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第11回

第5話・ブリジット・ボードレール


**** 5-11 ****



 搭乗用ステップラダーを登り、茜は HDG へと身体を潜り込ませる。両手脚を、それぞれのブロックへ接続し、展開されていた各部フレームをロックする。そして、スラスター・ユニットを起動して、メンテナンス・リグから解放されるまでの、一連の流れをブリジットは少し離れた場所から見ていた。


「あ、動いた。」


 HDG を装着した茜が、メンテナンス・リグから離れて歩き出すのを見て、ブリジットは思わず、そう声を漏らしたのだった。


「そりゃ、動くわよ。」


 何時いつの間にか、ブリジットかたわらには直美が立っていた。

 格納庫の南側大扉が佳奈の手に因って開けられ、茜が庫外へと歩いて行くのを、ブリジットは何となく見送っていた。


「あれが、パワード・スーツ、なんですね。」


「う~ん、形状的に一般的な意味でのスーツではないから、うちでは HDG って呼んでるのよね。」


「HDG? 何の略ですか?」


「ハイパー…何とかギア、元々は防衛軍が発案した、結構、物騒な名前だったんだけど。天野重工では、意味無しで、単純に HDG って事になってたみたいね。 それで昨日は、あの形状だから『ヘビィ・ドレス・ガール』だ、とか言い出したのよね。」


「成る程。まぁ、女子が着てるなら、それも有りかも。そう言えば、この部活って、女子限定なんですか?」


「あぁ~別に、そう言うわけじゃないんだけど。結果的に、今、参加してるのは女子だけになっちゃってるわね。 まぁ、防衛軍関係に興味の有る人は、普通、自警部の方へ行っちゃうじゃない? それに、二年生以降は、特技か、やる気のある子しか採ってないから。」


 いささか唐突だが、ここで『自警部』について説明しておこう。

 『自警部』とは、その名前の通り、自警を目的とした部活である。それは、学校の所有地内に、防衛軍の防空監視レーダー施設が建設された事に端を発する。既に十年以上も前の事になるが、この地域の防空監視レーダーを設置する計画が持ち上がった際に、防衛軍へ装備を納入している関係もあって、天野重工が用地として学校が所有する土地を、格安で防衛軍へ貸与したのだ。その後、レーダー設備の一部に就いてメンテナンス作業を天野重工が請け負った際、『特課』の生徒を実習生として作業に参加させた事で、防衛軍と天神ヶ﨑高校との交流も始まったのである。

 その一方で、レーダー施設はテロ等の攻撃標的とされる事もあり得るので、当然、それなりの警備がされるわけだが、極近傍の天神ヶ﨑高校が付帯的に攻撃の対象となる事も考えられ、日常的な警備の必要性が検討された。とは言え、学校の内外を防衛軍の兵士が巡回する様な状況もどうか、との懸念から「校内の警備は生徒が自ら行おう」と言う事になって出来たのが『自警部』である。

 勿論、警備事案が発生した際の実力行使を生徒にやらせるわけにもいかないので、不審な状況が有れば防衛軍に連絡するのが『自警部』の役割とされ、飽くまでも実力行使を伴う対処行動(平たく言えば、戦闘行為)は防衛軍が行う事になっているのである。その際に、在校生の避難誘導など防衛軍と連携して事態に当たれる様に、と言うのが『自警部』の活動趣旨となったのだ。

 だが、近年のエイリアン・ドローンに因る都市襲撃事件の頻発と言う事態を受け、その際の緊急避難的な措置として、避難する際の、ある程度の防御的反撃が出来る様にと、行動の基礎トレーニングや、小火器を用いた射撃訓練、エイリアン・ドローンへの対処方法の座学などを防衛軍が行う様になり、それらを目当てにした血の気が余り気味の男子生徒には、ここ数年、『自警部』は人気の部活となっていた。

 これは、防衛軍に取っては、天神ヶ崎高校の優秀な若者に対するリクルートのチャンスでもあり、実際、『普通課』の生徒の中には、この『自警部』活動を機会に、卒業後に防衛軍へ入隊する者もいるのだった。

 因みに、エイリアン・ドローンによる襲撃事件が起きる様になって以降、二ヶ月に一度行われている避難訓練は、その実務は生徒会と自警部が主体となって実施されているのである。


「二年生以降って、三年生の先輩達には特技とかやる気とかは、特に無いんですか?」


「あはは、今の言い方じゃ、そう言う事になるわね。元々、この開発、研究を独りで始めたのが、あの部長、鬼塚なのよ。」


 直美は HDG のテスト状況を見ている、緒美の背中を指差して言った。


「その友人だった会計の森村は、鬼塚の行動を心配して、この活動に参加したの。」


 今度は、HDG のテスト状況をビデオ・カメラで記録している、恵の背中を指差す。


「で、一年生の時、寮で同室だった森村が、変な活動に参加してるんじゃないかって心配して、ミイラ取りがミイラになったのが、わたし。」


 最後に、直美は自分を指差して、微笑んだ。


「だから、天野を心配して、ここに様子を見に来たあなたの気持ちは、わたしは分かってあげられる積もりなわけ。」


「そうだったんですか…ちょっと、先輩の事、聞いてもいいですか?」


「何?」


「先輩も、何かスポーツ、やってましたよね?」


「体育会系に見える、って奴?」


「はい。」


「よく言われるわ、ソレ…。」


「違うんですか?」


 ブリジットが覗き込む様に、直美の瞳を見詰めるが、直美は視線をらしてしばらく沈黙した。そして、前を向いたまま、静かに話し始める。


「…確かに、中二の時迄までは、陸上やってたのよ。短距離。」




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。



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