転校生「ああ」
少女「なんで急に諦めたんだ? オレをモノにするのを?」
転校生「警察を呼ぶっていうからさ」
少女「嘘つけ。だったらさっき警察でもなんでも呼べとか言わないだろ」
転校生「そうだな…僕も急に気持ちが冷めたんだ。自分でもわからないよ…いや…多分…」
少女「?」
転校生「少女の涙を初めて見たからかな…」
少年(そういやオレもさっき初めて見たが…そんなの他の友達とかでもたいていそうじゃん)
転校生「小さい頃、その辺駆けずり回って、思い切り転んだりさ。悪いことして大人に怒られたり。僕はその度に大泣きさ。でも少女は泣かなかった」
少女「そうだったかな…」(そんな昔のこと憶えてねえ)
転校生「男と遊んでるって、少女が悪ガキどもにからかわれても泣かなかった。逆に僕は女と遊んでるってからかわれて泣いてたよ。でも…少女は僕とずっと遊んでくれた。からかう奴らを逆に怒ってくれた。暗くてろくに友達もいなかった僕と、仲良くしてくれたんだ…そんなことを想い出したよ」
少年(前に少女から聞いていた話とちょっと違うぞ…)
少女「オレはおまえの方こそ女子グループにも入れないオレと、からかわれようがずっと遊んでくれた親友だと思っていたぜ」
転校生「そりゃそうだよ。だってそんな少女を僕は好きになったんだから、からかわれるくらいなんともなかったさ。初恋ってやつだよ」
少女「……。まあオレは女だしな。当時は自分が完全に男だとは思ってなかったし。でもそんなそぶりはおまえ見せてなかったろ」
転校生「ああ。あんな小さなガキでも、いわゆる告白をしてしまえば今の関係が崩れるってわかってたからな。そうしているうちに引っ越し、転校だ。あのときはあっさりお別れを言ったけど…僕はあとでさんざんまた泣いたのさ」
少女「…」
転校生「子供じゃ行けないけど…大人になったら少女に自分から会いに行こうと思ってね。それからは身体を鍛えたり、性格も明るくするよう頑張って…少女にまた会ったとき恥ずかしくないように…」
少女「変わりすぎだぜ」
転校生「そしてこっちに戻ってくることがわかって…嬉しかったよ。少女の高校調べて編入することもできた」
少年「どうやって調べたんだよ」
転校生「簡単だったよ。この辺の高校の生徒のSNSとか調べたら、さすが少女だね。君のことツイートしてる奴かなりいてね」
少女「マジかよ…オレフォローする友達もいねぇからツイッターやらねえし、知らなかった…プライバシーもクソもないな」
少年「おまえ目立つしな」
少女「これでも目立たないようにしてるんだがな…ツイッターとかで調べるより直接オレに訊きゃあよかったろ」
転校生「もう電話番号も忘れてるし、君も僕のことを憶えてるかもわからなかったしね。で、久々に教室で会ったとき。確かにすっかり大人しくなってたけど、面影そのままで、より綺麗になっていて…。でもそのあと話したら結構昔のままのところもあって…。付き合ってる奴もいないって聞いて、ゆっくり関係を深めていこうと思ったんだ」
少年「おまえ、俺が彼氏だったらごめんとか、俺と少女を応援するとか言ってたじゃねえか」
少女「そんなこと言ってたのか…」
転校生「それはそうだよ。いきなり別れろだの応援できないだの言ったら警戒されるし僕に敵意を持つだろう。まずは君の味方と思わせて懐柔して、もし付き合ってるなら別れさせるよう誘導したりするつもりだったのさ。どうも君は少女とかなり親しい、というか近しい関係みたいだったからね」
少年「おまえ…よくもぬけぬけとそんなこと言えるな」
転校生「もうこれ以上嘘はつかないことにしたよ。少女と付き合うためならなんだってするつもりだったさ。でも…少女がトランスジェンダーとわかって…確かに子供のときのこととか再会してからのこととか思えばそんな気配はあったけど、まさか本当に…。僕は焦ったよ。どうしていいか何も分からなくなった。僕は少女の男友達じゃなくて恋人になりたかったんだからね。まずはLGBTや性同一性障害のことをその晩調べたよ。そしてチャンスだと思った」
少女「チャンス?」
転校生「ああ。少年くんを少女から離すね」
少年「…そういうことだったのかよ」ギリ
少女「なんでオレと少年が離れるチャンスなんだ?」
少年「こいつはなぁ、俺に性同一性障害のことを説教してきたんだよ! 俺がどれだけ少女を苦しめてたかってな! だからもう少女には近づくなって!」
少女「えっ?」
少年「でもそのことには感謝してるんだよ! 転校生の言ってたこと自体には嘘はなかったし、俺は転校生みたいにおまえがLGBTだって聞いても何も調べもしなかったし。言われなきゃまだ少女を苦しめてたろうし」
少女「オレを苦しめる…?」
少年「でもなあ!! そんなおまえがなんであんなことすんだよ!! ふざけるなよ!! 俺を遠ざけるためでも、一夜漬けの知識でも、そんなことはいいんだよ! なんで少女を、そんなことを言ったおまえが苦しめるんだよ! トラウマとかそんなレベルじゃねえ心の傷になるだろうが!」
転校生「…」
少年「俺がいなくても、転校生、おまえが少女を守ってくれると、支えてくれると思っていたのに…だから今日だって言うとおりにしたのに…」
転校生「本当にすまなかった。そのとおりだ。僕は少年くんのこともそうだけど、少女のことも実は考えてなかった。LGBTが嘘であってほしいとすらさっきまでは考えていたよ」
少年「俺はもうおまえになにも言う気はない…ただ今後、少女の身に何か起こることだけは排除しておきたい。悪いが俺はおまえを信用してないし、警察に連絡させてもらう。立派な暴行未遂だからな。証拠もある」
転校生「ああ、そうしてくれ」
少年「未遂だし未成年だから刑務所に入ったりってことはないだろうが、ストーカーとかでよくある接近禁止とかにはなるだろう」
少女「少年、ちょっと待ってくれ。それはやめてくれないか」
少年「えっ? いや、幼馴染を庇う気持ちはわからなくないけど、あそこまでされたんだぞ?」
少女「この件はもういいよ。結果なんでもなかったわけだし」
少年「いや! オレが来なかったらどうなってたか!」
少女「ほら、録音も消した」スマホスッ
少年「ばっ…少女っ!(くそ、俺も録音しとけば良かった!)でも俺が証人だ!」
転校生「証拠や証人なんかなくても僕から真実を証言するよ」
少女「自首しようが警察呼ぼうが、婦女暴行とか強制わいせつ?とかは親告罪だ。オレが被害届出さなきゃそれまでだ」
少年「ぐ…なんでそこまで…おまえ自身のためなんだぞ」
少女「ああ、オレを気遣ってくれてるのはよくわかるし、とても嬉しい。でも、まず警察沙汰になったらオレのLGBTの話もしなきゃだろ。こんな大ごとになったら学校にも伝わるだろうし」
少年「別にLGBT関係なく暴行未遂だし、それは言う必要もないんじゃないか?」
少女「それよりだ。転校生の気持ちもわかるからな」
転校生「?!!」
少年「なに言ってるんだよ! おまえがLGBT、いや性同一性障害と分かっててあんなことしたんだぞ! 俺は1ミリもこいつの気持ちなんかわからねえよ!」
少女「オレもさ、好きな女の子は何人かいたさ」
少年「?」
少女「でもこんなんだろ? 好きなのに想いすら伝えられないのって辛いよな。仮に想いを伝えたとしても断られる…いや嫌悪されるのはほぼ確実だし」
転校生「っ!!」
少年(ぐっ、やはりそんな思いも今までずっとしてきたのか…少女…)
少女「どうしてこんなことをしたのかも聞くつもりだったけど、今までの話で大体わかったよ。こんなさ、男の輪にも女の輪にも入れなかったオレのことを好きになってくれたんだろ。こんなオレをよく好きになってくれたよ。しかもその想いを今までずっと持ち続けてくれて…そのために自分自身をそんなに変えてくれたんだろ。ーオレなんかがちょっと隣の女の子を好きになったりするのとは全然違うよな」
転校生「…」
少女「でもさ、その想いにオレは応えることはできないんだよ」
転校生「…わかってる」
少女「おまえの話を聞いて、どれだけオレを想ってくれてて、オレがLGBTと聞いてどれだけ絶望したか、よくわかったよ」
少年(確かにそう言われれば転校生にも同情できる点はあるが…やったことはまた別だ)
転校生「ぐっ」ポロポロ
少女「はは。オレもおまえの涙は初めて見たぜ。再会してからはな。昔の転校生に戻ったか?」
転校生「少女、本当にすまなかった…」ポロポロ
少女「おまえのこと、好きにしていいって言ってたよな。なんでも言うこと聞くってことでいいか?」
転校生「ああ、どうされてもいいし、なんでも言ってくれ。警察ももちろんだが、このことを学校中に流してもらっても、気がすむまで殴ってもらってもいい」
少女「じゃあ、まずこんなことは二度としないと誓ってくれ」
転校生「それはもちろんだよ」
少女「そうしたら、明日も普通に学校に来い」
転校生「え?」
少年「え?」
少女「そして今までどおりオレにも少年にも接しろ。つまり今日のことは無かったように振る舞うんだ」
少年「少女! それは!」
少女「少年、今日は助けてもらって本当に感謝してる。でもこの件はオレの思ったとおり進めさせてくれないか」
少年「いや!…」
少女「転校生、オレは今日のことを忘れるわけじゃないぞ。あくまで無かった『ように』振る舞うんだ。だから、今後はおまえと二人きりで会うことは避けさせてもらう」
転校生「それはもちろんだけど…」
少女「オレと二人きりにならないこと、そして今までどおりオレらと付き合うことでおまえに気まずさを感じてもらうのがオレからの罰だ」
少年(やはり幼馴染には甘くなるのか?…これ以上俺が何か言っても無駄だろうな…二人きりになるつもりが少女にないのがせめてもの安心材料か?)
転校生「わかった…ただ、気が変わったらいつでも言ってくれ。どんな罰でも受ける」
少女「だからこれが罰だって」
転校生「少女…」グス
少女「さて、この後は少年と話がある。転校生はここで帰ってもらえるか」
転校生「ああ、わかった」
少年(本当にこのまま帰すのか…でも少女が決めたならもうしょうがない)
転校生「少女。あと婦女暴行とか強制わいせつ、いわゆる強制性交等罪だけど、今は親告罪じゃ無くなってるよ。少年くん、納得できなければ訴えてもらってもいいから」
少女「そうか。知らなかったが、オレからおまえへの罰はさっき言ったとおりだ。少年もそれでいいよな」
少年「正直訴えたいと思ってるけど、俺も今は少女に従うことにした」
少女「明日、ちゃんと学校来いよ」
転校生「ああ。では先に失礼するよ。少年くんも殴って悪かった」
少年「俺のことはどうでもいい。俺も蹴ったしな。それより最初に約束した『二度とこんなことはしない』は必ず守れ」
転校生「もちろんだよ。あと、来ないようにさせておいてなんだけど、君が来てくれて感謝してるよ。ありがとう」
少年「さっきの2階でのことを思い出せば素直に受け取れねえな」
少女「もういいだろう。転校生、また明日な」
転校生「……それじゃあ」
バタン
少年(深々と礼をして出て行きやがった…)
少女「あ、あいつ円盤置いて行きやがった…明日持ってってやるか」
少女「さて…『納得してない』って顔だな」
少年「そりゃそうだ。なんであいつが急に大人しくなったのかも、そしれおまえが許したのかもわからないし。転校生はまだ演技かもしれないが…おまえが好きなのになんであんなことを…」
少女「理由はさっき転校生が言ったとおりだし、オレが許したのもさっきオレが言ったとおりで他にはねーよ」
少年「それはもちろん聞いてたからわかるんだけど…でもたかがそんなことで、というか納得できないというか…」
少年「いや、おまえの決めたことには従うことにしたんだ。話を混ぜ返してすまん」
少女「そうだな…オレと転校生が小さいときに秘密基地とかで男の子の遊びばかりしてたって言ったろ。あいつも言ってたんだが、あのころの想い出って特別というか…今まででたしかに一番楽しかったんだ。その想い出を共有していることを再認識したんだよ。あいつはそれを今回のことで一瞬忘れただけだ。あいつにとってそんなことも忘れてしまうくらいのことだったってことさ。あとは可愛さ余って、ってやつかもな」
少年「……わかった(でも安心はできないが)」
少女「まあ完全に納得はできないだろうが…それより聞きたいことは色々ある。まずなんで今日来れないって言ってたのに急に来たんだ? おかげで助かったが」
少年「そうか…転校生のことがあってすっかり本題を忘れていた…」
少女「本題?」
少年「少女! 本当にすまなかった!」ガバッ
少女「うおっ、なんでおまえが土下座?」
少年「俺、今までさんざん少女を苦しめて来たよな…転校生に言われたとおり、もう近づかないつもりだったんだけど…。でも! 妙に避けてるばかりじゃ、おまえも気分良くないよな」
少女「やっぱりわざと避けてたのか…しかしおまえの言ってることが今ひとつ分からないんだが…」
少年「避けてたことはごめん。それで俺が嫌われるのでもいいと思ってたんだ。でも、ちゃんと今までのこと謝ってから離れようと思ったんだ」グス
少女「おまえまで泣くのかよ…何を謝るんだよ。さっきもおまえ言ってたけど、オレを苦しめるって第一なんなんだよ」
少年(『そうは言わないだろうが、心の奥には貯めてるぞ』…自分でも気づいてないのか…)
少年「またおまえに思い出させることになるが…俺、おまえに女の格好させて、女の子としてデートさせたよな」
少女「は? 女の格好って…今もそうだが毎日してるだろ。デートって、あのゲーセン行ったやつか。あれはオレから言い出したんじゃねえか」
少年「制服は仕方ないとして…休みの日まであんな格好させてさ、仮におまえから言い出したことだとしても、俺は本当は止めるべきだったんだ…」
少女「よくわからんな。なんでだよ?」
少年「俺はおまえを女として見てて、本当は男なのに女の振りをさせて楽しんでたんだ! 辛かったよな…ごめん…本当にごめん…」グスグス
少女「あー、言ってることはなんとなくわかったが…別にそんな辛くはないぞ。女を演じるなんてそれこそ毎日してるわけだし。さっきも言ったけど、嫌ならオレから言い出したりしねえよ。それでおまえが喜んでくれりゃあと…」
少年「たしかにあのときは喜んじまった。でも…おまえ本当は男だろ」
少女「まあ心はな」
少年「それなのに…『おまえ女だろ』って言ったり、おまえの身体のこと根掘り聞いたり、挙句に自分の身体で興奮しないかとか…! ごめん…」グスグス
少女「『女だろ』とかただの軽口だったろ? 身体のこともオレがなんでも訊けって言ったんじゃねえか」
少年「でも…」グスグス
少女「わかった。そのことはあとで聞くけど、先に気になってること教えてくれ。なんで急に来たってのは、オレに謝りに来たかった、ってことだよな? じゃあなんで来ないって言ったんだ? 転校生がいるからか? だったら最初に来るって言わなきゃよかったろ」
少年「そうだな…まず転校生からおまえと離れろって言われた話はしたよな」グス
少女「ああ」
少年「あいつからLINEが入ったんだ。『これから少女か僕から遊びの誘いをする。最初は承諾して、30分以上経ったら今度は行けなくなったって言え』ってね」
少女「あいつ、いつのまに…」
少年「俺は単純におまえに嫌われるか呆れられるためと思ったんだが…あまり深くは考えずに了解した。そしたらおまえから、家で転校生と遊ぶって来て…一応言われたとおりOKした後に断ったんだ」
少女「なるほど、さすがに二人きりで家に来るんじゃオレが断ると思っておまえも来るように見せかけたのか。しかも今日は家に誰もいない日だったから、色々偶然も重なったな」
少年「さっきも誰もいないみたいだから、勝手に入らせてもらったんだ。そういやチャイムを普通に押せばよかったな…。あのときはとにかく早く行かなきゃ、って思ったから。おまえの叫び声とか外まで聞こえたからさ」
少女「なるほど」
少年「実は…早く行かなきゃって言ったけど、ちょっとした喧嘩かもしれないし、少し様子を見ちまったんだ。でも全然収まらないし、家の人が止めに入る様子もないし、誰も家にいないのかと思って…もっとすぐに飛び込んで行けばよかったよ」
少女「いや、助かったよ。よく飛び込んで来てくれた」
少年「最初は転校生に言われたとおり、ここに来るつもりもなかったんだ。でも今日も突然拒絶するようなことしたし…。あと…転校生がおまえと部屋で二人きりになるってのにどこかしらモヤモヤした気持ちがあったのも確かだ。まさか転校生と二人のときに入って行けないし、情けない話だけど転校生が帰るのを家の外で待ってたんだよ…」
少女「よくわかったよ。なるほどね」
少年「おまえ、最初は転校生と二人きりになるの嫌がってたよな。俺はよくわからないまま『幼馴染なのに考えすぎだ』って思っちまったし、おまえにも『転校生なら大丈夫だ』とか言っちまったよな。ごめん、おまえが正しかったよ…」
少女「オレだって転校生がああなるとは思わなかったよ」
少年「だから今日はまた来ちまったが…おまえはなんともないって言うけど、心の中ではかなり負担だったはずだ。女扱いされてな。オレの顔見たらまた思い出して苦しくなるだろ。表面的には感じなくても」
少女「そんなわけないだろ…誰からそんなことを…って転校生から聞いたのか」
少年「ああ、そうだけど、別にちゃんとネットとかでも調べたよ。俺は性同一性障害者の苦しみについて全然わかってなかったよ」
少女「ネット情報丸呑みにすんなよ…」
少年「ネットって言ってもいろんなサイトを見たよ。LGBTとかの扱いに反対するようなサイトもあったけど一部だし、読んでてもただの差別にしか思えなかった」
少女「結局おまえの感想じゃん」
少年「そうかもしれないけど、例えば性同一性障害者の自殺率とか実際にひどく高いし、どれだけの苦しみか各所で書いてあるし、俺も今まではそんなだなんて想像力がなかったけど、今はその苦しみがわかるよ。実際の何分の一かもしれないけど」
少女「それはオレも知ってるし、自殺するほど苦しんでる人がいるのも知ってる。たしかにおまえよりその苦しみについてはわかってるかもな。なにせこんなだからな」
少年「ぐ…」
少女「でもオレはそこまでじゃないんだよ。多分。おまえには今までどおりでいてほしいんだが」
少年「少女…俺はおまえの心の中は分からねえ。でも、少なくとも今まで傷つけて来たことはたしかなんだ…」グスグス
少女「そんな落ち込むなよ、な? だからオレ、この身体のことそんな気にしてないんだって。ほら、おっぱい触るか? ヘヘ」モチアゲ
少年「やめろよ!! さっきあんなことあったのに…おまえに冗談でもそういうことさせたく、いや言わせたくねーんだよ! …今の冗談も俺を気遣ってくれたのはわかるんだけどよ、でもおまえにこれ以上はよぅ!」
少女「…ごちゃごちゃうるせーんだよ! 黙って聞いてりゃ! オレがボケたら普通にツッこんで来りゃいいんだよ! いつもみたいによ!」
少年「できるかよ! 今は何も知らなかった以前とはちげーんだよ! おまえには男でいてほしいんだよ! その手のことは冗談でも挟み込んでほしくねーんだよ!」
少女「男でいてほしいだぁ? はあ? できるかよ、オレが『こんな身体』でよ!」
少年「っ!! 言うなっ! 身体とかは関係ねえっ!」
少女「ああ?」イラッ「そうかよ、身体は関係ねえんだな」ビキビキ
少年「ああ!」
少女「じゃあオレが裸になっても関係ねえな」ヌギッ
少年「バッ、馬鹿野郎! やめろ!」
少女「オレは『男』なんだろ」ヌギヌギ
少年「やめろ! それ以上やったらおまえとは友達をやめるぞ!」
少女「は? オレとは離れるんだろ? それに裸になったくらいでやめる友達ならオレもいらねえ」ヌギヌギ
少年「やめろーーーっ!!」ビリビリ
少女「うおっ」
少年「お、俺はおまえに女を感じたくねえ…」グス「おまえにも自分自身に女を感じて欲しくねえんだ」グスグス
少女「それは無理だな…それよりまた泣くのかよ…」
少年「ご、ごめん、またおまえにこんなことさせちまった…」グスグス ポロポロ
少女「泣くなって。ほら、服も着たし、な?」
少年「すまねえ、少女、すまん…」グスグス
少女(こいつメンドくせえ…)
少女「おまえメンドくせえな」ズバァ
少年「え」グス
少女「おっと、本音が出ちまった。さっきは土下座して泣くは、今は身体は関係ねえって言いながらオレが脱いだ途端に怒り出すわ、そうかと思えばまた泣いたり謝ったり、情緒不安定にもほどがあるわ!」
少年「いや、それは…」グスグス
少女「身体は関係ねえが女を感じたくねえ? 関係ねえなら感じるなよ。矛盾しまくりじゃねえか。それにオレにも自分に女を感じるな? 知るか! 人がどう感じるとかそれこそ関係ねえだろが」
少年「ごめん、そういうつもりじゃ…言い方が悪かった。おまえがそう感じてしまうようなことを俺はしたくなくて、それで…」
少女「さっきも言ったが、オレに感じるなってのは無理だ。なにせこの身体でずっと、十何年も過ごして来たからな。この身体にはちょっと、いやかなり違和感があるけど、産んでくれた親には感謝してるし、これがオレなんだよ」
少年「…」
少女「それにさっきなんて言った? 『これ以上やったら友達をやめる』? ははは。おまえオレから離れるとか言ってて友達続けるつもり満々じゃねえか」
少年「いや」///「それはつい…」
少女「こんなオレと友達を続けてくれるのは嬉しいぜ。オレから離れるとか言うなよ」
少年「俺だっておまえと友達はやめたくねえ」
少女「はは、やっと素直になったか? おまえが友達やめたら、オレは転校生としか遊ばなくなるぜ?」
少年「!! その言い方は卑怯だ…」
少女「さっきも言ったけどさ、LGBTで苦しんでる人は大勢いるしその苦しみがハンパじゃないってのもオレにはよくわかるよ。とくに同年代でさ、同性愛が周りにバレたり女なのに男として生きなければならなかったりして自殺した奴の話を聞くとさ、なんとも言えないやりきれない気持ちにもなるよ。でもさ、半数が自殺だか自殺未遂してるとしても、オレは多分残り半分の方なのさ」
少年「…」(自殺を考えたやつはもっといなかったっけ…)
少女「まあもしオレのことがクラス中にバレたりしたらまた違うのかもしれないけど…もし本当に辛くなったらおまえに言うよ」
少年「…わかった」(俺も少女のことを信じよう。そして何かあったら全力で少女の助けになろう)
少女「それにそんなに嫌だったら、こんな髪伸ばしたり女らしい格好しねえだろ。偽装のためとはいえ」
少年「それは性同一性障害の場合、社会に合わせたり、自分の違和感から逃れるために過剰に身体の性に合わせた行動をすることもあるってウィキには書いてあった」
少女「またネットかよ…そんなネットの向こう側じゃなくてさ、生身の本物がここにいるんだぜ。こっちを信用しろよ」
少年「ごめん、もう信じてるよ。たしかに本当に辛いならおまえなら正直に言ってくれるはずだから…」
少女「お、おう…ははは。じゃあこれからも今までどおりってことでいいよな」
少年「うん、すまなかった。これからもよろしく」
少女「ああ! じゃあ…」スッ
少年「おう」ガシッ
少年(握手してみると、こいつの手ちっちゃくてやわらけえな…どうしても女を感じちまうけど、オレも割り切ろう)
少年「俺にできること、助けられることがあったらなんでも正直に言ってくれ。俺はおまえの力になりたい」
少女「サンキューな。おまえのほうこそ何かあったらオレに言ってくれよな」
少年「うん。あ、さっき胸触るか?とか言ってたよな」
少女「ん? おう、なんだ、やっぱり揉みたくなったか? ははは」モチアゲ
少年「ああ。やっぱり触らせてくれ」
少女「お? お、おう…ははは、な、なんだよ、やっぱりムッツリさんだな! ははは…じゃ、じゃあ今日だけ特別だぜ? あ、服の上からな。あの、あんまり長くは困るぜ。は、ははは」///
少年「ツ・ッ・こ・め・よ・お!!! ボケたんだからよお!」
少女「あ……ああ!」///「ナ、ナニユウテンネーン…」///
少年「今までどおりって言ったじゃねーか! 今までの俺、そんなこと言ったことあるか?!」
少女「心の中では?」
少年「ねーよ!」
少女「ははは!」
少年「とくに転校生のことがあった後にそんなことするわけねーだろうが!」
少女「まあまあ。ははは」
~
少年:今日は本当に色々あった。少女のことはなるべく男として接していこうと思っていたのに、あのときの恥ずかしがる少女の顔を見て、とても可愛いと思ってしまったんだ。