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第4回

第4話・立花 智子(タチバナ トモコ)


**** 4-04 ****



 学校の敷地の、その南側には、主に飛行機部が使用している滑走路が在る。駐機場を挟んで、その北側に三棟並んでいる格納庫の内、東端の一棟が『第三格納庫』と呼ばれており、その二階の中央が『兵器開発部』の部室とされていた。

 智子は第三格納庫東壁面に設けられた外階段を登って二階部分の入り口の前まで行き、預かっていたカード・キーでドアを解錠して部室へと入った。外からの光は、入り口脇の模様硝子がめられた換気窓一つから差し込むのみで、昼間でも室内は薄暗い。入り口から向かって奥側の窓ガラスの向こう側は格納庫内部の空間なので、そちら側から外光が直接入って来る事は無さそうだった。

 部室の中の様子は、しばらく誰も入っていない事が一目ひとめで解る有様で、至る所にほこりが降り積もり、天井には蜘蛛の巣が残されていた。人気ひとけが無く、ひんやりとした空気が薄気味の悪さをかもし出していたので、取り敢えず部屋の灯りを点けた智子は、ず、入り口脇の換気窓を開け、部屋の奥へと進んで格納庫側の窓も開けた。格納庫側には天井付近に換気口が設けて有るので、部室奥の窓を開けると、入り口側の換気窓との間で空気が動いていくのが感じられた。


「取り敢えず、灯りが点いて良かったわ。」


 智子は誰に言うでもなく、そうつぶやくと、南側の壁際に備え付けられたシンク上の水栓をひねる。最初、出て来る水の色は茶色だったが、直ぐに水は透明になった。

 部室の奥側、南側と北側の両方に二階の渡り廊下へ出られる扉が有り、智子はシンクの有る側、南側の渡り廊下へ出て、そこでバケツに雑巾、ほうき塵取ちりとりなどの掃除道具を見付けた。


「よし。じゃ、ずは掃除から始めますか…。」


 その日と、その翌日は、部室の掃除と整理で、智子の一日は暮れた。


 日曜日を挟んで、2070年4月7日月曜日。智子は、部室の南隣の部屋に入った。そこは『兵器開発部』の資料室として使われており、雑誌から専門書まで、兵器に関する膨大な蔵書が保管されていた。この部屋も、以前の部室同様にほこりまみれだったので、大まかにほこりを払って床掃除をし、それから蔵書の内容確認をしつつ、乱雑に並べられていた本の分類や整理を始めたのである。

 その作業には結局、一週間を費やしたのだが、智子には、それに十分な時間が有ったのは、幸いだったと言えるだろうか。


 部室と資料室の、掃除と整理を終えた智子は、第三格納庫の二階で『兵器開発部』が使用していた他の部屋を、次々と確認していった。部室と資料室以外に二階に有ったのは他に五部屋で、その内、四部屋は空き部屋だった。一番北側の部屋だけには、扉に『防衛軍共同管理』との張り紙が貼られており、鍵を開け、その部屋の中に入ると、ずらりと鍵付きのロッカーが並んでいた。

 勿論、智子は、それらのロッカーの鍵も預かっていたので、手近なロッカーの一つを解錠して扉を開けた。


「随分と物騒な物が入ってるわね…。」


 思わず、独り言を漏らした智子だったが、彼女が見た物が、数丁の拳銃だったのだから無理も無い。しかも、実弾の入ったケースまでもが、一緒に保管されていた。他のロッカーも解錠してみた智子だったが、れにも種類の違う拳銃や、ライフルやサブ・マシンガンなどが納められており、それらは全てモデルガンなどではない様子だった。

 智子は、全てのロッカーを元通り施錠し、その部屋を出た。そして、ドアの張り紙の意味を、ようやく理解したのだった。

 「触らぬ神に祟りなし」、そう思って智子は、その場から離れた。


 その後、智子は資料室の中から、興味を引かれる文献を引っ張り出しては読んでみたり、過去の『兵器開発部』の活動の記録などを探索したりして、学校での時間を過ごした。それは、智子に与えられた居室であったり、あるいは『兵器開発部』の部室であったりした。場所は何方どちらであれ、当面の間、授業の予定の無い智子に取って、『兵器開発部』の顧問としての仕事が、現在出来る唯一の仕事だったのだから、その為の情報を仕入れるのに必要で貴重な時間だったのだ。


 2070年4月17日木曜日。その日の放課後も、部室で資料を読んでいた智子だったが、不意に、ドアをノックする音が聞こえて顔を上げた。部室に出入りする様になっておよそ二週間、ここに智子以外の誰かがたずねて来たのは、初めての事だった。


「どうぞ。開いてますよ。」


 部屋の中からドアに向かって、智子は声を掛ける。

 ドアを開け、一人の女子生徒が入って来た。それが、一年生の鬼塚 緒美だった。


「立花先生ですか?顧問の。」


 緒美は、閉めたドアを背に、智子に話し掛けた。


「そう、だけど。あなたは?」


「機械工学科一年、鬼塚 緒美です。『兵器開発部』の事でうかがいたいんですが、よろしいでしょうか?」


 智子は、緒美が何の要件で、ここに来たのか、まだ、見当が付かないでいた。


「聞きたい事?どんな事かしら。」


「先ず、部活の活動内容とか…です。」


 そこで、ようやく智子は、緒美が、ここに来た理由に思い当たったのである。


「あ、あぁ~、ひょっとして入部希望…とか?」


「えぇ、まぁ、そんな所ですけど。ずは、どんな部活なのか知りたくて。『兵器開発部』は今日の部活説明会にも、出ていなかったので。」


 その日は、各部活への勧誘を目的とする、新入生への説明会が午後から行われていたのだが、幽霊部員ばかりで事実上は全く活動をしていない『兵器開発部』は、説明に立つ部員がいなかったのだ。


「あなたは、『兵器開発部』の事は、どこで知ったの?…鬼塚さん。」


「そんな名称の部活が有るって、寮で、友人が先輩から聞いたらしいんですけど…詳しい事は分からなくって。それで、担任の大須先生に聞いてみたら、立花先生が顧問になったと教えて頂いたので。最初、先生の居室の方へ行ったんですけど、其方そちらは留守だったので、此方こちらの方へ来てみたんです。」


「そう…あ、こっちに来て、座って。」


 智子は手招きをして、入り口のドアを背に、立ったままだった緒美を呼び寄せた。

 黙って小さく会釈すると、緒美は部室中央の長机へと近寄り、智子の向かい側の席に座った。




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。



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