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第4回

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール


**** 13-04 ****



「それじゃ、ボードレールさん。ずは、垂直跳びからやってみましょうか。 最初は、余りちからを入れないで、ひざだけでんでみて。」


 緒美の指示に続いて、茜が助言をする。


「最初は軽く、ね。自分で思っている以上のちからが出るから、その感覚の差を確かめる感じで。」


「解った、軽く、ね。 じゃ、行きま~す。」


 ブリジットはひざを軽く曲げると、躊躇ちゅうちょ無くスッと伸ばして身体を持ち上げる。


「おぉっ…。」


 思いのほか、高くび上がった事に驚いたブリジットは、思わず声を漏らした。爪先が地面から五十センチ程は浮き上がっただろうか。そして間も無く、ブリジットが装着した HDG-B01 は万有引力の法則に逆らう事無く着地するのだが、その瞬間にひざで衝撃を吸収する動作をしなかった所為せいか、コンクリートで固められた地面と HDG の脚部が衝突する音が、割と大きく「ガツン」と響いた。


「ボードレールさん、足腰に衝撃は無い?」


 ブリジットのレシーバーには、衝突音を聞いて心配した、緒美の声が届いていた。ブリジットは振り向き、格納庫内の緒美の方に手を振って答える。


「大丈夫です、部長。衝撃は、HDG が吸収して呉れたみたいですから。」


「そう。 感覚はつかめそう?」


「流石に、一回では…もう何度か、んでみていいですか?部長。」


「どうぞ。」


 ブリジットは南側に向き直ると、一度、背後で見て居るであろう緒美達に対して右手を挙げて見せる。そして、先程よりはひざを深く曲げ、そして地面を蹴った。今度は一メートル程、跳び上がったブリジットは、着地の瞬間にひざや腰を使って衝撃を吸収する動作を加え、そのかがんだ姿勢から、続けて次のジャンプを行うのだった。

 そうやって、三度、四度とジャンプを繰り返し、ブリジットは少しずつ加えるちからを増していく。最終的には、腕の振りをも加える事で、跳躍は爪先が地面から五メートル程の高さにまで到達し、そしてブリジットは地面へと降りたのだった。流石に、その高度からは、ひざを深く曲げ、腰をかがめてブリジットは着地したのだが、脚部が接地するのに少し遅れて、側面と後側に装着されている、スカート状のデフェンス・フィールド・ジェネレータが地面を叩いて音を立てるのだった。


「ふぅ~。」


 ブリジットは一息をいて、立ち上がった。そこに、茜が声を掛ける。


「流石に、バスケでジャンプには慣れてるみたいだけど、あんなに高くんで、怖くはなかった?ブリジット。」


「いやあ、面白いよ。トランポリンって、やった事は無いけど、さっきみたいな感じかな? これ使ってバスケやったら、ダンクシュートとか、やり放題じゃない?」


 そう答えて、ブリジットはニヤリと笑うのだった。茜も微笑んで、言葉を返す。


「生身でやらなくちゃ、反則でしょ。」


「勿論。冗談よ。」


 そこで、緒美からの指示が入る。


「それじゃ、今度は前方への跳躍、やってみましょうか。天野さん、軽くやってみせてあげて。」


「助走無しで、片脚で踏み切る感じでしょうか?」


「そうね、最初はそんな感じかしら。」


「じゃ、やってみます。 見ててね、ブリジット。」


 茜は数歩前へ出ると身体を西側へと向け、少し上体を前へ倒すと、右脚を前へ振り出すと同時に左脚で地面を蹴った。すると茜の身体は前方へと押し出され、最高高度が一メートル弱程のゆるやかな放物線を描いて、二メートル程先の地面へ着地した。茜は身体の向きをブリジットの方へと変えて、通信で話し掛ける。


「こんな感じ。踏切よりも、着地の方を注意してね。前側に転ぶと怪我するから、着地のタイミングで重心は後ろ目にした方が安全よ。 念の為、マニピュレータは展開しておいた方がいいかも。前側に転倒した時に素手で手を突いたら、手首が持たないから、多分。」


「分かった。」


 ブリジットは、茜の提案に従い、両腕の前腕中程辺りを回転軸に後方へ折り畳まれているマニピュレータを、前方へと展開させた。この、HDG-B01 のマニピュレータの格納方式は、HDG-A01 のそれとは、仕様の大きく異なる点である。HDG-A01 の伸縮格納方式は狭い空間での出し入れが可能だが、装着者ドライバーの手に対するマニピュレータのオフセット量が大きくは取れない。他方の、HDG-B01 の回転格納方式では、オフセット量が大きく出来るのだが、出し入れの際に広い空間を必要とするのだ。

 格闘戦に際してはリーチの長い方が、有利、若しくは、より安全を確保出来るので、其方そちらを採用したい所ではあるのだが、HDG-A01 は地上戦を主眼にしている為、狭い空間でもマニピュレータの出し入れが可能な伸縮式が採用されているのだ。一方で HDG-B01 は、空中戦を主体に運用されるので、空間の広さに留意する必要が無いと言うわけである。


「それじゃ、行きま~す。」


 ブリジットが右手を挙げ、声を出すと、茜が話し掛けるのだった。


「あ、ブリジット。最初からここまでぼうとしなくてもいいからね。初めは、軽く一歩踏み出すくらいの感じで。多分、自分で思ってる以上に前に進むから、その感覚の違いも確かめて。」


「オーケー、やってみる。」


 ブリジットは右手を降ろすと、小さな水溜まりでも飛び越える程度の感覚で、左脚で地面を蹴ったのだが、茜の立つ場所まで、半分程の位置に着地したのだった。


「ふ~ん、成る程。」


 そうつぶやくと、ブリジットは、今度は右脚で踏み切り、茜の隣付近へと到達する。


「どう? 感覚はつかめそう?」


「何と無く。」


「流石ね。 それじゃ、付いて来て。」


 茜はくるりと身体の向きを西側へ向けると、再び二メートル程度の跳躍を行う。それを追って、ブリジットも同じ様に、跳躍する。続いて、茜は三メートル、四メートルと、跳躍の距離を伸ばしていくが、ブリジットはそれに完全に追従して見せたのだ。


「いいわね、跳躍と着地が問題無く出来る様なら、次は走ってみましょうか。」


 茜は立ち止まると、身体の向きを東側へと変える。


「駆け足から始めて、少しずつスピードを上げていくけど、途中で身体の進み具合と足の回転が合わなくなって来るから、転ばない様に気を付けてね。」


 そう注意をうながすと、ブリジットの返事も待たず、茜は東向きに駆け足で進み出す。ブリジットは、茜を追って駆け出す。そして茜は、先に言った通り、少しずつ走る速度を上げていくのだが、それに従って歩幅ストライドが大きくなっていくのだ。走り始めて五十メートル程進んだ辺りで、歩幅ストライドが一メートル程度になり、茜はブリジットに声を掛け、減速した。


「走り出しよりも、止まる方が難しいから、気を付けてね、ブリジット。」


 スムーズに減速した茜の HDG-A01 を、前のめりになる様にブリジットは追い抜き、数メートル先まで進んで、何とか行き足を止めるのだった。そこから茜の元へと歩きながら、ブリジットは言うのだった。


「確かに、急に減速しようとすると、前方へ転びそうになるわね。」


「FSU のお陰で意識し辛いけど、重量が装備の分だけ増えてるんだから、当然、慣性は大きくなるでしょ。だから、減速する時は重心を低目、後ろ目にしておかないと。 生身の感覚でいると、つんのめって前転しちゃうわ。」


「成る程。 それにしても、茜は走ったり止まったり、良く平然とやってられるわね。今迄いままでは、何とも思わずに見てたけど、自分でやってみると、結構大変だわ。」


 ブリジットの、溜息ためいき混じりのコメントを受け、微笑んで茜は言葉を返す。


「大丈夫よ、ブリジットも直ぐに慣れるわ。 もう二、三本、加速減速やってみましょう。」


「オーケー。」


 茜とブリジットは、今度は西側に身体を向け、そろって駆け足から始めるのだった。今回も茜が主導して、距離にして二十メートル程で加速した後、五メートル程で減速するのを四回繰り返し、およそ百メートル程度を走った所で、二人は立ち止まった。そして東向きに進路を変えると、先程と同じ様に加減速を繰り返して、第三格納庫の前へと戻って来る。

 第三格納庫の開けられた南側大扉の前付近で立ち止まって、二人が呼吸を整えていると、そこへ緒美が、ブリジットに通信で声を掛けるのだった。


「どう?ボードレールさん。感覚はつかめそう?」


 続いて、樹里の声が届く。


「こっちに返って来てる数値を見てる限りだと、可成り自由に動ける様になったと思うんだけど。どうかな?ボードレールさん。」


 ブリジットは一度、深呼吸をして、答えた。


「そうですね、もう、んだり走ったりで、大きな違和感は無い感じです、樹里さん。 減速の方は、大体、感触が分かって来ました、部長。」


「そう、それじゃ、マニピュレータの動作を見たいって、実松課長が。 B号機用の武装、持って行って貰うから、ちょっと振り回してみて。」


 その緒美の提案に対して、茜が割り込んで言うのだった。


「部長、その前に一度、全力でのダッシュと、そこからの停止まで。ブリジットにやってみて貰いたいんですが。」


 茜の提案に対する緒美の返答は、早かった。


「いいわよ。その間に、B号機の武装を用意するわね。」


 そしてブリジットが、茜にたずねるのだ。


「全力ダッシュ?」


「ちょっと、見てて。」


 そう言って西向きに身体の方向を変えた茜は、少し前傾姿勢を取ると、右脚で強く地面を蹴った。茜の身体は一気に前方へ飛び出し、二メートル程の先に着地した左脚で、再び強く地面を蹴る。最終的には八メートル程のストライドでの十数回の跳躍を繰り返し、第二格納庫の前を通過する前に両脚で着地すると、重心を低くしてコンクリートの面上を数メートル、スライドした後に HDG-A01 は停止したのだ。

 茜は腰を伸ばして振り返ると、両手を振ってブリジットに通信で呼び掛けた。


「こんな感じ~ブリジット。」


「それを、行き成り、わたしにやれ、と?」


 苦笑いしつつブリジットが言葉を返すと、茜が返事をするのだった。


「別に最後のブレーキ動作、スライドまではやらなくてもいいけど。何回かに跳躍を分けて減速してもいいわよ。 要は、安全に止まれたらいいんだから。」


 そう言われると、無意味に対抗意識が刺激されるブリジットである。


「まぁ、いいわ。やってみる。」


 ブリジットは茜がやった様に、前傾姿勢でダッシュの構えを整える。そこに、緒美からの通信である。


「ボードレールさん、無理はしないようにね。」


「大丈夫です、部長。 多分。」


 そう答えて、ブリジットは右脚で地面を蹴った。思った以上の加速に、つい「うっわ…。」とつぶやく様に声を漏らす。茜の HDG-A01 に比べて背部の装備が無い分、ブリジットの HDG-B01 は総重量が軽いので、最初から三メートル程の跳躍となったのだが、ブリジットはそのまま、次の跳躍を続けた。跳躍を繰り返す程に、当初、百五十メートル程の先に居た茜の姿が、ブリジットには段々と大きく見えて来るのだ。

 ブリジットは、茜までの距離が十メートル程になった跳躍の空中で、両脚での着地体勢を取り、着地の瞬間には衝撃を膝で吸収し、更に重心を落とした上で両足の間隔を広げて、横向きにコンクリート上をスライドしながら減速したのだった。


「ふう…。」


 一息をいて、足腰を伸ばしたブリジットは、開けられている第一格納庫の大扉付近で、数人の生徒らしき人影が、自分達の方を見ているのに気が付いた。


「茜、第一格納庫の方…。」


「ああ、飛行機部の人達よね。村上さんも、見てるかな?」


 茜は飛行機部の面々に見られている事には、余り気を取られてはいない様子で、続けてブリジットに話し掛けた。


「それより、流石ね、ブリジット。全力でダッシュと、停止までが出来れば、地上での移動には困らないわ。」


「合格?」


「文句無し。」


 茜は、右腕を突き出し、サムズアップをして見せるのだった。それに対して、ブリジットは微笑みを返すのである。


「それじゃ、軽く流して第三格納庫の前まで戻りましょうか。」


 そう言って茜は、身体の向きを東側に変えると、二メートル程の跳躍を繰り返して、第三格納庫前へと帰って行く。ブリジットも茜に続いたのだが、その端緒に、第一格納庫から東向きに自転車で移動する二人の女子生徒の姿を、視界の端に認めていたのである。




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


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