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第11回

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール


**** 11-11 ****



 早足で歩いている樹里に追い付くと、クラウディアは右手で、樹里の制服の、腰の辺りをつまんで引っ張る。樹里は足を止めて、振り向き、いた。


なぁに?カルテッリエリさん。」


「あの…」


 クラウディアが左手を口元に添え、少し背伸びをして小声で話し掛けるので、樹里は少し腰を落とした。クラウディアは樹里の耳元で、言った。


「…今の状況、情報検索しましょうか?」


 樹里にはクラウディアの言っている事が、前回の様に防衛軍のネットワークに対するハッキングの意味だと、直ぐに理解した。だから、声を抑えて、即座に樹里は言葉を返したのだ。


「今日はよしなさい、軍の人達も居るんだし。もし見付かったりしたら、立花先生や飯田部長の立場が無いでしょ。」


「でも、情報は多い方が…。」


「ダメよ。わざわざ危ない橋を渡る事はないの。それに、多分、今回は必要無いから。大丈夫。」


 その時、クラウディアの背後から彼女の頭頂部を鷲掴わしづかみにする様に、誰かのてのひらが乗せられる。クラウディアが慌てて振り返ると、彼女の頭に手を掛けていたのは瑠菜だった。その隣には、佳奈が立っている。


「何か悪巧わるだくみしてたでしょ、ダメだよ~クラリン。」


 ニヤリと笑って、瑠菜はクラウディアに言った。


「ダメだよ~クラリン。」


 佳奈は微笑んで、瑠菜の台詞後半を繰り返す。クラウディアは頭に乗せられていた手を払い除け、言葉を返す。


「してませんよ、悪巧わるだくみなんて。それから、クラリンって呼ばないでください。」


 そう言って、クラウディアは茜が立っている方へと、視線を向ける。樹里と瑠菜、佳奈も何と無く、クラウディアに釣られて同じ方向へ視線を動かす。

 彼女達の視線の先で茜は、LMF の前で格納庫の正面扉へ身体を向けて、じっと立っていた。ブリジットはその隣で、茜とは反対方向に向き、LMF の再装備作業を無言でながめている。


「アカネとボードレール、あの二人、また実戦に出るんですか?」


 クラウディアは、そうつぶやく様に言った。それに、樹里が直ぐに言葉を返す。


「最悪の場合はね。」


「だったら、わたしだって何かの役に立ちたいじゃないですか。」


 そう言って息をくクラウディアに、瑠菜が声を掛ける。


「役に立ってるじゃない、カルテッリエリだってさ。」


「そうよ~観測機の画像が、データ・リンクに乗る様にして呉れたの、クラリンだよ。」


「あんなの、出来てるモジュールを幾つか繋いで、送信コードを何箇所か書き換えただけです。それに、アイデアの半分はイツキの、だし。」


「カルテッリエリには簡単な作業でも、わたしや佳奈には出来ないの。専門外だから。」


「そうそう、それに、そのお陰で、今、外の様子が見られてるんだしね。」


 瑠菜と佳奈は、そう言って元居た観測機のコントローラーが置かれた席の方へと歩き出す。そんな二人に、樹里が声を掛ける。


「二人は観測機の操作を?」


 掛けられた声に、瑠菜が振り向いて答えた。


何時いつまでも自動で、放っておけないでしょ。それに、観測機は今、外の様子を知る命綱なんだからね。」


 返事を聞いた樹里は、一呼吸置いてクラウディアの肩を軽く叩き、声を掛ける。


「さぁ、わたし達も行きましょう、カルテッリエリさん。」


「はい、先輩。」


 二人は、瑠菜と佳奈の後を追う様に、デバッグ用コンソールへと向かった。



 一方、格納庫の外では、陸上防衛軍戦技研究隊の浮上戦車ホバー・タンク三輌が、エイリアン・ドローン『トライアングル』三機にわざと追い掛けさせる状況を作って、時間稼ぎを続けている。

 浮上戦車ホバー・タンクはトライアングルの視界を横切る様に走行し、自身の後を一対一で追わせる事によって、トライアングルが格納庫へ近付かない状況を作り出していたのだが、しばらくするとトライアングルは追跡に対する興味を失うかの様に向きを変え、再び格納庫へと接近しようとするのだった。その都度、浮上戦車ホバー・タンクはトライアングルの正面を横切って、追跡を再開させていた。そんな事を既に十数回繰り返していたが、それで終わりが見えていた訳ではない。現状で反撃の術を持たない浮上戦車ホバー・タンク隊は、救援が到着するまで、同じ事を繰り返すより他なかったのだ。


「チクショー、こいつに付いてるのが、本物のブレードだったらな。切り刻んでやるのに。」


 浮上戦車ホバー・タンク三番車の車内、車長席正面のメインパネルで後方のトライアングルの様子を見ながら元木一曹は、そうこぼすのだった。その声に、運転席の日下部三曹がインカムを通じて、言葉を返す。ちなみに、防衛軍の浮上戦車ホバー・タンク用の装備に、実戦用のブレードは存在しない。


「えぇ~自分は、機銃の弾が欲しいですよ。」


 日下部三曹はトライアングルが追跡の興味を失わない様に、進路をジグザグに変えながら、且つ、追い付かれない様に速度と距離を調整している。それは、他の車輌の操縦手も同様だった。彼等かれらは互いの進路が交錯しない様に、調整しながら捕まる事を避けつつ、トライアングルに自らを追い掛けさせているのである。それは日常的な研究と訓練の成果であり、そんな状況を維持できている事こそが戦技研究隊が浮上戦車ホバー・タンクによる戦闘機動の精鋭である事の、紛れもない証左なのである。


「指揮所より各車へ。目標をフィールドの中央へ誘導し、円陣で動きを封じろ。」


 車長の元木一曹の耳には、大久保一尉の指示が聞こえて来る。それ続いて、一番車の藤田三尉から、指示が発せられた。


「一番車より三番車、そこから方位300サンマルマルへ目標を誘導して。二番車は、進路そのままで。」


「三番車元木、了解。 日下部、方位300へ転進。」


 『方位300』とは、磁北を0度として、時計回りに300度回った方向で、大凡おおよそ、西北西の事である。


「了解。方位300へ。」


 日下部三曹は、車長である元木一曹の指示に従い、進行方向を右へと変える。すると直ぐに、右手方向から一輌の浮上戦車ホバー・タンクが、接近している事に気付くのだった。


「元木一曹、この進路だと一番車と交錯しますが。」


「何だと?」


 元木一曹は視察装置ペリスコープを操作して周囲の状況を確認する。日下部三曹が言う通り、確かに、右手側から接近して来る一輌が有り、進路が交錯する様子だった。そこに、一番車車長、藤田三尉からの通信が入るのだった。


「一番車より前方の二番車、進路が交錯する!左へ回避を!」


 どうやら、藤田三尉は二番車と三番車を、勘違いしている様子だった。元木一曹は、慌てて通信を返す。


「一番車へ、其方そちらの前方は三番車です。此方こちら、左へ回避します。日下部!左へ。」


「了解。」


 三番車が向きを変えた直後、何かがぶつかる様な音が後方から聞こえたので、元木一曹は再び視察装置ペリスコープを操作して後方の様子を確認した。正面メイン・パネルには、後方から追い掛けて来るトライアングルが映し出されていたが、それが先程まで追い掛けて来ていたトライアングルでない事はその機体の色の違いで、直ぐに解った。トライアングルの機体色は青っぽいグレーの物が最も一般的であるが、それ以外の機体色や模様の有る物が数種類、確認されている。その違いが意味する所や理由は、いまだ判明していなかったし、カラーリングの違う機体が特別な使用法や役割が有る様には見受けられない。兎に角、今現在、三番車を追い掛けているのは一般的なグレーの機体で、それは先程までは一番車を追い掛けていた機体だった。

 そして、三番車を追い掛けていた黒いトライアングルは、一番車に飛び掛かり、衝突して双方が動きを止めていた。先刻の衝突音は、その時の音だったのだ。黒いトライアングルは一番車の左側面から車体を半ば持ち上げる様に左腕を車体下面に差し込み、右の鎌状のブレードを車体に打ち付けている。

 浮上戦車ホバー・タンクは車体の前後左右に装備された四つのホバー・ユニットから噴出する空気を、車体下面と地面との間に流し込む事で浮上している。車体を大きく傾けられ、必要以上に地面と車体下面の間に空間が出来るとエア・クッション効果が得られず、結果、身動きが取れないのだ。


「二番車より指揮所、一番車が捕まりました。救出に向かいます。」


 元木一曹には、二番車車長の二宮一曹の通信が聞こえた。直様すぐさま、大久保一尉の返事が聞こえて来る。


「ダメだ、二番車は自分が引いている目標を引き続けろ。」


「しかし、隊長…」


「大久保より藤田三尉。何とか自力で脱出するか、そのままそいつの足止めを継続して呉れ。あと、十五分で救援が到着するはずだ。」


「藤田、了解しました。」


 無線での遣り取りが聞こえる元木一曹は、「チクショウ」とつぶやく事しか出来なかったのである。


「元木一曹、一番車の救出に向かいますか?」


 無線での遣り取りを聞いていない日下部三曹が、インカムで、そういて来る。元木一曹は、絞り出す様な声で答えた。


「今、引いている目標を引き続けろ、隊長の指示だ。救援が来るまで、あと十五分だそうだ。」


「ホントに、来るんでしょうね、救援。」


「知らねぇよ!」


 こう言った状況で気休めを言わないのが、元木一曹の流儀なのである。



 一方、一番車の車内である。トライアングルに車体の左側を持ち上げられる様にされて傾いた車内では、ブレードが打ち付けられる「ゴン、ゴン」と言う音が、鈍く響いていた。流石に主力戦車の装甲は、航空機の様に簡単に切断されたり、ブレードが貫通したりはしない。

 運転席では松下二曹が、車体の姿勢を戻そうと、ホバー・ユニットや推進エンジンを吹かしたり、着陸脚でもあるホバー・ユニットを動かして、藻掻もがいていた。

 そんな折、突然、小規模な爆発音と、振動が車体を襲ったのである。同時に、車内の照明が数回点滅し、幾つかのアラームが鳴り響き、松下二曹が装着する HMDの視界にはエラー表示が映し出される。


「何?状況報告。」


 藤田三尉は落ち着いた口調で、言った。

 松下二曹はエラー表示を確認して、警報音を止める。車内には再び、「ゴン、ゴン」とブレードが打ち付けられる音が鈍く響いていた。


「左後方のホバー・ユニット、機能停止。主動力、電源には異常ありません。」


「やられたのがホバー・ユニット一基だけなら、まだ動けるわ。何とか、この拘束状態から抜けられれば、だけど。」


「右側の低速移動用の駆動輪、使ってみます。」


「いいわ、やってみて、智里ちゃん。」


 浮上戦車ホバー・タンクのホバー・ユニット先端には、低速移動や位置の微調整の為に、ステアリング機能付きの駆動輪が装備されている。低速では位置の微調整がホバーでは難しい事と、ホバーを使用する事に因り発生する騒音や、大量の砂煙が、隠密性を必要とする行動の場合には支障となり得るので、補助的な駆動装置が装備されているのだ。LMF に同様の駆動輪が装備されていないのは、ホバーが使えない状況では「歩行」が可能だからである。現用の浮上戦車ホバー・タンクでは、停止時の姿勢制御の為に脚の様にホバー・ユニットの角度を変える事は出来るのだが、それで歩行する事までは不可能なのだった。




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


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