表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/285

第14回(第6話・終回)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ


**** 6-14 ****



 クラウディアは数秒の間を置いて、口を開いた。


「どうして、言ってくれなかったの?」


「どう言えっていうのよ?わたしもあなたに負けないぐらい成績いいですよ、なんて、普通、自分から言ったりしないでしょ。わたしも、天野さんと同じで、そんな事で競争する気はないし、ね。」


 維月の返事を聞いたクラウディアは、じっと維月を見詰めたままだったが、言葉に詰まっている様子だった。維月は、更に言葉を続ける。


「百歩譲って、どんな風に伝えるかは兎も角、わたしの取るであろう成績の事を、あなたに話したとしましょう。それで、あなたがわたしに対して、あなたが天野さんに取る様な態度になったら、それはわたしに取っては辛い事よ。わたしはあなたと敵対したくはないし、寮では同じ部屋で寝起きするのよ。だからって、あなたに気を遣って、わざと悪い成績を取るなんて事までする気は無いの。わたしは去年後半、病気の所為せいで学校に来られなくなって、散々悔しい思いをしたから。そんな気持ちまであなたに解って貰おうとは思ってないけど、誰にもわたしの邪魔はさせないわよ、今度はね。」


 黙ったままだったクラウディアは、維月がそこまで言い終えると、視線を机の上へと落とした。何か言葉を探している様だったが、数秒経っても、それが見付からない様子だった。維月はスゥッと息を吸い込んで、少しゆっくり、話し出す。


「クラウディア、あなたは頭はいいけど、人との関わり方がとっても不器用で、それで無駄に敵を作って損をしていると思うの。だけど、そんなあなたの事を、わたしは嫌いじゃないのよ。あなたとわたし、これからも上手くやっていけるかしら?」


 維月はクラウディアの瞳を覗き込むように、微笑んで視線を投げかける。クラウディアはその視線を受け止め、言った。


「上手くやっていきたい、と思う。わたしも。」


「そう、よかった。」


 席から腰を浮かせ、維月はクラウディアに向かって右手を差し出す。クラウディアは少し躊躇ちゅうちょした後、その右手を取り、二人は握手を交わすのだった。


「じゃ、これからもヨロシクね。」


 笑顔で、そう言った維月は、クラウディアの手を握る右手に少し力を入れ、笑顔を崩さずに言葉を続ける。


「これで、一件落着…と言いたい所だけど。でもね、この際だから言わせて貰うけど、天野さんとボードレールさんに対するあなたの態度は、度を超していて失礼よ。対人不器用って言うレベルじゃないから、この場で少し、考えを改めなさい。」


 維月は更に、右手にぎゅっと力を込める。


「痛い!イツキ、痛い、痛い。」


「別に、謝れとか何とか言ってるわけじゃないの。ただ、今後の態度を考えなさいって言ってるだけ。それが分かったら、放してあげる。」


「分かった、分かったから。放してっ。」


 悲鳴にも近いクラウディアの声を聞いて、ようやく維月は握っていた右手を放した。その手を机越しにクラウディアの頭へと伸ばし、その金髪の頂部に右手を当てて維月は言った。


「いい子ね。」


 透かさずクラウディアは、左手で維月の右手を払い除ける。


「だから、頭を撫でないでってば。」


「あはは、ごめん、ごめん。」


 維月は椅子に座り直し、言葉を続けた。


「正直言うとね~今回の試験、自分が立場的に有利なのは解ってたんだけど、クラウディアに勝てる自信は無かったのよね。それから、天野さんがここまで得点するとも思ってなかったの。黙ってればクラウディアの希望通りの結果になって、丸く収まるのかなって思ってたから、わたしとしては予想外な結果だったけど。まぁ結果的に、これで良かったのかもね。」


 対して、クラウディアは立ったまま、腕組みをして言う。


「まぁ、いいわ。取り敢えず、今後の目標を変更する。卒業までに、イツキとアカネを追い抜くのが、今後の目標よ。」


「卒業って…随分とロング・スパンに切り替えたわね。」


 と、呆れ半分、からかい半分でブリジットが突っ込むのだった。そして、茜も呆れた様に、言葉を返す。


「どうであれ、わたしはそんな勝負に付き合う気はありませんので、どうぞご勝手に。」


「ええ、飽くまでも個人的な目標だから、勝手にさせて貰うわ。」


 茜を横目で見つつ、クラウディアは鼻で笑う様に言うのだった。

 その時、「パン」と一回、手を打つ音が室内に響いた。


「はい、そろそろ今日の作業、始めましょうか。運用試験本番まで、あと一週間しか無いんだから。」


 事の成り行きを見守っていた緒美が、立ち上がってそう言うと、一同が席を立ち、それぞれの担当作業の準備を始めるのだった。

 茜とブリジットは、インナー・スーツへ着替える為、中間試験以降より更衣室扱いとなっている、資料室の隣室へと向かった。瑠菜と佳奈、直美は HDG と LMF の起動準備の為に階下へと降りて行く。緒美と恵、立花先生は、記録機器の準備を始めた。樹里とクラウディア、そして維月の、今日の作業予定は、HDG-B号機及び、C号機のソフトウェア仕様の検討と資料整理である。


「手伝ってくれる人が来てくれて、助かるわ~。今までこの担当は、わたし独りだったから。」


 愛用のモバイル PC に必要なアプリケーションを立ち上げながら、樹里が染み染みと、そう言った。


「イツキも、正式に入部すればいいのに。」


「入部すれば、本社からバイト代も出るのよ。」


「いいわよ、お金なんて。人手が足りない時のお助け要員ぐらいが、わたしにはちょうどいいの、無責任で。」


 そう言って笑う維月は、何と無く左手を自分の首筋へと当て、少し伸びた襟足を撫でるのだった。その仕草を見て、樹里が言った。


「早く伸びるといいね、髪。」


「伸ばしていたの?以前。」


 クラウディアが維月に尋ねる。


「うん、まぁね。」


「去年までは、今の部長くらい、長かったのよね。」


「どうして切ったの?」


「髪を切らなくても手術は出来たんだけど、願掛けみたいな物よ。脳腫瘍の手術が成功しますように、って。」


「そう。」


 短く返事をしたクラウディアは、鞄から取り出した自分のモバイル PC の、電源を入れたのだった。




- 第6話・了 -




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ