表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/285

第10回

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)


**** 12-10 ****



「自律制御だと、反撃する態勢にまでも行けないのね。改めて、人が乗ってる凄さが分かるって言うか…。」


 恵の、その素直な感想に対し、緒美が言う。


「人が乗ってたって、完全な素人しろうとだったら、あんな物よ。新島ちゃんやボードレールさんは出来るほうの人だし、天野さんみたいな規格外の人を見慣れてるから、森村ちゃんだけじゃなくて、多分、わたし達はみんな、その辺りの感覚が麻痺してると思うわ。」


 緒美は、視線を恵に向けて微笑む。恵は少しの間、視線を上に向けて、あきれ気味に言うのだった。


「そう言われれば、そうかしら。」


「まぁ、そうかもね。」


 直美は恵の後ろから肩に手を回し、笑って、そう言うのだった。一方で、緒美は視線を正面に戻し、Ruby に声を掛ける。


「Ruby、どんどん続けて行きなさい。」


「ハイ、シミュレーション第三回戦、開始します。」


 その後、三回戦、四回戦と、Ruby は少しずつ対応を変えながら、シミュレーションを繰り返したが、結局、兵器開発部の一同は、Ruby が勝利するきざしすら見出す事は無かったのである。

 Ruby の申し出通りに、自律制御でシミュレーションを一晩中繰り返す事にして、その日は午後八時を前に、一同は格納庫を後にした。



 その翌日、2072年7月31日、日曜日。茜とブリジットの二人が、部室に到着したのは、午前九時の少し前である。

 二人が部室に入ると、既に換気窓が開けられており、誰かが先に来ている様子だった。茜が換気の為に開けられている、奥側の窓から格納庫を見下ろすと、デバッグ用のコンソールの周囲に四人の姿が見られた。緒美と樹里、そして恵と直美である。


「部長~、おはよーございまーす。」


 茜が窓から声を掛けると、四人は振り向き、声は出さずにそれぞれが手を挙げて見せる。茜とブリジットは二階通路へと出ると、駆け足で先輩達四人の元へ向かったのである。


「おはよう。もう少し遅くても、良かったのよ。日曜なんだし。」


 そう、最初に声を掛けて来たのは恵である。


「Ruby の様子が、気になったもので。 今、見てるの、昨晩の結果ですよね?」


 茜は恵に声を返すと、続いて樹里にたずねた。すると樹里は、躊躇ちゅうちょ無く答える。


「そうよ~最終的に、今朝の八時までに、百八十三回、シミュレーションを実行したみたい。」


 その樹里の答えに、ブリジットが聞き返す。


「え?昨日の夕方は、一晩で百回ぐらいって言ってたじゃないですか。随分と多いですよね。」


「あはは、だと思うでしょ? ほら、昨日、最初の方はほとんど瞬殺だったじゃない。自律制御で仮想戦を始めて以降、八時間目辺りまでは、あの調子だったみたいなのよね。」


 樹里に続いて、緒美が一言を添える。


「つまり、一回のシミュレーション時間が短い。」


「ああ、そうか。その分、回した回数が増えたんですか。」


 ブリジットの回答に、微笑んで樹里が言う。


「そう言う事。 で、八時間目以降から、やっと反撃が出来る態勢が取れて来て~最後の最後に、二勝してるわ、LMF が。」


 その発言に対して、少し悔しに、直美がブリジットに言うのだった。


「わたしら、Ruby に先を越されちゃったよ、ブリジット。」


「ええ~…。」


 ブリジットが返事に困っていると、茜が直美に言うのだった。


「でも副部長、Ruby が自律制御でロボット・アームを使って勝てるぐらいになってないと、コックピット・ブロックからの操縦で勝つのは無理ですよ。アームの操作は、コックピット・ブロックが接続されてても、最終的には Ruby の担当ですから。」


「それは解ってるけどさ、天野。 でもなんか、悔しいじゃない?」


 そこで、ブリジットが苦笑いしつつ、直美に言うのである。


「まぁ、副部長。ほら、今日はわたし達も、勝てる確率が上がってるって事ですから。」


「そうそう、そう言う事~頑張ってね、新島ちゃん。」


「あー、その言い方、なにかちょっとしゃくに障るわね、鬼塚。」


「何よ、応援してるのよ?」


 緒美はニヤリと笑って、言い返すのだった。直美は少しムッとした表情を見せたあと、ブリジットの肩に手を回して言った。


なんだか悔しいから、今日は十勝、目指すわよ、ブリジット。」


「二人で、ですか?」


「二人、それぞれで、よ。」


「え~、頑張りマス。」


 そこで直美とブリジットの、遣り取りを見ていた恵が、微笑んで声を掛ける。


「頑張ってね~二人共。」


「うん、ありがと、森村。」


 その素直な反応に、緒美が一言。


「あ、森村ちゃんのは、しゃくに障らないんだ。」


「森村はいいのよ。」


 直美は緒美に、ニヤリと笑い返して見せる。緒美は、それに対しては微笑むだけで、言葉は返さなかった。

 その時、携帯端末の着信音が聞こえて来る。それは、恵の持つ携帯端末からだった。恵は、着ている薄い黄色のワンピースのポケットから携帯端末を取り出すと、そのパネルを操作し応答する。


「はい。…今ですか? 格納庫に居ますけど…あーはい…はい。分かりました~。」


 恵は受け答えをしながら、南側の大扉の方へと歩いて行く。緒美は、恵に声を掛ける。


「どうしたのー?」


 通話を終えた携帯端末をポケットに仕舞い、振り向いて恵は答えた。


「立花先生が、大扉開けてって~。」


「ああ、手伝うよー。」


 直美が駆け足で、恵を追った。茜とブリジットも、そのあとに続く。

 すると、自動車のクラクションが、扉の外から短く響いたのである。


「あー、はいはい。直ぐ開けま~す。」


 直美が外へ向かって、大きな声で答える。

 恵が正面左脇側の壁面パネルで扉の解錠操作を行うと、直美とブリジット、そして茜が大扉の中央を左右へ押し開いていく。大扉の外には、軽トラックが一台、止まっていた。軽トラックが通り抜けられる程に大扉が開かれると、その軽トラックは格納庫の中へゆっくりと進み、LMF の前辺りで停車して、エンジンを止めたのである。ドアが開き、その軽トラックから降りて来たのは、立花先生と前園先生の二人だった。

 ず、緒美が前園先生に声を掛ける。


「おはようございます。どうされたんですか?日曜日なのに、前園先生。」


 苦笑いで、前園先生が答える。


「そりゃ、こっちの台詞だ、鬼塚君。キミらこそ、日曜日の朝から、こんな所で何やってるの。」


 その問い掛けには、大扉の方から歩いて来る、直美が答えるのだった。


「あはは、ご覧の通り、部活動ですよー前園先生。」


「それは結構だけどね、幾ら本社からの依頼だからって、日曜日くらいは休みなさいよ。折角の夏休みなんだからさ。」


 そんな苦言を呈する前園先生ではあったが、その表情や語感には、それ程の厳しさは無かった。それは、念の為に釘を刺しておく、その程度の意図からの発言だった。

 そして、緒美がもう一度、前園先生に問い掛ける。


「それで、先生はどうされたんです?今日。」


「ん?ああ、二年生に十名程、補習の必要な奴らがいてな、明日から一週間。今日は、その準備でね。それで、学校に来てみたら、ちょうど、立花先生に捕まって。で、荷物運びの手伝いだよ。」


「朝一番で、荷物が届いたのはいいんですけど。ここまで、どうやって運ぼうかと考えていた所に、前園先生がいらっしゃって。本当に助かりました。」


 立花先生は、深深と前園先生に頭を下げる。


なんです?荷物って…。」


 緒美は軽トラックの荷台の方へ回り、積み荷を確認する。軽トラックの荷台には屋外用の大型扇風機と、中型のスポット・クーラーが、それぞれ三台、既に梱包が解かれた状態で置かれていた。

 大扉の方から戻って来た恵が、立花先生に問い掛ける。


「買ったんですか?これ。」


「まさか、リースよ。あと、本社工場の余剰品。本社のほうに、手配を依頼してたの。」


 そう立花先生が答える一方で前園先生は、クッション代わりに品物の下に敷かれている潰された段ボール箱を引っ張り、軽トラックの荷台後方へと積み荷を寄せている。茜とブリジットは駆け寄り、荷下ろし作業に手を貸すのだった。


「前園先生、お手伝いします。」


「ああ、すまんね。意外と重いから、気を付けて呉れよ。」


 茜とブリジットは二人掛かりで、段ボールが敷かれた荷台のふちを支点に、スポット・クーラー本体を起こすと、ゆっくりと滑らせる様に降ろしていく。荷台から降ろしてしまえば、スポット・クーラーにはキャスターが付いているので、移動は簡単である。

 比較的軽い屋外用扇風機は、直美と恵が軽トラックの荷台側方から持ち上げ、床面へと降ろした。


「よし、扇風機は北側に置いた方がいいだろう。あっち側の方が、幾分気温が低いから。 延長ケーブルのドラムまで、手配されているのは、流石、抜かりないですな、立花先生。」


「あー、いえいえ。恐れ入ります。」


 立花先生は照れ笑いしつつ、小さく頭を下げた。そして前園先生は、荷台後部のゲートを閉めてロックを掛けると、軽トラックの運転席に乗り込む。


「それじゃ立花先生、わたしはこれ、戻して来るから。」


「はい、ありがとうございました、前園先生。 助かりました。」


 立花先生がもう一度、お辞儀をすると、その周囲に居た一同も頭を下げるのである。前園先生は緒美達を見渡して、言った。


「キミら、若いから元気が有るのは分かるが、余り無理をするんじゃないぞ。」


 そう言ってエンジンを掛けると、「まあ、頑張り過ぎるなよ~。」と言い残して、前園先生は軽トラックを格納庫の外へと向かわせたのだった。

 それと入れ替わる様に、二階通路の階段の方から、佳奈の声が聞こえて来る。


「あ~大きな扇風機だ~。」


 一同が声の方向に目をやると、佳奈を先頭に、瑠菜と維月、そしてクラウディアの姿が有った。




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ