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第3回

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)


**** 16-03 ****



 コンソールのマイクに向かって、維月が問い掛ける。


「クラウディア、今のサムズアップは?」


 すると直ぐに、クラウディアの声が返って来る。


「一瞬、想像イメージしたのかも知れない。無意識よ、ホントに。」


 今度は安藤が、Sapphire にたずねるのだ。


「Sapphire、さっきのマニピュレータの動きは、何か入力が有ったの?」


「ハイ、江利佳。 思考制御からの入力に従いましたが、不適切でしたか?クラウディア。」


「あー、まあ、いいけど。ちょっと敏感過ぎるかも?」


 Sapphire の問いに対するクラウディアの答えを聞いて、樹里が提案する。


「思考制御の検出レベル、閾値しきいちの設定をこっちで少し上げてみるわ。」


「お願いします、城ノ内先輩。」


 クラウディアが樹里に返事をすると、続いて Sapphire も言うのだ。


「お手数を、お掛けします、樹里。」


 樹里はコンソールを操作しながら、Sapphire に話し掛ける。


「あら、自己紹介は、まだだったはずだけど、わたしの事、解るの?Sapphire。」


「ハイ。皆さんの個人識別に就いては、Ruby のライブラリからデータ移植を受けていますので。改めて、自己紹介をして頂く必要は、ありません。」


「成る程、それは便利ね…はい、設定変更完了。これで様子を見ましょうか。」


 そうこうする内、C号機は大扉の前に到達し、ロボット・アームが届く程度の距離で立ち止まるのだ。


「それじゃ、開けますね。」


 そうクラウディアが宣言すると、C号機は一旦いったん、左ひざを突く形で姿勢を低くすると、左側のマニピュレータを前方へ差し出して大扉のハンドルに指を掛ける。そして大扉の一枚を少し左へと動かすと今度は立ち上がり、正面に出来た扉の隙間に両側のマニピュレータを差し入れ、ロボット・アームを左右に広げる様に動かして、大扉を押し開いたのだ。

 その一連の動作をながめていたブリジットは、誰に言うでもなくつぶやくのだった。


「ああ、同じ動作、LMF でもやった事、有ったなぁ…。」


 それがみとした語感に思えて、隣に立っていた茜はブリジットに言うのだ。


「ごめんなさいね、LMF、壊しちゃって。」


「茜が壊したわけじゃないでしょ。」


 間を置かずに言葉を返すと、ブリジットは微笑んで続けて言うのだ。


「それに LMF のデータが、あれで活かされているなら、無駄になってないって事だし。」


「そうね。」


 短く同意して、茜も微笑んだのだ。

 C号機は、押し開けた扉を通って、駐機場へと歩みを進めるのだった。


 十月も半ばともなると夕方の日暮れは早く、格納庫の外へ出ると太陽は既に西側の山陰やまかげに入っていた。空はまだ、明るさを保ってはいたのだが、周囲が明るい時間は、このあと一時間も持たないのだ。

 その一時間で、C号機は歩行から駆け足、移動しながらの加速や減速、制動、跳躍と言った具合に、C号機の脚部を使った動きと全体のバランス制御に関して、安全を確保しつつ丁寧に動作領域の確認と、搭乗するクラウディアに対する慣熟が行われていったのである。

 外が薄暗くなるとC号機は格納庫へと戻され、クラウディアは接続を解除した。以降は畑中や日比野達が、稼働後の点検やデータの吸い出しを行い、瑠菜や佳奈達メンテ担当のメンバーには取り扱いに関するレクチャーが実施されると言う流れは何時いつも通りなのだ。その取り扱いレクチャーには、遅れて到着した応援の人員である金子、武東、村上、そして九堂らも参加したのである。

 約一時間、C号機に搭乗していたクラウディアは、と言うと。初めての事に緊張も有ったのか、流石に疲労感が隠せず、又、C号機の試運転で相当に揺られた所為せいも有って、いささかぐったりとしていたのだった。

 一方で茜とブリジットの二人は、今日はインナー・スーツに着替える事も無く、HDG 装着者ドライバーとして外部からC号機の様子を監視し、必要が有れば思考制御での入力方法や操作に就いて助言をする役割を振られていたのだが、C号機の仕上がりが思いのほか良かったのか、それともクラウディアが上手に Sapphire を扱ったからなのか、兎に角、茜もブリジットも出番は全く無くて、ただ、始終見学をしているだけだったのだ。

 そんなわけでブリジットと二人、新装備の整備レクチャーが行われているかたわらで現場の片付け作業をしていた茜の所に、緒美がやって来て声を掛けるのである。


「天野さん、ちょっといいかしら。」


「あ、はい。何でしょうか?部長。」


「このあと、夕食後…九時位から一時間程、時間取れるかしら。この先の試験内容に就いて、少しお話ししたいの。」


 茜はほうきを手にしたまま、緒美の方へ向き直り問い返す。


「それじゃ、ブリジットと二人で?」


「あ、いえ。今回は、天野さんだけ。連絡じゃなくて、相談しておきたい事が有るの。」


「わたしだけ、って珍しいですね。」


「ああ、あと城ノ内さんと、立花先生にも声を掛けるから、ミーティングに参加するのは四人ね。」


「そうですか、分かりました。それで、場所は…。」


「寮の談話室、第二の方を予約してあるから、九時に来てね。」


「はい。 それで、どう言った内容なんです?」


「内容は…まだ決定事項じゃないから、ここでは言わないわ。 じゃ、あとで、宜しくね。」


 そう言ってきびすを返した緒美は、その足でデバッグ用コンソールへと向かうのだ。そこでは安藤と日比野に、樹里が新装備のソフト関連に就いてのレクチャーを受けているのだ。

 茜とブリジットが緒美の動きを視線で追い掛けていると、緒美は樹里に声を掛け、茜と同じ様な遣り取りをしている様子なのである。

 そんな状況を目にしたブリジットが、いぶかにポツリと言った。


「何だか、妙よね。」


「わたしと樹里さん、って言う取り合わせは、珍しいよね。議題はソフト仕様の絡みかしら? まあ、行ってみるわ。」


 そう言って微笑み、茜は床面を掃くのを再開するのだった。



 その日の部活が終わったのは午後七時を大幅に過ぎた頃で、それから兵器開発部のメンバー達は寮に帰り、夕食を取ったのである。

 そして茜は緒美に言われた通り、午後九時に女子寮二階の、ほぼ中央に在る第二談話室へと向かった。

 第二談話室は個室になっており、主に込み入った話をする際に利用されるのだが、それは使用者と使用理由を届け出た上での完全予約制で、生徒が使用する場合は教師の許可か同伴が条件となっている。これは周囲の目が届かない個室内で飲酒や喫煙、或いは『いじめ』等の、非行行為が行われる事を防止する為に設けられている条件なのであるが、この天神ヶ﨑高校の女子寮に於いて、過去にその様な事例が実際に起きたと云うわけではない。

 第二談話室の入り口脇に設置されている小型のホワイトボードには、午後九時からの使用者として『兵器開発部・鬼塚、城ノ内、天野』との記入が有り、使用理由の欄には『部活ミーティング』、許可・同伴者の欄には『特許法講師・立花』と、それぞれ緒美の筆跡らしき文字で書かれていたのだ。それを確認して、茜はドアをノックする。

 しばらく反応を待っていると、ドアが内側へと開かれる。


「どうぞ~。」


 ドアを開けて呉れたのは、樹里だった。


「あ、すいません、樹里さん。中から声を掛けて頂ければ…。」


「取り敢えず、入って~天野さん。」


 茜が室内に入り、入り口のドアが閉められると、廊下側から聞こえていた音が、ふっと静かになるのだ。

 樹里が茜にたずねる。


「天野さんは、第二談話室は初めて?」


「はい。防音、なんですか?ここ。」


 室内には既に緒美と、立花先生も来ており、それぞれがソファーに座っている。ソファーは三人掛け程度の大きさのものが四脚、二脚ずつ対面にボックス状に並べられている。入口側から正面に見えるソファーに緒美が、入り口から見て向かって右手側のソファーには立花先生が既に座っており、向かって左側のソファーに樹里が座ると、茜は入り口を背にしたソファーに腰掛けるのだった。

 茜が座ったのを見計らって、緒美が口を開く。


「ここは、先生が寮生を個人指導する時に、周りに聞かれると不味まずい様な『お話』をする為に使うお部屋だから、音が漏れない様になってるのよ。まあ、そう言った本来の目的で使用される事は、滅多に無いけど。」


 微笑んで、立花先生が補足する。


「何せ、この学校の生徒は優等生ばっかりだから。」


「はあ。」


 何と無く、あきれた様な相槌あいづちを打つ茜である。

 続いて、樹里が説明するのだ。


「そんなわけだから、大抵はこうやって部活のミーティングとかに使われてるんだけど。一番多い利用目的って、何だと思う?天野さん。」


「さあ、何でしょう。試験勉強、とか?」


「あー、それも有るけど。一番多いのはね、楽器の練習よ。」


「ああ、成る程。音楽そっち方面は興味が薄かったので、気が付きませんでした。」


 すると、立花先生が茜に問い掛けるのだ。


「天野さんは、ピアノとか、習い事はやらなかったの?」


「そうですね、わたしは剣道の道場に通ってたので。他にやらされたのは、書道くらいですね、小学生の最初の頃、三年程。 音楽関係は、普通に聴くのは好きですけど、自分で演奏しようなんて、考えた事も無かったです。あ、妹のほうはやってましたよ、ピアノ。」


 そこで、樹里が提案する。


「そうだ、その内、部のみんなでカラオケとか行ってみるのも、面白いかもですね。」


「いいですね、楽しそう。」


 普通に乗り気な茜に対し、緒美は特に表情も変えず、普通に言うのである。


「そうね、みんなで行って来るといいわ。」


「部長は、お嫌いですか?カラオケ。」


 そう問い掛ける樹里に、少し困惑気味に緒美は答えた。


「う~ん…行った事が無いから、よく分からないわね。今、流行ってる歌とかも知らないし。」


 緒美の答えを聞いて、微笑んで立花先生が言うのである。


「そう言う所、緒美ちゃんは浮世離れしてるのよね。わたしは、嫌いじゃないけど。」


「浮世離れ、ですか。まあ、自覚はしてますけど。 実際、その手の『遊び』とか、やってる時間が無かったものですから、ずっと。」


 緒美は小学校を卒業する頃から、エイリアン・ドローンと兵器や軍事に関する情報収集と研究に、自由時間のほとんどをぎ込んで来たのである。勿論、学校の勉強や宿題も抜かりなくやっていたからこその、現在の成績なのであるが。むしろ、定まった答えの無いエイリアン・ドローン対策の研究に比べれば、答えの定まっている学校の勉強や宿題は、緒美にとっては『いい息抜き』だったと言っても過言ではなかったのである。

 そんな緒美に、茜もたずねてみる。


「部長は、音楽とか、どんなのを聴くんですか?」


「だから、聴かないんだってば。うちの両親は二人共、研究一本の人だったから、ネットやテレビの放送でだってニュース程度しか見ないし、両親が家に居る時はクラッシクの音楽が良く掛かってたけど、ロックとかポップスとかをしっかりと聴いた事は無いのよね。両親は、映画とかも観ない人達だったからなあ。あの二人の唯一の娯楽は、研究だったのよね。」


「なかなかに凄い御家庭ね。」


 流石に立花先生も、苦笑いである。

 そこで思い出し笑いをしながら、緒美が言うのだ。


「そう言えば、パワード・スーツの参考資料として、SF 映画やロボットもののアニメとか観てたら、そんなわたしを見た両親が、『ウチの子が普通の子みたいに、映画を観てる』って喜んでたのよね。普通の女の子は、そんなテーマの映画は普通、観ないでしょって、その辺りからズレてるのよ、わたしの両親。」


 その緒美が語るエピソードに、緒美の正面に座っている茜はクスクスと笑っているのだが、樹里と立花先生は互いの顔を見合わせての、どう反応したものかと困り顔だった。そんな事には構わず、緒美は茜にたずねるのである。


「そう言えば、天野さんも同じ様な映画とかアニメとか、一通り観てるのよね。 御両親は何も言わなかった?」


うちですか? うちの母は、そう言ったものに全く興味が無いので、反応は何も無かったですね。父の方は、SF とかアクション系の作品は、結構、好きだったみたいで、わたしと一緒に観て、楽しんでましたよ。むしろ、妹の方が何か言いたでしたけどね。」


 そして茜は「あははは。」と笑うのだが、左右の二人は、矢張り困り顔なのである。

 それから緒美は座り直して姿勢を整え、口を開くのだ。


「それじゃ、そろそろ本題に入りましょうか。」


 その宣言を受けて、他の三名も座り直す。そして、改めて立花先生が問うのだ。


「それで、本題って何かしら?緒美ちゃん。」


「大きく分けて二つ、有るんですけど。ずは、C号機の能力確認、試験方法に就いて。」


 真面目な顔で緒美が言うと、立花先生の表情が少し曇るのだ。


「ああ、今朝、打診が有った件ね。」


「はい。その件です。」


 二人が深刻な表情なので、樹里がその理由をたずねるのだ。


「打診、と言うのは…本社から、ですか? その、『連絡』ではなく。」


「そう。今の所は『打診』なのよ。 C号機の電子戦…最初は ECM、電波妨害の能力検証なんだけど。いえ、電子戦の能力はれにしても、シミュレーターとか模擬的な方法では確認が出来ないって言うか、意味が無いって言うか。」


 そこで茜が、コメントをはさむ。


「それで、検証方法に就いては保留ペンディングになってたんですよね?」


「本社は、なんて云って来たんですか?部長。」


 続いて樹里がたずねると、一息を置いて緒美は答えるのだ。




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


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