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第12回

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)


**** 9-12 ****



「その調査に依れば、『イジメ』の首謀者は同じクラスの女子生徒だったのだが、その父親と言うのが、天野重工うちの、まぁ、簡単に言えば競合の系列メーカーの重役だとかでね、企業名はこの件とは無関係だから伏せるが…当初は、容姿や態度が気に入らない、と、ボードレール君を標的にし、それに参加しなかったから天野君をターゲットに加えたわけだが、後になって、天野君がその首謀者の父親の競合企業関係者だと気付いて、妙な敵愾心てきがいしんを持ったらしい、と言う事だった。まぁ、どう言うわけか、最後まで、天野君が天野重工の社長の娘だと勘違いしていたらしいが、その所為せいも有って、その女子生徒からは中学を卒業するまでの三年間、付け狙われていたんだよ。」


 天野重工の創業家と、茜の父親とが同じ『天野』姓である為、この『茜が天野重工の社長令嬢である』と言う誤解に遭遇する事を、時折だったが茜は経験していた。実際、天野重工の創業者である会長の孫ではあるので、社長令嬢では無いにせよ、血縁者である事には間違いは無く、茜自身は、そう言った誤解を受ける事は、余り気にしてはいなかったのだが。

 現在の三代目社長である片山の妻が、茜の叔母、茜の母である薫の妹、天野 総一の次女であるヒカルで、その娘、つまり、茜の従姉妹いとこである陽菜ヒナが実際の社長令嬢なのだが、『片山』姓であるが故、ほぼ、世間から社長令嬢だと思われた事が無いと言う『ねじれ現象』が起きていたのだが、それは、取り敢えず、本筋とは関係の無い話である。


「三年間って、二年生でクラスが変わって以降は、特に何もありませんでしたけど。」


 茜が、当事者としての所感を述べる。すると、秘書の加納が言うのだった。


「会長、あとは、わたしから説明しますが?」


「そうだな、頼むよ。」


「では。 実はわたし、その警備保障会社に以前、三年程、勤めておりまして。その絡みも有って、茜さんの件、主にわたしが、遣り取りをしておりました。」


 加納は茜達に向かって一礼した後、話し出す。


「調査報告に依りますと、当初、首謀者である女子生徒は、複数の取り巻きを通じて、クラス全体に因る対象者への無視を徹底させていたわけですが、当然、時間が経つにれて、更に対象者を追い詰める為に行為をエスカレートさせようとしていました。一昔前でしたら、行動が、所持品の棄損きそんとか、金品供与の強要、身体的攻撃へと段階が進んで行った所ですが、昨今では学校内に記録装置などが整備されていますので、流石に、そう言った行為に協力する者は、今時、そうはりません。」


 そこで、塚元校長が口をはさむ。


「みんなも知っている通り、教室や廊下とか、二十四時間、映像を記録しているから、校内で暴力行為や器物破損とかすれば、証拠が残りますからね。」


 ちなみに、記録されるのは映像のみで、普段の学校生活でのプライバシーを考慮し、音声は記録されない。学校側も、記録された映像に就いては、これを簡単に見る事は出来ず、事件や問題が起きた場合に限り、教育委員会と警察に因って、映像の内容が確認、調査される。これは、学校側に因る事実の隠蔽いんぺい改竄かいざんを防ぐ為の方策である。もしも、記録装置の整備不良等に因る記録の欠落や、記録の隠蔽いんぺい、或いは改竄かいざん等が発覚すれば、記録装置の管理責任を負う学校側が厳しく責任を追及される事は言うまでもない。映像の記録期間は最短でも一ヶ月間で、事件や問題が起きなければ記録メディアは交換されず、古い映像から自動で消去されると言う仕組みである。これらは、教育機関内での犯罪的事象の発生抑制や摘発の為に、法的にも整備された、全国的な取り組みであり、これらの法的及び、機器的なシステムの整備は、開始がされて既に三十数年が経過し、全国的に定着している。

 塚元校長の言葉を受け、加納が説明を続けた。


「はい。勿論、死角になる場所も有りますので、記録装置が有るとは言っても、完璧ではありませんが。 茜さんと、ブリジットさんのケースでは、そう言う事に協力しそうな上級生などの生徒にあらかじめ釘を刺したり、映像記録装置の死角になる場所の監視強化などに、お二人の所属部活…剣道部とバスケ部の上級生や先生の協力が有りました。そんなわけで、学校内部では、クラス内での無視以上の行為に進展しなかったのですが、それに業を煮やしたと言いますか、首謀者側は学校外での襲撃を計画していました。」


 そこで、恵がポツリと言った。


「あの…中学生、ですよね?」


 加納は、ニッコリと笑って答える。


「はい、そうですよ。首謀者である女子生徒は、親からる程度、自由になるお金と、教育係と言うか、お世話係と言うか、そんな立場の大人が小学生の頃から付けられていた様なんですが、どうやら、その大人がろくでもない者だったらしく。」


「あぁ…何と無く、解りました。すみません、続けて下さい。」


 恵は、小さく頭を下げる。加納は、話を続ける。


「…では、え~、探りを入れている中で、襲撃計画なる話が浮かび上がって来まして、夏を過ぎた頃でしたが。 我々も当初は半信半疑だったのですが、念の為、お二人には警護を兼ねて、監視を付ける事になりました。」


「二人?ブリジットも狙われてたんですか?」


 今度は、茜が反応する。


「そうですよ。」


「だって、夏を過ぎた頃には、ブリジットは無視される対象から、外れてたのに。」


「ですが、茜さんへの無視に、ブリジットさんは参加してなかったでしょう?それが首謀者側は、気に入らなかったんですよ。」


 そして、ブリジットが、茜に向かって言うのだった。


「実際、わたしは襲われたのよ、二回。まぁ、どっちも未遂で済んだけど。」


「え?」


 右隣に立つブリジットの方を見て、茜は言葉を失うのだった。ブリジットは、微笑んで言った。


「街に一人で出掛けた時にね、行き成り路地に引っ張り込まれて。逃げようと揉み合ってる所を、加納さん達に助けて貰った事が有るの。あなたには黙ってたけど、ゴメンね。」


 茜はブリジットを見詰めたまま、声を出せずにいた。そして、加納が説明を付け加える。


「あの時、わたしが現場に居たのは、まぁ、本当に偶然でしたが。監視役の警備保障会社の担当者が、昔の同僚でしたので、連絡事項の伝達がてら会いに行ったら、ブリジットさんの最初の襲撃現場に出会でくわしてしまいまして。そのあと、二度目の襲撃を許してしまったのは、救出が出来たとは言え、警備の態勢を整える側としましては、誠に不手際だったと言わざるを得ません。ブリジットさんには改めて、お詫び申し上げます。」


 そう言って、加納はブリジットに対し、深々と頭を下げるのだった。


「あぁ、いえ。助けていただいたのに。それに、悪いのは相手の方ですから。」


 加納に向かって恐縮して言葉を返すブリジットだったが、その横で、理事長室に入って来た時の事を思い出して、茜はブリジットに言うのだった。


「あぁ、それじゃ、さっき、加納さんと面識が有ったって…。」


「そう、助けて貰った時。そのあとで、会社のほうでの調査だとか、警護だとかの、事情を聞いたの。茜は、その時はまだ、その事態の真っ直中ただなかだったから、余計な心配をさせたくなくて、みんな、黙ってたのよ。」


 そして、下げていた頭を上げた加納が言う。


「はい。茜さんは一方の当事者ではありましたが、事態の首謀者の心情が相当にねじれている事が予想されましたので、茜さんに事情をお話しした所で、当事者間での解決は無理だったでしょう。であれば、この場合、お知らせしない方が得策と、勝手ながら、此方こちらで判断致しました。ご容赦下さい。」


 加納は、再び、頭を下げる。


「あ、いえ。大丈夫ですよ、今なら理解出来ますから。加納さんが、謝る事じゃ…。」


「あの、ちょっと良いですか?」


 茜が言い終わらない内に、肩の高さ程に左手を挙げ、直美が声を上げる。加納は頭を上げると、それに応えた。


「はい、何でしょう?」


「色々と物騒なお話だったわけですけど、そう言う事態であれば、警察に届け出る案件だったのでは無いかと。」


「警察は、基本的に事件が起きないと、動いて呉れません。おおやけの捜査機関でもない民間の情報調査部門がつかんだ、証拠能力の怪しい情報だけでは、事件が起きる前に逮捕は出来ません。だからと言って、事件が起きるのを待つわけにも参りませんので。事件が起きると言う事は、被害者が出る、と言う事ですから。 警備保障、特に警護と言うのは、警察の様に発生した事件を解決するのではなく、事件の発生その物を未然に防ぐのが目的になりますので、茜さんとブリジットさんのケースに就いても、その様に実施されました。ちなみに、三年間で、茜さんについては十件、ブリジットさんについては先の二件ののち、三件の襲撃計画の実行を阻止しております。」


「天野は、それ、知らなかったんだ。」


 直美が、茜の方を向いて尋ねる。


「はい、全然。ブリジットは知ってたのね?」


「いや、あとの三件ってのは、今、初めて聞いた。」


 ブリジットは、苦笑いである。そして、恵があきれた様に、所感を口にするのだった。


「しかし、『イジメ』の延長で、そこまでやるって言うのも…。」


「いえ、先方の動機は『イジメ』の延長だけではありません。先程も言いましたが、首謀者のそばに付いていたろくでもない大人、その者が、茜さんを事件に巻き込んで、それをネタに天野重工を強請ゆすろうとしていたのですよ。時間を置いて、繰り返し襲撃を画策していたのは、時間が経って警護が外れるのを待っていた、と言う面も有るのです。」


「あぁ、成る程、そう言う事ですか。」


「あれ?でも、わたしを襲っても、天野重工には関係ありませんよね?」


 恵が納得する一方で、ブリジットが疑問を口にした。


「ブリジットさんのケースは、基本的に首謀者である女子生徒の腹癒はらいせによる物と思われますが、ブリジットさんへの襲撃が成功すれば、茜さんに心理的にダメージを負わせられますし、襲撃の予告としても使えます。『次はお前だ、友達みたいな目に遭いたく無かったら、金を用意しろ』の様な脅迫も出来ますから。」


「ホントに、ろくでもないですね。」


 茜は、心底うんざりしたと言う表情で、そう言うのみだった。


「あ、もう一つ。良いですか?」


 再び、直美が手を挙げて、加納に質問する。


「はい、どうぞ。」


「クラス内での無視が一年間続いたと、これは以前、ブリジットから聞いていたんですけど。学校の方も、事態を把握していた様なのに、状態が改善されなかったのは、何故なんでしょう?」


「あ、それはですね。冬頃になって、これは警備保障側の調査で判明したのですが。実は、クラスの担任教師が、首謀者側に協力してたんですね。」


 事も無げに答える加納の言葉を聞いた一同は、ただ、唖然とするしかなかった。そして加納は説明を続ける。


「首謀者の女子生徒は入学早々に、その担任教師の弱みを握ったらしく。元々は、自分の成績を改竄かいざんさせるのに利用する腹積もりだった様ですが、その様な事態に至って、『イジメ』の扇動にも担任教師を利用していた様です。ただ、何分、その情報をつかむのが遅かったので。年度末も近かった事も有り、学校側はとしては直ぐに担任の交代、とは行かなかったと言う事情でして。そしてもう一つ、首謀者の女子生徒が茜さんに執着している内は、他の生徒が標的にならないで済むと言う事も、学校側は考慮していました。」


「天野さんを人身御供スケープゴートに、と?」


 そこまで黙って話を聞いていた緒美が、加納へ、睨み付ける様な視線を送り、言った。しかし、加納は平然と答える。


「はい。既に学校内では茜さんに、おいそれと手出しが出来ない状況でしたし、学校外では天野重工わたしたちが手配した警護が付いておりました。クラス内の状況は正常ではないにしても常態化していた様子でしたので、茜さんには、一年生の年度末まで耐えて頂こう、と言う事になりました。茜さんには、この事も、重ねてお詫びしなければなりません。」


 もう一度、頭を下げようとした加納を、茜は押し止め、言うのだった。




- to be continued …-




※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。

※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


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