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第3回

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)


**** 12-03 ****



 さて一方で、少しだけ時間を戻して、茜と緒美が退室した後の理事長室である。何時いつぞやの様に、天野理事長と塚元校長、そして立花先生の三名が、理事長室中央に置かれた応接セットのソファーに座って、話を始めていた。

 会話の口火を切ったのは、塚元校長である。


「そう言えば、理事長。前回の事とか、奥様や天野さんの御両親には?」


「う~ん、実はまだ、な。流石に、どう伝えた物か、考えあぐねているんだ。」


「あら。先に送れば送る程、言い辛くなりはしません?」


「それはその通りなんだが。妻も娘も、どう言ったって、怒るのは目に見えてるからなぁ。いっそ、事が収まるまで、しらばっくれていようかと思っている所だよ。」


 そう言って天野理事長は笑うのだが、冷めた視線を送りつつ塚元校長は問いただす。


「事が収まるって、どうなったら収まった事になるんですの?理事長。」


「それは勿論、茜があんな事をしなくても良くなったら、だな。」


 その発言に就いては、立花先生がたずねるのである。


「それは、このまま HDG の開発が完了するまで待つか、或いは天野さんを HDG の開発から外す、とかでしょうか?」


「うむ、まぁ、それも方法ではあるな。あとは、HDG の開発業務を全面的に本社の方へ移してしまう、とかだな。」


 溜息を一つき、塚元校長がく。


「あの子達、納得して呉れるでしょうか?それで。」


「納得しようが、しまいが、あの子の達の安全を図る為なら、そのぐらいやらねばならんのだがね、本来なら。」


「本来なら?…と、言われると、そうするお積もりは無い?」


「それが…難しい所だな。」


 る様にソファーに身体を預けると、天野理事長は右手で顔面を押さえ、深く息をいた。そして、身体を起こし話を続ける。


「前回、立花先生に言われて、飯田君に色々と資料を回して貰ったんだが…。」


「わたしが、何か申し上げたでしょうか?理事長。」


 立花先生は、咄嗟とっさに、『言った事』に就いて思い当たらなかったので、天野理事長にたずねてみたのだ。すると、天野理事長はニッコリと笑って、答えた。


「茜が優秀だ、と。 キミが、そう云って呉れただろう?」


 そう言われて、立花先生は前回の遣り取りを直ぐに思い出したので、慌てて返事をする。


「ああ、はい、確かに。でも、それが?」


「どのくらい、優秀なのかと思ってね、飯田君に言って資料を集めて貰ったのだが。ああ、確かに、優秀だったよ、驚いた。 我が孫ながらと言うべきか、ね。」


 そこで、塚元校長が口をはさむ。


「ごめんなさい、ちょっとお話が見えないのですけれど?」


「ん?ああ、実はね。HDG の開発案件は、部長の鬼塚君がキーパーソンだと思っていたんだよ。勿論、他の子達も、それぞれに優秀なんだが、HDG に関しては鬼塚君が居なければ始まらない。そうだろう?立花先生。」


「はい、異論はありません。」


「うん、だから来年、鬼塚君がここを卒業して、会社の方へ正式に配属となれば、HDG の開発案件は全て、本社の方で引き取ろうかと考えていたんだ。ちょうど…と言うか、昨年の後半辺りから、HDG の開発作業が停滞気味ではあったからね。」


 そこで塚元校長は、隣に座る立花先生に問い掛ける。


「そうなんですか?立花先生。」


「はい、まぁ、そう、でしたね。今年の四月までは、形状の決まらない重要なパーツが有ったり、テスト・ドライバーの選定も難航してましたし。」


 立花先生の言う『形状の決まらない重要なパーツ』とは、HDG の外装、ディフェンス・フィールド・ジェネレーターの事である。その説明に、天野理事長は大きくうなずいて、話を続ける。


「そう、四月だ。四月に茜が入学してからの三ヶ月間で、半年近く停滞していた開発作業がスケジュールに追い付き、更に半年分、進展したそうなんだよ。」


「そんなに、ですか?」


 塚元校長がたずねるのに、天野理事長は再び大きくうなずき、言った。


「ああ、調整は茜専用だとは言え、実際に、実戦に耐えて見せたのが、その証拠だろう。」


 立花先生は、天野理事長の最初の話との繋がりが分かった気がしたので、確認の為にいてみる。


「そうすると、つまり、天野さんを開発作業から外すのは、会社的に惜しい、と言うお話でしょうか?理事長。」


「まあ、そうなるな。今や茜は、鬼塚君に並ぶ、HDG 開発のキーパーソンと言う事だ。 そこでだ、校長。来年、鬼塚君と一緒に、茜も卒業させるわけにはいくまいか?」


 冗談なのか本気なのか、判断が付かない天野理事長の提案に、少し苛立いらだつ様に、塚元校長は鋭い視線を送りつつ言い返す。


「無茶、おっしゃらないでください。冗談が過ぎますよ、理事長。 大体、同級生とは別に、一人だけ卒業だなんて、天野さんが可哀想でしょ。」


「そうだよな。」


「そうだよな、じゃありません。大体、鬼塚さんにせよ、天野さんにせよ、会社の方で代役を立てれば済む話じゃありませんか。」


「わたしも、初めはそう思っていたんだ。特定の個人の能力に過度に依存して仕事を進めるってのは、余り勧められた事ではないしな。」


 申し訳無さに、立花先生は口をはさむ。


「あの、理事長。HDG の開発案件に就いては、流石に、それは無理ではないかと。」


 その意見には、塚元校長が切り返して来る。


「どうしてかしら?立花先生。」


 だが、その問い掛けには、天野理事長が答える。


「いや、立花先生の言う通りなんだ。例えば、鬼塚君の場合だが。そもそも、鬼塚君の代わりが務まる人間が居れば、HDG の開発案件をこちらに委託なぞ、はなからしていない。 水素分離膜の開発が塚元にしか出来なかった様に、HDG の開発は鬼塚君が中心にならないと進まない。アイデアを出す仕事は、アイデアを持っている人間に頼らざるを得ない、これは仕方が無い。だろう?校長。」


「そう、ですね…。」


 ここで天野理事長が言う『水素分離膜』とは、天野製作所設立当初の最初の主力製品であり、天野製作所を天野重工にまで押し上げる原動力となった技術である。その研究をしていたのが、塚元校長の夫で、天野理事長の友人だった故・塚元相談役なのである。天野製作所は、その『水素分離膜』を製品化する為に、天野理事長達が設立した会社だったのだ。

 天野理事長は話を続ける。


「茜の場合は、主にテスト・ドライバーとして開発に貢献しているわけだが、大きな事故も無くデータの取得を続けて、調整や改良を重ねて行けているのは、茜が HDG の仕様を、鬼塚君レベルで、完全に把握しているからだ。」


「その辺り事は、門外漢なのでわたしには良く分かりませんけど。難しい事ですの?」


 その問いには、立花先生が答えるのだった。


「天野さんの場合は、仕様書を読み込むだけでは無くて。現時点で存在していない、兵器としてのパワード・スーツについてのヴィジョンを、発案者である鬼塚さんと、ほぼ共有出来ている所が凄いんです。その上で、剣道でつちかった…なんて言うのか、身のこなしとか、間合いの取り方とか、そう言った運動能力?ですね、そんな要素を併せて持っている所が、存在として貴重なんです。」


「その、パワード・スーツ?と言うのがね、わたしにはピンと来ないのよ。」


 塚元校長は苦笑いで、立花先生に言った。


「現在、実用化されているのは介護用とか、それから工場なんかで、足腰の負担を軽減させるタイプの物ですね、あと、医療用途で歩行のリハビリに使われている物とか。腰から下に、脚の側面に取り付ける補助具としての物が有りますけど…。」


「ああ、そう言う物でしたら、見た事は有ります。」


 次いで、天野理事長が言う。


「軍事用としては、そう言った物を強化、転用して、歩兵が重量物を担いで、長距離や山道を歩ける様にする装備が有るな。」


「はい。ただ、鬼塚さんの考えているパワード・スーツは、今、有る様な物よりも、もっと大幅に身体能力を強化、拡張する物でして。その手の物は昔から SF 小説や、映画なんかに良く登場していたのですが。その辺りの知識が、天野さんも共通している様子ですね。その事が兵器としてのパワード・スーツの運用方法に就いての明確なヴィジョンを、二人に与えているみたいで。」


「SF ですか…。」


 塚元校長は溜息をいて、考え込む様な仕草をする。向かい側に座っている天野理事長は、笑って言うのだった。


「まぁ、普通の大人なら、マンガみたいな絵空事だと笑い飛ばす所だがな。だが実際に、マンガみたいな機動兵器が現れると、我々の保有する従来の兵器では、まったく通用しないわけでも無いが、帯に短したすきに長し、でな。現用兵器で対抗すると、周辺への被害が大きくなり過ぎる、それが、どうにもな…。」


「それで、鬼塚さん流に言えば、ずは同じレベルで殴り合える様になるのが先決、だそうです。」


「殴り合い?ですか。」


 立花先生の補足説明に、驚いた様に塚元校長は聞き返すのだった。再び、天野理事長が笑って言った。


「だから、エイリアンの機動兵器に対抗するには、腕や脚が要るんだよ。」


「殴り合いって、比喩ではないんですの?」


「それに就いては、昨日の一件で、わたしも反省しました。」


 立花先生はちから無く笑い、座ったままで一度、天野理事長に向かって頭を下げる。当惑気味に、塚元校長は立花先生に、たずねる。


「どう言う事?立花先生。」


「はい。 HDG の仕様書を読んで、頭では理解していた積もりなんですが、殴り合いも必要な局面もあると。でも、極端な接近戦は、矢張り危険なので、出来れば銃撃戦で対処して欲しいと、思っていたんです。」


「それは、そうでしょうね。」


「わたしがそう思っている事は、鬼塚さんも分かっていた様で、昨日の、天野さんが外へ出る準備をしている段階で、鬼塚さんは接近戦用の装備を携行するように、天野さんに指示しなかったんです。天野さんも、接近戦用の装備を要求しませんでした。でも、結果的に、三機目に対処する段階で接近戦用の装備が無い為に、天野さんは手詰まりになり、却って危険な状況になってしまったんです。」


「それは、飯田君のレポートにも、記載が有った件だね。」


「はい。それは後で気が付いたんですけど、恐らく、鬼塚さんも天野さんも、BESベス…あ、接近戦用の刀の様な装備なんですが、それを持って出るべきだった事は、初めから分かっていたと思うんです。それを敢えて持たなかったのは、わたし達、大人への配慮だったのかな、と。」


「配慮?」


 塚元校長が聞き返すと、立花先生は一度、うなずき話を続ける。




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


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