死闘 3
土砂降りの雨の中、這って木の根元へ行き、呼吸を整える。
左足の太ももは、服の表面が荒れているものの、破れてはいない。
手を入れて、触ってみる。
酷く腫れているようだが、血は出ていない。
流れる雨で顔を洗い、この後を考える。
一度戻り、傷を癒すか・・・。
このまま駅の町へ向かうべきだろうか。
弾のない銃を腰に差し、緑色の肉塊をみる。
石を投げ反応を確かめ、手元に落ちた鉈を拾う。
切っ先が折れ、角がつぶれている。
そうでなければ、切り裂かれていたかもしれない。
呼吸を整え立ち上がる。
痛みはあるが、何とか立ち上がる。
足の腫れがひどく、思うように歩けない。
たどり着けるだろうか。
周囲の木や廃墟の壁に掴まり、鉈を杖に駅の町へ向かう。
雨が強く、周囲の状況はわかりづらい。
耳を澄ますが、強い雨音にすべてがかき消される。
今が好機なのかもしれない。
この状況であれば、敵にも気づかれにくいはずだ。
根拠のない希望で、無理に自分を勇気づける。
次第に、這うようになりながらも、町の壁面にたどり着く。
声をあげる「コウだ。中に入れてくれ。」
返事はない。
雨音だけが響く。
何度も繰り返す。
次第に声が枯れる。
襲撃を受け、終わってしまったのだろうか。
絶望が顔を覗かせる。
そうして、顔を両手で包み、泣く。
ユカリの元に戻って、それで、どうすればいい。
二人で死を待つのだろうか。
自分には、どうすればいいかわからない。
視線を感じ、そちらを見る。
身構える力も残っていない。
扉の一部が開き、カイが様子を見ている。
枯れた声で、必死に呼びかける。
カイが口元で指を立て、頷く。
体をねじり、再び這う。
這って、這って、這って。
ようやくたどり着く、服を持たれ中に引きずりこまれる。
カイの体にしがみつき、事情を伝える。
「ともかく、此処は危ない。中へ。」
肩を借り、町に入る。
ユカリたちの状況を伝え、懇願する。
「話はわかりました。皆で相談します。」
相談ってどういうことだ。
今すぐ、行ってくれ。
「ともかく、休んでください。話も皆で聞きます。」
酒場の席に座らせられて、傷口を確かめてもらう。
酷く紫に変色をしているが、裂傷はない。
「水を」
受け取り、一息で飲む。
皆を呼んでくるとの声に、頷く。
タケル達が集まり、枯れた声で状況を説明する。
タケルが苦しそうに答えた。
「コウさん。状況はよくわかった。ただな・・・」
「今もまた襲撃が、始まらんとも限らん。」
何を言ってるんだ・・・。
この雨がやめば、もう好機はないかもしれない。
「コウさん。あんた自身の命を、どう扱うかは勝手だ。」
「ここにいる者にも家族がいる。死なせるわけにはいかない。」
苦し気に答え、頭を下げるタケル。
声は震え、悲しみに満ちている。
あぁ、そうだな。
本当は、わかっていたんだ。
ここに来ても、そうなるかもしれないってことは。
子供のように、諦めきれなかっただけだ。
何か努力を、力を尽くせば変わるかもしれないって。
研究所からも人が来ていない。
もう数日たったんだ。
人が来ていてもおかしくはなかった。
「私達が死にそうだから、あなたは命を懸けて助けなさい。」
そんなこと、誰に強制できるだろうか。
わかっていて、考えないようにしていたんだ。
助けは得られないかもしれないことを。




