勇者の資格 2
大人一人と子供が三人。
普通であれば、どうしようもなく大人が勝つ。
ゴブリンと人間の戦力さはその程度だ。
腕力も、リーチも、大きな差がある。
では、刃物を持った子供三人であればどうか。
不意を打たれぬ限り、何とかしのげるだろうか。
相手が明確な殺意を持ったものであればどうか。
こちらも負けぬ殺意を持たねばならぬ。
それでようやく五分と五分。
死を恐れぬ、殺意の塊であればどうか・・・。
投石をからめ、チームとして襲い掛かってくればどうか。
・・・。
一時の勝利を得ることと、生き残ることは似て異なる。
出来る限り無傷で勝たねばならない。
彼等の手に握られた、金属欠片で作られたナイフには、何時からこびりついているのかも知れないような、汚れと錆が浮いている。
あれを受けるのはまずい。
致命傷でなくとも、感染症の恐れがある。
傷を負えば、それだけ仲間に負担をかける。
死ぬことは、ちっとも格好いいことじゃない。
戦力と労働力を失った仲間を苦しめるだけだ。
それを痛いほど、教えられてきた。
十分に分かっていたはずだった。
だが、ユウタは戦いの熱に飲まれたように、彼らを挑発し引き付ける。
どれだけ理性が自分を止めていても、心はあの人が、これ以上傷つくことが恐れている。
オーガを撃ち、のこり3匹の間を駆け抜けていた。
彼等に脅威を印象付ける為、大きな声をだす。
3匹は強化保護服から意識をそらし、こちらを見ている。
にらみ合う形は得策ではない。
逃げられて仲間を呼ばれるわけにもいかない。
できればここで、全滅させたい。
距離をとり銃を構えて、シェルターに向かわれるのも避けたい。
無いものを望む。
得られない希望に縋る。
そして、あり得ない判断をする。
走り込んで側面から蹴りを入れる。
一匹が腕で受けて転倒する。
ナイフを奪い首を切る。
近接で戦うことは愚策だ。
刺されるかもしれない。
外さなくても、傷を負うかもしれない。
そんなことはわかっている。
ただもう、あの人を傷つけさせるわけにはいかない。
一匹にとどめを刺すうち、残り二匹が左右に別れ、同時に飛び掛かってくる。
右にナイフを投げる。
そのまま左に向かって拳を振り下ろす。
時間がゆっくりと動く。
距離感が甘い。
タイミングが悪い。
このままでは、自分の拳は空を切り、相手のナイフはこちらの身を切るだろう。
覚悟を決める。
相打ちでも構わない。
刺されながらも、止めを刺してやる。
ユウタがそう思った瞬間に、ゴブリンがバランスを崩して倒れる。
包帯を腕に巻いた女性が、後ろで手を伸ばして倒れている。
ゴブリンの足を僅かに掴みバランスを崩させたのだ。
倒れた背を強く踏みつけ、止めを刺す。
グベェェェェ
蛙を踏み潰したような音が聞こえ、戦闘が終わる。
汗が額からダラダラと流れ、体からは湯気が立っている。
泥だらけの顔で彼女が笑う。
彼女の笑顔を見たのは、初めてかもしれない。
「ありがとう」と声をかけ、「ありがとう」と返される。
ユウタは彼女を抱き起こして、そのまま抱き寄せ、口づけた。




