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第14回

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)


**** 12-14 ****



 そして、昼休みをはさんで、緒美達が LMF の稼働試験準備を進めていると、何故か次々と第三格納庫への来客があるのだった。

 最初にやって来たのが、塚元校長と天野理事長、そして理事長の秘書である加納だった。三人は加納の運転する自動車を格納庫の南側に止めると、開かれていた大扉の方から中へと入って来た。その応対を立花先生がしていると、今度はそこに自転車に乗った前園先生が登場するのである。

 LMF の稼働試験の機材としてマルチコプターと、その操作担当者の借用に就いて、自警部に依頼するのを塚元校長経由で相談した事から、理事長と前園先生には話が伝わったらしい。


「わたし達、外野の事は気にしないで、準備を進めて呉れ。」


 そう天野理事長が言うので、緒美は言われた通りに、気にしないで準備を進める事にした。すると、今度は聞き覚えのある女子生徒の声が、大扉の方から呼び掛けて来るのである。


「鬼塚~、兵器開発部に男子、居たっけ?」


 緒美が声の方へ目をやると、その声の主は飛行機部の部長、金子 博美だった。その後ろには会計担当の武東ムトウ さやかの姿も在った。金子と武東の二人とは、昨年の『自家用操縦士免許』取得の為の合宿以来、友人関係が続いていたのである。

 緒美が、声を返す。


「どうしたの?金子ちゃん。 武東ちゃんも。」


「うん?ああ~次の飛行訓練の日取り、予定通りでいいのか、聞いとこうと思ってさ。」


「そんなの、携帯のメールででもいいのに、わざわざ?」


 緒美が金子に、そう聞き返すと、金子の背後から武東が答える。


「いやぁ、ほら、久し振りにこっちの格納庫の大扉が開いてたから。又、試運転とかやるのかなって、思って。」


 そこに、直美が参加して来る。


「あはは、何だよ、野次馬かよ~金子。」


「うん、まぁ、そんな所~。」


 そこで、少し離れた場所に居る塚元校長や天野理事長達に気付いた金子が、声を上げる。


「あ、校長に理事長、それに前園先生、ご苦労様で~す。」


 金子と武東の二人が一礼すると、塚元校長が手を振って応えるのだった。


「それで、飛行訓練の日取りだけど。この前の予定通りでいいよね?新島ちゃんも。」


 緒美が直美に確認を取ると、直美も即答して、金子に聞き返す。


「ああ~いいよ。でも、何で?」


「だって、昨日聞いた予定だと、二人共、帰省からこっちに戻って来る翌日になるじゃない。大丈夫かな?って、思って。」


 続いて、武東が言う。


「さっきスケジュール確認してたら、その事に気が付いて。それで、聞いておこうと思って来たの。」


「大丈夫よ。予定してあれば、それに合わせるように調整するから。ねぇ、新島ちゃん。」


「うん、そうそう。それに、天気次第じゃ、実際にフライト出来ない場合も有るしさ。」


「そう。 じゃぁ、予定しとくね~。」


 金子は、そう言って微笑むのだった。


 ここで緒美達が話している『飛行訓練』とは、取得した『自家用操縦士免許』の技量維持の為に、月に二回程度、緒美と直美が飛行機部の機材を借りて、それぞれが一時間程の飛行と、離着陸の訓練を実施するものである。安全の為、先に PC のフライト・シミュレーターで操作手順や操縦感覚の確認を行い、しかのち、実機でのフライトを行うのだ。


 ちなみに、この時代に『自家用操縦士免許』の取得が容易になるような環境整備が行われたのは、四~五十年前に『空飛ぶ自動車』を次世代の産業の柱にしようと、政府や産業界が画策した事の名残なのである。

 技術的に、そう言った機材の実用化が可能になりつつあった事が時代背景として有るのだが、無免許の者に無闇な飛行を許すべきではない、との見解が所管の省庁から提起され、関連する法整備が行われたのだ。これに拠り、『空飛ぶ自動車』で飛行を実施するには、航空機用の『自家用操縦士免許』が必要と言う事が定められ、それに合わせて免許取得の為の教育機関等の拡充が計られたのである。

 所が、実際には『空飛ぶ自動車』、法的には『特定軽航空機』と呼ばれるが、それはほとんど普及する事が無かったのだった。『特定軽航空機』の飛行は、雨や風など天候の影響を受け易く、加えて、飛行高度も通常の航空機よりも低空を飛行する規定が設けられた為に、一度ひとたびトラブルが発生すると、回復の手を尽くす間も無く墜落する危険性が高いのである。しかも、低空からの墜落の場合、滑空で移動が出来る距離も限られ、更に言うと『特定軽航空機』は、その形態によってはほとんど滑空が不可能な機体も存在する為、住宅地や市街地の上を飛行していると、民家や各種施設を避けて不時着する事が難しいのだった。実際に、その様な事故も数件が発生し、結果、『特定軽航空機』は民家や市街地の上空は飛行禁止とされたのである。

 辛うじて、幅の広い道路の上空は飛行可、と言う事にはなった物の、都市部地上交通の渋滞解消だとか、自由な移動手段とする等、当初に期待された導入の意味やメリットが、ほぼ無くなってしまったのだった。結局は、郊外や地方での、『高価な趣味』としての利用が精精せいぜいとなっているのが現状なのである。


「所でさ、彼は?新入部員?」


 金子は、少し離れた場所でマルチコプターの点検をしている長谷川を指差して、緒美にたずねた。同じ学年でも、学科の違う男子生徒である長谷川とは、金子も武東も面識が無かったのである。


「ああ、長谷川君? 自警部からの応援よ。今日の試験でね、マルチコプターが必要だったから。」


「自警部から? あぁ、そうか。それで、どこかで見掛けた様な気がしてたのね。」


 緒美の回答に対する、武東のコメントである。そこへ、塚元校長と立花先生が、緒美達の所へと歩み寄って来るのだった。天野理事長と秘書の加納氏、前園先生の三名は、長谷川の所でマルチコプターに就いて談義している様子である。


「金子さんと武東さんは、今日はどうされたの?」


 塚元校長が、そう声を掛けて来るので、金子は少し笑って答えた。


「あはは、ただの野次馬です。」


「お二人は、兵器開発部の活動内容に就いては、御存知なの?」


 塚元校長の、丁寧な言葉遣いの問い掛けには、武東が答える。


「あ、はい。大雑把には聞いています、校長先生。」


「秘密に関する個別の事柄に就いては、詳しくは知りませんけど、秘密保持の件は心得ていますので、ご心配無く。」


 続いて金子も、笑顔で声をそろえるのだった。それには少しだけ苦笑しつつ、塚元校長は言うのだ。


「会社の方針とは言え、あなた達にも迷惑、掛けるわね。」


「いいえ、迷惑、なんて事は無いですよ。」


 少し慌てて、武東が声を上げると、金子も続いた。


「そうですよ。去年の合宿で、大まかな話を聞いてから、わたし達も出来る範囲で協力したいって思ってたんですから。」


「合宿って?」


 塚元校長の、その問い掛けには、緒美が答えた。


「去年の、ちょうど今頃、飛行機の『自家用操縦士免許』の取得に、この四人も参加してたんですよ。それ以来、飛行機部には色々と、協力して貰っています。」


「そうだったの。」


 塚元校長は、大きくうなずいて見せるのだった。


「しかし、校長にわたし達の名前も、覚えて貰ってるとは思わなかったな~、ねぇ、さや。」


「ホントね、ちょっとビックリした。わたし達は鬼塚さん程、有名人じゃないもんね~。」


 金子と武東がそう言って、クスクスと笑っていると、塚元校長は真面目な顔で言うのだった。


「あら、二年生と三年生の顔と名前ぐらい、大体、把握してますよ。一年生のは、まだ、ちょっと怪しいけど。」


 そんな話をしていると、緒美の背後、格納庫の奥側から、瑠菜の呼び掛ける声が聞こえる。


「部長ー。観測機のカメラテストに、一度、外へ出します。」


 緒美は直ぐに振り向いて、答える。


「いいわ、やってちょうだい。」


「は~い。」


 緒美に返事をしたのは、瑠菜の隣に居る佳奈である。

 瑠菜と佳奈が操作するコントローラーの前に置かれた、二つのコンテナから、それぞれ二機ずつの球形観測機が浮き上がる様に飛び立つと、人の背丈程の高さで大扉の外へと出て行くのだった。

 金子が、緒美にたずねる。


「何?アレ。」


「ああ、記録用の機材よ。リモコン・ヘリみたいな物で、球形のボディに、二重反転ローターと、下側に撮影用の機材が入ってるの。」


 感心に、武東も言うのだった。


「へえ~、面白い。あんなの有ったんだ。」


「有ったって言うか、先月の始め頃に、本社の開発から試験の映像記録用にって、預かったのよ。」


 直美が、補足説明をする。すると、長谷川が緒美達の方へと歩きながら、言うのだった。


「あんなの有ったのなら、自警部うちのマルチコプターは要らなかったんじゃないの?」


 直美がかさず、反論する。


「だから、アレは本社からの預かり物だってば。勝手に改造とか、出来ないでしょ。」


「それに観測機には、4キロの鉄板を吊り上げる程の能力が無いのよ。」


 緒美が補足すると、「あ、そうなんだ。」と、長谷川も納得するのだった。そんな長谷川に、塚元校長が声を掛ける。


「そちらのドローンも、準備は出来たの?長谷川君。」


 それには一瞬、戸惑って、長谷川は答える。


「え?…あ、はい。大丈夫です。」


 すると長谷川の背後から、前園先生が苦笑いしつつ、塚元校長に言うのである。


「校長、今は、あの手の物を『ドローン』とは言わないんですよ。」


 塚元校長は一瞬、何かを思い出した様な表情になり、言った。


「そうね、今は『マルチ、コプター』だったかしら…昔はね、こう言う物を一括ひとくくりにして『ドローン』って呼んでたのよ。」


 すると、金子が聞き返す様に言う。


「『ドローン』って。 ただのリモコン機ですよ?あれ。」


 その問い掛けには、それまで、黙って様子を見ていた立花先生が答える。


「う~ん、それはそうなんだけど。 2000年代に『ドローン』って言われてたのは、もっと以前から有った、ホビー用途のにせよ産業用のにせよ、それらのリモコン機と比べて、格段に操作が簡単になったのと、特にマルチコプターは、それ以前のリモコン・ヘリとは随分と形状が違うから、別の物として新しい名前で、世間一般では呼びたかったらしいのよね。それで、マルチコプターとかが一般化した頃には、みんなまとめて『ドローン』って呼んでたらしいのよ。 一方で『ドローン』って言う名称に就いては、マルチコプターが登場するよりも、もっと前から、そう呼ばれていた物は有ったんだけど、そっちは一般的には、余り知られていなかったみたいなのよね。」


 今度は、武東が立花先生にたずねる。


「それは、どんな物だったんですか? その、2000年代より前の『ドローン』って。」


「形式は色々と有ったはずだけど。一番多かったのは、本物の旧式戦闘機を遠隔操作出来るようにした、無人標的ドローン、かしら?」


 その立花先生の答えを聞いて、天野理事長が笑って言うのだった。


「あはは、立花先生はお若いのに、良く御存知ですな。」


「ああ、いえ。入社してから、防衛装備に就いて色色と調べている内に見付けた情報ですけど。間違ってたら、修正をお願いします。」


「今の所、大丈夫だと思うよ。」


 天野理事長は、笑顔で答えた。一方で、今度は直美が、立花先生に問い掛ける。


「標的?ですか。」


「そう、地上発射の迎撃ミサイルや、空中戦用の空対空ミサイルの標的にしてたの。そんな物だから、一般の人には、『ドローン』って言葉には、余り馴染みが無かったらしいのよね、その当時、2000年代以前は。」


 続いて、金子が質問する。


「ふうん、それで、マルチコプターを『ドローン』って言わなくなったのは、どうしてですか?」


「それは、軍事用の攻撃型ドローンが、各国の軍隊で一般化したからよ。」


 塚元校長が答えると、天野理事長が続く。


「それ以前は、立花先生の説明の通り『ドローン』って言えば試験用の標的か、でなければ、戦場での偵察用機材だったから、兵器オタクぐらいじゃないと知らなかったんだけどね。」


 そして再び、塚元校長が解説する。


「戦闘用になって、それが紛争なんかで使用されたってニュースが多くなると、一気に『ドローン』って名称の、一般人のイメージが悪化したわよね、それが二十年、三十年くらい前の事かしら。」


 その話を聞いて、少しあきれた様に武東が声を上げる。


「それで、言い換えたんですか。」


 それには、天野理事長がコメントを返す。


「そりゃ、そうさ。一度ひとたび『ドローン』って呼び名に兵器のイメージが付いちゃったら、民生向けの製品にはその名前は使い辛いからね。企業活動の方針としては、まぁ、当然の対処だな。」


「それに、最近じゃ『ドローン』って言うと、『エイリアン・ドローン』の方を連想しちゃいますしね。」


 そう補足した立花先生は、少し苦笑いだった。




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


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