勇者の資格 8
振り向いた先には、農耕用の作業服を着たサクラが立っていた。
15歳にしては小柄な体に、二つに分け三つ編みにした髪。
もっと幼くも見える少女は、真剣な瞳でこちらを見ている。
「ついてきてほしいの」
彼女の瞳に、何らかの強い意志を感じて、後をついていく。
年下の彼女には、自分も世話をしてあげた覚えがある。
素直で、大人しくて、手のかからない子供だった。
「あの子はきっと私以上の頭脳を持っているわ」
何時だったろうか、良子がそんなことを言っていたのを思い出す。
当時はとても信じられなくて、笑って聞き流していた。
良子のことを思い出すと、胸が痛む。
感傷に流されまいと、頭を振って、サクラを見つめる。
サクラは牛舎の一角に置かれた作業机の引き出しをあけて、多くの資料から数枚を取り出すと、リツにそれを手渡す。
縁が切れ、沢山の書き込みがされた資料は、手垢で汚れている。
ゴブリンについて書かれた資料だ。
田中さとみが彼らを創造したときの研究資料の写しである。
難しい言葉の羅列に顔をしかめると、少女笑って説明をする。
彼らの特性として、人間より強靭な生存能力がある。
筋力や知性では大きく劣る彼らであるが、その特殊な能力においては遥かに人類を上回る。
強い繁殖力、放射能への耐性、毒物についての耐性などがあげられる。
研究所の皆なら、だれもが知っている内容だ。
リツはサクラの真意を知りたく、資料から彼女の顔へと視線を向ける。
サクラは、ここからが重要とばかりに、力を入れて説明を続ける。
しかし、ウィルスについてはどうか・・・。
かつて彼らを生み出した、田中さとみは、こう結論を結んだ。
特殊な耐性をもった彼らであっても、ウィルスについては人間と同様程度の耐性しかもたず、それは改善をすることは現状難しい事柄の一つである。
リツはだからどうしたと、彼女の顔を見つめる。
ウィルスというのは、確か病気の原因になる何か小さなものだ。
よく良子が手を洗うとき、傷を消毒するときに口にしていた言葉。
サクラは、その視線に応える。
「かつて人類が克服した、死に至る病はいくつかあるわ。」
リツは言葉の続きを待つ。
おそらく、この話は自分たちの未来を決めるのではないか。
理由もなく、そんな予感を感じる。
サクラは、大きく深呼吸をして、それから耳元に口を寄せて告げた。
「研究所の保管庫には、そのウィルスがいまでもあるのよ。」




