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第7回

第4話・立花 智子(タチバナ トモコ)


**** 4-07 ****



 緒美がパワード・スーツの研究レポートを書き上げてから二日後、2070年5月8日木曜日。智子が居室で書類の整理をしていた、午前十一時を少し回った頃だった。デスクの上に置いてあった、彼女の携帯端末から着信のメロディが鳴り出す。

 作業の手を止め、携帯端末のディスプレイを見ると、本社企画部三課の小峰課長からの通話要請だった。


「はい、立花です。」


「おう、立花君。小峰だけど、今、大丈夫かな?」


「はい、大丈夫です。どうかされました?」


「おいおい、あんな物、送り付けておいて、どうかしたかも無いだろう?」


「あぁ、レポートの件ですね。」


 緒美のレポートは、書き上がったその日の内に、小峰課長宛にデータで送信してあったのだ。


「アレは、どう言う事だい? HDG 案件に就いて話したのか?」


「まさか。幾らこの学校が会社うちの系列だからって、企画案は基本的に社外秘ですよ。それくらいわきまえてます。 アレは、説明に書いた通り、ここの一年生が考えた物ですよ。レポートの書き方に就いては、わたしが指導しましたけど、内容に関しては口を出してはいません。」


「まぁ、確かに。開発項目が二百件以上って結論では、『箸にも棒にも』なんだが…。」


「そこは、重要じゃないんです。」


 小峰課長が言い終わるより前に、智子は釘を刺す様に言ったのだった。


「解ってる、そこは重要じゃないんだ。注目に値するのは、運用と機能拡張の計画案の部分だな。何と言うか、ビジョンが明確だ。うちの検討チームのよりも。」


「でしょう。だから、お送りしたんです。」


 智子は椅子に座り直し、背凭せもたれに身を預ける様に背中を伸ばした。


「それで、これをわたしに見せて、キミは何をしようと考えているのかな?」


「彼女の研究、実現性を天野重工の技術で、どこまで行けるのか、見極めたいですね。」


「彼女? あぁ、この一年生、女の子だったのか…凄い人材が居たもんだな…って、実現性? 開発も巻き込む積もりか?」


「出来れば、試作まで。」


「ちょっ、ちょっと待て。待て…それは、わたしの裁量を超える話だぞ。」


「解ってますよ。ですから、そのレポート、部長へ上げて頂けませんか?」


「それは…う~ん、今はどうかなぁ…。」


「何か、不味まずい状況でなんすか?」


「う~ん、この間から出て来てる案件がね、詳しくは話せないんだが…まぁ、本社の方は今、結構バタバタしてるんだよ。うえげるのは出来なくはないが、今の状況じゃ部長が読んで呉れるかどうか、ちょっと分からんぞ。 そもそも、その子は、どうしてこんなレポートを書いたんだ?」


「本人は在学中に基礎理論を固めて、本社採用になってから提案する積もりだったみたいなんですけど。」


「今、一年生なんだろう? それじゃ、十年先の話になるじゃないか、会社に提案なんて。」


「彼女はそのぐらいのスパンで考えていたんです。でも、それ、待ってられます?わたし達が。」


「いや、勿体無もったいないなぁ…。十年も先に送ったら、他社よそが先に作っちゃうかもかもなぁ。」


「その時まで、世界の経済が持ってればいいですけどね。」


「難しいかもな。」


「そう思うなら、部長に何とか読んで貰ってください。読んで頂ければ、興味を持って貰える内容だと思います。」


「そうだなぁ…まぁ、取り敢えず、ダメ元で上げてみるか。直ぐには反応は無いと思うから、余り期待はしないでおいて呉れよ。」


「よろしくお願いします。」


「この鬼塚って子は、アレかい? 兵器オタクとか、その口かな。」


「いいえ、そう言うのじゃないですけど、真面目に、熱心に考えていますよ。」


「趣味でもなく、真面目に熱心に…か。動機に就いては聞いていないのかい?」


「あまり、話したがらないので。少なくとも、お金とか功名心とかが動機ではなさそうですね。ただ、前線…陸上部隊の人的損害に就いて気に掛けている様子で。 想像ですけど、身内の誰かが被害に遭ったりしたのかも知れませんね。ご両親は健在の様ですけど。」


「そうか、そう言う事なら無理に聞かない方が、いいのかも知れんなぁ…まぁ、此方こちらには関係無い話だ。無駄な勘繰りは、止めにしておこう。」


「はい。ではレポートの方、よしなにお願いします。」


「あぁ、まぁ、やってみるよ。じゃぁ。」


 小峰課長からの通話は、そこで切れた。智子は携帯端末をデスクの上に置くと、座ったままで両腕を上げ、上半身を伸ばした。「これで、完全に彼女を自分の仕事に巻き込んでしまったな」と、智子は少し後悔の様な、そんな気持ちになっていた。しかし、「彼女は自分の研究が役立つ事を願っていたのだ」と思い直し、「いずれこうなるのを、少し早めただけ」だとも、智子は考えた。むしろ、こうしなかったら緒美のアイデアや研究は、日の目を見なかったかも知れない。小峰課長が言った様に、他社が先んじれば天野重工の出る幕は無くなるのだ。「何事もタイミングが大事なのだ」、「自分は自分に出来る限りの最善を尽くしているのだ」と、智子は、そう思うのだった。




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。




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