表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
202/285

第7回

第14話・天野 茜(アマノ アカネ)とクラウディア・カルテッリエリ


**** 14-07 ****



「確かに、解ってない様に間違った解答を考えるのって、大変ですよね~。」


 その発言を聞いて笑ったのは、樹里と瑠菜、そして維月の三名だけで、他のものは唖然としていたのである。特に、奇妙な共感を向けられた金子は、困惑しつつ佳奈に聞き返したのだ。


「え~と…どう言う事かな?それは。」


「え~。何か、間違ってたかな?瑠菜リン。」


 佳奈は隣の瑠菜に、金子の反応が意外だった理由をたずねている。問い掛けられた瑠菜は、クスクスと笑いながら「みたいよねぇ。」とだけ答えたのだ。

 そして金子には、樹里が説明を試みる。


「彼女、中学卒業まで、試験の解答で自分の成績を操作してたんですよ。」


「どう言う事?」


「簡単に言うと、自分の成績がいいと嫌われるって言う、変な思い込みが有ったらしくて。」


 その樹里の説明に、武東が「被害妄想的な?」と聞いて来るので、樹里は首を横に振り、説明を続ける。


「小学生の早い時期に、実際に酷い嫌味を言われたのが、相当にショックだったらしいんですよ。佳奈ちゃんはあの通り、独特のペースなものですから、そんな人が自分よりも成績がいいのが許せないって言うか、ねたましく思われたらしくて。」


「ああ、子供の考えそうな事だね。何と無く分かった。」


 樹里の説明に納得している金子だったが、その肩をつかむと武東は、佳奈に向かって言ったのだ。


「この人の場合はね、そんな手間を掛けた偽装じゃなくて、テストの三分の二くらいにしか解答を書かないのよ。要するに、ただの手抜き。」


「いーじゃん、書いてる解答は、大体、合ってるんだから。」


 そう反論する金子に、武東が作り笑顔で言い返す。


「だったら、全問に解答なさいよ。」


 金子は苦笑いして、視線をらすのである。そこに、恵が笑って声を掛けるのだった。


「あはは、夫婦喧嘩なら、余所よそでやってね~。」


 その、恵のコメントに一同が笑って、一先ひとまずは落ちが付いたのである。そして、樹里が佳奈に向かって言った。


「佳奈ちゃんは、もう中学の時みたいな事やっちゃダメだよ。」


 すると、佳奈は笑って応えるのだ。


「あははは、もうしないよ~。あんな、面倒めんどうな事~。」


 その佳奈の返事を聞いて、武東は金子への提案を試みる。


「ほら、面倒めんどうな事だって。貴方あなたも彼女を見習って、手を抜くの、もう止めにしたら?」


うるさいなぁ。全部解答するのが面倒めんどうだから手を抜いてるんでしょ。」


 即座に笑顔で言い返す金子に、武東は口をとがらせて表情だけで抗議した。そんな二人に向けて、笑顔を作って恵がふたたび言うのだ。


「だから、夫婦漫才めおとまんざい余所よそでやってね。」


 恵は金子と武東の関係を冗談めかして『夫婦』と例えているのだが、この場で当人達を除けば、その二人の関係を正確に認識しているのは恵だけなのである。

 恵に冷やかされて、一度、顔を見合わせた金子と武東だったが、今度は武東が緒美に、話題を変えて話し掛ける。


「試験と言えばさ、神原カンバラ君、『今回こそ、打倒鬼塚』って燃えてるわよ~。」


「あら、そうなの?」


 緒美は言われた事には、全く意に介さない様子で、恵がれた紅茶を口元へと運ぶ。そしてあきれた様に、直美が言うのだ。


「彼もりないよね。」


 恵は何も言わずに苦笑いしているのだが、直美の言葉には、笑って金子が応えるのだった。


「あはは、神原君、生徒会長になっちゃったからね。引くに引けないんでしょ?」


「前の会長には、随分ずいぶんと発破、掛けられてたらしいから。」


 金子に続いての、武東の発言に、直美が問い掛ける。


「どうして、そんな事、知ってるのよ?武東は。」


「同じ学科クラスなんだから、それくらい、伝わって来るわよ。」


 そこで、一年生達の表情に気が付いた恵が、説明を始めるのだ。


「一年生達には、解らない話だったよね。今の生徒会長の神原君って、例の試験での順位が、部長に次いで毎回二位なのよ。それで、一年生の頃から部長に挑戦し続けてる、って話なのね。」


 その説明に対して、茜がたずねる。


「それで、その事と『生徒会長になったから』って言うのとは、どこでつながるんですか?」


「ああ。生徒会の役員選挙は毎年二月なんだけど、その時点でだから、直近では後期中間試験の結果で一位の二年生が翌年度の会長候補に、一位の一年生が副会長候補に推されるのね、伝統的に。 要するに、成績一位の翌年度の三年生が会長に、二年生が副会長にって事で、二年生は一年間副会長を務めたら、更に翌年の会長候補になるわけよ。」


 そこでブリジットが、恵に問い掛ける。


「あれ? でも、学年の途中で成績が下がっちゃったら、どうなるんです?」


「会長は、卒業するまで、一応、立場は安泰ではあるんだけど。副会長の方は、翌年の役員選挙で、その時の一位の生徒が次期会長の対立候補になる、らしいわ。」


「うわ、容赦無いですね。」


 ブリジットは苦笑いで、恵の解説にコメントを返したのだ。そして直ぐに、茜が気が付いて声を上げる。


「あれ?でも、部長も樹里さんも、生徒会、やってませんよね?」


 その疑問には、緒美が即座に応える。


「生徒会には興味も無いし、そんな活動に割いてる時間も無いもの。」


 そして苦笑いしつつ、恵が説明を追加する。


「実は、去年も今年も、次期役員候補に推薦するって、生徒会から言っては来てたのよね。去年の一月は部長を副会長候補に、今年は部長が会長候補で、城ノ内さんが副会長候補に、って。 生徒会長の最後の仕事が、その年のトップの生徒を次期会長候補に口説き落とす事だそうでね、それは、しつこかったんだけど…。」


 そこで一回、恵は深い溜息をいた。その続きは、直美が話した。


「最終的に、その説得工作に就いては、学校…と言うよりは、会社の方からストップが掛かったんだよね。」


 茜とブリジットは、声をそろえて「あー…。」と発したのである。勿論、会社がストップを掛けた理由が、HDG の開発が止まっては困るからである事は、言うまでもない。

 そして、金子が発言する。


「去年、鬼塚が生徒会からの副会長推薦を断ったから、順位で二番手だった神原君が、副会長になったわけなんだけど。その時点で、当時の会長には在任期間中に鬼塚の成績を追い抜けって、ね、そう言われてたらしくて。」


 続いて、武東が発言する。


「今年も鬼塚さんには、生徒会は袖にされちゃったわけだから、神原君的には今度の任期中に鬼塚さんに勝って、生徒会長の面目を保ちたい所なのよね。」


 緒美は、困惑気味に言うのだった。


「そんなふうに、勝手に対立構造を作られても、わたしには何も出来ないわよ。生徒会長に頑張って貰うしか、方法はないわけだし。」


「そりゃ、鬼塚が手心を加えるってのも、筋が違う話だよね。今になってみれば、鬼塚が生徒会活動とかやってられないのも、良く解るし。鬼塚にしてみたら、神原君の一方的な敵愾心てきがいしんも、理不尽だよなぁ。」


 同情する金子に、緒美は「でしょう?」と、同意を求めるのだった。

 そこに、ブリジットが質問する。


「生徒会役員と部活って、両立は、矢っ張り難しいンでしょうか?」


 その問い掛けには、恵が答えたのである。


「生徒会役員でも部活動に所属は出来るとは思うけど、部長を続けるのは問題が有るわよね。 生徒会長は部長会議で議長を務めるわけだし、第一、各部活の予算を最終的に決裁するは生徒会長だから。その人が、どこかの部活の部長だったりするのは、色々とマズいでしょう?」


「あー、成る程。確かに。」


 納得するブリジットに続いて、直美が言うのだ。


「この部活は、鬼塚が部長じゃないと回らないしね。」


 一同はそれぞれに、静かにうなずくのである。しかし、そこで武東が不穏な事を言うのだ。


「それでも、来年になったら、城ノ内さんと、今度は天野さんが、生徒会から推薦されるんじゃない? 今の所、二年生のトップは城ノ内さんで、一年生は天野さん、でしょ?」


「ははは、どっちも、生徒会には渡さないよ~。」


 即座に、直美が声を上げるのだが、自身が生徒会へと云われた事に関して、茜は懐疑的に感じて発言をするのだ。


「わたしが生徒会に関わるのって、マズくはないでしょうか?」


 その疑義に就いて、最初に応じたのは恵である。


「それは、天野さんが理事長の身内だから?」


「はい。明らかに『七光り』的、ですよね?」


 すると、茜の感慨に対して、金子が見解を述べるのだ。


「でも、理事長の娘とか孫が生徒会長って、マンガやドラマとかじゃ、良く有る展開じゃない?」


「ああ登場人物キャラクターって、七光り的な事を気にしない『お嬢様』気質の人じゃないですか? わたしは、別に『お嬢様』じゃないですし。」


 その茜の発言を聞いて、意外に感じたのは飛行機部の二人、金子と武東だけで、兵器開発部のメンバーと、茜の友人である村上と九堂は、その辺りの事情に就いては既知だったのである。だから、茜に問い返したのは、武東なのであった。


「え? 天野さんは、天野重工のお嬢様じゃなかったの?」


 武東の問い掛けには、その隣に座って居た村上が応じるのだ。


「あ、先輩。天野さんの御実家は、天野重工とは無関係なんだそうです。」


「どう言う事?」


 武東の疑問には、茜が改めて解説をするのだ。


「わたしの母の父が、理事長、天野重工の会長なので、わたしが理事長の孫なのは間違いないんですが。私の父方の天野家は、天野重工とは全くの無関係なんです。まぎらわしいですけど、そもそもはウチの父と母が大学時代に、偶然、同じ名字だからって意気投合して付き合い出したのが発端ほったんで、お互い名前が変わらなくていいって、そのまま、結婚しちゃったんだそうです。後になって、何代かさかのぼったら親戚だったってのが、解ったらしいんですが。」


 茜の説明を聞いて、今度は金子が問い掛ける様に言う。


「へぇ、それじゃ、天野さんのお父さんが、今の社長じゃないんだ?」


「今の社長は、片山社長ですよ? ちなみに、その片山社長と結婚したのが、わたしの叔母…わたしの母の妹で、あ、叔母が結婚した当時は、まだ片山の叔父様は社長じゃ無かったはずですけど。兎に角、だから天野重工の社長令嬢は、私の従姉妹いとこの方なんですけど、この名字の所為せいで、昔からわたしが社長令嬢だと誤解され勝ちで。 ちなみに、わたしの父は天野重工とは全く関係の無い商社の、ただの営業課長ですから。」


 今度は武東が「ああ、そうなんだ。」と相槌あいづちを打つので、茜は更に説明を続けた。


「勿論、小さい頃から母方の実家とは、行き来が有りましたから、全くの他人みたいに育ったわけじゃありませんけど、祖父…理事長の家だって、豪邸ってわけでもない普通の家でしたし、わたしのウチだってそうです。現社長の、片山の叔父様の所だって、普通の家で、わたしも従姉妹いとこの子も、『令嬢』なんて感じに育ったわけじゃないですよ。」


 そこで立花先生が、付け加えて発言するのだった。


「天野重工も、今でこそ大企業の一つに数えられてるけど、百年を超えてる様な同業他社に比べたら、急成長した比較的新しい会社でしょ。だから、経営陣である重役の人達も、庶民的な人ばかりなのよね。一社員としては、そう言う所は、この先も変わって欲しくはないかなぁって。まぁ、その辺りは、色んな意見の人が居るとは思うけど。」


 そして金子が、茜に向かって言うのだ。


「取り敢えず、天野さんの立場に関しては、良く解ったわ。それにしても、それを一々、説明して回るのも面倒めんどうだよね。」


「あはは、そんな面倒めんどうな事、してませんよ。誤解されてると都合の悪い相手にだけ、説明してるんです。一応、個人情報ですし。場合に因っては、誤解されてる方が便利な事も有りますからね。」


「ああ、成る程。」


 そう応えて金子がニヤリと笑うと、茜は思い出した様に言うのだ。


「あ、そうそう。成績の話で言えば、来年まで、わたしがトップで居られるとは、限りませんよ? なかなかに強力なライバルが居ますので。」


 茜はてのひらを上にして、維月とクラウディアを順番に指し示す。すると、維月は茜にウインクを送り、一方でクラウディアは卓上のチョコマフィンへと伸ばしていた手を止めるのだった。そこへ、佳奈が声を掛ける。


「あはは、クラリン。期末は、茜ンに勝てそう?」


 クラウディアは、目当てのチョコマフィンを拾い上げると、席から浮かしていた腰を下ろし、目を閉じて澄ました声で佳奈に言葉を返す。


「クラリンって、呼ばないでください。」


 佳奈は「え~。」と、不服そうに声を上げるのだが、クラウディアは、それ以上その事には取り合わない。すると今度はブリジットが、からかう様に言うのだ。


「試験の順位で勝つって、そう言えば、そんな設定も有ったわよね。」


 クラウディアは、横目でにらむ様にして、ブリジットに声を返す。


「『設定』って、言わないで。」


 その様子にクスッと笑い、続いて維月がクラウディアに声を掛ける。


「で、どうなのよ?クラリン。」


「もう、イツキまで。」


 クラウディアは一度、息をいて、そして言った。


「勿論、アカネには勝つ積もりで準備はしてるわ。目標なのはアナタも同じなんだからね、イツキ。」


「あ~はいはい。そうだったよね~。」


 そう応えた維月は、ニコニコと笑顔を崩す事が無いのである。その表情を見たクラウディアは、視線を茜の方へと向けると、言うのだ。


「アカネも、手を抜いたりしないでよね。」


 挑戦的に言われた茜だったが、維月と同じ様な笑顔で応えるのだった。


「勝負なんか、する気は更更さらさら無いけど、手を抜く気も無いから、それは御心配無く、クラウディア。」


 茜の返事を聞いて、視線を前に戻したクラウディアは、手に持ったままだったチョコマフィンを一気に頬張ほおばるのだった。




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ