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第10回(第10話・終回)

第10話・森村 恵(モリムラ メグミ)


**** 10-10 ****



「もう、替わって良かったの?」


「うん、大丈夫。あ、それでね緒美ちゃん。緒美ちゃんに、謝っておかなきゃいけない事が有るの。」


「どうしたの?急に。」


 携帯端末から返って来た緒美の問い掛けは、普段と同じトーンだった。恵は、一呼吸置いて、話し出す。


「今日、立花先生にね、中学の頃の事とか、緒美ちゃんのおうちの事とか、勝手に喋っっちゃったの。ごめんなさいね。」


「何事かと思えば…別にいいわよ。秘密にしなきゃならない事とか、特に無いし。森村ちゃんが話してもいいと思ったレベルの事なら、別に構わないし。その辺り、信用してるから。だから、謝ったりする必要は無いわ。」


 緒美の声は平然としていて、携帯端末から聞こえて来る限りでは、怒っているとは恵には思えなかった。実際、緒美は怒ってなどいなかったのだが、それは立花先生が言った通り、二人の間に信頼関係が有ってこその事である。


「そう?でも、今後は気を付ける。ゴメンね。」


「いいから。それより、どうしてそんな話の流れになったのか、そっちの方が気になるわね。」


「あぁ、それが、可笑しいのよ。立花先生が校長先生から、わたしが男の人と付き合ってるって噂が有るから、それに就いて事実関係を確認する様に頼まれたんだって。」


「何よ、それ?」


「可笑しいでしょ~まぁ、それでね、わたしへの聴取ちょうしゅの中で、わたしの中学時代の話になって、その頃って緒美ちゃんと一緒に行動してた事が多いから、緒美ちゃんの話も出て。あと、立花先生がね、緒美ちゃんの以前まえの様子とか気にしてたの。」


「ふぅん…分かった様な、分からない様な、そんな流れね。」


「まぁね、その場の雰囲気とか、ちょっと、簡単には説明し切れない部分は有るかな。」


「それで、誰かと付き合ってる云云うんぬんって、誤解は解けたの?」


「勿論。そんな事してる時間が無い事は、立花先生が、一番良く知ってるもの。」


「それもそうよね。」


 携帯端末からは、緒美のクスクスと笑う声が聞こえて来る。そして、緒美が続けて言うのだった。


「しかし、あの立花先生が、どんな顔して、そんな事をたずねたのか、それはちょっと興味が有るわね。」


「校長から直直じきじきに頼まれた~って、随分とお困りの様子でしたよ。ええ。」


 少し巫山戯ふざけた調子で、恵がそう言うと、又、緒美が「うふふ」と笑うのが聞こえて来る。


「立花先生とは初めて一対一でお話ししたけど、緒美ちゃんが先生の事、信用した理由がちょっと分かった気がするの。」


「そう?…って言うか、森村ちゃんは、まだ先生の事、信用してなかったんだ。」


「う~ん…部活とか、お仕事関連の事に関しては、信頼出来る人だとは思ってたけど。人となりって言うか、パーソナルな部分で、何か得体の知れない感じが有って。例えば、緒美ちゃんの事とか、仕事の都合で利用してるだけなんじゃないかなって。」


「それは、その通りでしょ。それを承知で、わたしは、敢えて乗ったのよ?」


「うん、緒美ちゃんは、そうなんだと思ってた。先生の方にはね、何時いつも必要以上に大人振ろうとしているって言うか、何かそんな感じが違和感として有ったんだけど。」


「そんな事、思ってたの?でも、大人振るったって、実際、大人なんだし、先生も学校と会社と、両方での立場も有るでしょう?」


「それは、そうなんだけど。それにしても、常にりきみ過ぎじゃない?って感じてたのよね。」


「相変わらず、森村ちゃんは人を見る目が、厳しいよね。 それで、お話ししてみて、何か分かった?」


「うん。先生は、わたし達が思いもしない程、わたし達の事を対等に見て呉れているのかなって。だからこそ、立場上、常に大人であろうとしているのかなって、そんな感じね。」


「智リンは、真面目だから~って、古寺さんが良く言ってるものね。」


「あははは、そう、そう。でも、そう言う真面目過ぎる所、緒美ちゃんは気に入ったのよね?」


「気に入ったって言うと、上から目線で、何様?って感じだけど。まぁ、そうね。最初、研究の話をした時にね、先生、わらわなかったのよ。」


むしろ、先生は笑ったりしないって思えたから、緒美ちゃんは話したんでしょ?」


「森村ちゃんみたいに、確信が有ったわけじゃないけど。」


「あら、わたしだって、常に確信が有るわけじゃないわよ。」


「そう? まぁ、あの時はね、不思議とそんなふうに思えたのよね。予感って言うのかな? でも、まさかね、こんな事になるとまでは、流石に想像もしてなかったけど。」


 緒美が半ばあきれた様に、そう言うと、恵は「うふふ」と笑って同意するのだった。


「でしょうね。それに就いては先生もね、『ここまでが順調過ぎた』って言ってたわ。」


 そこで、恵は昼間の、立花先生との歓談内容を、ふと思い出し、言葉を続ける。


「あ、そうそう。今日、立花先生から、ちょっと興味深いお話を聞いたのよ。」


「どんなお話?」


「エイリアンが、地球に侵攻して来た理由は何か?って、お話。」


「それは確かに興味深いけど、結論なんか出せそうもないテーマね。」


「それはそうなんだけど。 このお話は、全部話すと長くなるから、帰って来たら、緒美ちゃんも立花先生に聞いてみたらいいわ。わたし達とは視点の違う説が聞けて、流石、先生って言う感じだった。」


「そうなの? それじゃ、学校に戻るのを、楽しみにしてる。」


 恵は、緒美の声を聞きながら、ベッドの上で座り直そうと姿勢を変えるが、その時、ヘッドボードに付けられている目覚ましアラームの時刻表示に、ふと、目が留まった。時刻は午後十時半に、なろうかとしている。


「さて、そろそろ長くなって来たから…緒美ちゃんは、早目に休んでね。あ、その前に、お風呂はこれから?」


「うん、そうなの。」


「明日からも講習が続くんでしょうけど、無理はしないでね。」


「あぁ、ありがとう。それじゃ、其方そちらの方は、お願いね。又、連絡するから。」


「うん、それじゃ、お休み。直ちゃんにも、無理しないでって伝えておいて。」


「うん、伝えておく。お休み。」


 そして、通話は終了したのだった。

 恵は、ほんのりと暖まった携帯端末を握ったまま、後ろ向きに、ベッドの上に上体を倒した。ぼんやりと、天井を見詰めつつ、予定していた夏休みの宿題の事を思い出す。

 何だか、今から宿題、数学の問題集に取り組む気分にもなれず、恵はそのまま、五分程、横になっていた。数学は恵に取っては得意な教科だったが、一日の終わりに緒美と会話が出来た、そんな幸せな気分をリセットするのが勿体無もったいない様な気がして、どうしても問題集を開く気持ちになれそうもなかったのだ。


 結局、恵は宿題を翌日に回して、今日は幸せな気分のまま、就寝する事に決めたのだった。

 同室の直美が居ないのにも、流石に三日目にもなると慣れて来て、簡単に身支度をすると、ベッドに潜り込み部屋の灯りを消した。

 こうして、恵の、学校で過ごす夏休みのある一日は、終わったのだ。




- 第10話・了 -




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


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