勇者の資格 3
まだ荒れた息の中で、口びるを離す。
彼女は救えた。
喜びに体が打ち震えている。
しかし、それに浸っている時間はない。
良子の様子がおかしなままだ。
先程も反応を示さず、そのままフラフラと駅の町へ向かっている。
外敵を連れて行ってしまう可能性もあり、ほっておくわけにはいかない。
シェルターの中に、声を掛け、見張りを増やす。
ユウタは彼女をもう一度強く抱きしめると、良子を追い、駅の町へと走りだした。
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先程のことだ。
誰かが自分に声を掛けてきたような気がする。
「Jijijijijgaおpぎk@あkg」
何を言っているのだろう。
良子はしばらくユウタを眺めていたが、それが何かもわからず、そのまま歩き出した。
駅の町への道は、今でも覚えている。
遥か昔に10人の子らを連れて向かった場所。
自然に溢れた世界で、彼らの暮らしを作るつもりでいた。
あの頃のことを思い出す。
自分は世界を救った気でいた。
自分は救世主なのだと確信していた。
町の周りには緑があふれていた。
鹿やウサギが時折姿を見せて、豊かな自然に皆表情を輝かせていた。
町をどうやって運営していこう。
どんな作物を育てよう。
彼等は期待にあふれ話し合っていた。
自分もその中にいて、彼らと熱い議論を交わした。
あの場所に、早く帰らなくてはいけない。
彼らが知ることは少ない。
自分の手助けがまだまだ必要だ。
それなのに随分長く、帰っていない気がする。
自分はいつあの場所を離れたのだろうか。
その後・・・自分はどうしたのだろう。
うまく思い出すことが出来ない。
ただ、あの場所に戻らないと。
あの子たちが帰りを待っている。
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ユウタは走り続けた。
駅の町の前につく頃には、良子に追いつくことが出来た。
良子は作られたバリケードの前で呆然としている。
「おれだ、ユウタだ、大きいお母さんがおかしい。助けてくれ」
中に声を掛けて、良子を連れて入る。
何度も声をかけるが反応はない。
次第に人が集まってきて、良子の周りを囲む。
リツやリクが側によって話しかける。
「どうしたの、なにがあったの」
リツが話しかける。
しかし、良子はまるで子供をあやす様に頭を撫でるばかりで、状況がまるでつかめなかった。
「とにかく、防護服を脱いで、中で話そう。」
リツが悲鳴に近い声で呼びかける。
しばらく無言の時が流れる。
そのうちに、強化防護服の背が割れ、中から良子が出てきた。
目はうつろで、何処も見ていない。
話しかけても、ただリツを抱きしめて頭を撫で返すばかりである。
明らかに様子がおかしい。
カイはリツ達と相談し、良子を酒場の奥に運び、横たえさせた。
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「どう思う」
ユカリはリョウに問いかける。
二人は良子の顔を眺め、考えていた。
良子は先ほど、気を失うように眠ってしまった。
余程のことがあったのだろう。
以前の生き生きとした姿は感じられず、まるで病人のように弱弱しい。
リツとリク、ユウタの3人は、急ぎ研究所に戻る手配をしている。
コウが戻り次第、出発の予定だ。
シェルターのことも気がかりだが、良子の状況が異常すぎる。
なにかあったとしか思えない。
ユカリが席を立ち、リツ達とその後の相談を始めた。
今はリョウが良子の様子を一人、見つめている。
弱弱しく息をする彼女の瞳からは、涙が一筋零れ落ちていた。




