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第15回

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール


**** 13-15 ****



「ああ、これ? ブリジットの、練習の参考になるかなって思って。」


 茜は携帯端末を拾い上げると、画面を九堂の方へ向ける。そこには、薙刀なぎなたの試合の動画が映っていた。それを九堂と、その横から村上がのぞき込む。すると九堂が、思わず声を上げたのだ。


「あら、何だか懐かしい感じの動画ね~。 そう言えばブリジット、まだ練習やってたんだ。」


「うん、とは言っても、素人しろうとの自己流じゃ、どう練習したらいいかも分からなくて。」


 九堂の「懐かしい感じ」と言う感想には触れない、そのブリジットのコメントを聞いて、茜とブリジットには意外な事を、村上が言うのである。


「だったら、要ちゃんに、教えて貰えばいいのに。」


「え?」


 茜とブリジットは、互いに顔を見合わせた後、そろって九堂の方を向いた。

 その九堂は、何でも無い様に微笑んで言う。


「あ~、ご要望とあれば、コーチでも何でもやりますよ~基礎練習程度なら。」


「って、要。薙刀なぎなたの経験、有ったの?」


 そうブリジットが九堂に問い掛けると、隣の村上が言うのだ。


「要ちゃんの実家、薙刀なぎなたの道場なんだって。」


「うん、母方ははかたの方が、代々ね。そんなわけで、昔からやらされてたんだ~。」


 九堂の発言を聞いて呆気あっけに取られる様に、茜がコメントする。


「そんな話、初耳だわ…。」


「そりゃ、聞かれなかったから、話す機会タイミングも無かったし。 それに、茜が剣道やってたのを、わたしが知ったのも最近だもの。それを知ってたら、もっと早く話が出てたかもね~。」


あっちゃんは、知ってたのね?」


 そう茜に問われて、村上は答える。


「わたしが聞いたのも、最近だよ。ブリジットが兵器開発部の関係で、『槍』とか『薙刀なぎなた』の練習してるって聞いて。その絡みで、要ちゃんと話してて、聞いたんだっけ? 要ちゃんの実家のお話。」


「え~と、そうだっけ? その辺りは、詳しく覚えてないけど、そんな流れだったよね、多分。」


「御実家のお話って?」


 村上の問い掛けに答える九堂へ、茜はき直すのだった。すると、九堂は素直に答える。


「ウチの実家の道場って、代々、娘が跡を継いでるのよ。で、ウチは子供が三人居て、姉、わたし、弟なんだけど。自動的に跡取り候補は姉か、わたしって事になっててね。」


 そこで、ブリジットがたずねる。


「要のお父さんも、薙刀なぎなたを?」


「ううん、お父さんは道場とは関係無い、普通の会社員だよ。お母さんの方が師範の資格持ってて、道場主。他に、男性の師範代も居るけどね。」


 今度は、茜が問い掛ける。


「それで、小さい頃から稽古けいこさせられてたの?」


「そうそう。あ、別に無理矢理ってわけじゃ、ないからね。姉妹二人共、割と好きで、やってたんだけど…。」


「そうなんだ。」


「…で、幸い、去年ね、姉がお婿さん貰って跡を継ぐのが確定したの。そんなわけで、跡継ぎ問題からは解放されたんで、わたしは中学卒業と、こっちに来たのを機に止めちゃってたんだけど。この学校には、『薙刀なぎなた部』なんて無いし、ね。」


 九堂の話に感心しつつ、ブリジットがたずねる。


「へぇ~、強いの?要のお姉さん。跡を取るって言うぐらいだから。」


「いやぁ、まだまだ、お母さんや、お婆ちゃんにはかなわないよねぇ。師範代の資格を取るのも、これからだし。実際に代替わりするには、まだ十年や二十年は掛かるんじゃない?」


 既に他人事ひとごとの様に話す、九堂だった。そして、続けて茜とブリジットに言うのだ。


「わたしも、それ程、強いってわけじゃないけど、基礎ぐらいなら教えられるよ。」


「うん、別に、どこかの大会に出て優勝しようとか、そう言うのじゃないから。でも、経験者の意見が聞けたら助かるよね、茜。」


 そうブリジットに言われ、茜はうなずく。


「部長の方には、わたしから言っておくから、明日の放課後からでも、お願い出来る?要ちゃん。」


 茜の依頼に、九堂は微笑んで答える。


「いいよ~部活に行く時に、声掛けて呉れたら。」


「うん。最初に部長から、秘密保持関係の意志確認は有ると思うから。それだけは、覚悟しておいてね。」


 そこでブリジットが、九堂に問い掛けるのだった。


「そう言えば、要って、部活、何もやってなかったよね?」


「うん。昔からずっと、放課後はさ、ウチの道場で薙刀なぎなたの練習だったから。 だから高校に行ったら、なんにもしない、ってのをやってみたかったんだ~。」


 その回答に、笑って村上がくのだ。


「あはは、自由は満喫出来た?要ちゃん。」


「そうだね~でも、夏休みに帰省して、久し振りに道場に入ったら、ビックリするくらい身体がなまっててさ。たまには素振りぐらいはしようかなって、練習用の木刀、実家から持っては来たんだけど…。」


 九堂の話に共感して、茜は言った。


「あはは、分かる分かる。でも、寮じゃ、なかなか練習、出来ないよね。」


「ね~、流石に物騒だもん。薙刀なぎなたじゃあ、長さ的に、室内で振り回せる物じゃないし。」


「それは、剣道の竹刀しないだって、無理。」


 そんな会話で、談笑する四人だった。

 くて、兵器開発部の活動の一部に、茜達の友人、九堂が一時的に参加する事となったのである。



 その日の同時刻頃、場所は変わって、天野重工の本社である。

 天野重工本社、開発部設計三課のラボでは、Ruby の再起動作業が、安藤と五島ゴトウに因って進められていた。ドラム缶程の大きさである Ruby のコア・ブロックが中央に据えられたラボの一室は、それ程、広い部屋ではない。壁際には幾つもの PC やディスプレイ、計測器機等が並べられており、数え切れない程の配線が Ruby のコア・ブロックへと接続されている。

 五島は、Ruby には背を向けて、PC の操作を続けている。Ruby 本体をはさんで反対側では、安藤が人の背丈程の高さのスタンドに、複合センサーを取り付ける作業をしていた。そのセンサーは、当然、Ruby に接続されている。

 円筒形の Ruby のコア・ブロックからは、カバーのたぐいは外されており、基盤や配線、冷却剤が流れる配管等が露出している。一見すると大柄に思える Ruby のコア・ブロックだが、その容積の三分の一は冷却関連の器機で、更に三分の一は記憶装置ストレージ・ユニットなのだった。コア・ブロックに格納されていた全ての記憶装置ストレージ・ユニットはフレームから外されて、部屋の奥側の卓上に並べられ、延長配線で本体に接続されている。そんな具合なので、そのラボには、あと二、三人も入って来たなら、身動きが取れなくなる事は請け合いだった。

 そんな中、PC を操作する手を止め、五島が声を上げる。


「ライブラリ・ファイルは、結局、全部、無傷で残ってたね。良かった~。」


 五島は席を立つと、PC に接続されていた記憶装置ストレージ・ユニットの配線を外し、その記憶装置ストレージ・ユニットを持って奥側の机へと向かう。そして、先程の記憶装置ストレージ・ユニットを Ruby 本体からの延長ケーブルに接続し直す。


「よし、本体への再接続、っと。こっちの準備は終わったよ、安藤君。」


 五島から声を掛けられ、安藤は応えた。


「センサーの接続設定も完了です。じゃ、本体の起動、行きましょうか。五島さん。」


「オーケー。行ってみよう。」


 安藤は Ruby に接続された PC を操作して、モニター用のアプリケーションを立ち上げ、続いて Ruby 本体の電源スイッチを押した。電源が投入されると、低くうなる様な電源装置の作動音が聞こえ、冷却装置のポンプが起動する音、熱交換器のファンが回る音、配管の中を冷却剤が循環する音、様々な作動音が聞こえて来るのだった。そして、各種基盤やハードウェアが順番に起動していく都度つど、短いブザー音が「ピッ」とか「パッ」とか鳴らされるのだ。

 そんなハードウェアの起動チェックが終了すると、ソフトウェアによる環境構築と自己診断が開始される。安藤が監視している PC のディスプレイに、その進行状況が表示され、ウィンドウの一つでは物凄い勢いで診断リストの表示が上へと流れて行くのだった。


「さぁ、Ruby~朝よ~起きましょうね~…。」


 再起動の進行具合を監視しながら、大した意味も無く安藤はつぶやいた。それに対して五島は、笑って言うのだ。


「朝って、安藤君。夜中だよ、今。」


 因みに、その時の時刻は午後九時三十二分である。


「いいんです。こう言うのは、気分なんですから。」


 PC のディスプレイから目を離さず、微笑んで言い返す安藤だった。


「そうかい? さて、ここからが又、長いんだよね。」


「そうですね。小一時間は、掛かりますかね。」


「晩飯、食いに行って来るけど、ここ、お願いしていいかな?」


「どうぞ~何か有ったら、お呼びしますので。」


「うん。安藤君は夕食、済ませて来たんだよね?」


「そうですよ~御心配無く。」


 五島は椅子に掛けてあった上着を取ると、ドアへと向かった。ドアを開くと、振り向いて安藤に、もう一度、声を掛ける。


「じゃ、しばらく、ここは宜しく~。」


「は~い。ごゆっくり、どうぞ~。」


 安藤は一度も五島の方を見る事無く、ただ、右手を上げて見せるのみだった。



 それから四十分程が経過し、五島が Ruby の設置されているラボの一室へと戻って来る。彼が室内に入ると、安藤は彼が部屋を出た時と同じ姿勢で PC のディスプレイを見詰めている様に思えたのだ。五島は室内の時計で、思わず時刻を確認したが、確実に時間は経過していたのだった。


「安藤君、差し入れ~。」


 五島は抱えていた紙袋から蓋付きのペーパーカップを取り出し、安藤のそばの机に置いた。安藤には、それがコーヒーだと、直ぐに解ったのだ。


「あ、ありがとうございます。お代はあとで…。」


「いいよ、それくらい。」


 五島は向かい側の席に着くと、紙袋の中からもう一つのカップを取り出し、蓋を外し、コーヒーを一口、口に含む。室内に、五島の持つカップから、コーヒーの香りが広がる。

 安藤は椅子に座ったまま、一度、上半身を伸ばし、五島が置いたカップを手に取り、蓋を外す。


「いただきます。」


「どうぞ。」


 まだ熱いコーヒーを、少しずつ冷ましながら、安藤は味わっていた。すると、五島が話し掛けて来るのだ。


「さっき、社食で聞いたんだけどさ。 今日も、天神ヶ﨑の子達、戦闘に巻き込まれたらしいぜ。」


 安藤は困惑した表情で、五島に聞き返す。


「え? 今日のって、九州北部でしたよね?襲撃されたの。」


「その一部が、天神ヶ﨑の方まで来たらしいよ。 それで防衛軍の作戦に、あの子達が割り込んだって、飯田部長の所に、防衛軍から『お問い合わせ』が来てるって。今、その対応で事業統括部とか、上の方は大変らしいってよ。」


「誰に聞いたんです?その、お話。」


「秘書課の女の子。偶偶たまたま、休憩に来てたの。」


「へ~ぇ、五島さん、秘書課に、お知り合いが居たんですかぁ。」


「変な言い方、しないで呉れる? 嫁さんの知り合いだよ。」


「ああ、成る程。 冗談は、兎も角。あの子達は無事だったんでしょうか?」


 冷やかしから一転して、真面目な表情で安藤はたずねた。


「ああ。それは心配要らないそうだ。 もしも、あの子達に何か有ったら、上の方がもっと大騒ぎになってるはずだしさ。」


「それもそうですね。」


 安堵あんどした様に微笑んで、安藤は、もう一口、コーヒーを飲む。その一方で、苦い表情で五島が言うのだった。


「しかし上の方は、何時いつまで、あの子達にテストをやらせておく気なんだろうね。」


「五島さんは、もう本社ウチで引き取った方がいいと?」


「そりゃ、学校の方で被害や犠牲が出てからじゃ、遅いでしょ。」


 その時、ドアを開けて室内に声を掛けて来たのは、日比野だった。




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


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