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第19回

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)


**** 12-19 ****



「瑠菜さん、古寺さん、トライアングルを追って。」


 緒美は、モニターの前へと移動しながら、瑠菜と佳奈に指示を出す。天野理事長と秘書の加納も、モニターの方へと移動し、俯瞰ふかんで映される山腹の木木の様子に目を凝らした。トライアングルが山腹を降りて行くのが、樹木の揺れで見て取れる。

 間を置かず茜の声が、樹里のコンソールから聞こえて来た。


「部長、わたしもトライアングルを追います。」


 緒美は咄嗟とっさに、隣に居た立花先生の方へ視線を向ける。すると、激しく首を横に振って、立花先生は言うのだった。


「ダメよ、エイリアン・ドローンが逃げたのなら、追ってまで、戦う必要は無いわ、緒美ちゃん。」


 一呼吸して、緒美は茜に伝える。


「ちょっと待って、天野さん。立花先生は、追うなって言ってるけど。」


「部長も、それに同意されるんですか?」


 かさず返って来る茜の問いに、緒美は少し間を置いてから答えた。


「わたしは、どちらとも言えないわ。先生の意見も解るの。HDG や LMF が、向こうの襲撃対象から外れたのなら、天野さんが、これ以上、対応する必要は、確かに無いもの。」


 それには、少し強い口調で、茜が反論して来る。


「何、言ってるんですか。このまま、放置してたら、街の方へ行っちゃいますよ。防衛軍は、まだ来ないんでしょう?」


 樹里のコンソールから聞こえる茜の声に続いて、クラウディアが声を上げる。


「部長さん、今、防衛軍に出動命令が出ました。陸防の攻撃ヘリ部隊と、空防の戦闘機部隊、両方ですね。」


「ありがとう、カルテッリエリさん。続報が有ったら、教えて。」


 クラウディアに一言を返して、緒美は背筋を伸ばし、滑走路上に姿が見える LMF に向いて、茜に話し掛ける。


「今、防衛軍が動き出したらしいわ。陸防の戦闘ヘリ部隊と、空防の戦闘機隊だそうよ。ただ、今からって事になると、どこから来るにしても到着には二、三十分は掛かるかしらね。」


「そんなに待ってられません、トライアングルが街まで行っちゃうじゃないですか。街の方には、普通科の子とか、先生達も住んでるんですよ。」


「それは解ってるけど、関係のある人をって言ってたら、それこそきりが無いのよ。学校、市、県、国、みんなつながってるんだから。だから、どこかで、線を引かないと。」


「そんな理屈で、被害や犠牲者が出たら、どう責任を取るんですか?」


「責任? そんな責任は、貴方あなたも、わたし達も、学校も会社も、そもそも負ってないのよ。貴方あなた貴方あなた自身を守る以外の理由で、戦う必要なんて無いの。少し、落ち着いて、天野さん。」


「わたしは冷静です。部長は、それでいいんですか? このまま、放って置いたら、防衛軍が市街地への対地攻撃を始めちゃいます。わたし達には、まだ、出来る事が有るんですよ?」


「解ってる。だから、わたしには判断、出来ないのよ。わたしが天野さんの立場なら、貴方あなたと同じ判断をするけど、でも、それを下級生に指示する事は出来ないの。ごめんなさいね、天野さん。」


「もう、いいです。でしたら、勝手にさせて貰いますから。Ruby、ホバー起動、トライアングルを追うわ。」


 続いて、茜と緒美達に聞こえて来たのは、Ruby の意外な返事だった。


「申し訳ありませんが、茜。LMF の稼働には、智子か緒美の了承が必要です。現状では、どちらの了承も得られていないと判断されますので、LMF 稼働の指示は実行出来ません。」


「だったら、HDG とのドッキングを解除して、Ruby。」


「HDG とのドッキングを解除しても、宜しいですか?緒美。」


 茜の指示実行に就いての可否を、Ruby は緒美にたずねるのだが、緒美は直ぐに答える事は出来ずに居た。右手の人差し指を眉間に当て、目を閉じて、緒美は何かを考えている。そんな彼女に、周囲に居たメンバー達は、誰も声を掛けられなかった。

 そんな様子を見兼ねてか、天野理事長が緒美の右横へと進み出ると、左手を緒美の肩に置いてたずねるのだ。


「このまま、茜に LMF を使わせるとして、何か、考えは有るかね?鬼塚君。」


 緒美は目を開くと、前を向いたまま、ヘッド・セットのマイク部を指でふさいで、天野理事長に聞き返す。


「宜しいんですか?お孫さんの安全を、保証は出来ませんよ。」


「構わない…とは言わないが、被害が広がるのを看過するのも忍びない。そうなって悔やむのは、あの子だろうしな。」


 緒美が苦笑いで顔を向けると、天野理事長も同じ様な苦笑いを返すのだった。


「LMF を外へ出すとしたら、資材搬入門から、かな?」


 真面目な顔で問い掛ける天野理事長に、緒美も神妙な顔付きで答える。


「そうですね。」


「解った、あとの指揮は任せるよ。」


 天野理事長は一度、緒美の肩を軽く叩くと、振り向いて加納に指示を告げる。


「加納君、済まんが一っ走り、搬入門を開けに行って呉れないか。」


「承知しました。」


 そう答えると加納は、格納庫の外に止めてあった自動車へと走る。大型車輌を通す為には、鋼鉄製門扉を開けておかなければならないのだ。その門扉は高さが二メートル程も有り、LMF でも、乗り越えるのには手間取りそうな代物だったのである。


「理事長…。」


 立花先生が心配そうに声を掛けると、天野理事長は右のてのひらを見せて言葉をさえぎる。


「いいんだ、言わなくてもいいよ。立花君。」


 一方で、深く一呼吸してから、緒美は茜と Ruby に呼び掛ける。


「天野さん、Ruby、理事長が許可して呉れたわ。エイリアン・ドローンを追撃して。」


 茜の返事は、直ぐに返って来る。


「分かりました。Ruby、ホバー起動。」


「ハイ、ホバー・ユニット起動します。」


「それで部長、何か作戦は?」


「有るわよ。ず、資材搬入門から外に出て。さっき、加納さんが搬入門を開けに、先回りして呉れたから。道路に出たら、そのまま、道を下って行ってちょうだい。坂を下り切った所に、川が有るでしょう? トライアングルよりも先に、橋を渡って向こう側、土手の上の、広い道で待機して。取り敢えず、出発して、天野さん。」


「分かりました、行きます。」


 LMF は東側の資材搬入門へ向かって、移動を開始する。

 その時、緒美は、自分の方をじっと見詰めている、立花先生の視線に気が付いた。


「何か?立花先生。」


 緒美は、真面目な顔で立花先生にたずねた。すると、立花先生は首を横に振って「いいえ。」とだけ、答えた。

 それには恵が、微笑んでコメントするのである。


「そのお顔は、『道路交通法違反』っておっしゃりたいお顔ですよね?」


 立花先生は苦笑いして、恵に言葉を返す。


「言ってないでしょー、そんな事。」


 それに続いて、直美が言う。


「あはは、立花先生はホント、真面目だな~。」


「だから、何も言ってないでしょ、もう。」


 立花先生は溜息を一度、き、モニターの方へ視線を移した。それから間も無く、茜からの報告が聞こえる。


「部長、今、資材搬入門を出ました。これから道路を下って行きます。トライアングルの現在位置は?」


「今、半分くらいまで降りて行ってるわ。障害物が多いから、時間が掛かってる。道路を通っている、天野さん達の方が速いはずよ。」


「又、飛び上がったら?そっちの方が速いはずですよね?」


「大丈夫よ、今、飛び上がったら、LMF に狙い撃ちされると警戒してるはずだから、エイリアン・ドローン側は。」


「でも、さっきは飛ぼうとしましたよ?」


「だから、よ。多分、あれはおよりね、他の四機を逃がす為の。勿論、あの一機を打ち落とせてなかったら、残りの四機も飛び上がっていたでしょうけど。あの一機を打ち落としたから、当面、トライアングルは飛び上がらないはずよ。だから、咄嗟とっさにアレを打ち落とした判断は Good job よ、天野さんと Ruby。」


「それは、どう…も…わっ、………わぁ~~~~~。」


 突然、コンソールから聞こえる茜の声が、悲鳴の様な絶叫に変わる。


「…Ruby、Ruby、スピード、スピード…。」


「更に加速しますか?茜。」


「違う!ブレーキ、ブレーキ~~~~。」


 コンソールから聞こえて来る茜の声に、一同が顔を見合わせるのだが、絶叫が落ち着いた頃に、緒美がたずねるのだった。


「どうしたの?大丈夫?天野さん。」


 少し荒い息遣いと共に、茜の返事が聞こえる。


「すいません、ちょっとスピードが…ホバーで坂道を下るのは、結構、怖いですね。道幅もギリギリだし、これで対向車が来たら…。」


「そうね…Ruby、道路から飛び出さないよう、スピードには気を付けてね。それから、天野さん、対向車が来てないかは、観測機で確認させるわ。」


 緒美は、佳奈の方へ向いて指示を出す。


「古寺さん、一機、観測機を LMF の方へ。坂を登って来る対向車が来てないか、確認してちょうだい。」


「分かりました~B号機を、坂道へ向かわせま~す。」


 その一方で、茜からの報告である。


「取り敢えず、再出発します。行きましょう、Ruby。」


「ハイ、茜。ホバー・ユニット起動します。スピードは時速、50km程度を上限に設定しましょうか?」


「お願い。そうして呉れると、助かる。」


 そんな茜と Ruby の遣り取りに対し、緒美が言うのだった。


「兎に角、気を付けてね。ちなみに、その坂道の制限速度、標識は時速 40km だったと思ったけど。」


「そうですか。無免許運転なんて、やるものじゃないですね。」


「まぁ、緊急時だから。勘弁して貰いましょう。」


 そんな会話の中で、モニターを監視していたブリジットが、何かを思い出した様に「あ。」と、小さな声を上げた。それに反応して、直美がたずねる。


「何よ?ブリジット。」


「ああ~いえ。そう言えば茜、絶叫系のライドは、苦手だったなぁ、と。」


「え?エイリアン・ドローンと斬り合って、悲鳴一つ上げないのに?」


 なかあきれた様に、そう言った直美に対し、恵が微笑んで言うのだった。


「それと、これとは、話が違うんでしょう?」


「ですね。」


 ブリジットはうなずく。それには、直美は納得が行かない様子で、「そう言うものかしら?」とつぶやくのだった。

 その時、その場に居た幾人かの携帯端末から、『避難指示発令』を知らせる緊急メッセージの着信音が鳴り始める。直美は携帯端末を取り出し、画面を確認してから言ったのである。


「今頃?」


 天神ヶ崎高校の校内で避難指示の放送がされたのは、茜がエイリアン・ドローンの最初の一機を仕留めた、その少し前である。その時点で、既に自治体行政、要するに市役所は、校長から状況の連絡を受けていたはずで、結局、市当局は防衛軍が出動したとの連絡を受けるまで、避難指示の発令を見合わせていたのだ。これには、避難用の施設が十分でない、と言う事情も有るのだが、それは又、別の話である。

 もし、天野理事長が防衛軍への働き掛けをしていなかったら、県からの要請が有るまで防衛軍の出動は無く、避難指示の発令は更に遅れていたか、或いは無かったであろう。それは、市街地での被害が発生し、その確認がされ、それから防衛軍の出動を県に要請し、しかのち、避難指示の発令、と言う流れが予想されるからである。それ位、この地域の行政当局は、エイリアン・ドローンの襲撃に対する危機意識が希薄だったのだ。

 但しこれは、この地域特有の問題ではない。エイリアン・ドローンの襲撃を受けた経験の無い地方都市には、程度の差は有れ、これがおおむね共通した傾向なのである。




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


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