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第11回

第18話・新島 直美(ニイジマ ナオミ)


**** 18-11 ****



「統合作戦指揮管制です。目標の撃墜は、此方こちら側で確認してあります。現時点で、エイリアン・ドローンは残存十機。残りは此方こちらで処理しますので、天野重工さん達は、ご苦労様でした。準備が出来次第、帰投して頂いて構いませんよ。」


 桜井一佐の提案は、勿論、善意からのものである。『ペンタゴン』の位置特定と狙撃、その実証試験が今回の作戦に天野重工側が参加している理由なのだ。それが終わった以上、危険な現場に民間企業が留まる必要は無いのである。

 それに対して、緒美は躊躇ちゅうちょ無く意見を返すのだ。


「AHI01 です。 ECM 支援と警戒は、最後まで実施します。ご迷惑でなければ。」


「それは、そうして貰えるなら、有り難いけど。大丈夫? AHI01。」


「はい。問題ありません。 ECM01、ECM02、ECM 支援は継続してる?」


 緒美は続いて、直美と樋口に確認をした。その答えは、直ぐに返って来る。


此方こちら、ECM01。言われるまでもなく、継続中。」


「ECM02 です。此方こちらも継続中。」


 続いてクラウディアが、緒美に問い掛けて来るのだ。


「HDG03 です。念の為、『ペンタゴン』のスキャンは続行しますが?AHI01。」


「いいわ、続けてちょうだい、HDG03。」


「HDG03、了解。」


 クラウディアの返事を聞いて、緒美は茜とブリジットにも呼び掛けるのである。


「HDG01 と HDG02 は、待機ラインで警戒監視ね。」


此方こちらHDG01 ですけど、レーザーで狙撃とか、此方こちらからも出来ますよ?AHI01。」


「HDG02 です。こっちも、まだレールガンの弾体が残ってますが。」


 茜とブリジットが二人そろって調子のい事を言っている様だが、これは何方どちらも冗談である。それは、その話し振りで緒美にも伝わったのだ。

 緒美は苦笑いで、言葉を返す。


「防衛軍の邪魔になるから、余計な事はしないでね。HDG01、02。」


 茜とブリジットは、声をそろえて「了解(りょ~か~い)。」と返事をしたのだった。

 それに続いて、今度はコマツ01:入江一尉が、統合作戦指揮管制を呼び出すのだ。


「コマツ01 より、作戦指揮管制。ウチのコマツ02、どうなりましたか?」


 その呼び掛けに応えたのは、桜井一佐ではない男性の管制官だった。


「統合作戦指揮管制です。コマツ02 は海防イージス艦搭載の救難機にて、ピックアップ済み。パイロットに別状は無し。」


「おー良かった。コマツ01、了解です。」


 今度は桜井一佐が、コマツ01 に指示を出すのだ。


「コマツ01、もう其方そちらへ向かう敵機は居ないとは思うけど、念の為、天野重工隊への警護と周辺監視を継続して。」


「コマツ01、了解。」


 そして、この日に襲来したエイリアン・ドローンの全機が撃墜されたのは、それから十五分程あとの事である。

 最後まで作戦の推移を見守った天野重工側の各機は、当初のオプションに有った様に補給を受ける為、岩国基地に立ち寄ったのだ。

 そもそもが、翌日の午前中に岩国基地へ移動する予定だったので、岩国基地側の受け入れ準備は天野重工のスタッフ達に依って調えられていたのだ。

 岩国基地に一行いっこうが到着すると、そこには飯田部長と日比野の二人が待ち受けて居て、緒美や立花先生を驚かせたのだった。飯田部長と日比野は、この日に岩国基地へ派遣される本社スタッフの一団が有ったので、急遽きゅうきょそれに同行して来ていたのだ。

 岩国基地に設営されていた天野重工用の『テスト・ベース』には、HDG のデバッグ用コンソールが当然、持ち込まれていて、それに因って実証試験の推移や通信通話が、逐次ちくじ、モニタリングされていたのである。言うまでもないが、そのオペレーションを行ったのが日比野なのだ。

 そんなわけで、飯田部長と日比野は迎撃作戦中の実証試験に就いて状況の推移を全て把握しており、岩国基地に到着した緒美達を出迎えて、直接に祝辞を送ったのである。

 ちなみに、作戦に参加中の緒美達へ飯田部長が通信を送らずモニターに徹していたのは、敢えて、なのだが、その事に就いて、立花先生は次の様に言及したのだ。


「様子をモニターしていたのなら、声を掛けてくだされば良かったのに。」


 それに対する飯田部長のコメントである。


「特に此方こちらから、何か言わなければならない局面も無かったからね。」


 そう言って、飯田部長は豪快に笑うのだった。


 各機が補給と点検を終え、HDG のドライバー達とF-9 改や随伴機のパイロット達が休憩を済ませると、全機が天神ヶ﨑高校へと出発する。ここで飯田部長と日比野の二人は、緒美や立花先生の搭乗する随伴機に乗り込み、共に天神ヶ﨑高校へと向かったのだ。一方で岩国基地の臨時『テスト・ベース』は、基地に残された天野重工のスタッフ達に依って撤収作業が始められたのである。

 飯田部長が天神ヶ﨑高校へと向かったのは、天野会長と直接会って打ち合わせをする為で、日比野の用件は当然、各種データの回収なのだ。


 さて、岩国から天神ヶ﨑高校までは直線距離で大凡おおよそ二百キロメートル程度なのだが、市街地や住宅地の上空を延々と飛行するわけにも行かないので、遠回りでも一旦いったん、瀬戸内海上空へと出て、陸地上空を飛行するのは最短距離になる様に瀬戸内海側から北上するルートを選択するのだ。この瀬戸内海経由のコースだと、飛行距離はおよそ二百六十キロメートルになり、飛行時間は大体、二十五分程度である。

 ECM01 の操縦席では加納と直美が、その飛行時間の間、二人切りなのだ。その時間を利用して、直美は気になっていた事を、思い切ってたずねてみる事にしたのだった。


「加納さん、嫌だったら答えなくてもいいんですけど、どうして防衛軍を辞めちゃったんですか?」


 勿論、通信の『トークボタン』は押してはいない。だからこそ、プライベートな質問も出来ると、直美は思ったのである。


「ああ、気になりますか?新島さん。」


 加納は、直美が驚く程の、普通のトーンで声を返したのだった。

 直美も、努めて普通のトーンで話し掛ける。


「はい。今日、見た限りでも、何て言うか、腕前が確かなのは間違いが無さそうなので。なのに現役でないが、ちょっと不思議です。」


 加納は、少し間を置いて、言った。


「事故が…有りましてね、訓練中に。それで同僚…いや、部下を死なせてしまったのです。」


「それで、責任を?」


「まあ、そんな所です…厳密には、少し違いますが。いや、その時、指揮を執っていたのはわたしでしたので、責任は負うきなのは間違いないですね。」


「厳密には、って?」


「あはは、お嬢さんがたに聞かせる様な話じゃないですよ。」


 笑って誤魔化そうとする加納だったが、直美は食い下がるのだ。


「誰にもしゃべりませんから。社会勉強って言うか、後学の為に、聞かせて貰えます?」


「まあ、そうですね。今日は新島さんを危ない目に遭わせてしまったので、そのおびと言う事で。別に、誰に話して貰っても構いませんが、プライベートな内容に就いては、常識的な取り扱いでお願いしますよ。」


「はい、それは勿論。」


「それじゃ、その前に。」


 そう言って加納は、『トークボタン』を押して ECM02 を呼び出す。


「ECM01 より、ECM02。しばら先頭リーダーを交代して呉れ。」


 慌てた様に、樋口の声が返って来る。この時、帰路の F-9 改二号機を操縦しているのは、樋口なのである。沢渡は後席で、樋口の監督をしながら、ECM 装備のマニュアルを読んでいたのだ。


「何か有りましたか? 加納さん。」


「いや、問題は何も無いが。こう言う編隊長フォーメイション・リーダーを経験しておくのも必要だぞ、樋口君。沢渡君、指導してやって呉れ。」


 すると、ECM02 からは沢渡の声が返って来るのだ。


「了解です、ECM01。」


 間も無く、F-9 改二号機が一号機の前へと出ると、加納はポジションを二号機にゆずって先頭を交代するのだった。


「それじゃ、あとは宜しく、ECM02。」


 それから一呼吸置いて、加納は語り出す。


「さて、改めてしゃべろうとすると、何から話せばいいのか、迷いますが…ず、事故の詳細に就いては省略しましょう。気になるなら、過去の報道とか調べて頂ければ。一般のニュースにも、なりましたから。 その事故の後、防衛軍の調査では、わたしの指揮には問題は無い、との結論にはなりました。」


「それで責任を問われた、と言うわけではない、と。」


「はい。問題だったのは事故の犠牲者、『彼』と呼ぶ事にしますが。彼はわたしとは同期で、その当時は部下でした。」


「加納さんが『隊長』だった頃?」


「そうですね。で、彼はわたしの妻の従兄弟で、彼の奥さんは妻の大学時代からの友人だったのです。そんなわけですので、家族での付き合いがありましたし、お互いの子供同士も仲が良かったんですよ。まあ、妻の身内…親戚でしたから。」


「成る程。それで、一方だけが犠牲になった、と。」


「ええ。妻のほうには方々の身内から、色々と言われてたみたいで。それで段々と、妻との折り合いが悪くなっていきまして。」


「加納さんには責任は無いって、判定だったんですよね?」


「身内に不幸が起きれば、そう言った第三者の判断は、余り関係無いですね。妻にとっても彼は、昔から知ってる身内だったわけですし。彼や妻の身内の側からすれば、他人はわたしだけでしたから。」


「理不尽、ですね。」


「まあ、わたしもどこかで、立ち回り方を間違えたんでしょう。どこで何をどう間違えたのかは、今となっても見当も付きませんが。 結局、事故から半年程で妻とは、離婚となりました。」


「お子さんは?」


「当然、妻側の身内扱いですからね。わたしに対しては、慰謝料も娘の養育費も請求しないから、娘の親権を渡せ、とね。」


「慰謝料って…離婚の原因が加納さんの浮気とかじゃないのに。」


「まあ、そうなんですけどね。彼の事故が起きて以降のバタバタとした状況に、わたしの方が随分ずいぶんと参っていたので。」


「認めちゃったんですか。」


「もう、どうにでもなれって感じでしたね、その時は。それに娘も、その頃は母親の方にべったりでしたし。」


「その時、娘さんは幾つだったんですか?」


「五歳、でしたね。 今はもう、成人してるはずです。」


「会ってないんですか?その後。」


「別れて以降、元妻が会わせて呉れなくて。それで、離婚して、二年後だったかな、元妻が再婚したとは聞きましたが。そのあとの事は、知りません。」


「加納さんは、なさらなかったんですか?再婚。」


「そんな元気は無かったですね。 兎も角、そんな様子だったので、彼の事故以降、わたしの方は精神的に不安定になってしまって、飛行任務には就けなくなったんですよ。精神的な問題を抱えたパイロットに、戦闘機の操縦をさせるわけにはいかないですから。その上で離婚が決まって、更に生活が荒れてしまって。それで結局、問題を起こさない内に防衛軍を辞める事になった、以上が大まかな顛末です。」


「そう言う、ドラマみたいなお話、実際に有るんですね。」


「これでも、お聞かせ出来る範囲を選んで省略してあります。実情はもっとグチャグチャしてましたが、まあ、若いお嬢さんには、とても聞かせられたものではありません。こんな話でも、参考になれば反面教師にでも、活用してください。」


 直美は一度、溜息をき、加納にたずねる。


「それで、天野重工に…じゃない、その前に警備保障の会社に勤められてたんでしたっけ?」


「ああ、良く覚えておでで。」


「あの時の、天野とブリジットに就いての一連お話は、割とショッキングでしたので。」


「ああ、成る程。 警備保障会社を紹介して呉れたのは、防衛軍の先輩のかたです。防衛軍を辞めてしばらく、荒れた生活してしていたのを見兼ねてね、まあ、情け無い話しなんですが。 それでも、会社の契約先へ派遣されて所謂いわゆる、警備員的な業務をやりながら、要人警護や探偵的な業務の研修を受けたり、実際にそう言った仕事もやりましたが。防衛軍時代とは目先の変わった仕事でしたから、気分が変わったと言いますか。仕事がら、色んなトラブルを目の当たりにしましたので、わたしの方は精神的なリハビリになったと言うか、開き直ったと言うか。 兎に角、人生をやり直すには、いい契機になりました。紹介して呉れた先輩には、感謝してるんですよ。」


「それじゃ、天野重工には?」


「警備保障会社の仕事で、会長の警護に参加した事が切っ掛けですね。当時、飛行機の操縦が出来る、ボディーガード的な人材を探していたそうで。それで会長が気に入って呉れて、引き抜かれたんですよ。 秘書の仕事は、天野重工に移ってから、ですね。」


「ボディーガードですか~…。」


 直美が感心した様に言うので、加納は笑ってコメントする。


「あははは、これでも元防衛軍ですから、剣道や柔道、射撃とか一通りの心得こころえは有りますよ。街のチンピラ程度には、今でも負けやしません。」


「道理で。始めから秘書をやってる人には見えませんでしたよね、加納さんって。」


「良く言われますよ。自分でも秘書なんてがらじゃないのは承知してますし、こうなるなんて思ってもみませんでした。でも、割と適性は有ったみたいですね、自分でも意外ですが。」


 そう言って加納は、又、笑ったのだ。




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


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