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第9回

第4話・立花 智子(タチバナ トモコ)


**** 4-09 ****



 そして最後まで読み終えると、めくり上げられていた用紙の束を閉じ、レポートの表紙ページをながながら、前園氏は言った。


「ふむ。これ、うちの一年生が書いたの?」


「はい。レポートの書式とかは指導しましたけど、内容は彼女が考えた物です。」


「成る程。レポートの結論は兎も角、内容は面白いね。まぁ、去年まで、中学生だったんだから、結論がああなるのは無理も無いか。しかし、天野重工の技術者だったら、このレポートの開発課題を、どこまでクリア出来るか、見てみたいなぁ。」


「そこなんですよ。わたしが考えているのは。」


「これ、影山君の所に回してあるの?」


「はい、わたしの直属の上司経由ですけど。」


「そうか…。」


 前園氏は着ているジャケットの内ポケットから、携帯端末を取り出した。


「…わたしから一言、言ってやろう…彼のアドレスが変わってなければいいが…。」


 携帯端末のパネルを操作して、前園氏は影山部長へ通話要請を送る。携帯端末を耳元に当て、相手先へのコールを数回聞いて待っている。


「あ…おう、おう、前園だよ…あぁ、久し振りだね、影山君。部長になったんだって?出世したじゃないか、ハハハ…あぁ、今、キミの所の立花君がこっちに講師で来てるだろう…あぁ、彼女から聞いてね。あ?…いやいや…あぁ、元気だよ、この通りな。 キミの方こそ、奥さんは元気かね?……あぁ、そうか、そうか。 ………あぁ、いや、変わり無い、変わり無い、ハハハ…うん、うん。 あぁ、今、大丈夫かね?…あぁ、そうか、そうか……うん。 …あ、所でだな、こっちに来てる立花君からキミの方へ、レポートが上がってるだろう?彼女の上司から。…あ?……あぁ、いや。立花君と話をしててね、その件でね、失礼ながら、先に読ませて貰ったよ…あぁ、そう、そう。 有能な部下がいてうらやましいよ。良く出来たレポートだから、キミもく早く目を通す事を勧めておこうと思って…なに?…忙しいのか…あぁ…あぁ…。 そうか…そうか………うん、そんなに忙しいのなら仕方が無いかな。 あぁ………分かっとる、分かっとる、ハハハ……じゃぁ、仕方が無いな。…うん、じゃぁ、先に理事長、会長に見て貰う事にするよ。…何って、レポートを、だよ…そう、そう…だから、忙しいんだろう?…いいよ、いいよ、無理するな、無理するな。あ?………価値が有ると思うから、こうやって連絡したんだし、キミが見る暇が無いと言うなら、わたしが会長の所に持って行くまでの事だ…何?………あぁ、会長からトップ・ダウンで下りて来たら、やり辛いとは思うぞ………だから、何時いつも言っていただろう?仕事はボトム・アップでやれって。 ………あぁ、読んでみれば分かるよ。 …あぁ、そう、そう。うん……いや、いや。 …あぁ…いや、邪魔をしたね。あぁ…また機会が有ったら…あぁ、うん…じゃぁな…おう…。」


 前園氏は携帯端末のモードを切り替えると、ジャケットの内ポケットへと携帯端末を仕舞った。


「今日中に読んでおく、とさ。」


 そう言うと、前園氏は微笑んだ。遣り取りの一方のみを聞いていた智子は、気になった事を一つだけ、前園氏に問い掛けてみた。


「会長にレポートを見せる…って、ハッタリ…ですか?」


「いいや。会長の好きそうな内容だったからね。見せたなら、このレポートの価値を、間違い無く評価して呉れると思うよ。まぁ、先に影山君が読むと言っているから、一日待ってやろう。わたしが持って行かなくても、何れ、理事長の目に入るとは思うけどね。」


 そして、前園氏はゆっくりと立ち上がった。


「いや、長居をしてしまったかな。お陰で、期せずして懐かしい男の声も聞けた。ハハハ。」


なんだか、お手数を掛けてしまって…」


 智子も立ち上がり、小さくお辞儀をする。


「いやいや、気にしなさんな。役に立ったのなら何よりだ。又、何か困り事が有ったら、相談なさい。出来る事なら、力になるから。」


「ありがとうございます。」


「いや、こちらこそ、コーヒー、ご馳走様。」


 そう言って前園氏は、智子の居室から上機嫌な様子で出て行ったのだった。

 そんな前園氏を見送った後、突然の降って湧いた様な予想外の展開を「都合のいい偶然も有った物だ」と、智子は思っていた。

 「理事長」からのルートで部長を動かすと言うのは、智子には思いも寄らない方法だった。そもそも、智子は理事長である天野 総一とは全く面識が無かったので、「理事長ルート」を思い付かなかったのも無理は無かった。仮に思い付いた所で、理事長に直訴するのは、部長に直訴するよりハードルが高い様に思われたので、智子には前園氏の様な真似は出来そうもないな、と思ったのであった。




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。



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